花京院の細い体の上に覆いかぶさりながら、承太郎は夢のようだ、と思った。
あれほど焦がれていた男が、頬を上気させて自分を見上げているという事実がにわかに信じ難く、恋に臆病な少年のように指先が震える。
一方で目の前に差し出された甘美な獲物を、欲望のままに喰らい尽くしてしまいたいという気持ちもある。
承太郎は暴走しそうになる己を必死に押さえ込み、深く息を吸い込んだ。
突然の告白に状況を飲み込めず、混乱している花京院の耳元で、追い討ちをかけるように、再び好きだと囁けば、彼の耳がみるみるうちに熱を帯びる。
羞恥のために小さくなってしまった花京院をそっと抱きしめ、未だ誰にも踏み荒らされていない、新雪のような真白い肌に唇を落とすと、彼が身をよじった。
「くう、じょう…さん…」
「…承太郎、と名前で呼んでくれないか」
甘えるように鼻先を柔らかな髪の中へ埋め、そう懇願すれば、花京院が響きを確かめるように、承太郎と舌先で音を転がす。
熱に浮かされ、何度も切れ切れに承太郎の名を呼ぶ薄い唇を奪い、わざといやらしい水音を立てて柔らかな粘膜を味わう。
芳醇な酒の香りが鼻に抜け、匂いだけで酔ってしまいそうだ。
酸素を求めて喘ぐ花京院は、承太郎が空気を送り込んでやると、もっとと強請るように舌を吸った。
「ん、っはぁ…ん、んぅ…」
随分と酒を飲んだせいだろう、快楽にとろけた花京院の瞳は、承太郎を煽るには十分だった。
目の前にさらけ出された首筋を、承太郎がねっとりと舐めあげると、花京院が鼻にかかった声を漏らす。
耐えられないというようにかぶりを振り、一房長い前髪が踊るように跳ねる。
熱を孕み熟れた体と裏腹に、手の甲を口に押し当てて声をかみ殺す、花京院の初心な仕草が愛おしい。
承太郎は堪らず花京院の薄い胸を寄せ集め、色づいた先端を口に含んだ。
「ひぁっ…じょうたろっ…なんか、変だっ…」
体が熱いよ、と花京院は瞳を潤ませ、承太郎の体にすがりついた。
快楽を得ようと腰を擦り付けるようにくねらせ、短い吐息を漏らす花京院から華やかな香りがする。
わずかに残った理性をぐずぐずに溶かしていくその香りを、胸いっぱいに吸い込みながら承太郎は愛撫を続けた。
つん、と存在を主張するように勃ちあがった乳首を舌と指先で弄び、時折緩く歯を立てれば、花京院の体が魚のように跳ねる。
「うああっ…噛んじゃ、だめだっ…、すごい、あっ、ああっ」
体を押さえつけ、承太郎は構うことなく、赤子のように胸を吸った。
花京院は悲鳴をあげて、承太郎を引き離そうと癖の強い髪を掴んだが、あまりの快楽に上手く力が入らない。
そうこうしているうちに、承太郎の手が下肢へと伸び、だらだらと物欲しげに涎を垂らす花京院のペニスを握り込んだ。
「ひっ…じょ、たろっ、あっ、だめ、そんな、あっ、ああっ…」
そのままぐちゅぐちゅと扱かれ、花京院は思わずぎゅうと目を瞑り、歯を食いしばった。
先走りが空気と混じる、粘着質な音がどこまでも花京院の聴覚を犯していく。
今まで他人に触れられたことのない彼のペニスは、初めて味わう余りの刺激に、ぴくぴくと嬉しそうに震えていた。
「ああっ、んあ、ああっ、こ、こんなの、ぼく、しらないっ、も、イクっ…イっちゃうよぉっ…」
ひっと息を飲み、呼吸さえ忘れて花京院は精を放っていた。
白濁は勢いよく承太郎の手に打ち付けられ、受け止めきれなかった分が花京院の胸を汚す。
「…結構出たな、溜まってたのか?」
承太郎は花京院が仕事に忙殺されていて、あまり自慰をしないことを知りながら、意地悪くそう尋ねた。
しかし絶頂の余韻に呆然と体を震わす花京院は、荒い息を零していて、とてもその質問に答えられそうになかった。
