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うさぎがおれに懐いた。

銀色がかったふわふわした毛並みの、赤い瞳のうさぎだ。

うさぎは、おれより一つ年下で、名前を花京院典明という。

 

うさぎが寂しいと死んでしまうというのは、迷信だと聞くが、花京院といううさぎに関しては、例外的にそれが当てはまるようだ。

人肌寂しいとき、花京院はいつも彼のスタンド――ハイエロファントグリーンという、まるで緑の蔦のようなスタンドを、階下のおれの教室までするすると伸ばす。

おれにしか見えないその触手を、手慣れた仕草で耳に当てれば、うさぎの声がした。

 

――保健室、入って一番右のベッド

用件だけの一方的な連絡に、おれはやれやれと溜息をつき、それからまっすぐ頭上へと手を伸ばす。

 

「腹が痛えから、保健室に行くぜ」

それだけ言うと、おれは驚く教師や同級生の視線を気にもせず、さも健康そうなしっかりとした足取りで、教室を後にした。

 

 

 

保健室は、うさぎのお気に入りの場所の一つだった。

とある理由で、腹に大きな傷を負った彼は、 それを免罪符にしばしば授業を抜け出ては、こうしておれを呼び出すようになっていた。

 

いつものように、三回扉をノックして保健室に入ると、そこに教師の姿はない。

うさぎが自身のスタンドで、どこぞへと行かせたのだろう。

 

クリーム色のカーテンが引かれた一番右のベッドは、緑の触手が取り囲んでいる。

おれは自分のスタンドでその触手を、いやらしく、劣情を呼び起こすようになぞる。

 

「花京院」

意識して低い声でうさぎの名を呼べば、ややしてカーテンが緞帳のように、するすると開かれていく。

 

「やあ、承太郎。来てくれて嬉しいよ」

そこには、学ランの前を寛げて、屹立した性器を扱く花京院の姿があった。

 

「こんな真っ昼間から、サカりやがって」

おれが呆れたように吐き捨てても、うさぎは手を止めず、恍惚とした表情を浮かべている。

 

「仕方がないじゃあないか、こんな体になった一因は、君にもあるんだから」

はあ、と熱っぽい吐息をこぼし、彼はとろけたルビーの瞳で俺を見た。

ぐちゅぐちゅと粘ついた、卑猥な音に誘われ、おれはふらふらとカーテンの中に引き込まれていく。

 

「なあ、寂しいんだ、早く抱いてくれよ」

そうじゃあないと、ぼくは死んでしまう、寒いんだ、とうさぎはおれに体を擦り寄せる。

 

黒子の一つもない、黒い色素をどこかに忘れてきた彼の肌は、抜けるように白い。

 

おれはごくりと喉を鳴らし、中途半端に肌蹴ていたうさぎの衣服を脱がせていく。

 

きちりと糊のきいたシャツをくしゃくしゃにしながら、彼の薄い胸を揉む。

いやらしく充血し、色づいた先端に吸い付くと、うさぎはクスクスと笑った。

 

「承太郎、赤ちゃんみたい…かわいい」

よしよし、とおれの帽子を奪って髪をかき回すのが、彼はお気に入りらしい。

 

年中発情しているし、どう見てもこいつは雄のうさぎに違いないのだが、毎回おれに抱かれているせいか、花京院は時折ふと雌の顔をする。

うさぎは多産だから、もしこいつが雌だったら、何度孕んでいるかわからない。

 

血管の透けた、青白い肌をなぞり、おれは愛撫の手を下へと下ろしていく。

髪と同じ色の、銀色の薄い茂みの中で勃ちあがったペニスを握りこむと、うさぎの腹筋がぴくりと引きつった。

 

発情しきってとろけた顔をした彼は、時折嬌声をあげながら、ふうふうと荒い息を吐いておれに応える。

もっと、と愛撫をねだるうさぎのために、おれは精液を絞り出すように、彼のペニスを乱暴に上下に扱き、ピンク色をした亀頭に先走りを塗り広げた。

 

「気持ちいいか」

そう問えば、随分と子供っぽい甘えた声で彼は肯定した。

 

「承太郎、後ろも…」

はしたなく脚を広げ、ひくつく蕾を見せつけるうさぎの頬は、美しい薔薇色に染まっている。

幾度となくおれを受け入れているその粘膜は、中の秘肉をわずかに覗かせ、おれを誘った。

 

「自分で弄って遊んでいたのか?」

ぷくりとしたアナルのふちを指でなぞりつつ、いやらしい奴、と罵れば、うさぎは鼻にかかった吐息を漏らした。

 

「だって、ここ、触るとすごく気持ちいいんだ…ほら、君を欲しがってる」

いれてよ、と自分で尻たぶを割り開いてうさぎは誘う。

熱を持って疼くそこを、鎮めてくれと。

 

