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 空条承太郎、28歳、独身。
 ついにやってしまった。

 

 おれはとっ散らかった部屋に鎮座する、大型の箱をゆっくりと開けた。
 そこには、赤毛の一房長い特徴的な前髪の少年型ロボットが眠っていた。

 

「……」

 

 電源ボタンを押すと、起動音もなくスムーズに瞳が開く。
 すみれ色の瞳はおれを捉えると、はじめまして、空条博士、と想い人と同じ声で挨拶をした。

 

「ああ……これから、よろしく頼む……典明……」

「なあ、承太郎。お手伝いロボットを買ったって、本当かい」

 

 どこから噂を聞きつけたのか、おれの想い人である花京院典明は、楽しそうにコーヒー片手におれに話しかけてきた。

 

「ン……」

 

 飲んでいたコーヒーを吹き出しそうになりながら、なんとか答えると、花京院はいいなあ、と大きな声を出した。

 

「やっぱり便利なのかい?実はぼくも購入を考えていて、見せてほしいんだが」
「……それは、少し、なんというか……」

 

 おれは脳内で必死に断る口実を探していたが、花京院はぐいぐいと今日見に行ってもいい?と、おれに迫ってくる。そうすると、彼の使っているチェリーの香水の香りがおれの脳を馬鹿にし、おれはわかった、と無意識に答えていた。

「博士!」

 

 家に帰るなり、迎えに出てきた典明を見て、花京院は目を丸くした。
 それはそうだろう、自分と髪型も、瞳の色も、声も、容姿もそっくりなのだから。

 

「な……なんだい、これ……」
「ン……」

 

 おれはしどろもどろになりながら、理想のロボットを組み立てていったら、なぜか最終的にお前と同じ姿になった、と答えた。
 花京院はわなわなと身体を震わせると、絶対にロボットなんかより、ぼくの方がいいに決まっている、と叫んだ。

 

「は?」
「なんだ、このロボットは!きみは夜の世話までさせているのか?こんなのより、絶対生身の人間の方がいいに決まっている」

 

 そういうや否や、花京院は服を脱ぎ始めた。ベルトに手をかけたあたりで、おれはもうその刺激の強いストリップを見ていられなくなった。

「あの、空条博士は、ぼくをセクサロイドとしてはお使いになっていません」
「そういうふうに言えって、承太郎に口止めされているのか?」
「いえ、博士は本当にぼくに指一本触れていません、博士は紳士です」

 典明が場を取りつくろってくれても、花京院は聞く耳をもたず、とうとう全裸になってしまった。

 

「おい、おまえも脱ぐんだ」

 

 花京院が典明に命令すると、ロボット三原則を忠実に遂行する典明も、ゆっくりとストリップを始めた。

 典明の裸は購入時に一度見たことがあるが、それでも起動してからはほとんど見ていない。
鏡合わせのように全裸で仁王立ちする花京院と典明に、おれは頭がくらくらした。

 

「ふん、本当にそっくりだな」

 

 花京院は鼻を鳴らすと、おれの手をひっつかんで、寝室に向かった。
 彼は典明も連れてくると、一緒にベッドに横たわり、おれの名を呼んだ。

 

「承太郎、ロボットと人間、どっちがいいか、きみにわからせてやる」

「あっ……はかせ……やだぁ……」
「ふん、声までそっくりなのが腹が立つ……」

 

 おれは夢でも見ているのだろうか。
 花京院が典明の身体を執拗に愛撫し、性交にしか使われることのない尻穴を、ぐにぐにとほぐしている。

 

「中はずいぶんやわらかいな……本当に、一回も使ったことないのか?」
「ない……神に誓って使ってない……」

 

 おれが答えても、花京院の機嫌は直らず、じゃあ今から使って感想を教えてくれよ、と残酷な言葉を吐いた。

 

「はかせ……」

 

 典明は中途半端に高められた身体を持て余し、完全に発情モードに入っていた。
 おれは、花京院が隣にいるにも関わらず、典明の身体に吸い寄せられていった。

 

「典明……」

 

 ベルトを外す、カチャカチャという音がいやに耳についた。
 おれはすでに勃ちあがった性器を何度か扱くと、典明の慎ましやかな尻穴にあてがった。

 

「あ……」
「いくぞ……」

 

 ぐぐ、と腰を進めると、やわらかいシリコンがペニスを包む。
 腰にあたる尻の肉は人間と同じように柔らかく、浅い部分がぎゅうぎゅうと締め付けてくる。
 奥はねっとりと亀頭に吸い付いてきて、ぞわぞわと快楽が押し寄せてくる。

 

「はかせ、はかせ……な、なんだか、ぼく、へんになる……」

 

 ゆるゆると腰を振ると、典明は小さく喘ぎを漏らした。
 誰に教えられたわけでもないのに、彼はおれの背に腕を回すと、けなげに縋り付いてきた。

 

「典明……」

 

 衝動に突き動かされて、腰の動きを早くすると、典明の喘ぎが大きくなる。
 パンパン、とピストンのたびに人工皮膚と肉がぶつかる乾いた音がたち、聴覚を犯す。

 

「ああ、ああっ」

 

