きっかけはそう、ぼくの不注意から起きた事故だったのだ。
あ、とそう思った時には既に、繊細なガラスの船を内包した瓶は、粉々に砕け散っていた。
日曜日の昼下がり、鼻歌でスティングを歌いながら部屋の掃除をしていたぼくは、思いの外強く、ライティングビューローに掃除機をぶつけてしまった。
その衝撃で上に飾られていたボトルシップが宙に舞い、ハイエロの触手による救助も虚しく、承太郎が心底大事にしていたそれは、跡形もなく無残に割れてしまった。
「……本当に、ごめんなさい」
スーパーの買い出しから帰ってきた承太郎に深々と頭を下げれば、彼は言葉もなく床にへたり込んだ。
ただのガラスの欠片になってしまった、大切なボトルシップを前に、その大きな体躯から悲哀がにじみ出ている。
「…………いや、いいんだ。お前に怪我がねえなら。形あるものはいつか壊れるもんだからな
」
と呟く彼の声には、全く覇気がなかった。
承太郎がそのボトルシップの埃を、いつも甲斐甲斐しく拭いていたことを知っているぼくは、申し訳なさのあまり消えてしまいたくなった。
「承太郎……ボトルシップの代わりにはならないと思うけど、ぼく何でもするよ。その、す、少しくらいなら、えっちなことしてもいいよ……」
と言うや否や、ぼくは承太郎に強く肩を掴まれていた。
その彼の瞳が、先ほどまでのしょぼくれた目と違い、ギラギラと光っている。
「今、何でもするっていったよな……」
ぼくは恐怖に震えながら、なんとか頷いた。
怖すぎる。もしぼくが子供だったら絶対漏らしている。
ぼくの目を射抜くように見つめ、承太郎はこう言った。
「じゃあ、おれのを咥えてくれねえか」
?
??
???
ぼくは彼の言葉が理解できず、頭にクエスチョンマークを浮かべて惚けていた。
え、今なんて?オレノヲクワエテ?何々?何語?
聞き取れない外国語を前に、きょとんとする観光客のようなぼくに、彼は言葉を変えてもう一度頼んだ。
「フェラチオしてくれねえか」
ああ、それならぼくもわかるぞ。
ラテン語で、男性の性器を口に入れて愛撫する行為のことだろう。はは。
「いや無理無理、無理だよ承太郎。君のあの馬鹿でかいペニスが、ぼくの口に入るわけないだろう」
顔を青くしながら後ずさると、承太郎がぐいぐい迫ってくる。
いつもは静かな光を湛えたそのグリーンアイズが、今は欲望の炎に燃えている。
「さっき、何でもするって言ったのは嘘だったのか?花京院……それでも男か?見損なったぜ」
はあ、とため息をついて大仰に肩をすくめる承太郎に、ぼくは思わずかっと頭に血が上った。
「はっ、フェラチオ?いいだろう、やってやろうじゃあないか。ふん、ぼくの舌技で瞬殺されても知らないからな」
捲し立てるように啖呵を切ってから、ぼくはハッとなった。
目の前の承太郎がニヤニヤと笑っている。
「じゃあ決まりだな。肩たたき券みてえに回数券作っといてくれ」
その券出したらいつでもする約束な、と言って、彼は無理やりぼくの手を取ると、小指を絡めて指切りをし、それからテキパキとボトルシップの残骸を片付けてしまった。
その日の晩、早速ぼくは頭を抱えていた。
目の前には、血管を浮かせてそびえ立つ承太郎の雄がある。
そう、ぼくはもう既にフェラチオ券を使用されてしまったのだ。
いくら何でも使うのが早すぎるだろ、信じられない。
大体、本来口というものは、ご飯を食べたり、人と会話したり、歌を歌うときに使うものであって、断じて男性器を咥えるためのものじゃあない気がする。
そりゃあぼくだって、アダルトビデオや18禁美少女ゲーム、それに成年向け漫画の類でこういう行為があることは知っている。
だがそれはぼくにとっては違う世界の話、液晶画面や紙面の向こう側で行われていることであって、自分がやるなどとは夢にも思っていなかった。
