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このところの暑さのせいだ、とぼくはぼんやり思う。あの旅で経験した砂漠の暑さと違って、肌に纏わりつくようなじめじめとした母国の暑さに、ぼくの脳は完全にやられていた。屋上で承太郎と学食のカレーパンを食べているうちに、どうしようもなく彼に抱かれたくなってきたのだ。食欲が満たされたら、今度は性欲か、とぼくは自分の浅ましさに眩暈がした。

 

承太郎、と指定の夏服ではなく、タンクトップ一枚でぼくより幾分涼しげな恋人の名を呼ぶと、彼はそれだけですぐにぼくの望みを理解したらしい。承太郎はぼくの顎を取り、映画のワンシーンのような、誰もがお手本にしたくなるような、美しくそれでいて甘いキスをくれる。

 

「なんて顔してやがる……」

 

おれ以外に見せんなよ、とぼくに言い聞かせる彼に、必死で頷く。したい、早くいれて、と恥も知らず強請ると、承太郎が狩りの前の獣のように瞳を煌めかせた。彼は器用に二本もあるベルトを引き抜き、じゃあ舐めてくれよとぼくの頭を撫でる。その仕草があまりに優しいので、後ろが疼いて仕方なかったけれど、ぼくは彼の足元に跪くと、夢中になって彼のペニスを舐めしゃぶった。

 

「ん、ん……ん、むぅ……」

 

豊かな下生えに鼻先がくっつくくらい、喉奥まで彼のペニスを咥え込む。口内に広がる雄の匂いに頭がクラクラする。もうすぐ、これを入れてもらえるのだと思うと、期待に体が震えた。

 

「っぷあ……ん、んぅ……」

 

レロレロと血管の浮かぶ幹を舐めまわし、先端から溢れる先走りを一滴も零さぬように貪欲に吸い上げる。時折上目遣いで承太郎の様子を伺えば、彼は熱に浮かされた目でこちらを見ながら、ふうふうと荒い息を零していた。快楽に耐えるように顰められた眉が、堪らなくセクシーだとぼくは思った。

 

「花京院……もう出ちまう、口離せ……」

 

入れてやるから、と囁かれ、思わずごくりと喉が鳴る。ゆっくりと口を離すと、彼のペニスとぼくの唇の間をつうと銀糸が引いた。興奮で覚束ない手でなんとか制服のズボンを足元に落とすとき、触れられてもいないのに、ぼくのはしたない性器が既に先走りでぐちゃぐちゃになっているのが見えた。

 

「かわいいな」

 

おれのを咥えただけで、期待してこんなになっちまったのか、と承太郎がぼくのペニスを弄ぶ。彼は先端からとめどなく溢れる蜜を塗り広げ、何度か硬度を確かめるように幹を扱いた。ぼくは情けない声を漏らしながら、彼にされるがまま、内腿をぶるぶる震わせるしかない。

 

「おねがいだ……焦らさないで、いれてくれ……」

 

はやく、と涙混じりに懇願すれば、承太郎が満足げに口角を上げる。促されるまま、彼に背を向けて立ち、屋上のフェンスにしがみつく。一秒だって待てず、尻を突き出して誘うように触れば、承太郎がぼくの腰を鷲掴んだ。来る。そう思った瞬間、圧倒的な熱と質量を伴った彼の性器が、粘膜を掻き分けて押し入ってくる。

 

「――――っ♡」

 

途端、なんとも筆舌に尽くしがたい喜悦が、ぼくの全身を駆け巡る。間髪入れずに奥を突かれ、承太郎の雌にされる悦びに、勝手に体が震えだす。あさましい後孔は、すぐに彼のペニスにきゅうきゅう吸い付き、奥へ奥へと誘っている。

 

「ああ、あっ、すごい、きもちっ、きもちぃっ、あ、あ、あんっ」

 

ぱちゅっ、ぱちゅっ、と肌と肌のぶつかり合う音が耳を犯す。承太郎の吐息が首筋にかかってゾクゾクする。承太郎のペニスの出っ張ったところが、さっきからぼくの弱いところに引っかかっていて、気絶しそうなくらい気持ちいい。

 

「花京院、花京院っ」

 

