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もう先に寝てしまおうか。真上をさそうとしているリビングの時計の針を見つめて溜息をつく。一人で文庫本を読んでいてもちっとも頭に入ってこない。

承太郎のいない空間が妙に物寂しく、これ以上起きていても仕方ないとぼくが腰をあげた途端、ガチャガチャと玄関の方から音がする。

承太郎が帰ってきたのだ。ぼくははやる気持ちを抑えきれず、小走りで玄関へ向かう。鍵を開けてあげなくちゃ、と手を伸ばした瞬間、大きく扉が開いて強く抱きすくめられた。

 

「わ……っ」

 

冷たい外気を纏った承太郎の腕に抱かれ、思わずぶるりと体が震える。ぼくの髪に顔を埋めた彼にすん、と匂いを嗅がれ、かあと頰が熱くなる。そのまま耳をかぷりと甘噛みされた。

どうしたんだい、と声に出す暇もなく、いきなり後ろ向きに壁に貼り付けられ、パジャマのズボンを下着ごとずり下ろされた。

 

「え、やだ、ちょっとまって、ま、ーーーーっ!!」

 

抵抗もできず、ずん、と急に体の中に承太郎が入り込んできて、悲鳴が漏れた。ぼくの腹の中に、温かな芯が通される。あまりの衝撃に、ぼくは陸に打ち上げられた魚みたいに口を開けたままブルブル震えた。

 

「あ……ふ……っ」

「っは……気持ちいい……」

 

恍惚と溜息を漏らし、ぼくのことなどお構いなしにゆっくりと中で承太郎のペニスが動き始めたせいで、鼻にかかった情けない声が漏れる。ぬるぬるとしたローションの滑りなど借りなくても、1日と開けず抱かれ続けている体は、男同士だというのにごく自然に繋がることができる。

にゅぷぷ、と彼が動く度に結合部で卑猥な音が立って目眩がする。承太郎の濃い下生えが、尻を撫でて擽ったい。

 

「あ、あ……っ、ひあ、あ、ああ……」

 

こんな風に立ったまま、後ろから貫かれるのはやっぱり慣れない。もうちょっと進めばリビングのソファだって、寝室のベッドだってあるのに、どうしてぼくは玄関の壁に縋り付きながら承太郎に揺さぶられているのだろう。

身長差を埋めるために爪先立った脚が震える。変な力が入っていて、今にも攣ってしまいそうだ。尻を鷲掴む承太郎の手が燃えるように熱い。

 

「花京院……かきょういん……っ」

 

はあはあ、と荒い呼吸を繰り返す承太郎から、強いアルコール臭がする。たしか今日は教室の飲み会だとか言っていたはずだ。酔っているのか、普段よりも舌足らずに名前を呼ばれて頭がぼうっとする。香りだけでぼくまで酔ってしまいそうだった。

 

「ああ、あ、あんっ、あっ、ひぎっ」

 

段々と律動のスピードが増していき、最初はみちりとしていたぼくの粘膜も、こんな異様な状況下だというのに嬉しそうにとろとろと蕩け出している。その上きゅうきゅうとぼくの意思と関係なく、承太郎を締め付けて歓喜に咽び泣いている。ぱちゅぱちゅ、と彼の下腹が打ち付けられる度、ぼくの尻が押しつぶされて淫らに歪む。体が燃えるように熱い。

 

「あひ、ひ、ひんっ、やらっ、やぁ……っ」

 

弱いところをぐりぐりとしつこく擦られ、目の裏で星が瞬く。触れられもしないのに浅ましく勃起したペニスが、滑稽に激しく揺れている。

大した時間も経っていないのに、凄まじい快楽の波がもうすぐそこまで迫っていて、思わず体に力が入り、ぎゅっと目を閉じる。切れ切れにイきそうだと伝えると、急に承太郎の動きが止まった。

 

「……え?」

 

何、と振り返ろうとすると、優しく髪を撫でられる。動かそうとした腰は、片手でしっかりと押さえ込まれた。

 

「承太郎……う、ぁ……ど、どうして止まるんだ……動いてくれよ、なあ、早くっ」

 

絶頂の予感が引いてしまうのに焦って、癇癪を起こしたみたいにぼくが叫んでも、彼は頑なにぴくりとも動かない。もどかしくて己の手でペニスを扱いてみるも、調教されきったぼくは尻からの刺激がなければイクことができず、余計にじくじくと毒のような快楽が体を苛むだけだった。

 

「イきたい……っ、あ、ああ……お願いだ、承太郎、じょうたっ」

 

最後の一文字は、彼からの口付けによって奪われてしまった。くちゅりと舌が絡んで頭がくらくらする。彼の吐息からアルコールが香って、体の芯がかっと燃える。ねっとりと口腔をまさぐられ、彼の唾液を飲まされ、酸素が足りなくてぼんやりと意識が霞んだ。

 

「あ、は……っ、ん、んぅ……」

 

ぼくのパジャマの合わせから彼の手が忍び込み、かりりと乳首を引っ掻いていく。絶頂に至らない、もどかしい刺激に思わず涙が浮かぶ。大きな手が胸を揉み、腹を撫でさすり、それはとても心地よいけれど絶頂にはあと一歩足りない。

一向に動いてくれない承太郎に焦れ、諦めて力を抜くとゆるゆるとまた律動が開始された。じわじわと再び甘く狂おしい快楽が全身に波及する。次はイけるかもしれない、とぼくは目を閉じてその刺激に集中する。

 

「あ……は……きもち……」

 

うっとりと快楽に酔いしれ、体をくねらせる。段々と抽送は激しさを増し、承太郎のペニスのくびれた所がぼくのいい所を擦る。開きっぱなしの口から、引っ切り無しに嬌声が漏れる。ああ、すごい。もう少しでイける。甘露のような絶頂の瞬間を期待して、ぶるりと体が震える。

