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-1-

 

自分で言うのもおかしいけれど、ぼくは変態だと思う。

命がけの旅の最中だというのに、同行している男に抱かれたくて仕方がない。

ぼくをDIOの呪縛から救ってくれた、豪胆さと繊細さを内包するスタンドを持つ男――感謝はすれども、欲情など決してしてはいけない男に、ぼくは恋をしている。

 

 

だからぼくは今日も、彼を想って自慰に耽るのだ。

 

 

ジョースターさんが手配してくれた、高級そうなホテルのシングルルームに入るなり、ぼくは埃っぽい制服を脱いで全裸になった。

シャワーを浴びるのももどかしく、ハイエロファントの触手を蜘蛛の巣のように張り巡らせて自分を縛り上げれば、部屋中にスタンドの緑の光がきらめく。

既に屹立して先走りを垂らしているペニスに触手をまとわりつかせ、上下に擦りあげながら、ぼくはあまりの快楽に思わず声をあげた。

 

 

部屋割りで承太郎の隣の部屋になったときは、決まってこうやって自分を拘束し、彼の部屋に近い壁際で、マスターベーションするのがぼくは好きだった。

この薄い壁一枚を隔てて彼がいる、そう思うだけでぼくの体は燃え、甘い切なさに疼く。

 

彼は一体、一人きりの部屋で何をしているのだろう。

手持ち無沙汰にタバコを燻らせているのか、母親を思って不安にかられているのか、それとも…それとも、ぼくと同じように、若い身体に欲を持て余しているのか。

 

 

ああ、承太郎のことを考えるだけで体は痺れ、甲高い声が上がる。

ずちゅずちゅ、といやらしい水音を立てて触手に弄ばれるぼくのペニスは、はしたなく腫れ上がって今にも弾けてしまいそうだ。

 

 

興奮しすぎてくらくらしながら、承太郎、とぼくは彼の名をそっと呼んでみる。

愛しいその名を唇に乗せるだけで、じわりと体の熱が上がる。

 

彼がぼくの身体に覆いかぶさり、脚を割り開き、その凶悪な性器をぼくに突き立ててくれたなら…ぼくはどうなってしまうのだろう。

処女を散らされる痛みに泣くのか、それともあさましく彼の下で喘ぐのか、どちらにしてもぼくの身体は歓喜に震えるに違いない。

 

 

ぎりぎりと身体を締め付ける触手の力を強めて、ぼくは満足げに荒い息をこぼし、ぷくりと膨らんだ乳首をスタンドで引っ張り上げ、腰をくねらせる。

触手が肌に食い込む痛みさえ、今のぼくには甘美な蜜にしかならない。

 

 

ああ、彼が欲しい。

彼のペニスを、その体格に見合った凶器のようなそれを、ぼくに突っこんでめちゃくちゃにして欲しい。

がくがくと揺さぶって、何もかもわからなくなるくらい、ぼくを粉々に吹き飛ばしてくれ。

 

 

ぼくは瞳を閉じて、必死に瞼の裏に承太郎を描きながら、ハイエロファントの触手を一息に後孔へと突き入れた。

 

 

「んくっ――」

 

 

身体を裂かれるような圧迫感に、ぎゅうと爪先に力が入り、ぼくは思わず胸を突き出すようにのけぞった。

目の裏で小さな爆発が何度も起こり、指先が痺れる。ねっとりと甘い蜜に絡め取られ、体が重く沈んでゆく。

それでも快楽に朦朧とする意識の中、体内を犯す触手を前後に動かせば、ぞわぞわと肌が粟立ち、ぼくは高く鳴いた。

 

 

「ああ、ああっ、ひっ、ん、じょ、たろ、じょうたろっ、ん、ん、んぅっ」

 

 

駄目だ、こんな触手じゃあ、ぼくのぽっかりと空いた寂しさを埋めることはできない。

焦れたように腰を振りたくりながら、ぼくはそんなことを考えていた。

 

 

承太郎、承太郎…声にならない叫びをあげ、ぼくは狂おしく彼を求める。

早くぼくの欠けた部分を埋めて欲しい。少しの隙間もないほど、ぴたりと合わさって彼を感じたい。

ぼくの身体は熟れきって、切なさに甘く泣いている。

 

 

「じょうたろ、ひっ、あ、あぁ、もっときて、もっと、あ、あ、んああっ」

 

 

身も世もなく喘ぎ、もどかしく腰をくねらせれば、幻の承太郎がぼくを強く抱く。

彼の動きを想像しながら、ハイエロファントでめちゃくちゃに奥を突き、ペニスを擦りあげ、ぼくは恍惚と喘ぐ。

そうすると、すぐに下腹に重く毒のような欲が溜まり、解放を望んで暴れ出す。

 

