top of page

「うわ~すごいすごい」

 

頬を真っ赤にした花京院が、ヘラヘラと上機嫌に笑っている。

 

「みてみて、じょーたろー!じめんがね、ぐらぐらしてる」

 

ほらほら、と覚束ない足取りで歩く花京院は、花から花へと舞う蝶々のようで綺麗だとおれは思った。

おれも大概酔っ払っているのかもしれない。

 

「おい、あぶねーぞ。こっち来い」

 

ぐいと腕を引けば、花京院がよろよろとおれの方に倒れ込んできた。

いたいよ、と舌ったらずに声を上げる花京院が可愛らしく、顔を寄せると彼がふふ、と笑う。

 

「じょーたろー、おさけくさい」

「てめーもな」

 

アルコールのせいか、血色の好い花京院の唇に口づけると、先ほどまで彼が飲んでいたチェリー酒の甘い味が広がった。

ちゅく、と濡れた音を立てながら舌で唇をなぞれば、花京院がふるりと体を震わせる。

 

「甘ぇな」

 

笑ってそう文句を言えば、花京院が熱っぽく溶けた目でこちらを見ていた。

 

「じょーたろー、きもちい、もっと」

 

ん、と背伸びをして花京院が唇を突き出す。

ぎゅうとおれの服をつまんだ彼に急かされて、もう一度、今度はゆっくりと味わうようなキスをする。

花京院の舌を絡めとると、舌先からアルコールがじわりと滲みわたって体が燃えた。

 

チェリー酒より甘い、鼻にかかった声が花京院から漏れ、おれのコートを掴む腕に力がこもる。

 

自分からねだっておいて、逃げてしまいそうになる花京院の舌をしつこく追い回せば、彼の膝ががくんと崩れた。

倒れそうな花京院の腰を支えてやれば、はあはあと荒い息をこぼしている彼の目元は赤みを帯び、淫靡に潤んでいる。

大丈夫か、と問えば花京院は緩慢に首を横に振った。

その口元が言葉を紡ぐように小さく動いている。

 

何かと思い耳を寄せれば、花京院が恥ずかしそうに「ほてる」と呟く。

その声があまりにも可愛らしかったために、おれは意味を理解するのに数秒を要した。

 

「…家まで、待てないのか」

 

花京院の耳元にそう囁けば、彼は壮絶な色気を滲ませながら、まてない、とおれにすがりついた。

 

 

 

それからホテルまでの道をどう歩いたのかはよく覚えていない。

花京院にあてられて、おれも馬鹿みたいに興奮していたのは確かだ。

 

歩くのもままならない彼の腰を支え、待ち切れずにエレベーターで濃厚なキスを交わす。

もつれ込むようにして部屋に入り、ベッドへと彼を押し倒せば、花京院は期待に満ちた目で妖艶に笑った。

 

いくら酔っているとはいえ、キスだけでこんなふうに歯止めが効かなくなることなどなかったのに、ガキのように欲情している自分に驚く。

 

酒のせいか、焦りのせいか、上手くボタンが外せず、むしりとるように花京院の服を脱がせる。

鎖骨の窪みに舌を這わせれば、彼はもどかしげに体をよじった。

 

「ふぁっ…んああっ、じょうたろ…」

 

うっすらと汗ばんだ花京院の体はあたたかい。

そのぬくもりに、何故だかおれは泣きそうになって、誤魔化すように彼の胸に吸い付いた。

 

「うあっ…あ、あ、ひっ…だめっ…」

 

ミルクをねだる子供のように、音を立てて乳首を吸えば、花京院の背中が反り、美しいカーブを描く。

腰が浮き上がったのをいいことに、一息にズボンを下着と共にずり下ろせば、ゆるく勃ちあがったペニスがあらわになる。

過ぎたアルコールのせいだろう、花京院のそこは柔らかさを保ったまま、中途半端な角度で蜜を溢している。

 

「すげえな、半勃ちで精液だらだら垂らして…」

 

いやらしい奴、と耳に息を吹きかけると、花京院は小さく震えながら、ごめんなさいと呟いた。

涙を浮かべた彼の顔が嗜虐心を煽り、おれは堪らず花京院の雄の根本をぎゅうと掴んだ。

ああ、と切ない鳴き声をあげて花京院の体が跳ねる。

 

