
博士と高校生の話
「承花島」に住む「空条承太郎」と「花京院典明」は、十七歳になると「承花マッチングテスト」なるものを受ける、らしい。らしい、というのは知識としてそういうものがあるのは知っているが、実際に受けたことはないので、ぼくにはその情報が本当かどうかはわからないのだ。そしてこれからもきっと、ぼくが「承花マッチングテスト」を受けることはないのだろう。
ぼくはもうすぐ十七歳になる「花京院典明」であるが、ついこの間、学校帰りにとある「空条承太郎」に誘拐されてしまった。ぼくには十分な食事と快適な居住空間が与えられたが、連れ去られたその日から毎日執拗に抱かれ、一度も外に出してもらえないでいる。
もちろん高校にも行かせてもらえないので、クラスメイト達は今頃、突然ぼくが居なくなって大騒ぎしているかもしれない。だけどぼくを攫った承太郎は、島の政府内でけっこうな権力を持っているようなので、その辺は上手くやっているのかもしれない。
ぼくを誘拐した承太郎は、今年で四十一になるそうだ。長年、大学で研究をしていたそうだが、その功績が認められて、政府で働くようになったらしい。何の研究をしていたのか詳しく聞いたことはなかったけれど、島の中枢システムをいじって、誰にも気づかれずにぼくを攫い、自分のものにしてしまうだけの頭脳と行動力があることだけは、確かである。
承太郎が仕事に行ってしまうと、日中は何もすることがなくてひどく退屈だ。だからぼくは彼が用意してくれた本を読んだり、映画を見たり、ゲームをしたりしてのんびり過ごしている。毎日が夏休みのような感じだ。案外悪くない。
もともと薄かった肌の色は、ほとんど太陽に当たらないせいで、今ではすっかり雪のように白くなってしまった。しかし毎日承太郎が念入りに手入れするために、ぼくの肌も、爪も、髪も、つやつやと輝いている。それに承太郎が手の込んだおいしい料理を作ってくれるから、体調もいいし、最近少し太ってきたようにも思う。それとも、もしかすると彼に抱かれすぎてホルモンバランスが崩れ、雌のような体つきになってきたのかもしれない。
ぼくはバランスのとれた食事をし、のびのびとストレスのない生活を送り、身なりを整え、承太郎に抱かれるためだけに存在している。彼がどうしてぼくを選んだのかはわからないし、彼にはぼくではない、最適な番いの「花京院典明」が別にいるのかもしれないが、それもぼくには知りえないことだ。
あるいはもしかすると、ぼくにも彼ではない、本来の番いたる「空条承太郎」がいるのかもしれないが、今となってはもう、ぼくにとってはどうでもよくなってしまっていた。ぼくは彼と生活するうちに、段々と彼のことを愛し始めている。
いつものように高級そうな革張りのソファに寝そべって「承花島」の「創世記」を読んでいると、玄関の方でガチャリと扉が開く音がする。足首に鎖つきのベルトがしてあるので、ぼくは玄関まで彼を迎えに行くことはできない。しおりを挟み、読みかけの本を机の上に置くと、ぼくはおかえり、と承太郎に声をかけた。
「ただいま」
いい子にしていたか、と問われ、もちろんさ、と答える。承太郎が猫にするみたいに、顎の下をくすぐってくるのが気持ちいい。首を伸ばして彼の頬にキスすると、彼は機嫌よさそうに笑った。
「今日は随分とサービスがいいんだな」
「そりゃあそうさ、早く君に挿れて欲しくて仕方がないんだから」
ね、いいだろ、と蛇柄のズボンの上からいやらしくそこを撫でると、こら、と叱られた。だがそれは口だけで、本当は彼もしたくて堪らないのだ。ぼくの指先に煽られて、彼のペニスはすぐにむくむくと大きくなり、ズボンの中で窮屈そうに脈打っている。
「もう、我慢できないんだ……」
おねがい、と上目遣いで強請れば、ごくりと承太郎が喉を鳴らした。彼に毎日抱かれるうちに、他人を受け入れたことなどなかったぼくの身体は、どんどん淫らに変容し、常に承太郎の愛を求めて飢えている。今日も寂しくて、真昼間から三回も自慰をしてしまった。
