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 昔から写真を撮られるのが苦手だった。

 それはビデオも例外ではなく、ましてやセックスの最中の動画など、言わずもがなであった。

「っや……だから、やめろって、言ってるだろ……っ」

 ビデオを構えながらも、器用に腰を打ち付ける承太郎は、明日から一ヶ月の間、太平洋の上に軟禁される。

 卑猥な音を立てる結合部にズームしていく承太郎に、ぼくは文句を言い、撮影を妨害しようと試みるも、スタープラチナの腕に虚しく阻まれた。

 

「このくらい、いいじゃあねえかっ……」

 

 おれは明日から、右手が恋人になるんだぜ、と嘯く承太郎の肩を、ぼくは軽く蹴飛ばした。

なぜならばこのチープなAV撮影会は、3ヶ月ぶり7回目だからである。

 

「まえの、どうがも、あるだろっ、あ、ああっ」

 

 ぐ、と奥をこじ開けるように、承太郎のペニスがねじ込まれる。

 身体の芯の、気持ちいいところを承太郎に突かれると、ぼくは弱かった。

 

「やだ、やあっ、あ、あっ、あ、う、ううっ」

 

 太腿を肩につくくらい身体を折り曲げられ、上から重力に任せて圧倒的な力で押しつぶされる。

 腹側のふくりとした小さな器官を、何度も執拗に擦りあげられ、快楽の渦に巻き込まれて、ぼくはもうすっかり彼のなすがままだ。

 

 気持ちいい、悔しいけれど、それは事実だった。

 承太郎のペニスに奥を穿たれ、喘ぎ、悲鳴をあげ、それでも痛いくらい性器を勃起させる、みっともない姿を無機質なレンズが捉えている。

 

「すげえな、ここ、ふちがめくれ上がって……」

 

 エロいな、と腰に響く低音が耳をくすぐる。

 ぼくの後肛は彼に散々っぱら犯され、作り変えられ、淫らにほころび、嬉しそうに承太郎の性器にキスしていた。

 

「いうな、ぁ、あっ♡ああっ♡」

 

 ずぱん、と強く腰を打ち付けられ、まぶたの裏で光がスパークする。

 背骨がわななく。

 細胞の一つ一つが、承太郎の与える快楽に歓喜している。

 

 ぼくはもう抵抗を諦め、身体を恋人に明け渡すことにした。

 喜悦の波に溺れてしまえば、ぼくも気持ちいい思いができる。

 少しずつ少しずつ承太郎に侵略されたこの身体は、彼の指先一つで、身体中に張り巡らされた官能の糸が震え、毒のような渇望が湧き上がってやまない。

 

「じょうたろ、あ、あっ、もっと、もっとおく、あ、ああっ♡」

 

 きもちいい、と唇は勝手に言葉を紡いでいた。

 ぼくの脚は無意識に承太郎の腰に巻きつき、彼を奥へ奥へ導いて行く。

 臍のあたりがじわりと熱くなり、どうやらぼくのペニスは、もう馬鹿になって精液をだらだら零しているようだった。

 

 ごくり、と喉を鳴らした承太郎が、ビデオカメラをスタープラチナに渡すと、ぼくの腰を鷲掴んでピストンを早める。

 ああ、気持ちいい。快楽に素直になれば、こんなに気持ちよくなれるのだ。

 

「あ〰︎〰︎♡あ〰︎〰︎♡きもち、そこ、すき♡じょうたろ♡」

 

 名前を呼べば、噛みつくようなキスが降ってくる。

 舌を絡ませ、唾液を交換する。裸の肌を密着させ、上も下も粘膜を激しく擦り合わせ、興奮して暴れまわるぼくたちは、獣のようだ。

 セックスとも言えない、交尾のようなまぐわいに、溺れ、夢中になる二人は、どろどろに溶け合って純粋な命の炎になる。

 

 次々に押し寄せる快楽の波に、思考をかき乱される。

 原始の衝動に突き動かされ、承太郎のうなじを噛んだ。

 お返しのように、低く唸った彼に、深々とペニスを突き立てられる。

 

 身体の奥で熱が弾け、視界が霞む。甘やかな電流が全身に流れ、身体が痙攣する。
 朦朧とする意識の中で、ぼくはそれでも離れまいと承太郎の身体にしがみついた。

 目が醒めると、承太郎の端正な寝顔が横にある。

 長い睫毛が綺麗だ。

 いつもは強い意志を持って引き結ばれた唇は、今はだらしなくゆるんでいる。

 

 最中に大活躍しただろうビデオカメラは、ベッドサイドに静かに置かれていた。

 データを消すのは簡単だが、これから海の上で孤独に暮らす彼を思えば、それは躊躇われた。

 

 今回が本当にもう最後だからな、と強い気持ちで恋人を睨んでみるが、眠る彼のあどけなさに毒気を抜かれてしまう。

 また頼まれれば許してしまうのだろうな、とぼくはぼんやり思いながら、そっと目を閉じた。

 

おしまい

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