承太郎も気持ちいいのか、何度も繰り返しぼくの名を呼びながら、必死に腰を振っている。興奮したときの彼のピストンは一撃が重くて、油断するといつもすぐにイってしまいそうになる。ああ、気持ちいい。ぼくはしばらくの間、恍惚と承太郎が与える快楽に酔っていたが、段々とぼくの腰を掴んでいる彼の腕に力が入り、彼の方へ引き寄せられていく。フェンスにしがみついた手が離れてしまう。

 

「あ、ま、まって、じょうたろっつ、ひ、ひぃっ、まっ、あ、ああっ」

 

承太郎はぼくの困惑などお構いなしに、ガンガン腰を打ち付けてくる。ぼくは縋るものを失い、彼の激しいピストンに恐怖さえ覚え始める。さっきまでは承太郎が合わせてくれていたから、ぼくの足はしっかり地面についていたのに、いつの間にかぼくは彼との身長差を埋めるように爪先立っていた。

 

「まって、あ、んんっ、ほんとに、あ、あしが、ひぐっ、ういてる、まって、まってっ」

 

何度も何度も下から突き上げられ、段々と足が浮き始める。ぼくの体重がかかり、彼のペニスがありえない深さまで入り込んでいる。腹を突き破られるのではないかという恐怖に、ぎゅうぎゅうと後ろが締まり、承太郎が低く呻く。

 

「すげえ締まる……っ、わりぃ、花京院……腰、とまんねえ……」

 

はあっ、と承太郎が感じ入った声をあげ、ぼくの脳は快楽と恐怖と彼がぼくの体で感じているという悦びで、ごちゃごちゃになる。ぼくはもう何も考えられず、承太郎の律動に合わせて泣き叫び、髪を振り乱して狂い悶える。いまや完全にぼくの足の裏は地面から離れてしまっていて、承太郎が突き上げるたびに所在なさげに脚が揺れた。ぼくは腰と結合部だけで承太郎に支えられており、力の入らない指先でなんとか、彼の手の上に自分のそれを重ねる。

 

「あ、あっ、も、もうらめっ、ひ、ひぎゅっ、し、しんじゃうよぉっ」

 

深々と彼が腰を突き入れ、ぼくの胎の中を掻き回す。熱い楔で奥を擦られて、体が弓なりに反る。バランスを崩して倒れそうになるも、承太郎の太い腕で軽々と体を引き戻された。

 

「じょうたろっ、こわい、あ、ああっ、ゆるして、ひ、ひんっ」

 

もう自分でも、この不安定な体勢が怖いのか、受容限度を振り切った快楽が怖いのか、判断がつかない。涙で顔をぐしゃぐしゃにして、じょうたろ、と何度も名前を呼べば、唇をぶつけるような下手くそなキスをされる。だが、そんな余裕のない口づけさえ、ぼくにはひどく甘美なものに思われた。

 

「ふあぁっ、あ、ああっ……」

 

身体が熱くて熱くてたまらない。唇から、触れあわせた肌から、彼と繋がった部分から、ぼくという存在がどろどろに溶け出してしまうような気がする。目の前でチカチカと光が明滅する。承太郎、とぼくは思う。

 

「も、イク、イっちゃう……っ、あ、ああっ、あっ」

「花京院っ、おれも、イっちまう……っ」

 

出すぞ、と耳元で告げられ、必死に頷く。すぐに下腹からマグマのような欲望が勢いよく背骨を這い上がり、ぼくは声にならない叫びをあげながら、射精の快感に大きく身体を震わせた。同時に胎の一番奥で承太郎のペニスが弾け、あたたかくどろりとした液体が広がっていく。勝手に爪先がピンと伸び、内腿が電気でも流されたようにじいんと痺れ、次いでガクガクと痙攣した。

 

「あ、あ……」

 

酸素が足りなくて頭がクラクラする。後ろで承太郎が満足げな溜息をつくのがわかる。全てを中に注ぎ込んだ恋人の性器が、ぼくの中からずるりと抜けていくと、ぼくの体は芯を失ったみたいに崩れてしまいそうになるが、彼の大きな手がしっかりと腰を支えてくれる。未だ息の整わないぼくを、承太郎が優しく抱きかかえた。

 

「……よかったか?」

 

そう尋ねる承太郎の頬が、興奮のためか薔薇色に色付いていて、ぼくはただただ見惚れてしまう。

 

「よすぎて、こわいくらいだったよ……」

 

次はもう少し手加減してくれ、と頼めば、お前が色っぽいのが悪い、と少し拗ねたような承太郎に首筋を甘く吸われた。


 

おしまい

 

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