最近など、ペニスだけの刺激では射精できなくなってきて、聞き分けのない後孔に自分の指を咥えこませてようやく、なんとか絶頂を迎えることができるといったところだ。一体、ぼくの身体はどうなってしまうんだろう。
ぼくに誘われてスイッチの入った承太郎は、ぼくの身体の上に圧し掛かると、ジッパーを下ろしてまだ兆していない性器を取り出し、ぐいぐいと唇に押し付けてきた。一日汗で蒸れた雄臭い性器を、ぼくは喜んで口内に迎え入れ、夢中になって舐めしゃぶる。
舌先が痺れるような、酸味の効いた苦い味が広がり、濃厚な性の匂いが鼻に抜けていく。ぼくの口の中のほとんどを、承太郎のペニスが占めているのが嬉しくて、喉奥まで彼を招き入れ、頰をすぼめてリズミカルに吸い上げる。すると承太郎は感じ入った声をあげ、ぼくの頭を押さえると無茶苦茶に腰を振ってきた。
「んむっ、ん、む、ふ、んふ、ん―っ」
ずんずん、と喉を突かれ、えずきそうになるが、ぼくは必死に体の力を抜いて、承太郎を受け入れる。こうやって口で奉仕するのも、大分慣れてきた。
最初の頃はぼくが下手くそなせいで、数十分かけても承太郎がイかないこともザラであったが、最近は五分もあれば確実に絶頂まで導くことができる。もっとも、ぼくの舌技に辛抱ならなくなった承太郎が、こうやって腰を振りたくることもままあるが。
じゅぷじゅぷ、とほとんどセックスと変わらない、いやらしい水音が立ち、ぼくの脳が快楽と酸欠でぼうっとしてきた頃、承太郎が低く呻いて精液を放つ。ぼくは鼻にかかった情けない声をあげながらも、タイミングを合わせて、それを何度かにわけて嚥下した。
「ん、ん、っんぐ……ぷは……っ、もう、ガッつきすぎですよ……」
「すまん……」
お前の口が気持ちよすぎてつい、と言われると、悪い気はしない。お仕置きしてあげようかとも思ったが、射精の余韻に恍惚とした表情で息を荒げている承太郎を見ていたら、ぼくはついつい彼を許してしまい、しまいにはお掃除フェラまでしてあげる始末だった。誘拐犯とその被害者という立場であるのに、随分と承太郎に絆されている。
ぼくが逃げ出さないように、いつまでたっても承太郎はぼくの服を用意してくれないし、下着もつけるなと言われているので、いつもぼくは仕方なく、裸に承太郎のコートだけを羽織っている。だから承太郎にコートを捲られただけで、ぼくは何も隠すものがなくなってしまうのだ。
触られてもいないのに、勃起してだらだら涎を垂らすペニスを見られるのは恥ずかしいが、その奥が疼いて仕方がない。ぼくは脚を大きく開いて尻たぶを自分で広げ、ヒクつくそこを彼の目の前に曝け出す。荒々しくぼくを抱き、快楽の渦に突き落としてくれる、唯一の男に。
「ぼくの……いやらしい、おしりおまんこ……承太郎の生ちんぽで、いっぱい犯して、孕ませてください……❤」
欲しくて堪らない、という風にはしたなく尻を振れば、承太郎は優しいので、すぐにぼくの聞き分けのない後孔にペニスを与えてくれる。熱く硬い楔で、ずぷずぷ、と体を割り開かれる慣れた感覚に、自然と笑みが零れる。
「あ、はぁっ……❤おちんちん、はいってきた……❤」
一日と空けずに彼とセックスしているせいで、すっかり縦に割れたぼくのアナルは、難なく承太郎の性器を咥えこみ、嬉しそうにきゅうきゅうと吸い付いている。欲しかったものを与えられて、彼の雌にされる悦びで、頭の中がぐちゃぐちゃになる。
最初、粘膜に馴染ませるようにゆるゆると腰を使っていた承太郎は、ぼくが気持ちよさそうに喘ぐのを聞いて、途中から体重をかけて容赦のないピストンをくれる。二回りは大きい彼に押し潰されそうになりながら、奥をガンガン突かれて興奮したぼくは、彼に縋りつくと、めちゃくちゃに腰を振った。
