一緒に暮らしだして、はじめて気づいたのだが、花京院典明という男は存外甘えたである。
今日も、ソファーに寝転がって文庫本を読んでいると、急に下腹のあたりに重さを感じ、不思議に思って視線を下げると、ズボンの上から花京院がおれの股間にしゃぶりついていた。
やれやれ、と溜息をついて本をサイドテーブルに置き、しかし満更でもないので好きにさせておくと、花京院は口だけでチャックを下ろし、下着を器用に避けて、おれのまだ柔らかいペニスを引っ張り出す。
上手くお目当てのものを露出できたことに、は、と満足げな吐息を漏らす花京院の目元は、紅を刷いたように染まっている。
「ね、舐めていいかい」
どうせやめろと言ったって舐める癖に、花京院は毎回、おれに許可を求める。
だからおれはいいぜ、と彼に告げ、一房長い前髪を数回指で梳いてやった。
すると彼は嬉しそうに口角を吊り上げ、それからおれの性器に頬擦りをし、下生えに鼻面を突っ込みにおいを嗅いだ。
美酒に酔ったように、とろりと潤む彼の瞳がやけに艶っぽい。
花京院の媚態に、じわじわと頭をもたげ始めたおれのペニスに、彼は三日月の形に目を細める。
花京院は薄く広い唇から、熱い息をそこに吹きかけ、男にしてはほっそりとした指を纏わり付かせた。
「承太郎のここは、素直で可愛いね」
くふふ、と彼は口の中だけで笑うと、熱く濡れた舌を根元のあたりでチロチロと動かした。
焦らすような、遊ぶようなその微細な刺激に、下腹で欲望が燻っていく。
本当は花京院の喉奥までペニスを咥えさせ、腰を打ち付けたい、賢しげで美しい彼の顔を、生理的な涙でぐちゃぐちゃにしたい。
時々、自分でもぞっとするような乱暴な支配欲を、顔に出さぬよう注意を払いながら、花京院の赤毛を撫でる。
おれの太腿に手を置いて、花京院はうまそうに陰嚢を食んでいる。
「今日は、飲みてえのか、それともかけて欲しいのか」
快楽に震えそうになる声をなんとか抑えつつ、おれは冷静を装って彼に尋ねる。
花京院は熱心に幹を手で扱きながら、両方、と笑った。
「…どっちかにしろ」
いつもは理知的な仮面の下に、そして隙なくきちりと着込んだ服の下に隠されている、花京院の奔放で淫らな部分を知っているのはおれだけだ。
その事実にこの上ない満足感を覚えつつ、不満そうに口を尖らせている花京院の頬をくすぐってやると、彼は気持ちよさそうに目を閉じた。
「じゃあ、いっぱい飲ませてくれよ」
あ、と花京院は大きな口を開け、すっぽりとおれの性器を咥え込む。
温かく湿った花京院の粘膜に包みこまれると、あまりの快楽に彼の口が触れた部分から、体が溶けてしまいそうな気さえする。
「んむ…ふ、ん、んぅ…」
レロレロ、と舌の上でペニスを転がして遊ぶ、花京院の鼻息がくすぐったい。
肌の上を滑っていく彼の前髪が、さらさらと微かな音を立てている。
良すぎて、ふとした瞬間に射精してしまいそうになるのを、腹に力を込めて耐えていると、花京院の腰がもじもじと揺れている。
どうやらしゃぶっているうちに、彼の体にも熱が溜まってきたらしい。
おれは膝をほんの少し立てて、膨らんだ彼の股間を足で刺激してやった。
「んふっ…!や、ちょっと、やめ、あ、あ、ああっ…」
「こら、口を離すんじゃあねえぜ」
ぶる、と体を震わせて口を離してしまった彼を叱りつつも、足の指で優しく揉んでやると、花京院は潤んだ瞳でおれを睨んだ。
だが、そんな欲に濡れた力ない視線は、ただおれを煽るだけだ。
