
承太郎が最近おかしい。
何やらいつもソファで考え込んでいるし、食事の時も上の空だし、ちょっと変だ。絶対変だ。
何より、この前彼の部屋を掃除していたら、見慣れない段ボールの箱がいっぱい積んであった。
彼の荷物だから触らなかったけれど、「品名:パソコン部品」と書いてあるのが妙だった。承太郎はあまりパソコンに強くないのだ。
これは絶対何かあるに違いない、そしてそれはたぶん、ぼくにとってあまり喜ばしくないことに違いない、と長年彼と一緒に暮らすうちに培われたぼくのカンが警鐘を鳴らしていたが、その時のぼくはまだ、まあ何とかなるだろう、と大して気にも留めていなかったのだ。
「花京院、ちょっと話があるんだが」
夕食が終わり、お茶でも淹れようかとぼくが声をかけた時、随分と険しい顔の承太郎にそう返された。いつもなら、彼が話を遮ることなんかないのに。
とうとう来たな…とぼくはちょっと嫌な予感がした。
「なんだい、話してくれよ」
なんとかいつも通り、平静を装ってそう声をかければ、承太郎がとんでもないことを言い出した。
「お前を開発してえ」
予想だにしない言葉に、かいはつ、とぼくはきょとんとした顔で聞き返してしまった。
「開発…って、何だい、工事か何かをするのかい」
それとも機械の開発かな、と首をかしげると、承太郎が首を振った。
「おれは、お前の開発をしたいと言ったんだぜ…お前の、性感帯を開発してぇ」
せいかんたい、とぼくはまたそこで間抜けな声を出してしまった。
性感帯なんて言葉、えっちなゲームや雑誌でしか見たことないぞ。というか人生で初めて耳にした気がするぞ。
しかも承太郎のあの声で言われると、ちょっと困ってしまうぞ…
「は、話が見えないんだが…」
彼の美声で再生されたえっちな言葉に、もじもじと机の下でこっそり膝を擦り合わせながらそう言えば、承太郎がぽつりぽつりと話し始めた。
彼が話したのは、大体以下のようなことだった。
花京院、おれはお前が好きだ。世界で一番愛している。
おれはお前と一緒に暮らせて幸せだ。お前と同じものを食べ、同じ空気を吸い、同じ時間を共有できることが嬉しい。
その上、毎日最高の体を抱くことができて、とても感動している。すごく気持ちいい。
だが、お前もそう感じてくれているのか、ほんのちょっぴり不安になることもある。恥ずかしがっているのだろうとは思うが、お前はあんまり声を出さないように我慢しちまうし、誘うのはもっぱらおれの方だし、おれがガッつきすぎて気絶させちまうことも多いし、お前がおれに満足してくれているのか、心配になることもある。
というわけで、これからは道具や玩具(花京院注:もちろん子供用じゃなくて、大人のおもちゃの方である)も使いつつ、お前の体を開発していきたいと思っている。
これについてお前はどう思うだろうか、意見を聞きたい。
「……」
ぼくは机に突っ伏し、頭を抱えていた。
承太郎はたまにこういうふうに、ちょっとぼくには理解できないようなことを言い出す。
大体どうして、ぼくが感じているか心配だ、から道具で開発する、に思考が飛ぶのだろう。謎だ。
承太郎はさっきからぼくの手を握り、熱っぽい視線でこちらを見つめ、ぼくの答えをじっと待っている。
こうなるともう、ぼくができることは一つだった。
「い、いいよ…」
途端、ぱっと承太郎の顔が明るくなる。もういい大人なのに、こういうときばかり彼は心底うれしそうに、子供みたいに満面の笑みを浮かべるのだ。
「でも、言わせてもらうが、ほ、本当はぼくも、その、すっごく気持ちいいんだ…だから、君が心配することなんて、何もないんだ」
好きだよ承太郎、と言ったら、感極まった承太郎にがばと抱きつかれた。