「あっ、あぁん❤あん、あっ❤きもちいぃっ❤おちんちん、じゅぽじゅぽ、しゅごい❤あ、ひっ、ひんっ❤らめ、おかひくなるっ❤」
承太郎のペニスの大きく張り出した部分が、ぼくの好きなところをゴリゴリ擦ってくれると、あまりにも気持ちよくて、瞼の裏で何度も光がスパークする。すっかり彼の形と味を覚えたぼくのアナルは、ぴったりと承太郎の性器に馴染んで、射精を強請るように纏わりつき、ぎゅうぎゅう絞り上げた。
「はっ……随分、いやらしく、なってしまったな……」
いい子だ、可愛い、と囁かれて、思考がとろとろと甘く溶けていく。彼にもっと褒めてもらいたくて、承太郎のピストンに合わせて、尻を擦りつける。そうすると奥の奥まで彼が入り込んできて、ぼくはうっとりと感嘆の吐息を漏らした。
「あ―っ❤じょうたろの、なまちんぽ❤ひいっ❤はげしいよぉっ❤あっ、ああっ❤イク、イっちゃう❤はあぁぁあ―っ❤」
びくん、と身体が大きく震え、勝手に背中が丸まってしまう。下腹の辺りから、マグマのような快楽が湧きあがり、全身に波及する。ぼくはどうすることもできず、ただ絶頂の波が引くまで、獣のような声を上げ、半狂乱になって四肢を痙攣させた。
それなのに、承太郎はそんなぼくを更に追い詰めようと、ぼくの身体に密着するように覆いかぶさると、ものすごい勢いと強さで腰を打ちつけてくる。
「あっ、やらっ、まだ、イってるっ、ひっ、らめ、ほんとに、らめぇっ、あ、あん、あ―っ❤」
爪先にぎゅうう、と力が入り、目の前でチカチカと光が明滅する。雌猫そっくりの甘ったるい声を上げ、閉じ切らない口の端からだらだら唾液を溢れさせ、ぼくは次々に襲い来る絶頂の波に攫われてしまう。
「あ―っ❤あ―っ❤せっくしゅ、しゅごい❤やらっ、もうやらっ❤ごめんなしゃいっ、も、ゆるひて❤ふぁっ、あ、らめ、またイク❤ほんとに、イっちゃう❤―っ❤」
散々吐きだしたせいで、勢いのない水みたいな精液が、情けなくびゅる、と漏れ出た。彼に身体を揺さぶられ続けるうちに、延々と泳いだ後、陸に上がっているのにまだ海の中にいるみたいな、あの独特の感覚に包まれる。
「あ―っ❤ああっ❤あ……❤」
ドク、と腹の中で承太郎のペニスが脈打つ感じがあって、それから身体の奥に熱くどろどろとした液体が流し込まれていく。彼は放出の間も、ずっとゆるゆると腰を使い続けてくるから、ぼくは胸を大きく上下させ、必死に酸素を取り込もうとした。
「ん……❤あ、は……❤」
ずるり、とぼくの中から承太郎が抜けていくと、閉じ切らない後孔から、とぷとぷと彼の遺伝子が流れてしまう。ぼくはそれがどうにも寂しくて、自分の指で溢れ出た精液を掬い上げては、中に塗り込んだ。
「はあ……花京院……」
好きだ、と欲に掠れた声で囁かれて、ほとんど反射みたいにきゅう、と切なく後ろが締まる。ぼくも、と返してキスを贈ってあげると、甘えるようにちろちろと唇を舐められた。二回り年上の男に思うことではないことかもしれないが、子供みたい、とぼくはひっそり微笑んだ。
「ぼくは君だけのものさ」
まだ終わりじゃあないだろう、と問いかければ、にやりと笑った承太郎に、くるりと身体を裏返された。そして雌豹のように腰だけを高く上げさせられたかと思うと、尻の狭間にもう元気を取り戻した彼のペニスが擦りつけられる。これから与えられる快楽への期待に自然と口角が上がり、ぼくの後孔はひくひくとはしたなく疼いた。
「あっ、あ、あぁ……❤」
硬く、長大な熱の塊で、再び自分の欠けた部分を心地よく満たしてもらって、ぼくは嬉しくて尻を振り、うっとりと目を閉じた。そうして犬みたいな恰好で承太郎に思うさま犯してもらいながら、自分が初めてこの家に連れて来られてきた時のことを、ぼんやり思い出していた。
ぼくが承太郎に攫われたのは、塾の帰り道を一人で歩いている時だった。夏も過ぎ、八時ともなればもうすっかり辺りは暗くて、ぼくはお腹が空いたなあ、なんてぼんやり考えながら家路を急いでいた。