承太郎の性器にそっと指を添え、ぼくがどうしたものかと悩んでいると、彼が楽しそうに笑う。
「どうした……そんなんじゃあ、いつまでたっても終わらねえぜ……」
ぺち、と屹立したペニスで頬を叩かれ、羞恥心で体が熱くなる。
余裕綽々の彼が気に食わず、ムキになって彼の雄を握りこむが、そのあまりの凶暴さ――エラの張り具合や、グロテスクな肉の色に思わずたじろいでしまう。
いつもぼくの体内に埋め込まれ、好き勝手に暴れまわり、ぼくを狂わせる承太郎の性器。
知らずごくりと喉が鳴った。
ビクビクと震え先走りを零すそれを、ぼくは意を決して舌でちろ、と舐めてみる。
途端、青臭く苦い液体が舌の上で広がり、むせ返る性の匂いが鼻に抜けていく。
ぴちゃ、と濡れた音が存外大きく響き、承太郎のペニスは更に質量を増したようだった。
そのあまりの刺激の強さに、クラクラと目眩がする。
反応を窺うように上目遣いで彼を見上げれば、承太郎は頬を上気させてふーっ、ふーっと荒い息を吐いて、熱に溶けた瞳でこちらを見ていた。
良かった、少しは興奮しているようだ。
ぼくはちょっぴり安心して、たらたら蜜の伝う幹を舐め上げた。
大きく舌を出して刺激を続けていると、彼の無骨な手が伸びてきて、ぼくの顔をぐいぐいペニスに押し付けてくる。
「舐めるだけじゃなくて、咥えてくれよ……」
ゾクゾクするような低い声でそう囁かれては、もうどうしようもない。
ぼくは恐る恐る口を開き、承太郎自身をゆっくりと口内に招き入れた。
「んっふ……んん、んぅ、ふ……」
熱い彼のペニスが、ドクドクと脈打っているのが舌先から伝わってくる。
ぼくは承太郎の下生えに指を添え、なるべく歯を当てないように気を遣いながら、できるだけ深くまで彼を咥え込んだ。
フェラチオなどやったことがないので、必死に持てる限りの知識を総動員し、見よう見まねで裏筋に舌を当て、擦りあげるように顔を上下に動かす。
口一杯に承太郎を頬張ると、どうしても息苦しく、ぼくの意思と関係なしに、媚びるような鼻にかかった声が漏れる。
彼の亀頭が口蓋を突くたびに涙が浮かび、視界がぼやけていく。
酸素がうまく吸えず、何も考えられない。
舌先に集中するためにそっと瞳を閉じれば、頭を抑えていた承太郎の手が、子供をあやすように優しくぼくの髪を撫でる。
「はあっ……花京院、気持ちいい……」
承太郎がうっとりとそう呟くのが嬉しくて、ぼくは一生懸命口を動かした。
大好きなチェリーを転がすように、レロレロと細かく舌を動かすと、承太郎の唇から甘い吐息が漏れる。
だんだんと、刺激の強い先走りの味が癖になってきて、ぼくは夢中になって先端を吸った。
右手でたっぷりと精子を溜め込んだ陰嚢を、やわやわと揉み込むと、きゅ、きゅ、とそれが上の方に逃げるように動く。
承太郎の息が段々荒く、短くなっていき、口内の雄がピクピクと震える。
すると急にぐっとペニスを喉元まで押し込まれ、驚いた僕が反射的に喉を閉めると、承太郎が呻いて、最奥に熱い迸りを叩きつける。
「んぐっ…!んん、んぅ、んんっ」
苦しくて口を離そうとしても、しっかりと頭を固定されていて動けない。
喉の奥にびゅるびゅると勢いよく欲望を打ち付けられ、生理的な涙がにじむ。
息が出来ず、思わず精液を飲み込んでしまい、何とも言えない独特の味がぶわりと広がった。
ようやく解放された時には、ぼくは口の端から飲みきれなかった白濁をぼたぼた零し、げほげほと咳き込んでいた。
「じょ、たろっ……ゲホッ、出すときは……言ってくれっ」
顔を真っ赤にしてそう文句を言えば、承太郎は叱られた犬のような顔ですまん、と謝った。
「お前が辿々しく、おれのを咥えてるの見たら、つい……」
その言葉にぼくはブチ切れた。
