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花京院典明という男は、性的な匂いをまったくさせない男である。

17の健康な男子高校生にありがちな、欲求不満が渦を巻いて、今にも堰を切って溢れ出しそうな感じがない。別に興味がないとか、そういうものに嫌悪を感じているという風でもない。

そう、強いて言うならただ単純に、そういうことを知らない、といった感じであるのだ。なんの疑問もなく、キャベツ畑やコウノトリを信じている子供のように。



 

ある日、花京院と同室になったホテルで、おれはとうとう好奇心に負けてこう聞いてしまったのだ。花京院、お前マスかいたりすんのか、と。

 

「マス?」

 

ベッドに腰掛けた花京院は、そのすみれ色の瞳にハテナマークを浮かべ、首をかしげた。その拍子にふわりと揺れる、一房長い前髪の紅が目に鮮やかだった。

 

「マスってなんだい、承太郎。魚のほうかい、それともお酒を入れる升?」

 

おれの目をじっと正面から見つめる彼の瞳は、澄んだ海のように綺麗で、少し覗き込めば底まで見えそうなほどだった。新しいおもちゃを与えられた好奇心旺盛な子供のように、キラキラと輝く彼の目を宝石にしたら、きっと世の蒐集家たちがこぞって欲しがるのだろう、とおれは思った。

 

おれはその目に吸い込まれるように、蝶が甘く香る花の蜜を求めるように、ふらふらと彼に引き寄せられていった。鼻先の触れ合う距離まで近づいても、旅の中で段々おれに気を許し始めている花京院は嫌がりもしなかったので、おれはつい誘惑に負けて桜桃色の薄い唇に自分のそれを重ねていた。

 

「……」

 

名残惜しげにそっと顔を離せば、花京院はきょとんとした顔をしていた。彼の頬はじわじわと薔薇色を帯び、おれはそれがなぜだかとても嬉しかった。


 

「これは……マスじゃあなくて、キスじゃあ、ないのか」

 

ぼそぼそ、と恥ずかしそうに呟く花京院は、もじもじと膝を擦り合わせていた。さすがの彼も、キスはちゃんと理解していたようでおれは少し安心した。

そのまま彼をゆっくりベッドに倒し、細い体の上にのしかかる。ベルトを引き抜いて制服のズボンを下ろそうとすると、花京院が慌て始めた。

 

「何するんだい、やめてくれ」

 

バタバタと暴れる長い脚を押さえ込み、彼の下着の中に手を入れる。驚いて固まる彼の耳に、おれはこう囁いた。

 

「マスかくってどういうことか、教えてやるぜ」

 

そういって握った彼のペニスはすんなりと細長く、ほんの少し芯を持っていた。竿を扱き、亀頭をこねくり回し、時折爪で先端を引っ掻いてやると、おれの体の下で花京院は甘い声をあげてうろたえていた。

 

「な、なんだこれっ、へんだ、やだっ、あ、ああっ、やめてくれっ」

 

ああ、ああ、と切なく喘ぎ、髪をふり乱す花京院は壮絶な美しさがあった。汚れを知らぬ新雪に自分の足跡を残す、ああいった悦びに近いものをおれは感じた。彼が抵抗しなくなったタイミングを見計らいズボンを取り去ると、パンパンに膨らんだペニスが勢いよく飛び出してきて、おれは思わずそれを口に含んでいた。

 

「ひっ、やらっ、やらぁっ!じょうたろ、やめて、くち、はなしてっ」

 

おしっこでちゃう、と涙目で訴える花京院に、脳の神経が焼き切れる気がした。こいつは、射精というものを理解していないのだ。

容赦なく陰圧をかけて彼のペニスを吸い上げれば、花京院は腹筋を波打たせておれの口の中に精液を吐き出した。

 

「ああーーーーっ」

 

びゅるる、と喉奥に打ち付ける青臭い液体も、彼のものだと思えば飲み込むのはわけなかった。多すぎて口の端から溢れた残滓を掬い取って舐めていると、はあはあと息を荒げた花京院が呆然とこちらを見上げていた。

 

「ほら、これがおめーがはじめて出した精液だぜ」

 

気持ちよかったか、と問えば、彼はおずおずと頷いた。保健の授業で多少の知識はあるだろうに、今までそれが自分の体と繋がっていなかったのだろう。花京院は不思議そうに自分の放った白濁を見つめている。

 

「き、君もこんなふうになるのかい」

 

顔を真っ赤にして問いかける彼に、ああ、と答えると花京院はうろうろと視線を彷徨わせ、それからおれの脚の間に顔を寄せた。その大胆さに少々驚きつつ、彼の様子を見守っていると、花京院はおっかなびっくりおれのズボンを脱がせ、バキバキに勃起してグロテスクに血管を浮かべたおれのペニスにおそるおそる手を添えた。そうしてくすぐったさのあまり笑い出してしまうような、撫でるだけの刺激をそこに与えた。