だからぼくは、ついうっかりぽうっとしてしまって、ああ良かった、なんて思ってしまったのだ。
これからぼくを待ち受ける試練のことなど、この時はまだ全く想像もしていなかったのだ。
「じゃあ始めるか」
よいしょ、と承太郎が「品名:パソコン部品」と書かれた数個の段ボールから取りだした、けばけばしいピンクやどぎつい紫色の物体に、ぼくは気絶しそうになった。
「な、な、なんだいこれ…」
見るのもおぞましい、男性器を模した玩具の数々…震える手で根元のスイッチを押すと、グイングインと謎の音を上げてそれは身を捩り、ぼくは絶句した。
おいおい、どう考えても、ペニスがこんな動きするわけないだろう。怖い。なんか変な突起もついてるし…
青ざめたぼくの顔を見て、承太郎がふっと笑って玩具をとりあげた。
「これはまた今度にしような」
今日はこれにするか、と彼が取りだしたのは、小さな鼠のようにも見える、ピンク色の卵型のローターだった。
さっきまで凶悪なバイブやディルドを見せられていたぼくには、それがひどく可愛らしく、大したことないように見えた。だいぶやられている。
彼はぼくに考える時間を与えず、てきぱきとぼくの両乳首と、ペニスの先端に医療用のテープでローターを固定した。
「おれが挿れている間、乳首が寂しそうだからな」
「……」
じゃあ君が挿れながら舐めるなり、触ってくれればいいのに、と喉まで出かかって、そんなことを自分から言うのははしたない気がして、ぼくは黙り込んだ。
承太郎の目を見ていられず、恥ずかしくてうつむくと、嫌でもぼくの体にとりつけられたローターが目に入り、その丸みを帯びたボディのピンク色がやけに馬鹿馬鹿しく、卑猥に見えた。
「最初は弱からいくぞ」
カチカチ、と承太郎がコードの先のコントローラーをいじり、ぼくはぎょっとする。ブブブ、と何の心の準備もできないままローターが振動し、思わずびくりと体が跳ねた。
「あっ、あんっ」
ぶる、と背筋をゆるい快楽が這う。大したことはないが、電流の流れるような、じわじわとした落ち着かなさが体を襲う。
すると承太郎は嬉しそうに笑って、テープの上から指で乳首につけられたローターをぐいぐい押し付けてきた。
振動が心臓まで伝わりそうで、ぼくは恐怖にわめく。
「ひっ、ひぅ、うんっ」
「なんだ、こんなもんか…これじゃあ全然弱いな…」
指先に感じる振動の強さがお気に召さなかったのか、承太郎は無慈悲にコントローラーのダイヤルをまわした。
「ふあぁぁああっ」
途端、さっきまでとは比べ物にならない強烈な刺激に、脚が爪先までぴんと伸びる。
ぞくぞくと体中の骨がおののき、一瞬視界が真っ白に染まる。下腹が熱く燃えたかと思うと、ものすごい勢いで快楽の嵐に吹き飛ばされる。
あ、と思った瞬間、ぼくのペニスは大きく上下し、あっけなく精を吐きだした。
「おっ」
びゅる、と飛び散った白濁が承太郎の胸を汚し、彼が驚いた声を上げる。
意味をなさぬ喘ぎを零し、恍惚とした絶頂の蜜を味わったのも束の間、いまだ振動を続けるローターによって、ぼくの意識はすぐに体に引き戻された。
「あぁっ、やだ、やっ、とめてっ」
快楽の頂点を極めたばかりの体に、ローターが与える容赦のない刺激は気持ちよさを通り越して痛いほどだった。
だが、ローターを外そうとした腕は、突如現れたスタープラチナに掴まれ、頭上でひとまとめにされてしまう。思わず蹴りあげた脚は、承太郎の脚で押さえこまれた。
「おイタがすぎるぜ」
ちぃっと我慢しな。そう言って承太郎が、楽しそうにぼくの後孔にローションをしとどに塗りこめ、指を差し入れる。
ぐにぐにと中を掻き回され、彼の与えるじくじくとした毒のような快楽と、ローターが与える単調だが終わりのない快楽とが、ごちゃまぜになってぼくの脳が混乱する。