「ほれ、おれの精液が飲みてえんだろ…ちゃあんと頑張らねえとな」
そう言っておれは花京院の頬に、完全に勃ちあがって先走りを零すペニスを擦りつける。
桃色に染まった彼の頬が、白く汚されていく様は背徳的な美しさがある。
花京院は困ったように眉を寄せた後、それでも従順におれのペニスに舌を這わせた。
「いい子だ」
長い睫毛を伏せて、息を荒げながら奉仕を続ける彼を褒めてやり、ご褒美と称して花京院の股間をぐりぐり刺激してやると、ズボン越しにどんどんそこが張り詰めていくのがわかる。
迫り来る絶頂の予感に背筋を震わせつつ、おれは足の指で花京院のペニスを挟むと激しく扱いてやった。
「あ、だめ、ん、んあっ、じょっ、たろ…っ」
ひっと息を飲んだ花京院の体が大きく跳ね、じわりと足の裏に熱が広がる。
同時に堪え難い衝動が体を襲い、思わず体を引きそうになる花京院の頭を押さえると、おれは彼の喉奥で熱を放った。
「んむっ…ん、ぐ、んんっ…う、ん…」
びゅるる、と精液が直接喉に打ち付けるのが辛いのか、花京院は眦にうっすら涙を浮かべながら、それでも大人しくおれの射精が終わるのを待っている。
その健気な姿がいじらしくて、真っ赤になった耳をくすぐってやれば、花京院は内腿を細かく震わせた。
「っは…」
じゅ、と花京院がはしたない音を立て、最後の一滴を吸い取ったのを確認してから、おれは彼の頭を放してやる。
彼の薄い唇と、おれのペニスの間に粘液が糸を引くのがいやらしい。
花京院は咳き込むこともせず、こくりこくりと何度かに分けて、口の中の体液を嚥下すると、それから再びおれのペニスに口を近づけ、今度は労わるように優しく舐め始めた。
「ごちそうさま、おいしかったよ」
ちゅ、と最後に先端にキスをして顔を上げた花京院は、しかしまだどこか陶酔したような雰囲気を纏っている。
だからおれは、精を放ってもったりと重みを増した彼の足の間を、ジーンズの上から触ってやった。
「まだ、こんなもんじゃあ終わらねえだろ」
なあ、と声を潜めて囁いてやれば、花京院は少し戸惑いを見せるけれども、その目には確かに期待の色が滲んでいる。
服の下で大変なことになっているであろう彼の股間は、おれの愛撫にぬちゃりと卑猥な音を立てた。
「我慢できねえで漏らしちまったの、見せてみな」
つつ、と彼のワイシャツの中に手を滑りこませて、鎖骨を撫でながら命令すれば、花京院は少しの逡巡の後、ゆっくりとジーンズからベルトを抜き取り、チャックを開け、下着ごとズボンを下ろし、震える手でそろそろとワイシャツの裾を持ち上げた。
「はっ、すげえな…ぐちゃぐちゃじゃあねえか」
粗相をなじるようにそう呟けば、花京院の体がびくりと揺れる。
花京院の桃色のペニスと慎ましやかな下生えはべったりと精液に濡れ、下着といわずズボンといわず、そこかしこに白濁した体液が染みをつくっていた。
内腿を伝っていく、ねっとりと重く、粘ついた液体を指で掬い取ると、花京院のペニスが僅かばかり体積を増す。
それに気を良くして、青臭く、栗の花にも似た匂いを放つ花京院の精液を、見せつけるように舌で舐めとれば、花京院の性器はますます膨らんで、頭をもたげ始めた。
「あ…」
おれの視線だけで花京院はぶる、と体をわななかせ、犬のように呼吸を荒げた。
物欲しそうな目でこちらを見つめる彼の、中心は勃ちあがって涎を垂らしている。
「じょ、じょうたろ…したい、したいよ…」