 

しかしあとちょっとの刺激で達することができるという時に、再び承太郎が動きを止めた。極上の快楽に水を差され、あまりの仕打ちにぼくが後ろを振り返ると、にやりと笑う承太郎と目があった。

 

「……イきたいか?」

 

楽しそうな承太郎が、べろりとぼくのうなじを舐める。ぞくぞくと背骨を快楽が這い上がるが、決定的な一打ではない。堪らずぼくが腰を振ろうとすると、承太郎が体を引いた。ずるりとペニスが抜けかかる。

 

「あ……や、なんで、やだ……」

 

じわりと涙で視界が滲む。ぽっかりと開いたままの後孔が切なく疼く。欲しい、とヒステリックに叫べば、彼の口角がゆっくりと上がった。余裕ぶってぼくを苛めて、ぼくが情けない顔で彼を求めるのを楽しんでいるのだ。

 

「ひどい……承太郎のばか、早く、イかせろよ……っ」

 

みっともなくぐずぐず泣きながら、恥も外聞もなく承太郎を煽る。小さく脛を蹴飛ばせば、苦笑した承太郎がやれやれと呟いて急にガンガン腰を打ち付けてきた。

 

「んきゃうっ、ん、ひ、ひっ、ひぃん……っ」

 

望んだとおり、思うさまぐちゃぐちゃと中を掻き回されて、目の裏で光の粒が散る。散々待ち焦がれた快楽を惜しまず与えられ、全身の細胞が沸き立つ。奥を突かれて、脳天まで電流を流されたみたいに体が痙攣する。壊れそうなくらい幾度も突き上げられ、擦られ、雌みたいに犯されてぼくの体は悦んでいる。

 

「あ、あ、あっ、すごい、もっと、あ、あひっ」

 

散々寸止めされて敏感になった体は、貪欲に快楽を拾っていく。悦楽に浸り、何も考えられずひたすら発情した獣のように腰を振る。神経を焼き切るような凄まじい喜悦に、恐怖すら覚える。すべての感覚が研ぎ澄まされ、承太郎の与える刺激に大げさなくらい反応し、歓喜している。

 

「あ、あっ、イク、も、イっちゃ、あ、あん、ひ、ひぐっ、ああーーっ」

 

腰を鷲掴まれ、爪先が床から離れてしまうくらい強く突き上げられる。同時に強く性器を握り込まれ、ぶるぶると内腿を震わせながら、勢いよくぼくのペニスから精液が跳ね飛んだ。堰き止められていた欲望を解放する喜悦に、背骨がガタガタ浮き立つ。頭が真っ白になる。強すぎる絶頂の刺激に、口を開けたままぼくはびくびく痙攣することしかできない。

 

「あ……あっ!?や、まだイってる、あ、ああ、あーーっ」

 

不規則に波打つ体を、そのままお構いなしに休まず犯され続け、一瞬引いた絶頂の波をまた呼び戻される。再び目も眩むような快楽がぼくを襲い、坂の頂上まで追い詰められ、崖から突き落とされるような衝撃がくる。目の前が白く弾ける。

 

「ああ、あ……っ、はひ……っ」

 

壁に縋り付いていた指に力が入らなくなり、がくりと体が崩折れそうになると、すかさず承太郎の腕に抱きかかえられた。だらんと力の入らない体をがくがく揺さぶられ、切れ切れに喘ぐ。されるがまま、彼の抜き差しに合わせて悶え、狂おしく啼く。ぼくの背中で承太郎が息を詰め、じわじわと腹の辺りが温まっていく。

 

「あ……」

 

霞みがかった頭で、承太郎が中に出してるんだと理解する。脈打ちながらびゅくびゅくと精液を注がれると、無意識に後ろが締まる。体内があたたかく満たされていく。欲しがるように彼のペニスに吸い付く、堪え性のない自分の後孔が恥ずかしかった。

 

「は……っ」

 

満足そうな溜息をつき、承太郎がぼくの肩を甘噛みする。ゆるゆると何度か腰を振り、彼は一滴残らずぼくの中に精液を吐き出すと、繋がったまま何度もキスしてきた。

 

「いっぱい出たな……」

 

ほら、と承太郎が大きな掌を見せてくる。ごつごつした男らしい手は、ぼくが放った精液でべっとり濡れていた。二度の凄まじい絶頂に馬鹿になった頭が、段々クリアになってくるとじわじわ羞恥が這い上がってくる。

 

「君が……何回も、途中で我慢させるからだろ……」

 

未だにじんじんと痺れた体をくたりと預け、荒い息の合間に恨めしげに呟けば、嬉しそうに彼が笑う。見せつけるようにぼくの精液を舐め上げる承太郎の舌が、いやに赤く艶めいて見える。何だか悔しくて、ぼくは彼の頰をつねった。痛いと承太郎が悲しそうに眉を寄せる。

 

「というか、何でいきなり……玄関で……」

「すまん……」

 

飲み会でいい感じに酒が入った頃、恋人の話になって、ムラムラして飛んで帰ってきたという彼に、ぼくは呆れて溜息をつく。毎日散々抱きつぶしているくせに、このむっつりすけべめ。ぎゅうと力を入れてまだ中に入っている彼のペニスを締め付けると、承太郎が呻く。

 

「ふふん、参ったか……って、なんで、おっきく……あ、あっ」

「今のは、完全にてめーが悪いぜ、花京院……っ」

 

オラ、と逃げる間もなく玄関の床に四つん這いにされ、その後もぼくが散々啼かされたのはまた別の話。

 

おしまい

 

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