 

「ああ、だめ、そんなの、あ、あぁっ、ひ、ひん、ひっ」

 

 

じゅぷじゅぷ、と耳を覆いたくなるような卑猥な水音が、部屋中に響き渡っている。

甘い電流が体を駆け巡り、全身の血が下腹に集まってしまうような気がして、ぼくは頭を振った。

 

 

「や、やぁっ、も、だめ、イク、イっちゃう、ん、んぅ、うああっ――」

 

 

でる、と思ったときにはもう、ぼくのペニスから勢いよく白濁が噴き出していた。

 

 

「あ、あ、ああ…」

 

 

ぞっと寒気のするような強烈な刺激に、ぼくは震えた。

神様みたいな、ぼくにとってのヒーローをオカズに自慰に耽る――輝かしく尊いものを汚す行為に脳髄が溶ける。

まるで獣だ、とぼくは思った。ぼくは、番いを求めて泣く一匹の獣。

 

 

射精の疲労にぐったりと体を弛緩させ、荒い息をこぼしているうちに、どうしようもない背徳感が襲ってくる。

冷静になった頭に後悔の波が押し寄せ、耐えられずに瞳を閉じれば、突然ガチャリと硬質な音がした。

ドアの方から聞こえたその音に驚いて目線をやれば、ゆっくりとドアノブが捻られていき、ぼくは身を硬くした。

 

 

 

-2-

 

花京院が、おれをよく見つめているのは知っていた。

そして彼の瞳が、おれにうるさくまとわりつく女どもと同じように、憧れと、好意と、そして少しの欲を孕んだ熱さを持っていることにも、おれは気付いていた。

 

 

最初のうちは、おれの自意識過剰だろうと思っていた。

なぜならおれは男で、彼もまあ少し線の細いところはあるが、どう見たって女には見えないからだ。

 

ただ日に日に彼の瞳が、おれに向けられるときにだけ、飴玉のようにとろとろと溶けているものだから、おれはあながち間違いではないのかもしれない、と思うようになっていった。

だが不思議と嫌悪感はわかず、むしろもっとこっちを見ろ、とおれはいつも願っていた。

 

しかし彼に真意を聞くこともできず、確信を持てないまま日々は過ぎた。

 

 

事態が大きく変わったのは、シンガポールを出たあたりのある日のことだった。

その日はたまたま、運よく全員シングルの部屋が取れたので、おれは久しぶりに一人の時間を満喫していた。

 

母親の命を救うためのこの旅で、気を張ったまま皆で行動するのはやはり疲れる。

いつ敵の襲撃に会うかわからないという理由で、各々の泊まる部屋はすべて隣同士であったが、日本を出てからほとんどプライベートな時間を取れなかったこともあり、個室でのびのびできるのはありがたかった。

 

 

大分疲れもたまってきているし、明日も早い。

今日はさっさと風呂に入って寝てしまおうと決めて、おれは壁の方を向いてベッドの上にごろりと寝転がった。

 

 

すると、隣の部屋から妙な音が聞こえてきた。

 

はあはあ、と苦しそうな息遣いに、時折漏れる嗚咽、それにぴちゃぴちゃと濡れた水音――おれは一瞬にして、隣の住人が何をしているか理解した。

 

おいおい、まだ日も暮れてねえのに、何してやがるんだ。勘弁してくれ。

そう、その時のおれは、ポルナレフが適当な女を引っ掛けて部屋に連れ込んだのだろうと思っていたのだ。

 

 

さっさと終わらせろよな、と壁から離れようとして、おれはふと違和感を覚えた。

なぜか呼吸音が一人分しかしない、それに、この喘ぎ声は女にしては低すぎる。

かといって、ポルナレフの声ともまた違う、その欲に掠れた声におれは聞き覚えがあった。

 

 

今日、おれの隣の部屋は、ポルナレフと、それから――

 

どくん、どくんと心臓がうるさく鳴り響く。

 

いや、そんなはずはない。

あの、普段取り澄ました男が、冷静で、理知的で、物静かなあの男が、こんな行為に耽るなど。

 

 

気付くとおれはふらふらと壁に吸い寄せられ、そこに耳を押し当てていた。

そして聞こえてきた内容に、思わず息を呑む。

 

 

「…ふ、ぁ…じょうたろっ…あ、あぁ…もっと、もっと…あ、あ、ああっ…」

 

 

花京院だ、とおれは確信した。

花京院がおれの名を呼びながら、自慰をしている。

 

