B組の花京院くんさ、と少女は口を開いた。
「この前ラブホ街で、父親くらいの年齢の男と歩いているとこ、後藤が見たらしいよ」
え、まじ、と驚きのあまり、隣の少女は飲んでいた野菜ジュースのストローを思わず噛んでしまった。
「パパ活ってこと?」
私たちのアイドル花京院くんが、キモいハゲデブ親父の餌食になるとか耐えられない、と少女は眉を寄せる。
「いやそれがさ、すごい高身長のイケメンだったらしいんだけど」
そこで少女は声を潜めた。
「顔にでっかい傷があったんだって」
「なにそれヤクザじゃん」
借金のカタに身体売ってるってこと?今時BL本でもなかなかないぞ、その展開は、と少女はケタケタ笑い、隣の少女もだよねえ、後藤の妄想じゃない?と肩をすくめ、その話はよくある信憑性のない噂話として、そこでおしまいになった。
あ、あ、あ、と花京院は壊れたレコードみたいに、意味をなさない嬌声をこぼし、ベッドに脚を投げ出した男の上で、腰を振っていた。
一糸纏わぬ身体にはじっとりと汗が浮かび、発情しきってとろりと溶けた瞳は、ベッドに悠然と寝転がる男に向けられている。
男の顔には、頭から右目を通り、顎までわたる大きな傷跡があったが、それは少しも男の美貌を損なわず、むしろ彼を歴戦の王者のように飾り立てているのだった。
「お前は借金のカタに、いやいやオレに身体を売っているという噂らしいぞ」
知っていたか、と問われ、花京院は首を横に振った。
「学校じゃあ、みんなの王子様なんだってな……」
同級生が今のお前の姿を見たら、なんて言うかな、と男はくつくつ笑う。
花京院は意地悪だなあ、とわざと男の肌に爪を立てた。
「ぼくはみんなの前で、君とセックスして見せても、別に構いませんよ」
承太郎、と花京院はうっとり呟き、ペニスが埋められた自分の薄い腹を、挑発的に撫でて見せた。
承太郎と呼ばれた男は、観念したように息を吐くと、花京院の細い腰を鷲掴み、勢いよく下から突き上げた。花京院の口から悲鳴が上がる。
「その言葉、忘れんじゃあねえぞ」
男子トイレの噂知ってる?と少女が声を潜めた。
「どうやら個室でセックスしてるやつがいるらしいのよ」
聞いた聞いた、と別の少女も興奮気味だ。
「保健室でもそれっぽい音がしたって、具合悪くて休んでた子が言ってた」
しかもさ、どうやら男同士らしいんだって、と少女は眉を顰める。
「見られたいんじゃないの?露出狂ってやつなんじゃない」
今時漫画でもなかなかないよね、そうそう、最近はBLもコンプライアンスがうるさいからね、と少女たちは噂話に夢中になっている。
だから、隣の教室で、渦中の人が男と交わっているなど、誰も気づきはしないのだった。
「ん、んっ♡だめ♡だめっ♡じょうたろっ♡」
でちゃう、と花京院はぶるぶる内腿を震わせ、必死に背後の男に縋ったが、承太郎は聞く耳を持たず、先ほどよりも更に強く、激しく、花京院をせめたてた。
「わがまま言ってねえで、気張って腰振らねえとダメじゃあねえか」
オラ、と大きな掌で尻を叩かれ、花京院は子犬のように鳴く。
いつもはひどく優しいのに、セックス の時にだけ、承太郎は少し乱暴になった。
だが、花京院は圧倒的な力で捩じ伏せられ、めちゃくちゃにされるのを、悪くないと思う自分がいることも知っていた。
「あっ♡ふかぁあい♡じょうたろの、おくまできてるっ♡」
きもちいい、と涙と涎で顔をぐちゃぐちゃにしながら伝えると、体内のペニスが一際質量を増した。
「あっ♡あっ♡じょうたろぉ♡いく♡も、いっちゃう♡」
だめ、と叫んだ瞬間、休み時間の終了を告げるチャイムが鳴った。
バタバタと生徒たちが廊下を走っていく。
花京院が驚いて身体を強張らせると、大きな掌に口を塞がれた。
「ふぐっ」
承太郎、待って、と伝えたいのに、後ろの男はお構いなしにスパートをかけてくる。
いざとなれば時間を止めるつもりなのかもしれないが、たかだか数秒止めたところで、こんなセックスの真っ只中では、全ての証拠を隠滅するのは無理がある。
バタバタともがいて抵抗するそぶりを見せても、絶対的な体格差で抑え込まれてしまえば、花京院にできることはただ祈ることだけだ。
「ん〰〰〰〰っ♡」
あ、と思った時にはもう、腰のあたりから熱いうねりが生じて、花京院を薙ぎ払っていた。
腹の奥に、一際深く埋め込まれたペニスに押し出されるように、花京院の性器からも勢いよく白濁がほとばしる。絶頂の凄まじい快楽と、同級生に見られるかもしれないという異常な緊張感で、花京院は意識を手放した。
気がつくと花京院は身体を綺麗に洗われ、お気に入りのパジャマを着せられ、承太郎の家のベッドに寝かせられていた。
大丈夫か、と全ての元凶の男に問われ、なんとか、と返した声はガラガラだった。
渡された水を飲み、花京院は笑った。
「学校サボっちゃいましたね」
授業より有意義な時間だったけど、と嘯く花京院に、とんだ不良だぜ、と承太郎もつられて笑ったのだった。
おしまい