承太郎はそのしどけない姿にごくりと生唾を飲み、花京院の脚を大きく割り開く。
これから何をされるのか、全くわかっていない様子の花京院は、とろんとした目つきででぼんやりと承太郎を見上げた。
「じょうたろ…なにするの?」
舌ったらずにそう問う花京院には答えず、承太郎は震える声で質問を返した。
「花京院…おれのこと好きか?」
承太郎のいつになく真剣な緑の目を、花京院はじっと見つめた後、言葉を紡いだ。
「…うん、すきだよ…じょうたろうといると、なんだかたのしいんだ…」
じょうたろ、すき、と子供のように繰り返す花京院に、承太郎は胸を締め付けられながら、花京院の固く閉じた蕾に猛る自身をあてがった。
「おれも、お前が好きでどうしようもねえんだ…すこし、痛えかも知れねえが…おれを受け入れてくれ、花京院…」
承太郎は祈るようにそう呟き、先走りを花京院のそこに塗りこむように何度か行き来させる。会陰を擦られるふわふわとした喜悦に、花京院は甘い声をあげた。
我慢できずにぐぐ、と腰を推し進めると花京院が小さくいたい、と呟く。
「わりい、花京院…ゆっくり、深呼吸しろ…」
「じょうたろ…これ、なにっ…こわいよ…」
体を割り開かれる未知の感覚に、花京院は怯えた声をあげた。
その背をあやすように撫でさすってやりながら、承太郎は辛抱強く少しずつ花京院の中へ入っていく。
熱くきゅうきゅうと吸い付いてくる粘膜に、うっとりとため息を漏らしながら承太郎は目を閉じた。
汚れを知らぬ花京院の体に、己を刻み込んでいく背徳的な歓び。
そのあまりの甘美さにめまいがする。
何度も空想の中で犯した幻の花京院より、今現実で組み敷いている彼は、ずっと芳しく、鮮明に色づいて承太郎を惹きつける。
乱暴にしたくないと思うのに、承太郎は荒々しく腰を打ち付けずにはいられなかった。
「んあっ、あっ、ああ…じょ、たろっ、うあっ、んっ、んんっ…」
必死に承太郎の首に手を回し、振り落とされまいとする花京院が愛しい。
花京院の朱を帯びた目尻に溜まる涙を、甘露のように思いながら舌先で掬い取る。
パン、パン、と肉がぶつかる乾いた音と、抽送のたびに立つ濡れた卑猥な音がやけに大きく聞こえ、承太郎は夢中になって花京院の体を貪った。
「ふっ…花京院、すきだっ、ずっと前から…」
「あ、ああっ、じょうたろっ、ぼく、おかしくなるっ、ああっ、うあっ、ん、んぅ」
律動を続けたまま、歯のぶつかり合う下手くそなキスをする。
何度かキスするうちに、呼吸の仕方を覚えたらしい花京院が、辿々しく息継ぎをしながら舌を絡めてくる。
承太郎に応えようとするその健気な仕草が愛しく、更に深く奥を穿てば、花京院が切なげに鳴き、承太郎を絞りあげる。
背骨を炎が舐めるように焼き尽くし、酸素が足りず、頭に霞がかかっていく。
目の前に白い光が閃き、快楽の波が絶えず押し寄せて、今にも骨組が決壊しそうだ。
甘えるように承太郎の腰に脚を回し、自らも腰をくねらせる花京院に満足げに微笑みながら、承太郎は下腹に重くたまった狂おしい欲望を開放しようとスパートをかけた。
己の下で喘ぎ、勢いよく精を跳ねあげている花京院を自分のものにする喜びに震えながら、承太郎は最奥に欲を叩きつけた。
己の横ですやすやと眠る花京院の横顔を見ながら、承太郎はうっとりと目を細めた。
調べ上げたデータでしか知らなかった男が、やっと自分の手の内に落ちてきた喜びに、自然と口角が上がる。
承太郎の狂気に気づかず、無防備に眠る花京院をどう自分好みに変容させていこうか、承太郎は思いを巡らせながらそっと彼を抱き込んだ。