いやらしい声を上げ、まだ明るいうちからふしだらな行為に溺れている――その事実に、おれの体は震えた。

鼓動が痛いほどに早鐘を打ち、思わずごくりと生唾を飲み込む。

 

 

「あぁっ…ひっ…ひんっ…」

 

 

いつもは落ち着いた心地よいテノールが、今は艶やかに濡れて色を孕んでいる。

信じられない、あの花京院がよりにもよって、隣の部屋に音が漏れるのもはばからず自慰に及んでいる。

 

つう、と汗が顎を伝って大腿に落ち、そこでようやくおれは自分が勃起していることに気がついた。

 

嘘だろ、とおれは愕然とした。

だが無情にも、そこは膨らんでズボンを押し上げている。

常に行動を共にしている戦友に、さほど年の変わらない男に、おれは確かに欲情していた。

 

 

ああ、彼が乱れる姿が見たい。

いつもぺらぺらと本のページをめくっている、神経質そうな細い指が、どんなふうに勃起したペニスを扱くのか。

彼の薄い唇が、どういうふうに震えて切なげにおれの名を呼ぶのか。

もどかしく腰をくねらせる、彼の瞳に浮かぶ涙はきっと美しいのだろう。

 

 

おれは壁に片手をつき、もう片方の手でズボンの中から性器を取り出した。

生々しく血管を浮かべた赤黒いペニスは、全身の血液を集めたようにドクドクと脈打っている。

はあ、と一つため息をつき、おれはペニスを扱き始めた。

 

 

「あ、ああっ…じょ、たろっ…きて、もっと、おくっ…」

 

 

隣の部屋から聞こえる声は、段々と切羽詰まったように高まっていく。

それに呼応するように、おれの性器もますます質量を増し、脳が重くしびれる。

 

 

駄目だ、我慢できない、彼が自慰に耽る姿が見たい。

おれは己のスタンドを呼び出し、もうどうにでもなれ、という気持ちで壁をすり抜けさせた。

 

 

するとまず目に入ったのは、部屋中を埋め尽くす緑の光だった。

きらきらと輝く糸のようなそれは、花京院のスタンド、ハイエロファントグリーンの触手だ。

至る所に張り巡らされた触手に、囚われるようにして花京院はいた。

 

 

「あ、あぁ、きもちいっ…じょうたろ、あ、あん、あっ」

 

 

蝶だ、とおれは思った。

彼は蜘蛛の巣に絡め取られた、あわれな蝶。

はかなくも美しく、もろい獲物。

 

 

「あ、ああっ…すごい、っあ、あ、ひあぁっ」

 

 

彼はスタンドで自分を拘束し、ペニスを擦り、そしてやわらかそうな尻の狭間で、触手を受け入れていた。

ぐちゅぐちゅ、と濡れた音が響き、彼の脚の間でハイエロファントが蠢く。

子供の腕ほどもある太さの触手に犯され、彼は歓喜の声を上げていた。

 

 

「花京院…」

 

 

あまりの光景におれは思わずそう呟き、そしてすぐに掌で口を覆った。

幸い、目を閉じて夢中で快楽を貪っている彼は、おれに気が付いていないようだ。

 

 

「や…も、もう、イクっ…あ、あ、ああっ」

 

 

涙を流して腰をくねらせる彼の姿を、食い入るように見つめながら、おれは張り詰めたペニスを扱いた。

強烈な喜悦に背骨が戦いている。チカチカと目の裏で光の粒子が散る。

 

 

「じょったろ、あ、ああっ、すき、すきだ、すきっ…あ、あ、ああ――っ」

 

 

びくん、と大きく花京院の体がのけぞり、触手がまとわりついたペニスから勢いよく白濁が迸った。

大きく口を開け、恍惚とした表情で、彼の体が何度も痙攣する。

 

興奮で薔薇色に染まった肌が、彼のスタンドの緑の光に照らされ、この世のものとは思えないほど美しい。

絶頂を迎えたときの彼の叫びを、蕩けた脳で聞きながら、おれも低く呻いて熱を放った。

 

 

「はあ、はあ、はあっ…」

 

 

今まで経験してきた自慰とは段違いの、とてつもない快楽におれは大きく息を荒げ、べったりと掌を汚した白濁を見て、呆然とした。

 

よりによって花京院で、おれの母親のために共に闘ってくれている彼の秘密を覗いて、自慰をしてしまった――その事実に、おれは震えた。

 

最低だ、人として恥ずべき行為だ、そう思うのに、おれのペニスはまた鎌首をもたげ始めている。

 