 典明は長い脚をおれの腰に絡めると、律動を促すようにぐいぐいと引き寄せてくる。
 はじめてのくせに、いやらしいそのしぐさに、おれは完全に馬鹿になって腰を振りたくった。
 典明、と名前を呼ぶと、中の締め付けが一段と強くなる。
 おれはなんだか典明がいじらしくて、彼を追い詰めながらキスをしてやった。

 

「んん……」

 

 ふわふわとした唇に舌をさしいれ、ねっとりと絡ませる。
 すきだ、と思わず呟くと、典明はびくびくと身体を痙攣させた。

 

「ああっ……」

 

 びゅる、と精子を含んでいない、人工の精液が典明の胸に散る。
 同時に強い締め付けが襲ってきて、おれは典明の中に白濁を吐き出していた。

 

「はぁ……っ」

 

 典明ははじめてのセックスにエネルギーを使いすぎたのか、スリープ状態になってしまい、寝息を立て始めた。
 その幼い頬を撫でると、花京院に腕を取られる。

 

「もういいだろ」

 

 次はぼくだ、と花京院はベッドに寝転がると、蠱惑的に笑った。
 花京院の身体はほっそりとしていて、典明と似ていたが、青い血管がプリントされた人工皮膚と違って、その肌はぼんやりと白く発光しているようだった。

 

「花京院……」

 

 十年以上、出会った時から想い続けてきた相手が、全裸でおれのベッドに横たわっている事実に脳がついていかず、おれは夢でも見ているような気分で、彼の身体に覆いかぶさった。

 

 「承太郎……」

 

 花京院はよく動く舌で、キスをしかけてくる。
 熱く濡れた舌は器用におれの口内を動き回り、確実におれを追い上げていく。

 

「承太郎って、本当にぼくのこと好きだったんだな」

 

 くすり、と笑う花京院に、ああ、と答えた声はみっともなく震えていた。
出会った時から好きだった、と言えば、花京院は満足そうに口角を上げた。

 

「好きで好きで、でもどうしようもなくて、とうとうぼくと同じロボットなんか買っちゃったんだ……」

 

 かわいい、と花京院はおれのペニスを扱いてきた。
 ほっそりとした指がしなやかにペニスにまとわりつき、おれを昂らせる。

 

「馬鹿だなあ、一言、好きっていえばよかったのに……」

 

 ほら、と腰を押されて、花京院の中に潜り込む。
 花京院が自ら解したそこは、あたたかく、やわく、ねっとりとおれを締めあげてきた。

 

「うぐ……」

 

 されるがままだった典明と違い、花京院はわざとおれをぎゅうぎゅう締め上げると、自ら腰をくねらせてきた。
 花京院にそそのかされて、おれもがむしゃらに腰を振りたくる。

 

「あは、きもち……じょうたろ……」

 

 花京院は快楽を余すことなく享受し、うっとりと目を細めた。
 典明と違って、性欲のある生身の花京院は、とことん淫らで、いやらしかった。

 

「あ、あはっ、あ、あん、あっ」
「くそっ……あおりやがって……」

 

 怒りにも似た、欲情に突き動かされて、花京院を責め立てる。
 おれの気持ちも知らないで、とおれは思う。
 だが、花京院の気持ちも、おれは知らない。

 

「すきっていえよ……」

 

 おまえもそうなんだろう、と挑発的に見上げれば、花京院はにやりと笑った。

 

「どうかな……」

 

 ロボットなんかに懸想する男、ひいちゃうね、と彼は軽口をたたいた。

 

「このやろう……」

 

 おれはなんだか暴力的な気持ちになってきて、がつがつと腰を振った。
 ペニスが抜けるぎりぎりまで引くと、間髪入れずに最奥を突いた。

 

「あ、あん、あっ、やっ」

 

 逃げられないように花京院の腰を鷲掴むと、ピストンを繰り返す。
 ばすん、ばすん、と肉のぶつかる乾いた音がたち、花京院が嬌声をあげる。

 

「あ、あ、ああっ、も、だめ、だめっ」

 

 花京院が限界を訴えるのを無視して、自分の快感を追う。
 マグマのように沸き立つ欲情の炎に身を任せ、彼を追い込んだ。

 

「ああ、あ、あ、あっ」
「だすぞ……」

 

 どちゅん、とひときわ強く奥を突くと、花京院は白目をむいて精液を跳ねあげた。
 おれは彼の一番奥に、思うさま欲望を叩きつけてやった。

 

「ふー……」

 

 ゆっくりとペニスを引き抜くと、びくん、と花京院の身体が痙攣するが、彼はすでに気を失っていた。
 うっすらと残る涙のあとぬぐってやり、おれはやりすぎた、と反省した。

「で、どうだった?」

 意識を取り戻した花京院が、おれにもたれかかってくる。

 

「ロボットより、ぼくのがよかっただろ」

 

 にやにやと笑う花京院に、典明の方がかわいげがあるぜ、と答えれば、彼はぶすくれた。

 

「そんなこと言うなら、ぼくも承太郎と同じようなロボット買おうかな」
「なに?」

 

 そんなこと許さねえぜ、と言うが、花京院はおれを無視して、そうだそうだ、そうしようと嬉しそうに鼻歌を歌い始める。

 

「そうしたら4人でえっちできるね」

 

にっこりと笑う花京院に、おれは一生こいつにはかなわない、と思うのだった。

 

おしまい

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