刺激のシグナルが多すぎて、感覚を伝える神経の受容限度をやすやすと振り切っている。ぼくは必死に体をばたつかせ、痛いくらいペニスを勃起させて、大声で喚いた。
「あ――――っ、あっ、あっ、あっ、やらっ、ひ、ひっ、ひんっ、だめ、だめっ、またイク、ほんとに、やめっ、ん〰〰〰〰っ!!」
びくん、と体が大きく跳ねて、再びペニスから精液が跳ねあがる。
内腿が痙攣して力が入らない。脳を直接揺さぶられているような強烈な絶頂に、何も考えられない。
視覚がおかしいのか、目の前の景色が一つ一つ粒だって見え、全てが極彩色で彩られている。ローターの振動音や承太郎の息づかい、シーツの衣擦れさえ、やけに頭の中で響く。
何もしてないのに口の中に唾液が溢れかえり、ぼくはぼんやりと承太郎のペニスを舐めしゃぶりたいと思った。しかしそれ以上に、ぽっかりと欠けた後ろに彼を含みたかった。
二度も射精したのに、体のもっと奥深くが疼き、堪らない。焦燥がひどく、じっとしていられない。
「ああっ、じょうたろっ、じょうたろっ、もっと、もっとして、あ、ふあぁっ」
ぼくは知性も理性も失い、ただ獣のように泣き叫び、切れ切れに承太郎の名を呼ぶ。
犬みたいに舌を出して喘ぎ、もどかしく腰を揺する。とびきり淫らに、承太郎の欲情を煽るように。
はやく後ろにペニスを突っ込んでほしい。ぼくのことを無茶苦茶に犯し、ガクガク揺さぶって、体を折り曲げて中に注いでほしい。ぼくが溺れるくらい、飲み込みきれずに溢れるくらい。
さっきは痛いくらいだったローターの刺激も、感覚がマヒしているのか、全てが喜悦に変換される。ぼくのペニスはまた勃起して、射精を我慢できずにさっきから止め処なく、だらだら精液を零している。
ぼくの体を焦がす終わりの見えない快楽は、甘美な地獄だった。
視界の端で、ごくりと承太郎が息を呑むも、彼はいまだ指での刺激しか与えてくれない。
ぐちゃぐちゃと淫らな音をたてて掻きまわしてもらっても、ぼくのアナルはそれじゃあ全然満足できなくて、承太郎の指にはしたくきゅうきゅう食いつき、物欲しげにヒクついている。
「いれてっ、いれてよぉっ…はやく、ほしいっ、あ、ああっ、きみの、おちんぽいれて、ずぼずぼしてっ」
おねがい、とぼくはヒステリーを起して、涙を流す。彼の腰を脚で何とか引き寄せようと、体を捩る。
無意識にスタンドが出ていて、緑の触手が承太郎にペニスを挿入させようとぐるぐる絡みついた。体が熱くて苦しい、早く何とかしてほしい。
「くそっ、へばるんじゃあねえぜ、花京院……っ」
ちっと焦ったように舌打ちして、承太郎がぼくの腰を掴む。
来る、とぼくの体中の細胞が歓喜に沸き立った次の瞬間、奥深くまで彼の長大なペニスが侵入してきて、思わず背がのけぞった。
「んああぁぁあっ」
体の中からペニスの裏側を押され、ぷしっと水みたいに薄い液体がぼくの性器から噴き出る。
さんざん焦らされた後孔は、熱くとろとろに熟れて、それでもようやく挿れてもらえた悦びに、嬉しそうに承太郎のペニスにきゅうきゅう纏わりつく。
「ああっ、しゅごい、これっ、これがほしかったのっ、あ、ああっ、じょうたろっ、すき、すきっ」
ぼくが夢中になって腰を揺すると、承太郎が切なげに眉をしかめる。
彼の呼吸が荒くなったせいか、いつの間にかスタープラチナは姿を消していて、ぼくは解放された腕を承太郎の首に回し、彼にしがみついた。
「あ、あはっ、すごい、きもち、きもちっ、もっと、ついて、もっと」
体中にあまずっぱい電流を流されたみたいな感覚が止まらなくて、腰から下がずっとガクガク震えて止まらない。
ぼくの体を流れる血液が、熱く煮えたぎって逆巻き、ドクドクと脈打つ。
承太郎と繋がった所が勝手に潤み、溶けて、一つに混じり合ってしまいそうな気さえする。