ひっひっ、としゃくりあげながら、中途半端に脚に引っ掛かったままの衣服を脱ぎ捨て、花京院はゆらゆらと宙で腰をくねらせた。
しとどに溢れ出す先走りのせいか、先ほど放った残滓のせいか、彼のふくりとした陰嚢の裏の、柔らかそうな尻の間までが、てらてらといやらしく光っている。
その光景のあまりの凄艶さにくらくらしながら、おれは乱暴に花京院の腕を引くと、一息に彼を貫いた。
「あ、ああっ…」
ぬぷぷ、と意外なほどすんなりと自身を飲み込む後孔に、おれは目を細めた。
毎夜毎夜、飽きることなく何度も抱いているせいで、花京院のそこはもう一つの性器のように、しっとりと柔らかく、おれ専用に作り変わっている。
「すげえ気持ちいいぜ…花京院…」
きゅうとくびれた細い腰を鷲掴み、思うさま上下に揺さぶってやると、花京院が悲鳴をあげて背を仰け反らせた。
弓のように美しく弧を描いた彼の体から、飛び散った汗がきらきらと輝き、おれの目を楽しませる。
ああ、ああ、と意味をなさない嬌声をあげ、綺麗に巻かれた前髪を振り乱し、それでも花京院はまろい尻をおれの下腹に擦り付けている。
彼のよく鍛えられた胸に顔を埋め、存在を主張する桃色の突起を優しく噛んでやれば、突然ぎゅうと中が締まり、おれは低く呻いた。
彼の体はどこもかしこも淫らに開花し、熟れた桃のような甘く芳しい香りを振りまいている。
すがるようにおれの背に立てられる、花京院の爪から与えられる痛みさえも愛おしい。
おれを受け入れ、おれに反応し、おれに愛を与え、おれに生きる意味を教えてくれる花京院。
「は…か、きょう、いんっ…」
律動をゆるめず彼の名を呼べば、淫蕩に溶けた花京院のアメジストの瞳が、ゆっくりとおれを捉える。
快楽の涙に濡れた睫毛に縁取られた、その紫に引き寄せられるように顔を近づけ、おれは恋人の薄い唇を吸った。
んん、と呼吸が苦しいのかくぐもった声をあげる彼に、惜しみなく酸素を与えてやりながら、おれは強く花京院の体を抱いた。
「もう、二度と、お前を放して、やれそうにねえっ…」
てめーは、おれのもんだ。
形の良い耳朶に噛みつきながら、そう呪文のように唱えれば、花京院が肩越しに笑う気配がする。
「ふあっ、あ、もちろん、ぼくはっ、あっ、あ、きみの、もの、だよっ」
ふふ、と嬉しそうに、気持ちよさそうに、応えてくれる花京院に、胸がいっぱいになってどうしようもない。
おれは衝動のまま、熱くうねる花京院の粘膜を絶え間なく擦りあげ、彼の体内深くを何度も突き上げた。
「あ、あんっ、じょ、たろっ、も、でる、でちゃ、うああ、ああっ、ひっ――」
ぎゅう、と彼の長い脚がおれの腰に巻き付けられ、勢いよく精液をふきあげる花京院に体全体でしがみつかれながら、おれは途方もない悦楽に身を震わせ、彼の再奥に熱を叩きつけた。
ふーっ、ふーっ、と獣のような息をしながら呼吸を整えていると、脱力した花京院がくたりとしなだれかかってきた。
汗ばんで体温の上がった花京院の心臓が、とくとく、と常より早く鼓動を刻んでいる。
セックスの後の、花京院が猫のようにしなやかな体を、甘えるようにおれに擦り寄せるこの時間が、おれは一等気に入っている。
汗で若干くたりと力をなくした、彼の長い前髪を弄んでいると、
「気持ちよかった?」
と花京院が尋ねてきた。
その自信たっぷりの、子供のような花京院の顔を知っているのが、世界中で自分ただ一人という事実に、おれはこの上ない幸せを感じつつ、もちろん、と教えてやった。
おしまい