駄目だ、おさまりがつかない。彼を抱きたい。

スタンドを呼び戻し、再び熱を取り戻した性器を擦り上げながら、次にもし、また彼がおれの隣の部屋で自慰をしたら…その時は、部屋に乗りこんで、彼が何と言おうが犯す、とおれは妙に冷静な頭でそう決めたのだった。

 

 

 

-3-

 

ことさらゆっくりと、焦らすように開かれるドアの向こうの人影に、ぼくは息を詰めた。

 

 

「じょ、承太郎…」

 

 

スタープラチナで鍵を開け、ポケットに手を突っ込んだままの承太郎が、じっとぼくを見つめている。

自分のスタンドで己を締めあげ、後ろで触手を受け入れている、浅ましいぼくの姿を――

 

 

「あ、あ、あ…嘘…」

 

 

さっきまで彼に聞こえてもいい、見せつけてやりたい、そう思いながら自慰に耽っていたのに、目の前の承太郎の姿に体が震える。

見られた――その事実に、ぞくりと背筋が戦く。

 

 

「やだ、いやだっ…見るなっ、出て行ってくれ!」

 

 

ぼくはすぐにハイエロの拘束を解き、手近にあった枕を彼に投げつけるが、承太郎はひょいとそれを避けると、後ろ手で鍵を閉めた。

 

 

「おいおい、随分な歓迎の仕方じゃあねえか…さっきまで、おれを呼んでたくせによ」

 

 

にやりと彼が意地悪い笑みを浮かべ、ぬしぬしと足音を立てて近付いてくる。

ぼくはパニックを起こして、わめきながら自分の顔を手で覆った。

 

 

「違うっ…やめてくれ、来るなっ」

 

 

ハイエロの触手で繭を作り、ぼくは震えながらその中に閉じこもる。

しかし、すぐにスタープラチナの腕がそれを解きにかかった。

 

 

「素直になれよ、花京院…」

 

 

なあ、と彼がことさら優しく、なだめるように呟き、するすると触手を一本一本手繰っていく。

 

 

「よく考えてみろ、何故おれがここに来たんだと思う?」

 

 

熱っぽい彼の吐息に、まさかとぼくは思う。

 

 

「…熱くてたまらねえ、どうにかしてくれよ、花京院」

 

 

愛しげにハイエロの繭の表面をなぞり、承太郎は囁く。

欲を孕んだ低い声に、ぼくは思わず息を呑み、途端にスタンドのビジョンがぶれて霧散してしまった。

 

何も隠すものがなくなり、はた、と目と目があった瞬間、承太郎がこの上なく美しく笑う。

 

 

「…もう逃がさねえぜ」

 

 

時を止められたかのように、彼から目を離せなくなってしまったぼくは、太い腕に絡め取られる。

あ、とそう思った瞬間には、彼の楔がひたりと後孔にあてられていた。

 

 

「お望み通り、抱いてやるよ…」

 

 

掠れた声を耳に吹き込まれ、ぞくぞくと背骨が震える。

羞恥に耐えられずに目をつむると、彼が体内に入り込んできた。

 

 

「あ、あ、ああ…」

 

 

がくん、と喉をさらけ出すように頭を後ろに反らせ、ぼくは吐息を漏らす。

熱い、熱くて熱くて焼けてしまう。彼の熱に燃やしつくされる。

体を真っ二つに裂かれてしまいそうな、あまりの圧迫感にぼくは呻いた。

 

 

「ひぐっ、じょ、たろっ…あ、あ゛、あ゛あ゛っ」

 

 

怖いはずなのに、その甘美さにぼくの脳は恍惚の海に浸る。

ぼくがずっと望んでいた彼の体温に、勝手に体中の細胞が歓喜に沸き、涙があふれ出す。

 

 

「はっ…すげえ、きっつ…」

 

 

苦しそうに眉を寄せる、承太郎の表情がなまめかしく性的で、頭がぼうっとなる。

奥の奥まで自身を埋め、彼はふーっと長く息を吐くと、腰を揺すり始めた。

 

「あ、あ゛――っ、じょ、たろっ、らめ、らめぇっ、あ、あ゛ぁっ」

 

ゆっくりとした、しかし重たい打撃を奥に受け、ぼくは耐えられずに彼にすがりつく。

汗の浮かぶ彼の背に爪を立て、火のような息を零す。

 

「だめじゃあ、ねえだろっ…一人で、オナりやがって…この、淫乱がっ」

 

ガツガツ、と奥を突く彼の動きが段々と激しくなっていく。

抽送の間隔が短く、早くなり、ぼくは彼に揺さぶられるまま喘ぐことしかできない。

 

