
ぼくは、承太郎がぼくの体をおもちゃにするのが好きだ。
「あっ、あ、あ…い、やだっ…も、ゆるしてくれ…っ」
杜王グランドホテル324号室、既に日付を跨いでいるというのに煌々と明かりのついたスイートルームで、ぼくは承太郎とベッドの間に挟まれて、がくがくと体を揺さぶられていた。
獣みたいに交わるぼくと彼、二人分の体重をかけられても、スイートのベッドは軋みもせずに立派にその役目を果たしている。
汗みずくの尻を承太郎の大きな掌でがっしりと掴まれ、ぼくはどこにも逃げ場がない。
彼に与えられる快楽が体の中をぐるぐる回り、理性と言う名の防波堤にどっと押し寄せてくる。
そうこうするうちに快楽の波は折り重なり、増幅され、どんどんぼくを追いつめていく。
脳の芯までぐちゃぐちゃに犯されるような、激しい交接に気が遠くなる。
「いやいや言ってんじゃあ、ねえぜ…っ、こんなに、ぎゅうぎゅう締めやがって…」
オラ、と彼が腰を打ち付けると、思わずぼくの背が猫のように反り返る。
脳天からぴんと突っ張った爪先まで、背骨を通って甘い電流が流れ、プライドも羞恥心も、何もかもが白く焼け焦げていく。
彼を目一杯含まされ、伸びきった粘膜に熱い視線が注がれているのがわかる。
「あ、ああ、う、ん、んぅ、ご、ごめんなさぃ…っ、あ、あ、ああっ」
じゅぷじゅぷ、と結合部から卑猥な水音が立ち、ぼくの聴覚を犯す。
下腹に重くねっとりとした毒が溜まってゆき、ぼくはじっとしていられずに、承太郎の動きに合わせてめちゃくちゃに腰を振った。
「あ、あ、きもちっ…そこ、すき、もっと…」
あ、あ、と閉じ切らないぼくの口から、だらだらと涎が溢れている。
承太郎のペニスのくびれたところが、ぼくの気持ちいいところに当たってたまらない。
浅ましく体をくねらせ更なる刺激を求めれば、承太郎がぼくの願いを叶えてくれる。
彼に腰を抱え上げられ、下半身が完全にベッドから浮いた状態で後ろからガツガツ突かれると、気の狂いそうな悦楽が襲ってきて、もうどうしようもなかった。
「花京院、花京院…っ」
はあ、と熱っぽい息をこぼしながら、承太郎は何かに取り憑かれたように腰を振っている。
彼の性器が勝手知ったる様子で、ぼくの中を蹂躙していく。
幾度も幾度も彼を覚えこまされたぼくの体は、承太郎専用に作り替えられ、彼にぴったりと馴染んでいることだろう。
あの旅の頃、お互いにセックスの経験がなかったぼくたちは、おっかなびっくり体を繋げていたけれど、10年経った今では二人とも行為に慣れて、まるで獣のように互いを貪るようになっていた。
「じょうたろ、だめだ、そんなにしたら、でる…っ」
ふるふると頭を振り、シーツを強く握りしめながら、ぼくは形だけ彼に抵抗する。
当然承太郎はニヤリと笑って聞く耳を持たず、更にぼくを追い詰める。
体を無理に折り曲げられ、長大なペニスに犯されて、ぼくは啼く。
だが、彼はぼくが本気で嫌がっていないことを知っている。
ぼくも、彼が決してぼくに危害を加えないことを知っている。
だからぼくは安心して喘ぎ、腰をくねらせ、大騒ぎしながら体を弾ませる。
いくらぼくが淫らにいやらしく振舞っても、彼はぼくを嫌いにならないし、彼がいくら変態的な行為を望んだとしても、ぼくは喜んでそれに応えるだろう。
普段、寡黙だが紳士的な彼が、ベッドの上では箍が外れたように、ぼくをめちゃくちゃにしてくれるのが嬉しい。
ああ、お互いに素の自分を、恥ずかしげもなく晒け出せる関係の、なんと素敵なことか。
彼の大きな手が、ぼくの尻を割り開いている。
少し冷たい外気に触れて、後孔が緊張したようにきゅうと締まる。
それに気を良くしたのか、ぐぷぐぷと音を立てて承太郎のペニスが奥まで挿入され、ぼくは短い悲鳴をあげた。
気持ちいい、彼に征服され彼のものにされる喜びで、勝手に涙が溢れてくる。
「じょうたろ、すき、だいすきっ…あ、あ、ひっ、ひんっ」
上体をベッドに突っ伏し、必死に彼を受けとめる。
幾度となく擦られ、ぼくのそこはぷくりと柔らかく膨らんでいる。
ローションをしとどにかけられた会陰は、いやらしくてらてらと光っているのだろう。
律動のたびに屹立したぼくの性器は、馬鹿馬鹿しく揺れて腹にぶつかった。
「ああ、ほっといて、悪かったな…っ」