「なに、辿々しい?このぼくが?チェリーで鍛えられたこの舌が、辿々しい?ふざけるな、今に見てろよ……承太郎なんか、秒単位で搾り取ってやるからな」
びしっ、と承太郎がいつもするように指をさしてそう言い切った後、ぼくは自分がとんでも無いことを言ってしまったと気づいた。
一瞬驚いたような顔をした後、承太郎は不敵に笑い、望むところだぜ、と呟いた。
次の日、ぼくはネットで「フェラチオ やり方」と検索をかけながら、真冬だというのに暖房の前でアイスを咥えていた。
昨夜、散々承太郎の大きなペニスを咥えていたせいで、顎がだるく、感覚が麻痺している。
上手く舌が回らず、今日は仕事中に何度も噛んでしまって、「花京院君、全然言えてないよ」と同僚に笑われるたび、穴があったら入りたいという気持ちになった。
くそ、絶対フェラチオを上達させて、承太郎にギャフンと言わせてやる。
歯を立てず、アイスキャンデーから滴る甘い汁を零さぬように舐めとりながら、ぼくは情報を集めて、作戦を立てることにした。
しかし、調べれば調べるほど、だんだんよくわからなくなってくる。
舐められるのが好きという人もいるし、咥えられた方がいいという人もいる。
深くまで入れたい人、先端だけがいい人、手も使って欲しい人、口以外を使うのは邪道という人……
あと歯が当たると萎えるけど、甘噛みされるのはいいとか、何なんだ。マニアックすぎるだろう。
せっかく調べたのにさっぱり理解できず、ぼくはため息をついた。
うーむ、承太郎は何が好きなんだろう。
昨日は辿々しいのがいい、みたいなことを言っていたが、なんだかそれは下手って言われているみたいで嫌なんだよなあ……
やっぱり男としては、ぼくの口淫の技術で承太郎を骨抜きにさせて、目をハートの形にした彼に「もうお前なしではいられない……」とか言わせたい。
あ、やばい。想像したらちょっと勃ってきた。平常心、平常心……
棒だけになったアイスを咥えつつ、ぼくがイメージトレーニングをしていると、承太郎が仕事から帰ってくる。
真っ白なコートを着たままの彼は、まっすぐリビングにやってくると、興味深そうにぼくのパソコン画面を覗き込み……そしてすぐに、フェラチオ一色の検索履歴を見て苦笑する。
「なんだよ、笑わないでくれよ。ぼくは上手くなろうと必死なんだぞ」
むすっとふくれてそう言えば、承太郎はそんなことしたって上手くならねえだろ、と返した。
「上手くなるには練習あるのみだぜ……花京院」
彼はにやりと笑うと、二枚目のフェラチオ券をぼくに差し出した。
ベッドの端に座った承太郎の脚の間に跪き、ぼくはズボンの布地を押し上げている膨らみに、鼻面を突っ込んでいた。
脱がせてくれ、と懇願されて、未だ着衣のままの承太郎の前で、僕一人だけがバスローブをひっかけただけで、下着も纏わず体を晒している。
羞恥心で倒れそうになりながら、ファスナーの金具を歯で引っ掛け、ジジ、と音を立てながら下に引き下げた。
手を承太郎の膝に置いたまま、大きく口を開け、下着の上から彼の緩く兆したペニスを咥える。唾液と先走りで、じわじわと色を変えてゆく生地が目にいやらしい。
直接刺激することはせずに、布ごしに焦らすようにキスを落とせば、承太郎の眉間にしわが寄る。
彼の性器はまだ半勃ちの状態なのに、既にかなりの存在感があって、先が思いやられる。
しばらく彼のペニスを可愛がるような緩慢な刺激を続けていると、もどかしげに承太郎が下着ごとズボンを下ろした。
先ほどより角度を増した性器が勢いよく飛び出し、外気に触れてぶるりと身を震わせる。
むわりと栗の花に似た、濃厚な雄の匂いが鼻腔を刺激し、ぼくの体も熱を帯びていく。
じわじわと欲望の溜まっていく自身を、承太郎から隠すように膝でこすり合わせながら、ぼくは彼のペニスをぱくりと咥え込んだ。
