top of page

 ぼくが住んでいる島は「承花島」といって、「空条承太郎」と「花京院典明」という二個体しか住んでいない不思議な島だ。

 この島には「承花ランド」という、『セックスへの罪悪感や嫌悪感を払拭し、生き物として本来の姿に立ち返って、まるで食事を楽しむようにみんなが安全で自由な性を楽しむことができる』ことをコンセプトとした、大人のための性の一大テーマパークがある。

 この承花ランドが島で一大ブームを起こしており、園内は平日でも来園者が絶えず、グッズを出せば、店先に並べるはしから飛ぶように売れ、大人の承花の間では、抑圧された性を開放する楽園になっているのだ。

 そんな破竹の勢いの承花ランドが、今度は隣の敷地を買い上げてビーチを作るという。

 

「オープン記念のペアチケットをもらったのだけど、ぼく、今特定の恋人がいるわけじゃあないから、一緒に行かないか」

 

 大学の同級生に声をかけられて、ぼくはそこで初めて今度開園する承花ビーチの存在を知った。
彼とは、好きなゲームが同じで、よく遊びに行く仲だ。
 

 なんでも、彼はSNSでは10万人のフォロワーがいるインフルエンサーで、その上承花ランドのヘビーユーザーで、公式サポーターの一人であるらしい。

 

「初日の様子を記事にまとめるよう、依頼が来たのでね」

 

 夏といえば夢と欲望の海!と桃色の一房長い前髪を揺らして興奮する彼に、ぼくは真実を明かさねばならなかった。
 そう、ぼくはそういう経験が全くない、いわゆる処女であるのであった。
 
 
 
「いやー楽しみだなあ」

 

 ビーチに向かうバスの中で、にこにこと嬉しそうな彼と違い、ぼくは緊張のあまり、なんとか作り笑いするしかなかった。

 

 彼には正直に性行為の経験がないことを伝えたが、大丈夫、何事も経験だよの一言で押し切られたのであった。

 

 まあ、ぼくもそういう行為に全く興味がないわけではなかったし、正直、他人のセックスというものを見てみたいという好奇心が勝ってしまった。

 

 セックスしたくなければ見ているだけでもいいから、一緒についてきてくれと頼んでくる友人に、ぼくは最終的には同行を了承したのであった。

 承花ビーチにつくと、そこはもう欲望あふれる大人の承花たちの一大行楽地であった。
 そこかしこでセックスをする承花たち、あがる嬌声、むせかえる精液の匂い。
 処女のぼくには刺激が強すぎた。

 

「見学だけの時は、白い花を頭につけておくんだ」

 

 そう言って彼は白いハイビスカスをぼくにくれる。
 それから、ぼくはNGなしだから赤い花、と友人は自分の麦わら帽子に赤いハイビスカスをつけた。
 露出の多い黒い水着に、大きなサングラスをした彼は、まるで芸能人のようであった。

 

 いい承太郎がいるといいね、という彼の目はすでにハンターのようにギラギラしていて、ビーチを満喫しようという気迫に満ちている。
 

 トロピカルジュースを飲みながら、承花であふれかえるビーチを見回していた彼は、ある承太郎を見つけると、黄色い歓声をあげた。

 

「ゲーム実況のQ太郎さんだ!!!」

 

 あわわ、と突然友人はぼくの陰に隠れると、話しかけてきて、とどだい無理な注文をしてきた。

 

「えっ、なんで、自分で行きなよ」
「大ファンなんだ、畏れ多くて話しかけられないよ」

 

 ごちゃごちゃ揉めていると、騒ぎに気付いた件のQ太郎さんが向こうからやってきた。

 

「JOKAtuberのテンメイさん?」

 

 友人は憧れのQ太郎さんに話しかけられて、ひえっと小さな悲鳴をあげた。

 

「いつもコメントありがとう」
「あ…あの…ぼく、あの、あなたの、大ファンです…」

 

 嬉しいです、と友人は半泣きになっている。
 良かったね、と肩を叩けば、Q太郎さんが良かったらご友人も一緒に、とパラソルの下に誘ってくれた。

 

「招待券で無理やり弟を連れてきたら、見学しかしないと拗ねてしまって、ご友人さえよかったら少し話し相手になってほしい」

 

 ぼくでよければ、と白いベンチに向かうと、学生帽に白いハイビスカスをつけた承太郎がいた。

 

「こんにちは」

 