「おら、気持ちいいんだろっ…言えよ、気持ちいいって、よっ」

 

律動を緩めずに、彼の手がぼくの顎を捕らえ、欲を煽るように唇をなぞる。

そのいやらしい手つきに、そしてぼくを襲うとてつもない快楽に、理性のタガが外れていく。

 

「あ、ああ゛っ、しゅごい、ぎもちいいよぉっ、もっと、もっとして、じょうたろっ」

 

熱に浮かされ、彼に言われるまま卑猥な言葉を吐き、ぼくは乱れた。

はっと彼が短く笑い、ぼくに応えるように激しく腰を振る。

 

「できんじゃあ、ねえかっ…」

 

ぎゅう、と反り返って腹に付くペニスを彼に握られ、ぼくは悲鳴を上げる。

だがすぐに、ぼくの声ごと飲み込むようなキスをされた。

 

「ん、ぐ、ふぅっ…ん、ん、んぅ、んああっ」

 

酸素が足りず、息苦しくて唇を離せば二人の間に銀糸が引く。

そのいやらしさに眩暈を覚えて、思わず目を閉じようとすると承太郎がぼくの名を呼んだ。

 

「おい、ちゃんと、見ろ…おめーが、おれのを咥えこんで、悦んでるところをよ」

 

ぐい、と脚を肩に付くほど折り曲げられ、彼は彼の長大な性器が、ぼくの体に出入りしている所を見せ付ける。

ぬぽぬぽ、と空気と先走りの混ざり合う卑猥な音を立てながら擦られ、ぼくのそこはぷくりと充血している。

結合部をなぞるように、彼の指が一回りして、ぼくは思わず強く彼を締めつけた。

 

「ぐっ…」

「あ、ああ゛っ、じょうたろぉっ、じょうたろの、おちんちん、きもちぃっ、あ、あ、あああっ」

 

 

ぼくが叫ぶと、ちっと承太郎は焦ったように舌打ちして、ぼくの体を押さえつけ小刻みに中を掻き回す。

あまりの快楽にぼくの体がバラバラになってしまう。目の裏でいくつも星が瞬き、何もかもが白く弾けてしまう。

 

 

「も、だめっ、あ、あ、ああ゛、イク、イっちゃう、あ、あ、ああ゛――――っ」

「っ……」

 

 

ぴん、と爪先に力が入り、体が弓のように反る。

ものすごい勢いで甘い電流が脊髄を焼き、何も考えられない。

脳が快楽物質にどっぷりと浸り、ぼくのペニスから欲がはじけ飛んでゆく。

搾り取るように、貪欲に承太郎を締めつけた最奥に、望んだとおり熱が注がれるのを恍惚と感じながら、ぼくの意識はずるずると沈んで行った。

 

 

 

 

目が覚めると、部屋は真っ暗だった。

闇に慣れない目を細め、なんとか時計を読むと時刻は夜中の二時過ぎのようだ。

なぜだか体が泥につかったように重く、不思議に思って横を向くと、承太郎の顔があった。

 

 

「!!」

 

 

びっくりして大声を出しそうになるのを必死に抑え、息を整えていると、どうやらぼくは抱き枕のように彼に抱え込まれているらしい。

伏せられた長い睫毛が、思いのほか彼を幼く、少年らしく見せていて、ぼくはどきりとする。

 

 

「……」

 

 

そっと手を伸ばして彼の頬に触れると、彼のぬくもりになぜだか泣きそうになる。

承太郎、と小さくぼくは彼の名を呼んだ。

 

 

「…好きだよ、好きで好きで、ぼくは死んでしまいそうだよ」

 

 

好きになって、ごめん、と呟くと、胸がぎゅうと痛む。

瞼の裏と鼻の奥が熱くなり、目を開けていられない。

溢れてくる涙を、なんとか止めようと息を吸い込むと、頬にやわらかいものが触れた。

 

 

「おい、何泣いてやがる」

 

 

驚いて目を開けると、承太郎が怒ったようにこちらを見ていた。

 

 

「てめーの中で、勝手に決めつけやがって…告白すんなら、おれが起きてるときにしやがれ」

 

 

彼の大きな手で頬を掴まれ、あひるのように間抜けな顔をさせられる。

突きだした唇に再び彼の唇が重ねられ、やさしく吸われてぼくは体を震わせた。

 

 

「…もっと、おれを好きにさせてやるよ」

 

 

だから、おれのものになっちまえ、と彼はぼくの耳に囁き、それから首筋に甘く噛みついた。

ぼくはみっともなくすすり泣きながら、うん、と答えるのがやっとだった。

 

 

おしまい

 

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