承太郎を煽るためにわざといやらしい水音を立て、口を窄めて屹立を吸う。
表面に浮かんだ血管の一本一本を、根元へ追うように舌でなぞり、喉奥で先端を締め付けてやれば、頭上から熱っぽいため息が漏れた。
「はあ……花京院、夢みたいだ……」
恍惚とそう呟き、承太郎はぼくの耳の裏を指でくすぐった。
「んぐ……ん、んぅ、んっ……ふ……」
耳が弱いぼくは、そのじゃれ合いのような刺激だけで、ずくりと腰が重くなる。
ぼくが主導権を握っているはずなのに、いとも簡単に体が反応してしまうのが悔しくて、負けじと大きさを増す承太郎のペニスを、緩急をつけて唇で扱く。
根元まで深々と彼を飲み込めば、承太郎の匂いが強くなった。
獣のようなその香りを嗅ぐと、頭に霞がかかり、どんどん脳の回転が遅くなっていく。
こうやって、ああやってと先ほどまで考えていた計画も頭から吹っ飛び、ぼくは承太郎の性器を味わうように夢中で吸っていた。
ああ、早くこの大きなペニスを突っ込まれて、めちゃくちゃにされたい。
ぼくを乱暴に揺さぶって、喘がせて、奥深くに精液を注いでほしい。
「んむ、んっふ、んん……ん、んぅ、んん……」
我慢できず、切なく疼く後ろにそろそろと指を這わせ、浅く抜き差しする。
自分を慰めているのを承太郎に気づかれたくなくて、ぼくは誤魔化すように口の動きを早めていく。
じゅぷじゅぷ、と卑猥な音がやけに耳につき、頭がぼうっとなる。
目を閉じて、前後に大きく頭を動かせば、承太郎が堪らず声を漏らした。
その甘く掠れた低音が、ぼくの腰に響く。
「花京院、もう、出ちまうっ……口、離せっ」
昨日、無理やり喉奥で出したことを反省しているのか、切羽詰まった声を上げ、承太郎がいきなりぼくを引き離す。
彼のペニスがぽん、と口から抜け、咄嗟に口で受け止めようとするも、大量に吐き出された彼の精液が、ぼくの顔に勢いよく打ち付けられた。
熱い飛沫が、断続的に頬や鼻を汚していく。
「わ、悪い、花京院……顔にかけちまった……」
絶頂の余韻に荒い息をついている承太郎が、申し訳なさそうに謝るのも聞こえず、ぼくはほとんど無意識に彼の重たい蜜を指で掬うと、舌へと運んでいた。
「ん……」
弾力のあるその液体をねっとりと舐め上げ、ぷち、と舌で潰せば、濃厚な味が口内に広がる。
ぼくの体を甘く痺れさせるその味にうっとりと目を細めると、承太郎の腕が力強くぼくをベッドの上へと引き上げた。
「くそっ……煽りやがって、おれはもう知らんぞ」
そう言って獣の顔をした承太郎が、突然ぼくの腰を鷲掴んで、彼のペニスの上へと引き下ろす。
「あああっ」
ろくに慣らしていない後孔に、ぼくの唾液でべたべたになった承太郎が押し入ってくる。
ベッドに腰掛けた承太郎の上に、向かい合うようにして座らされ、彼がぼくの体を割り開いていく。
「いっ、いたい、いたぁ……じょうたろっ、ひっ、ん、んぁっ……」
堪らず承太郎に縋り付くと、彼がぼくの首筋を強く吸った。
突然の刺激にぼくはびっくりして、思わず彼の星型の痣に爪を立ててしまう。
「はあっ……花京院、花京院っ」
「ああっ、はあ、ああ、ああっ、やっ、いあぁあっ」
夢中になって腰を振り立ててくる承太郎に、なすすべもなく揺さぶられ、ぼくは切れ切れに喘いだ。
彼の精液の滑りを借りて、痛みだけでなくじわじわと快楽がせり上がってくる。
承太郎の突き上げがだんだん早く、荒々しくなり、ぎしぎしとスプリングが大きく軋む。
彼を飲み込んでぷっくりと膨らんだ粘膜を、休む間も無く擦りあげられて、どんどん体が熱くなる。
「だめっ、もっとゆっくり、あっ、ああっ、イク、イっちゃうから……っ」
何度も何度も弱いところを擦られ、閉じることを忘れた口から高い声が漏れる。
