Between The Sheets
ぬくく、と潤滑油の滑りを借りて承太郎がぼくの中に入り込んでくる。
体の内側を押され、どういう仕組みなのだか、あ、とぼくの意思と関係なく思わず声が上がる。腹の中がじんわりと温かい。
「ん、んぅ……あ、あ、ふ……」
汗ばんだ承太郎の体に抱きしめられて、少し息が苦しくなるけれど、大きな熊に抱かれるようなこの感触は嫌いじゃあない。
ぼくよりふた回りは大きい彼に、のしかかられる重みさえ心地よく愛しい。
欠けた部分を優しく満たされる安心感、体に一本芯を通されたような充足感に、恍惚とため息が漏れる。
ゆっくりと体を揺すられて、鈴のようにぼくは体を震わせて啼いた。
「あ、あ、ああっ……」
外人旅行客向けなのか、ジョースターさんがとってくれたこのホテルのベッドは、ぼくらが散々乱れ、縺れ合っても十分な広さがある。
今日みたいに向かい合って、承太郎の腰に足を絡ませながらするのも、四つん這いで獣のように交わるのも、ベッドの端で脚が肩につくくらい体を折り曲げられ、ぼくの正面に立った承太郎に少し乱暴に犯されるのも、ぼくは全部大好きだから、困ったものだ。
気持ちよさにうっとりと目を閉じると、入り口のあたりばかり擦っていた承太郎が、ぼくの腰を掴んで長く深いストロークを始める。
体の中をかき分けて、奥まで彼が入ってくるものだから、思わず悲鳴が上がった。
「うあっ、あ、あっ……あつい、よ……」
溶ける、と回らない舌で訴えれば、額にうっすら汗を浮かべた承太郎が笑う。
彼のセックスはいつも思いやりに溢れて優しいけど、本当はぼくを翻弄するのが好きなようだ。
時折不意打ちのようにぼくを揺さぶって、こんなふうに喜んでいるのが少し憎らしい。
だからぼくは意地悪、と耳元で囁き、わざと彼を締め付けてやった。
途端低く呻いた承太郎の、しかめられた眉が、たまらなくセクシーだ。
ちっと彼は悔しげに、そして焦ったように舌打ちをするけど、ぼくなんて毎回ほとんど年の変わらない男に組み敷かれ、プライドも理性もぐずぐずに溶かされて、いいようにされているのだから、このくらいの悪戯は許してほしい。
筋肉で盛りあがった彼の背中に腕を回し、少しペースを速めた律動に合わせて腰を振れば、羽が生えたような、雲の上に浮かんでいるような、ふわふわとした快楽に包まれて心地いい。
「なあっ……こうすると、君も、あ、はあっ……気持ち、いいだろう?」
ぐちゅぐちゅ、とローションと二人の体液でドロドロになった結合部から、卑猥な音が立つ。
部屋の空気さえ甘美さを孕み、蜜のようにねっとりと纏わりついてくる気がして、自然と笑みがこぼれる。
ぼくは、どこまでも曖昧になったぼくらの境界を確かめたくて、彼と繋がった部分に手を伸ばした。
「ほら、君の、あ、ああっ……こんなに、おっきいのが、ぼくの、中に……はいって、ひっ、ひんっ」
全て言い切る前に、突然承太郎がガツガツと腰を進めてきて、ぼくは甲高い声をあげた。
ベッドが軋むほど大きく、深く、速い突き上げに体がついていかず、熱く狂おしい快楽が下腹から次々に生まれ、電流のように駆け巡っていく。
激しく揺さぶられ、ぼくのペニスが馬鹿馬鹿しく揺れて腹に当たる。
涙と涎で顔をぐちゃぐちゃにしたぼくは、必死に目の前の男に縋るしかない。
「こ、のっ、煽りやがって……もう、手加減、できねえからなっ」
パンパン、と承太郎の下腹が会陰に打ち付けられ、乾いた音がする。
嵐のような強大な快楽に、ぼくの体は吹き飛ばされて粉々になってしまう。折り重なった愉悦の波が、渦を巻いてぼくをさらっていく。
「あん、あ、あんっ……だめ、はげしっ、やらぁ……っ」
体が熱くて、気持ちよくて、内側から承太郎の中に溶け込んでしまう。目の前が真っ白に弾け、手足が甘く痺れ、ぼくの体は光の粒子になる。
「あ、あっ、ああ、あ、も、いきそっ、いく、いく、いっ――――」
ぎゅう、と体に力が入り、下腹からものすごい勢いで快楽が背骨を伝い、脳の中で爆発する。
がくがくと四肢が勝手に痙攣し、腰から下がなくなってしまいそうな、途方もない恍惚の時間が訪れる。
白く濁った精液がぼくのペニスから弾け飛び、胸を汚したのと同時に、息を詰めた承太郎がぼくの中に熱を注ぐのを、ぼんやりと感じた。
獣のように息を荒げた承太郎が、ぼくの上に倒れこんでくる。
未だ絶頂の余韻に震え、うまく動かない腕で彼の頭を撫でてやると、承太郎は気持ちよさそうに目を閉じた。
大型犬に懐かれると、こういう感じなのだろうか、意外と悪くないんじゃあないか。
そんな風に考えてしまうぼくは、もうすっかり承太郎に骨抜きにされてるんだろう。
「満足したかい」
と問えば、彼はこくりと頷いた後に、
「だが、できればもう一回してえ」
とぐりぐり肩に頭を擦り付けて、甘えてくる。
「……駄目か」
そう言って、承太郎は叱られた子犬のように上目遣いをしてきた。その彼のきらきら光る緑の目があまりにも綺麗なので、ぼくはつい、
「いいよ」
と応えてしまった。
するとすぐに、彼はぼくをすっぽりと抱きしめ、嵐のようなキスを浴びせたのだった。
おしまい