すると突然、後ろから花京院、と名前を呼ばれたので、ぼくは足を止めると、声がした方を振り向いた。そこには、闇に溶け込む漆黒の高級そうな車が一台あって、中から壮年の「空条承太郎」が降りてくるところだった。
「こんな所にいたのか、随分探したんだぞ」
紫色のコートに身を包んだ「空条承太郎」は、ぞっとするほど美しかったが、その整った顔には、右目を通る痛々しい大きな傷跡が横たわっている。
「えっと……どなたでしょうか……あの、失礼ですけど、ぼくたちどこかでお会いしましたっけ」
ぼくを見下ろす長身の男は、コートと揃いの帽子が暗い影を落としていて、表情が読みとれない。見覚えのない「空条承太郎」にぼくが首をかしげると、彼は声をあげて笑った。
「はは、オレのことを忘れてしまったのか……いや、構わない、ゆっくり思いだしてくれればいい」
時間はたっぷりあるのだから。そう告げられた瞬間、腹にものすごい衝撃が襲う。今まで感じたことのない痛みに、思わず下を見ると、深々と彼の拳がぼくの鳩尾に入っていた。恐怖に胃液がせりあがり、思わず口を手で覆った所で、ぼくの意識はぷっつりと途切れた。
「はぁっ、ああ……花京院……」
腹の奥の鈍い痛みに目覚めると、ぼくは蛙みたいに大きく脚を広げられていて、その間にさっきの「空条承太郎」が裸で入り込み、夢中で腰を振っていた。驚いて声をあげようとするも、ぼくの口には馬銜のようなものが咬ませられていて、意味のない音が空気と共に漏れ出るだけだった。
「ん―っ!んぐ、ふっ、んん―っ!」
「ああ、起きたか……悪いが、もう少し、かかる……っ」
そのまま力を抜いていろ、と言われるが、とんでもない。ぼくは半狂乱になって、手足をばたつかせた。しかしぼくの四肢は、鎖によって天蓋付きのベッドの柵に繋がれていて、必死になって暴れても、拘束具が空しくガチャガチャと耳障りな音を立てるだけだった。
「おいおい、あんまり動くな、危ないだろう……」
尻が使い物にならなくなるぞ、という彼の言葉は、ただ淡々と事実を伝えるニュースキャスターみたいに、何の感情も含んではいなかった。ひぐ、とぼくが喉を鳴らして思わず動きを止めると、承太郎は嬉しそうに笑い、リズミカルに腰を打ちつけてくる。
「そうだ、その調子だ、花京院……それでいい……」
子供を褒めるみたいに、承太郎はぼくの萎えたペニスを掴むと、優しく繊細な手つきで巧みに扱きあげた。しかし、限界を超えた恐怖と混乱で、ぼくの性器はぴくりとも反応せず、律動に合わせて承太郎の手の中で情けなく揺れるだけだった。
「はは、全然駄目だな……まあ、お前のペニスは有っても無くても問題ないからな……」
「んっ、んんっ、んぐ、う、うぅんっ」
ぱんぱん、と乾いた音が響き、承太郎の赤黒いグロテスクな性器が、ぼくの身体を出たり入ったりする。尻の間はじくじくと痛みと熱を孕み、内臓を直接掻き回される衝撃に、ぼくはただ屠殺されるのを待つ家畜のように、怯え、叫び、泣き喚くしかない。
じきに律動の間隔がどんどん狭まり、奥をこじ開けるような腰使いがしばらく続いた後、承太郎が低く呻いて、ようやく彼の動きが止まる。ぼくの腹の奥で、何かが弾ける感触があって、放たれた熱がじわじわとぼくの身体を浸食していく。
「うう―っ、うっ、うん、んぐ、ん、ふっ……」
「ああ……花京院、泣かないでくれ……悲しませたいわけじゃあないんだ……」
悔しくて、恥ずかしくて、消えてしまいたくて、ぼくが声を殺してさめざめと泣くと、承太郎が困った顔で、必死にぼくの涙を掬いあげる。ぼくの機嫌を少しでも良くしようと、優しく宥めるようなキスを彼が贈ってくるせいで、どんどんわけがわからなくなってくる。何なんだ、一体何がしたいんだ。