発情した獣のようなその声は、確かにぼくのもので、羞恥に脳が焼き切れてしまいそうだ。
承太郎に慣らされた体は、乱暴な突き上げにも喜んで彼を締め上げ、快楽を拾おうと淫らに腰がくねる。
「ああっ、あっ、あんっ、うあっ、あぁあっ、ああっ」
激しく奥を突かれ、ぼくは涙を流しながら、どうすることもできずに彼にしがみついた。
すると絶頂へと追い立てるように承太郎の腰が動き、ぼくは粉々に吹き飛ばされてしまう。
「っ――――!」
一際強く、深々と突き刺された時、僕は声もなく達していた。
快楽の嵐がぼくの体を凄まじい力をもって吹きぬけていき、視界が白く塗りつぶされる。
夢と現実の区別がつかず、一瞬、自分が今どこにいるのかわからなくなる。
「はあ、はあっ……う、うあっ!じょうたろっ……」
絶頂の余韻に肩を震わせて呼吸をしているぼくに構わず、承太郎が律動を再開する。
先ほどぼくの口で一度出した彼は、まだ放逐には至らなかったのだろう。
イッたばかりでいまだ痙攣している、敏感な粘膜を荒々しく擦られ、ぼくは悲鳴を上げた。
快楽と痛みがごちゃまぜになって、何が何だか分からない。
ぼくの神経は混乱して、全てのシグナルを愉悦に変換してしまう。
痺れたような下半身に、再び甘い毒が溜まっていく。
ふいに承太郎がぼくのバスローブの前をはだけさせ、桃色に色づいた乳首を強く吸った。
ちゅう、と彼の肉厚な唇に吸いつかれると、ビリビリと全身に電流が流れる。
「ひっ……ん、ああっ、ひっぱるなぁ……っ」
ぼくの文句など聞かず、彼は我が物顔でリップ音を響かせながら、強弱をつけてぼくの乳首を苛めた。
カリ、と歯を立てられ、思わず体が強張る。
「いたっ……」
ぎゅっと目をつむったせいで、目尻に溜まった涙が一筋頬を伝った。
快楽を逃がそうと背を反らせても、しつこく承太郎が胸に吸いついてくる。
甘酸っぱい刺激に耐えられず、引きはがそうと下を見ると、どうしたって子供には見えない大柄な男が、平たいぼくの胸に口を寄せている。
その倒錯的な光景に、ぼくは息を呑んだ。
ぼくがたじろいだのに気付いた承太郎は、目線だけを動かしてちらりとぼくを見ると、乳首を解放する代わりに腰を鷲掴んで、思うさま僕を揺さぶった。
「ああっ、うあっ、あ、ああ、だめっ、じょうたろ、おねがい、とまって……っ」
あまりの激しさに、ぼくの一房長い前髪が踊るように揺らめく。
「はあっ、無理だ……すげえ、お前の中、締まる……っ」
弱弱しく承太郎の胸を押しても、彼はぼくをしっかりと抱きしめて離さない。
スプリングを利用してぼくを何度も突きながら、恍惚と耳元で囁く承太郎の低く掠れた声に、ゾクゾクと背骨がわき立つ。
汗で滑る彼の体に必死にしがみつくが、大きく揺さぶられているために、振り落とされてしまいそうだ。
カチカチ、とチェリーを模したピアスがけたたましい音を立て、どこかに転がって行ってしまうんじゃあないかと不安になる。
しかし、下腹を焦がす劣情のために、直にそんなことを気にする余裕もなくなっていく。
獣の交尾のように、互いを貪り合うセックスにぐずぐずと体が溶けていく。
どちらの物ともつかない体液にまみれ、欲望の海に溺れる。
ふいに彼のうなじから、ふわりと香った承太郎の匂いに体が熱くなり、ぼくは呂律の回らない舌で彼の名を呼んだ。
承太郎の肩に埋めていた顔を上げ、彼の瞳を見つめれば、少しスピードを緩めて承太郎がキスをくれる。
猫がミルクを舐めるように、舌で彼の唇をなぞれば、呼吸を奪うように口づけられた。
酸素不足で霞みがかっていく脳で、ぼくのこの男に対する感情が「いとしい」というものであることを理解する。
すきだよ、と小さく唇を動かして音を作ると、承太郎が嬉しそうに笑う。