「やりゃあ、できんじゃあ、ねぇかっ」
ぼくのいやらしい姿に、承太郎はにやりと笑って、激しく突き上げてくれる。
中に埋め込まれた承太郎の性器は、律動のたびにぐんぐん大きくなり、おなかが押されて苦しい。
だが、途方もない熱で内側から形を作りかえられる、その苦痛さえぼくには甘美な蜜だった。
承太郎の彼にガンガン突かれるたび、馬鹿馬鹿しくぼくのペニスが揺れて、先端に取り付けられたローターのピンク色が目に鮮やかだ。
さっきからずっと振動を与え続けられて、ペニスも乳首も痛いくらい腫れあがって勃起している。もとに戻らなくなったらどうしよう、と一瞬恐ろしくなるが、ぼくの体がもっといやらしくなったら承太郎は悦ぶだろうか、とも思う。
ぼくのお尻の形が歪んで変わるくらい、承太郎が何度も強く腰を打ちつけてくる。
あ、あ、と唇を戦慄かせて恍惚と喘げば、彼がうまいか、と尋ねてきて、ぼくは必死に何度も頷く。
「うん、うんっ、おいひいっ、ひ、ひぎゅっ、じょ、じょうたろうの、おちんぽ、おいひいれすっ」
またいっちゃう、と訴えると、ますます承太郎の動きが激しくなって、ぼくは悲鳴を上げる。だが、すぐにその悲鳴ごと飲み込むような、荒々しいキスをされて、頭の中が真っ白になる。
「〰〰〰〰っ」
ぼくは声もあげられず、三度目の絶頂を迎えた。ほぼ同時に、お腹の中に火傷しそうに熱い液体を注ぎ込まれ、ぼくの後孔はそれを一滴も零すまいと、ぎゅうぎゅう承太郎のペニスを絞りあげる。
体中に快楽の波がどっと押し寄せ、上手く息ができない。溺れるほどの承太郎の愛に、恍惚と体を震わせ、全身でそれを受け止める。
そしてそこでぼくは意識を失った。
喉の渇きで目が覚めると、どうやらぼくはベッドに寝かされていたようだった。
重たい体を何とか起こせば、すぐに体が悲鳴を上げる。喉も胸も性器も後ろも、ひりひりと痛んだ。
「うう……」
涙目になりながら、なんとかベッド際に這い寄り、サイドテーブルにおかれた水を飲む。叫びつかれた喉を、冷たい水が流れ落ちて行くのは心地よかった。
ようやく人心地つき、すうはあと深呼吸して、そこでぼくはある違和感に気づく。
後ろに何か入っている。
さっきは、あまりにも何度も承太郎に犯されたせいだと思っていたが、息を吸った瞬間、何かにごり、と前立腺を押され、思わず上がりそうになった悲鳴を噛み殺す。
意を決して、おそるおそる視線を下ろすと、まず目に入ってきたのは、ぼくのペニスに装着された五連の銀のリングだった。それはぼくの腰から続く革バンドで固定されていて、そしてご丁寧なことに、一番根元の精巣ごと通されたリングには鍵がついていた。
「……」
軽い眩暈を覚えつつも、そのペニスリングに連結された黒い革のベルトを辿ると、それはどうやらTバックのように尻まで続いていて、外せないのでよくはわからないけれども、どうやら内側にディルドがついているみたいだった。
ぼくは涙目になりながら、ああ、これがいわゆるSMプレイとかでよく見る、ボンデージってやつなんだ、と理解した。
「承太郎、承太郎」
なんとか泣くのを我慢して、ぼくは隣でぐっすり眠る承太郎を揺り起こす。彼はんん、と低い声で呻いて色っぽく眉をしかめ、それからその太い腕でぼくを抱き込んだ。
「うわっ」
再びベッドに引きずり込まれ、承太郎の腕から離れようともがくが、セックスで体力を消耗した今のぼくには、もうどうしようもなかった。
「……」
悔しくて、じっと彼の寝顔を睨んでみるが、ぼくを抱きかかえ、満足そうに眠るその顔に何だか毒気を抜かれてしまい、まあ、怒るのは彼が起きてからでいいか、とぼくは一つため息をついて、そっと目を閉じると布団にもぐりこんだ。
おしまい