はくはく、と陸に上がった魚のように酸素を求めて狂おしげに口をわななかせている彼は、恐ろしいまでの色気を滲ませていた。

薬指と小指で根本を戒めたまま、残りの指で精液を搾り取るようにしごき、もう片方の手で物欲しげにひくついている後ろを慣らしてやれば、花京院はしなやかな足をおれの腰に巻き付ける。

 

「はあっ…だめだっ…じょ、たろ…う、あ、ああっ…い、いれて…」

 

びくびくと体を痙攣させ、先端から白濁をぼたぼた滴らせた花京院は、切羽詰まったようにおれを求めた。

 

「お、おねがいだっ…も、がまん、できない…」

 

おれの首に腕を回し、花京院はおれを貪るようなキスをする。

その必死な姿がいじらしく、おれは彼の望むように、熱く熟れた彼の中へと潜り込んだ。

 

入れる瞬間はいつも、痛みに耐えるように眉をしかめている花京院が、今日は満足げなため息をついて恍惚とした表情を浮かべている。

ぴったりと凹凸が噛み合う、心地よい感覚にそっと目を閉じれば、花京院のうねる粘膜が奥へ奥へと誘う。

腰を動かす度に、光の矢が背骨から脳へ向かって突き抜け、花京院が上ずった声をあげた。

 

「ああっ、ああっ、じょたろ、じょたろ…もっと、きて、もっと」

 

花京院は溺れまいとでもするように激しく身をのたうたせ、シーツが波打つ。

快楽の波が次から次へと押し寄せ、歯を食いしばっていないと流されてしまいそうだ。

 

汗ばむ花京院の体からは、律動のたびに甘く華やかな香りが立つ。

彼の好むチェリー酒にも似た、豊かな香りが脳髄をじわじわと侵食していく。

 

夢中になって花京院を攻め立てながら、彼の耳をねっとりと舐めあげれば、花京院がひっと息をのみ、彼のチェリーのようなピアスがカチリと音を立てた。

同時に後孔が強く収縮し、目の眩むような刺激に襲われる。

 

腰に重く溜まった欲望は、解放を望んでおれの身を苛むが、一方でこの甘美な時間をもっと長く味わいたいとも思う。

おれにいいように揺さぶられている花京院は、ぐずぐずにとろけた目をして、悲鳴のような喘ぎ声をあげている。

快楽の糸がきりきりと張りつめ、その危うい均衡は今にもぷつんと切れてしまいそうだ。

 

本能のままに乱暴に花京院を突きながら、なぜかおれは腹のなかに雲を詰め込まれたような安心感を覚えた。

普段とりすましている彼が、おれだけにこのような姿を見せている。

おれがどれほど醜い欲望をにじませようが、花京院はおれを信頼して、すべてを受け入れてくれる。

その事実だけで、おれは生きていけるような気がした。

 

恋情と愛情と友情と欲情と、様々な感情が入り交じって、花京院に対するこの気持ちをなんと名付ければいいのかわからない。

花京院の細い腰を鷲掴み、思うさま腰を打ち付けると、悶えるようにくねる彼の体がシーツを乱した。

開いたままの口から唾液をこぼしながら、ゆるしてと繰り返し懇願する花京院に、好きだ、愛してると祈りを捧げるように囁いて、おれは彼の中に全てを吐き出した。

 

 

 

放逐のあとも、深海から急に陸に上がるときにも似た、ふわふわと落ち着かない感じが続いていた。

息を整えながら、ずるりと自身を引き抜くと、花京院が虚ろな目でぼんやりとこちらを見ている。

軽く頬を叩いて大丈夫かと問えば、ゆっくりと紫の瞳に光が戻った。

 

「…すごかった」

 

まだ酒が残っているのか、呂律の回らない舌でぽつりと呟く花京院がたまらなく愛しい。

どんな美酒よりも彼の熱い体の方が、おれを酔わせて夢中にさせる。

桃色の頬にそっと口づけを落とし、ぎゅうと抱き寄せれば、彼は機嫌よさげに声をあげて笑った。

 

おしまい

 

 

bottom of page