花京院、とひどく切なく、悲しそうな声で、承太郎がぼくの名を呼び、抱きしめてくる。力も、権力も、何もかも持っていそうな男が、親とはぐれた迷子のような、寄る辺を失くした小舟のような、頼りなく弱弱しい姿を見せるものだから、ぼくは動揺してしまう。
再び、今度はひどく優しく身体を揺すられて、何故だかぼくの下腹の辺りが、もどかしく甘く疼く。さっきは痛みしか与えなかった彼の動きが、毒のような甘美な快楽をもたらして、ぼくはうろたえた。
「花京院、花京院……好きだ……お前しかいないんだ……」
ぐちゅぐちゅ、と粘膜同士を擦り合わせる卑猥な音が、ぼくの耳を犯す。必死に酸素を取り込もうとすると、承太郎の雄臭い汗と精液の匂いが、鼻腔の中に充満して、思考が全然まとまらない。
縋るものを求めて、自分に圧し掛かる男を見上げると、何度も優しいキスをされて、ぼくはもうそこですっかり抵抗する気力を削がれてしまった。
そうして、ぐらぐらと揺れる不安定なぼくの心の隙間に、するりと承太郎は入り込み、ぼくは時間の感覚もわからなくなるくらい何度も抱かれるうちに、身体も心も完全に彼に明け渡してしまったのだった。
人心掌握には飴と鞭が重要だというが、全くその通りだと思う。承太郎はぼくを荒々しく犯したかと思えば、次の日は壊れ物でも扱うみたいに優しく丁寧に抱いてみたり、一日中セックスし続けた後に、一週間ばかりキスだけの触れあいしかしてこなかったりと、巧みに揺さぶりをかけてきた。
ぼくが上手く口淫を出来なかった時なんて、ばんばん平手でぼくの尻を叩きながら、めちゃくちゃに後ろから抱いたくせに、彼の言いつけどおりに、初めて後孔の刺激だけで絶頂を迎えることができた時は、頭を撫でていっぱい褒めてくれた。
それに時間がある時は大抵、食事は彼が自ら作り、憔悴しきったぼくに甲斐甲斐しく食べさせてくれた。彼の精液でしこたま汚され、指一本動かせないくらいクタクタに疲れた時は、お風呂に入れて綺麗に全身を洗ってくれた。
そのうちにぼくは段々、承太郎の狂気を許し、受け入れるようになった。彼がぼくを叱るのは、愛ゆえであり、そういう時はぼくに非があるのだと、そう思うようになったのだ。
ぼくは彼を心の底から愛し、彼に愛されようと努力するようになった。長い睫毛で縁取られた、承太郎の緑の目に見つめられるたび、心臓がドキドキして身体が熱くなる。彼が何を望んでいるのか考え、彼に命じられる前に実行し、彼に褒めてもらえるのを必死に待つぼくは、まさに犬のようであった。
そうして、ぼくは彼にふさわしい、賢く、気高く、淫らな一匹の獣になった。溺れて窒息してしまうほどの愛を一身に受け、官能の蜜を湛えた一輪の花として、ただ彼のためだけに咲くことを選んだのだ。
彼が数多存在する「花京院典明」の中から、どうしてぼくを選んだのかは結局わからなかったが、別にぼくはそれでいいと思っていた。彼の手によって一旦全てを壊され、作り直されたぼくにとって、承太郎は主人であり、神であり、この世界の全てであるからだ。
「あ、あ……あぅ、ん、あ……っ❤」
よく鍛えられた承太郎の腹の上に跨り、彼の臍の横に手を付いて、ぼくはゆさゆさと身体を上下に揺らしていた。快楽の根源である、くるみほどの小さな器官が、さっきから承太郎のペニスで擦りあげられて、堪らなく気持ちいい。それにごわごわした承太郎の豊かな下生えが、ぼくの尻を撫でる感触がくすぐったくて楽しい。ぼくはぐりぐりと自分の好きな所を彼の性器に押しつけるようにして、承太郎の上で淫らなダンスを踊った。
「はぁっ、はあ……花京院……っ」
承太郎はぼくの下で満足そうな吐息を漏らし、時折ぼくとタイミングをずらして、下から突き上げてくる。ぼくは快楽でぼうっとしつつも、何とかバランスをとり、腰を振り続けた。
「ああっ❤あ、あん❤ねえ、じょうたろっ、ぼくのおしり、きもちいいっ?」
発情した獣のように、夢中になって快楽を貪りながら、ぼくは切れ切れに承太郎に尋ねた。
「ああ……っ、最高に、気持ちいい……」
