ゆらゆら、と花京院の綺麗に巻かれた前髪が揺れている。
ほんのり桜色を帯びた肌は、しっとりと汗に濡れ、花京院が腰を振るたびに、皮膚の下で筋肉が躍動する。
「は、あ……っ、ん、んぅ、ふっ……」
おれの上で、気持ちよさそうに喘ぎながら彼は体を弾ませ、きゅうきゅうとペニスを絞りあげてくる。
休む間も無く何度もそれを繰り返され、次々に生まれる極上の快楽に、腰から下が溶けてしまうような錯覚に陥る。
今まであまりまじまじと見たこともなかったが、花京院のまろい尻の狭間に、自分の性器が根元まで飲み込まれているのを見ると、彼と繋がっているのだ、とありありと実感して、ごくりと自然に喉が鳴った。
薄く引き伸ばされた、彼の桃色の粘膜を確かめるように指でなぞると、恋人から非難の声が上がる。
「ちょ、ちょっと、やめてくれ……っ、ひ、っあ、うまく、できなくなる……っ」
ひっと息を呑み、それでも花京院は淫らな上下運動を止めることはしない。
屹立した彼の性器が律動に合わせ、可愛らしく揺れているという、すばらしい光景を下から眺めながら、おれはこうなった経緯を思い返していた。
太ったんだ、と告げる恋人は、そう言われて見ると確かに、ほんの僅かではあるが、頬が丸みを帯びてきているような気がした。
「別にいいじゃあねえか、お前はもともと痩せっぽちなんだからよ」
とおれが返せば、真剣に聞いてくれよ、と花京院は言った。
「君と暮らしていると、ついご飯も作りすぎてしまうし、社会人になってから体育の授業もないし、このまま行くとぼく、君の好きな力士みたいになってしまうかもしれない」
そう訴える花京院におれは内心、そうしたら2人で相撲が取れる、などと考えていた。
「でもあんまりご飯を減らすと体に悪いから、運動しようと思うんだ。2人でジョギングとか、テニスとか、何か始めてみないか」
キラキラと目を輝かす花京院を前に、おれはすばらしいアイディアを思いついた。
じゃあ今からセックスしようぜ、そう告げると花京院は驚きに目を見開き、ついで頬を赤らめ、あからさまに動揺して、わたわたと不思議な動きをし始めた。
「な、なんでそうなるんだ!」
「2人でできて、手軽で、仲も深まって、ついでにおれもお前も気持ちいい、最高じゃあねえか」
な、と彼の肩を掴むと、花京院はしかし、反論する言葉を持ち合わせてはいないようだった。
「お前が上になって動けば、体力使うだろ」
そう言って彼の腰を引き寄せ、おれの上に跨らせると、花京院は羞恥に顔を真っ赤にし、しばらくもじもじと恥じらっていたが、終いには大人しくこくりと頷いた。
それにしても、とおれは思う。
鷲掴んだ腰の細さも、腰に感じる重みも、たいして変わらないような気がするのだが、恥ずかしがり屋の彼が、おれの上に乗ることなどなかなかないので、おれはあえてそれを告げないことにした。
痩せたいのだったらもっと腰を振った方がいいとか、声も我慢せずに出した方がカロリーを消費するなどと言えば、花京院は従順にそれに従った。
普段は必死に声を噛み殺している彼が、今日は粘膜を擦りあげるたび、甘やかな声を惜しげもなく聞かせてくれるので、脳髄がとろとろと溶けていくような気さえする。
「気持ちいいか」
と問えば、花京院は切れ切れにうん、と答えた。
「これっ……君の、が、ん、んぅ、奥、までっ、ひ、ひんっ……ごりごり、って、あ、ああっ」
だめ、と言いつつも、花京院は髪を振り乱し、腰を激しく振りたくっている。
次第におれの腹の上に置かれた彼の手がじっとりと汗ばみ、力がこもる。
熱を帯びた彼の肉壁は、おれのペニスが出入りするたび嬉しそうに絡みつき、奥へ奥へと誘った。
「花京院っ、今、どうなってるか、言ってみな……」
ぐり、と手を伸ばして勃ちあがった乳首を苛めてやると、花京院は甲高い声を上げた。
「ひあ、ああっ、じょ、たろうのっ、ん、ん゛、んん゛っ、おっきい、おちんちんっ、ふあぁっ……ぼ、ぼくの、おしり、の、なかっ、ずぼずぼ、してぇ……すっごく、ひ、ひんっ、きもちい、の……っ」
もう自分が何を言っているのかわからないのか、おれに乞われるまま、花京院は淫らな告白をし、奔馬のように腰を跳ねさせる。
ぎゅうぎゅうと絶頂が近いのか締め付けが更にきつくなり、おれは思わず低く呻いた。
「ふあぁっ、も、もうっ、イっちゃう、ひ、ひんっ、イク、イクイク、だめ……っ」
「何回でも、我慢、しないで……イっちまえば、いい……っ」
オラ、と逃げられぬように彼の腰を掴み、花京院の動きに合わせて下から突き上げると、ひぃん、と鳴いて彼は背をのけぞらせた。
「あっ、あっ、あああ゛っ〜〜〜」
ビクビク、と彼の体が痙攣し、色素の淡いペニスから、勢いよく白濁が弾け飛ぶ。
それはぷくりと立ち上がった花京院の乳首のあたりまで飛び散り、むわ、と栗の花にも似た匂いが立つ。
恍惚とした表情を浮かべ、自分の放った体液に濡れた花京院の姿は、いっそ恐ろしいほどに艶やかで、おれも複雑にうねる内壁に抗わず、息を詰めて精液を吐き出す。
「あ、あ、ふああ……」
びゅく、びゅく、と最奥に熱を打ち付けると、花京院は大きく口を開けて喘ぎ、ぷるぷると小刻みに震える。
彼の一房長い前髪が、激しい交接にくたりとして額に落ちかかっているのが、たまらなく扇情的だ。
ゆるゆると腰を振り、最後の一滴まで残さず注ぎ込んでも、とめどなく欲望が湧き上がり、すぐにまた下腹で熱が燻り始める。
離れがたく、繋がったまま上体を起こして花京院の首筋にキスをすると、彼は蛇のように悩ましげに身をくねらせた。
「もう一回したいのかい……」
はあはあ、と絶頂の余韻に、荒い息をこぼして彼が尋ねてくる。
そのとろりと潤んだ紫の目は、おれと同じように未だ欲望の炎が灯ったままだ。
彼の問いに素直にああ、と答えれば、花京院はわざと困ったような顔を作って見せた。
それから彼は芝居ががった動作でちらりと時計を見、大して時間がたってない、ということをおれに理解させる。
「……もっと長い時間、運動しないと効果がでないかもしれない」
君が言い出したんだから、付き合ってくれよ、と笑う花京院に、もちろん、と囁いて、おれたちはまたベッドの上で縺れ合った。
おしまい