おれはその光景にくらりと眩暈を覚えながら、学生服のポケットからローションと避妊具を取り出した。

ゴムを彼に渡せば、うさぎは手慣れた様子でおれのペニスにそれを被せる。

つい2ヶ月前までは処女だったというのに、随分と淫らに、そして快楽に従順になったものだ。

 

くちゅくちゅとローションを塗りたくれば、彼は期待に目を輝かせ、素直にペニスを膨らませている。

承太郎、と薄い唇でおれの名を形作り、うさぎは長い脚でおれの腰を捕らえた。

 

「早く、焦らさないでくれ」

 

別に焦らしているわけではなく、彼の体を気遣ってのことなのだが、うさぎは我慢ならないらしい。

おれはやれやれ、と呟いて彼の体の中にゆっくりと自身を埋め込んだ。

 

途端、うさぎは思わずと言った様子であ、と声を漏らし、体を震わせた。

受け入れることに慣れ切った彼のそこは、柔らかく形を変え、ぐぷぐぷとおれを飲み込んで行く。

腹に付くほど反り返った、うさぎの色の薄い細身のペニスを握ってやれば、ぎゅうと後孔が締まった。

 

「うあっ、あ、あ、ああ…ん、んぅ、ふ、ふっ…」

入口の浅い部分、彼の好きな場所を擦るように、小刻みに腰を動かすとうさぎが恍惚と喘ぐ。

大きな口の端から、だらだらと涎を垂らしている彼は、興奮のために真白な体を桃色に染め、彼の形のよい耳を彩る、チェリーを模したピアスがカチカチと神経質な音を立てた。

 

「これが欲しかったんだろ、花京院」

なあ、と体を揺すれば、うさぎはそうだ、と笑う。

 

ワインレッドの瞳を妖しく潤ませ、花京院はカリカリと自身の乳首を引っ掻いて遊んでいる。

銀糸のような髪を枕に流し、彼は快楽を貪ろうと、おれの動きに合わせて腰をくねらせた。

 

「あ、ああっ…すごい、ぼくのここ、じょうたろで、いっぱいだ…」

ふふ、と唇に弧を描き、うさぎは淫らに咲き誇る。

その折れそうに細い腰で、グロテスクに血管を浮かべ、怒張したおれのペニスを根元まで咥えこみ、花京院は歓喜の声を上げた。

 

「はあ、とっても、きもちいいよ、じょうたろっ…あ、ああ、ぼくを、君のものに…あ、あぁっ…」

 

懇願の言葉の最後は、激しい律動にうやむやになってしまうが、おれは構わない。

もうとっくに、こいつは心も体も、爪先から髪の一筋までおれのものだ。

 

「花京院、花京院っ…」

 

ああ、年中番いを求めて発情して、寂しさに耐えきれず死んでしまううさぎが、本当はおれと彼のどちらなのかわからない。

体の隅々まで、触れていないところなどないほどに互いを貪り、狂おしく肌を寄せ合うおれたちは、ただの獣なのかもしれない。

だが、おれは彼さえいれば、そんなことはもうどうでもよかった。

 

「好きだ、愛してる…てめーは、おれの、もんだっ」

征服するように花京院の体を折り曲げ、最奥を穿ち、おれは呪いのように何度も何度もそう呟く。

そのたび、彼はおれの体の下で、嬉しそうに後ろを締めた。

 

「ふあっ、あ、あ、ああっ…じょ、たろっ、きて、もっと、あ、あ、ああっ」

おれの首に腕を回し、振り落とされまいと必死にすがりつく彼の体が熱い。

下半身がどろどろに溶けて、おれと彼が混じり合ってしまうのではないかと思うほど、互いの境界が曖昧になるほど、おれは激しく腰を振る。

 

むせかえるように甘く、濃厚な彼の香りに包まれ、脳髄が痺れ、下腹に重く欲が溜まっていく。

すぐそこまで迫っている絶頂の予感に、早く熱を吐きだしたいと思う一方、この時間を終わらせてしまうのが惜しいとも思う。

何度味わっても、全く飽きるということのない彼の体を掻き抱き、衝動のままに自身を打ちつける。

舌ったらずにおれの名を呼ぶ花京院に、応えるように口づけの雨を降らせながら、絶頂に痙攣する彼の内壁に包まれて、おれは欲を放った。

 

 

 

絶頂の余韻にぐったりと体を弛緩させた彼の上に覆いかぶさると、花京院は重いと文句を言いながらも、嬉しそうにおれの背に腕をまわした。

すんすん、とおれの匂いを嗅ぎ、肩の痣を甘噛みする彼は、やはりおれだけのうさぎなのだ。

 

花京院は小さく付いた歯型を見つめ、

「君も、ぼくのもの」

とにんまり笑った。

 

おしまい

 

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