ふっと承太郎が笑って、ぼくの前に手を伸ばす。
彼のとは違って、勃起したときにしか露出しないせいで敏感な亀頭を、握りこむように刺激されると思わず声が上がる。
だが強烈な一瞬が過ぎ去ると、少しの痛みと途方もない快楽がごちゃまぜになった形容しがたい感覚が、どっと下腹に沸き起こる。
「らめっ、おちんちん、ぐりぐりするの、らめぇっ」
ひっ、ひっ、と犬のような短い吐息を漏らし、ぼくは腹筋をびくびくと引き攣らせた。
承太郎がぼくの尻を叩き、乾いた音が部屋に響く。
絶頂を求めてぼくの体はどこもかしこも甘く疼き、泣きだしたくなるような切なさに悶えるしかない。
熱く硬い楔を体内に突き入れられて、承太郎の屈強な体の下でもがくぼくの姿は、きっと目を背けたくなるくらい浅ましいんだろう。
「あ、あ、あっ、ひ、ひぅ、じょうたろっ、じょうたろぅ、う、うん、ふっ…」
繋がった部分から、体がドロドロに溶けてしまいそうな、途方も無い悦楽。
ふと見上げれば、心から尊敬する承太郎がぼくと同じように情けない顔をして、夢中になって腰を振っている。
ぼくの脚を蛙みたいに大きく開き、何度も何度も凶悪なペニスを打ちこんでいる彼を、ぼくは可愛い、と思った。
「あ、あはっ、も、イク、っん、ふ、ふっ、あ、ああっ」
身も世もなく喘ぎ、男のくせに承太郎に組み敷かれて、散々に犯されながらも、ぼくの口角は自然と上がっていく。
彼以外となら、舌を噛み切って死にたくなるような屈辱的な行為も、甘美な蜜にすり替わる。
承太郎の気高い魂も、その血統も、荒々しさの中に隠された優しい心も、神話の神様みたいな肉体も、ぼくは彼の全てを愛している。
きっと、この世の中のどこを探しても、ぼく以上に彼を愛している人などいない、と思う。
「か、きょう、いんっ…だして、いいかっ」
ぽた、と承太郎のシャープな顎を伝って汗が落ちてくる。
海と、タバコと、雄の匂いがする。
「うん、だしてっ…ぼくの、なかに…っ」
火照った顔で恍惚と笑み、承太郎に許可を出せば彼がスパートをかけてきた。
間髪いれずに次々に襲い来る衝撃に、ぼくの体はうろたえ、痙攣している。
いきなりズン、と骨盤が割れてしまうんじゃあないかというような最奥まで彼が入ってきて、ペニスの裏側を押されたぼくは勢いよく射精していた。
「あ、あ、ああ…」
瞬間、ぞっとするような、恐ろしいくらいの快楽がぼくの体を駆け巡る。
ぼくの意志と関係なく、勝手に後ろが彼の精液を求めて蠢き、望むままドクドクと中に熱が放たれる。
脈動する承太郎のペニスによって、押しだされるようにびゅっ、びゅっ、とぼくのペニスは再び白濁をまき散らし、心地よい疲労が降ってくる。
「っはあ……」
ゆるゆると承太郎は腰を振り、最後の一滴までぼくの中に注いでくれたみたいだった。
じわりと腹が温まる感覚に、胸がいっぱいになる。
「気持ちよかった…」
快楽で頭が馬鹿になっているのか、思わず本音がぽろりとぼくの口から出た。
言ってから、かあと頬が熱くなったが、承太郎は笑ってそうか、と答えてくれた。
承太郎はずるりと性器を抜いた後、飲み込み切れずぼくの後ろから溢れた精液を、指で掬い取って真剣な顔で中に塗りこめている。
「ふふ、どうもありがとう」
マーキングかい、と冗談交じりで問えば、承太郎はこくりと頷いた。
「お前は魅力的だからな」
お前がこの町で他の男に目移りしたら困る、と彼は言った。
「馬鹿だな、ぼくが君以外の人間を好きになるわけないだろ」
最近、連続殺人鬼を追っている彼は、精神的にも肉体的にも疲れているんだろう。
仗助君に体を治してもらったから、ぼくも彼のために働きたいと言っているのに、承太郎は許してくれない。
危険だからと、このスイートルームで財団と連絡を取るくらいのことしかさせてくれないのだ。
腹に負った傷はもうすっかり癒えているのに、彼は心配性だ。
「じきにこの事件が解決したら、二人で暮らそう」
承太郎はひどく愛おしげに、ぼくの左手の指輪にキスをした。
その仕草が、まるで宝物が壊れるのを心配する少年のようだから、ぼくはもう何も言えなくなってしまう。
仕方ない、この町にいる間は、ぼくはこのホテルから陰ながら君をサポートするよ、承太郎。
やれやれ、とぼくは心の中で呟いて、ぼくとお揃いの承太郎の指輪にキスをした。
おしまい