もう出ちまいそうだ、と欲に掠れた低い声でうっとりと呟かれて、ぼくも思わず射精してしまいそうになる。承太郎が愛おしくて堪らず、身体を折り曲げてキスを強請ると、ぼくの意図に気付いた彼が顔を寄せてくる。唇を触れ合わせずに舌だけを絡め合わせる、とびきりいやらしいキスを交わすと、繋がった部分から溶けて混ざりあうような感覚に陥る。
「ん……❤む、ん、ぅん、ぷはっ……❤」
気持ちいい、気持ちよすぎて頭がおかしくなる。好きな人と身体を繋げる喜びと恍惚に溺れ、ぼくは必死に喘ぐ。ぼくという存在がどこまでも曖昧になり、ぼくは愛を求めて切なく啼く一匹の獣になる。
「花京院……花京院、好きだ……愛してる……」
うわごとのように何度もそう繰り返しながら、ぼくの腰を鷲掴み、承太郎が激しく突き上げてくる。重力に従って、びっくりするくらい奥まで彼が入り込んできて、ぼくは大声で叫び、身体を戦慄かせ、何度も精液を噴き上げた。
「ふあぁぁあ―っ❤」
ぼくのお腹の中で、承太郎のペニスが脈打ち、熱が弾け、ぼくの身体の中に甘い毒が滲みこんでくる。目の前で何度も光がスパークし、とろりと視界が滲む。手足がじぃん、と痺れていく。酸素を取り込もうと、大きく開いた口の端から唾液が溢れ、ぼくの顎を伝った。ぼくの身体は紅茶に落とされた砂糖みたいに、とろとろと形を失って承太郎に溶けてしまう。
ああ、と一際高い声をあげて背を仰け反らせ、ぼくは極上の快楽を享受する。絶頂にぼんやりと霞んでいく視界の端で、承太郎の唇がぼくの名前の形に動いた気がした。
カーテンの隙間から差し込む朝日に目覚めると、どうやらぼく達はセックスに疲れ果て、精液やら何やらでどろどろのシーツの上で、そのまま眠ってしまっていたようだった。酷使した身体はひどく消耗し、泥に浸かったみたいに重くはあったが、心はやけに晴れ晴れとすっきりとしていた。
承太郎はというと、お気に入りのぬいぐるみにするように、ぼくを腕の中にすっぽりと抱き込んで眠っている。すうすうと穏やかな寝息を立てる承太郎の、額から顎まで伸びる大きな傷跡は、彼の美しさを少しも損なわず、むしろ歴戦の勇者たる威厳と風格を与えていたが、目を瞑っていると無垢な子供のようでもある。ぼくはその傷跡を愛しげにそっとなぞり、普段は帽子で隠されている額に優しくキスを落とす。
そうしながらぼくは、先ほど読んでいた「承花島」の「創世記」の一節を思い出していた。
『神はまず「空条承太郎」をおつくりになった。そしてまた、彼のためにふさわしい助け手をおつくりになった。それが「花京院典明」である。神は水の満ちた海の上に、渇いた地を置き、「承花島」と名付けられ、そこに「空条承太郎」と「花京院典明」を住まわせた。地には草花と実を結ぶ木が生い茂り、水は生き物の群れで満ち、天の大空には鳥が飛ぶようになった。神は彼らを祝福して言われた。「生めよ、増えよ、地に満ちよ」と。』
そう、「空条承太郎」と「花京院典明」がつくられたのは同時ではなく、最初に神は「空条承太郎」をつくり、それから「花京院典明」をつくったのだ。ぼくは、「空条承太郎」にふわさしい伴侶たるべく、つくられた存在であるのだ。
承太郎、とぼくは思う。月が太陽の光を反射して輝くように、自ら光を放つ星である、承太郎の輝きによってぼくは存在している。子供のようにぼくを抱き込んで眠る承太郎こそが、唯一絶対のぼくの全てなのだ。
ふっくらと弾力のある、少しかさついた彼の唇に恭しくキスを捧げ、ぼくは祈る。彼が幸せであるように、そうして死が二人を別つまで、ぼくが彼の側にいられるように。
承太郎の大きな背に腕を回して抱き返し、承太郎、大好き、愛してる、と形の良い耳に囁けば、彼がくすぐったそうに笑ったような気がした。
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