 

「……舐めてくれよ」

 

なあ花京院、と頼めば、花京院は少し躊躇ったのちにそっと唇を寄せた。震える薄い舌でちろちろと幹を舐め、根元に口づけ、それからダラダラと先走りを零す先端を咥えた。

 

「じょうたろう、にがいよ……」

 

切なげに眉を寄せる花京院に、舐めてたら甘くなる、と馬鹿げた嘘をつけば、彼はそれを信じたのだろう、一生懸命にミルクを舐める子猫みたいに舌を動かした。それが可愛くて、彼の柔らかな赤毛を撫でつつ、おれはがんばれ、と何度か囁いた。さらさらと内腿を撫でる彼の髪が、おれの頭をぼうっとさせた。

 

「花京院……もうでちまう……」

 

飲めそうか、と問えば、花京院はおれのペニスで頬をハムスターみたいに膨らませながら、それでもこくりと頷いた。その健気さに堪らず低く呻き、彼のあたたかな口腔内に全てを注ぎ込んだ。花京院はけほけほと小さくむせながら、それでもその大半を何度かに分けて飲み込んでいた。

 

「……あまくなかった」

 

眉を寄せる花京院に、コーヒーみたいなもんだ、子供には美味さがわからねえのさ、と言えば、彼は悔しそうに頬を膨らませた。

 

「君だって、ぼくと同じ年だろう」

 

もう子供じゃあない、と言う花京院は、たしかに子供じゃあ到底出せない、熟れる直前の果実のほのかな甘い香りがした。今にも花開かんとする、綻びかけたつぼみの美しさにも似ていた。

 

「じゃあ、もっと先まで行くか」

 

大人になりてえだろう、と彼の赤い耳に囁けば、ごくりと花京院の喉が鳴る。未知なるものへの恐怖と、好奇心とで混乱する花京院の細腰を掴み、引き寄せる。彼の小ぶりな尻に、再び熱く滾った性器をあてがうと、花京院の顔が引きつった。

 

「なに、まさか、や……っ」

 

力抜いてろ、というと同時に、彼の尻を大きく左右に割り開いた。先走りを塗り広げるように、何度か彼の後孔にペニスを擦り付け、花京院が息を吸った瞬間に自身を突き入れた。

 

「ーーーーっ」

 

口を大きく開け、声もなく花京院は喘いだ。おれはというと、はじめて味わう彼の胎内のきつい締め付けと、粘膜のあたたかく柔らかな感触に、気を抜けばすぐに持っていかれそうだった。

 

「かきょういん……っ、っは、すげえ、あっつ……」

 

発情した獣のように乱暴に腰を振りたくると、腹にあたたかな感触が散った。下を見ると、花京院のペニスが半勃ちのまま、律動に合わせて揺れながら精液を撒き散らしていた。すぐに彼の後孔が、うねるようにおれのペニスを絞り上げてきて、腰が甘く痺れた。

 

「なあ、かきょういんっ……おまえ、はじめてで、メスイキしたのか?」

 

ああ、気持ちよすぎて何も考えられない。おれの下で悶える花京院が可愛くてたまらない。髪を振り乱し、切れ切れに喘ぎ、おれに揺さぶられている花京院が、必死に背にすがりついてくる。

 

「ああ、あっ、じょたろ、ひっ、ひんっ、ひっ、また、きちゃう、まって、まっーー」

 

言い切る前に、ガクガクと花京院の体が痙攣する。プシッと彼のペニスから水のように薄い液体が吹き出る。同時に強く締め付けられ、おれも限界を迎える。背骨が浮き上がるような歓喜に、獣のような声が漏れた。あまりの快楽に頭が真っ白になる。花京院、と何度もうわごとのように繰り返し、おれは彼の最奧にドクドクと己の遺伝子を流し込んだ。




 

はじめての交接に、ぐったりとベッドに体を横たえた花京院は、大人の男の、というよりはしっとりと成熟した雌の色香を振りまいていた。力なく投げ出された細い脚の間からは、先ほどおれが大量に注ぎ込んだ白濁がたらたらと流れ出てている。先ほどまで自慰も射精の快楽も、男の味も知らなかった無垢な花京院を、このように変容させたのが自分だと思うと、ひどく興奮した。

汗で額に張り付いた髪をよけてやり、彼の唇に口付けようとすると、花京院の方から顔を寄せてきた。

 

「……これでぼく、少しは大人になれたかな」

 

と問いかける花京院がひどく大人びて見えて、思わず彼を抱きしめると、甘えるように花京院の腕が背に回された。おれだって本当はただの17のガキだ、といえば、花京院は楽しそうに笑った。

 

おしまい

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