 ぼく、友人の付き添いできました、といえば、彼からも兄貴の付き添い、と返事が返ってきた。
 お前も見学だけなのか、と問われて、うん、と答えると、はじめてが衆人環視なんていやだぜ、と彼は言った。

 

「意外だ、きみすごく格好いいのにはじめてなのか」

 

 正直に感想を述べると、悪いかよと承太郎は恥ずかしそうに帽子を引き下げた。

 

「ううん、ぼくもそうだから」

 

 ここに来るのちょっと怖かったんだ、といえば、彼がなんだと、と驚いた声を出した。

 

「おい、もっとこっちにこい」
「なんで?」
「さっきからお前のこと、何人も見ている奴がいる」

 

 変な虫がつく、と承太郎はぼくのベンチを自分のベンチのほうに引き寄せた。

 

「まさかあ」
「お前、危機感がなさすぎるぞ」

 

 処女だなんてわかったら、承太郎たちがいろんな手練手管で丸め込んできて、すぐ手篭めにされるぞ、と彼は真剣だ。

 

 しかしながらその理論でいくときみも狼になるのでは、と問えば、おれはいいんだよと謎の理論が展開される。

 そうこうするうちに、いつのまにか友人はQ太郎さんの上に跨って、激しく腰を振っていた。

 

「あっ♡あっ♡きもちいい♡すき♡これすきっ♡」

 

 はわわ、とぼくは友人の痴態にびっくりして手で顔を覆いながら、指の隙間からばっちりと彼らのセックスを見学していた。

 Q太郎さんの赤黒くて巨大なペニスが、友人の小ぶりな尻に何度も出入りしている。
あんなおおきなものが、どうして体に入るのだろう。おそろしい。

 

「ほらみろ、承太郎が本気になったら花京院はああなっちまうんだ」
「ひええ」

 

 こわい、と承太郎に体を寄せると、彼の頬が真っ赤に染まった。

 強く抱きしめられて、彼の胸に耳が当たると、ばくばくと彼の心臓の音がうるさく響いている。

 

「…」

 

 それになんだか、腹のあたりに硬いなにかが当たっている気がする。
 見上げると承太郎はだらだら汗を流しながら、歯を食いしばっていた。

 

「えっと、あの、大丈夫?」

 

 だいじょうぶじゃない、と苦しそうな声が返ってきて、ぼくは仕方なく、みんなに見えないように、こっそりと膨らんだ彼の水着の中に手を突っ込んだ。

 

 中は見えないが、硬くて熱い芯を持った何かに手が触れてびっくりするが、ぼくは覚悟を決めてそれを優しく扱いてあげた。

 

「うぐっ……」

 

 承太郎が耳元で、ふーふー獣のような荒い呼吸を繰り返すのでたまらない。
 隣のベンチでは、友人が後ろからQ太郎さんに犯されて嬉しそうな嬌声をあげていた。
 なんだかぼくも頭がおかしくなってくる。

 

 きみも、と承太郎の手を取って、自分の水着の中に導く。
 承太郎は驚いたようだったが、ぼくのペニスを握りこむと、力強く扱き上げた。

 

「んっ♡んっ♡」

 

 公共の場で、さっき会ったばかりの男と、お互いに手で慰めあっている状況に頭がくらくらする。
熱く、大きく、かさついた彼の手が気持ちいい。

 

 ぼくも夢中で彼のペニスを扱いていると、きもちいい、と耳元で低く囁かれて、思わず体が跳ねた。
 同時に先端をぎゅう、と握りこまれて、まずいと思った時にはすでに水着の中で精を放っていた。

 

「ん〰〰♡」

 

 絶頂の快楽が背骨を通り抜け、下腹が甘く痺れる。
 言いようのない幸福感が体に充満し、ふわふわと浮いているような心地になる。

 

 ぼうっと承太郎を見上げると、彼も同時に射精したようで、いつのまにかぼくの手が濡れていた。
 荒い息を繰り返す承太郎が、うらめしそうにぼくの白いハイビスカスを見つめている。

 

「とっていいか」

 

 え、と返すと、隣のコテージに個室がある、と囁かれる。

「誰かに見られながらのはじめてなんかごめんだが、お前と二人きりならいい」

 

 お前は、と聞かれて心臓がばくばくと高鳴る。

 

「いいよ……」

 

 掠れた声で答えれば、祈るようにキスをされる。
 ぼくたちは、お互いに白い花を摘むと、ゆっくりとコテージへ向かった。

 

おしまい

bottom of page