波間に漂うように、ゆらゆらと腰を動かしながら、次は一緒にいきたい、と彼は熱っぽく囁いた。
彼に応えようと、ぼくが一生懸命気恥かしさを堪えて頷くと、承太郎はそろりとぼくの震える性器に手を伸ばした。
あ、と思わず鼻にかかった声が漏れ、ぼくはその声のあまりの甘ったるさに、掌で口を押さえた。
羞恥に赤く染まる頬を見て、承太郎が愛しげに目を細める。
先ほどの吐精で濡れたそこを、最初は優しく、次第に強く擦られて息が上がっていく。
次々に溢れる淫らな液体を、先端に塗りこめるように彼の手が動き、足の指が勝手にピンと張る。
同時に片手だけでぼくの腰を持ち上げ、承太郎が再びぼくの中を掻き回す。
カラカラに渇いた体に温かい湯を注がれるような、内側から緩やかに満たされる幸福にぼくは何だか泣きそうになる。
承太郎の温度が、彼のいる空気が愛しい。
承太郎の存在を確かめたくて、しっとりと汗ばんだ彼の体に腕を回せば、承太郎の癖の強い髪からぼくと同じシャンプーの匂いがする。その匂いに彼と一つになれたような気がして、ぼくは嬉しい。
花京院、と切なげにぼくの名を呼びながら、承太郎が小刻みにぼくを揺する。
あまりの気持ちよさにうっとりと満足げな吐息を零しながら、ぼくも彼に喜んでほしくて腰を振った。
体の中に含んだ彼の雄が、柔く弱い粘膜を擦るたびに勝手に後孔がきゅうと収縮する。
「ああ、ああっ、ふっ、ん、んぅっ……も、ぼく……イキそうだっ……」
じわじわとせり上がる射精感にそう訴えれば、承太郎がおれも、と答えた。
「なあ、花京院……一緒にイこうぜ……」
合わせてやるから、と囁かれてぼくは必死に頷いた。
臍のあたりにどんどん快楽が重く溜まっていき、逃げ場がない。
承太郎に追い詰められ、背骨が震えている。
「じょうたろっ、じょうたろっ……あっ、来る、もうダメだ……っ、あっ、あああっ」
「くっ……」
急に目の前で光がスパークし、内腿が甘く痺れる。
溜まりに溜まった愉悦が、一気に体を通り抜けて解放される快感に全身が震える。
ぼくは勢いよく精液を迸らせながら、体の中に熱い濁流を注ぎ込まれるのを、確かに感じていた。
「ああ……中、あついよ……」
ぴくぴくと承太郎自身が脈打ちながら、ぼくの体の一番奥で熱を吐き出す。
彼の体液を一滴残らず飲み干そうとでもするように、ぼくのそこは貪欲に承太郎を絞り上げる。
しばらくの間二人ともじっと動かずに、少しの隙間もないほど、ぴったりと体を寄せて抱きあう。
獣のような荒い呼吸音だけが部屋に響き、承太郎の胸が大きく上下しているのがわかる。
たっぷりと中に出して満足したのか、彼がずるりとペニスを引き抜いた。
「……」
たらたらと尻の間を精液が伝うのを感じながら、ぼくはぼーっと目の前にある承太郎の萎えたそれを見つめ、それからぱくりと口に咥えこんだ。
ちゅう、と音を立てて吸えば、彼が突然の出来事に狼狽えた声を出す。
「おい、花京院っ……うあっ……もういい、やめろっ」
出したばかりで敏感な自身をしゃぶられ、承太郎が顔を真っ赤にしてぼくを引き離そうとする。
口からペニスがこぼれ出ても、しつこく舌で追えば、彼から堪え切れない呻きが漏れる。
レロレロとチェリーを転がすように彼を嬲り、性器に残されたままの白濁を舐めとっていく。
「……気持ち良くしてもらったら、最後にお掃除するのがマナーだって、ネットに書いてあったんだけど……良くないかい?」
挑発するように上目遣いでそう問えば、承太郎はくそ、と毒づいてぼくをベッドの上へ押し倒した。
「全くおめーは……」
と呆れたように呟きながらも、承太郎はにやりと雄の顔で笑うと、ぼくの首筋に噛み付くようなキスをする。
ぼくはその刺激に甲高い悲鳴をあげ、再び始まる甘い時間にどこまでも溺れていった。
おしまい