top of page

 

ぼくの体感では数ヶ月ぶり、実際には10年ぶりの愛撫は、実に丁寧かつ繊細で、その上宝石商が貴金属を扱うときみたいに、ある種の緊張感さえ孕んでいた。

 

「承太郎……さん?」

 

記憶より随分と落ち着いた雰囲気の彼に、戸惑いを隠そうともせずそう呼びかけると、ぼくの恋人は露骨に嫌な顔をした。

 

「その呼び方は慣れん、承太郎でいい」

 

そう言って不機嫌そうにしかめた眉の、角度が見知ったそれと同じで、ぼくはちょっと安心して少し体の力を抜く。

 

「じゃあ、承太郎……そんな、壊れ物を扱うような、手つきじゃあなくていい……」

 

初めてじゃあないのは、君が一番よく知ってるだろう、と言いながら段々恥ずかしくなってしまい、ぼくは火照った頰を見られないように俯いた。

 

「もっと、君の……したいように、してくれていいんだ」

 

は、と吐き出した息は熱く、ぼくの声は情けなく震えていた。

彼にそんなことを言いながら、本当は緊張しているのはぼくのほうなのだ。

ぼくだけの時が止まったまま、10年も過ぎていたなんて。

 

DIOに腹をぶち抜かれたぼくが意識を取り戻すと、年号は平成になっていた。

ジョースターさんはすっかりよぼよぼのおじいさんに、承太郎は成熟した大人の男に。

ゲームはぼくが知っているよりずっと技術が進んで高度になり、そしてこの前触らせてもらったパソコンには、本当にびっくりした。

好きだったアイドルは演技派女優になっていて、気にいりのバンドは解散していた。

 

目の前の恋人は、この10年で誰と出会い、誰と別れ、何を知ったのだろう。

ぼくの知らない10年。ぼくの知らない承太郎。

なぜだか、胸がぎゅうと苦しくなって、承太郎の体にすがりつくと、すぐさま強く抱き返され、ぼくは驚いた。

 

「花京院、おれはな……この10年、お前以外に誰も恋人を作らなかったんだ。一人もだ」

 

そっと耳に囁かれる承太郎の声は、低く掠れていた。

 

「だから、歯止めがきかなくなっちまいそうで……怖いんだ」

 

あんまり煽ってくれるな、と呟く彼の体は、強く抱きしめ合っていなければわからないほど、小さく震えている。

承太郎。ぼくは堪らなくなって彼を呼ぶ。

 

「待っていてくれて、ありがとう……ぼくを、好きでいてくれて、ありがとう……」

 

好きだ、と告げて唇を触れ合わせる。

そっと舌を差し入れられて、体にさざ波が走る。

10年のブランクがあるという承太郎のキスは、昔よりちょっと余裕がなくて、17のぼくとそう変わらない不器用さがぼくには嬉しかった。

 

啄むようなキスをしながら、優しく服のボタンを外される。

10年間日にも当たらず、運動もしてこなかったぼくの体は、随分と生白く薄くなっていて、ぼくは彼ががっかりするんじゃあないかとドキドキする。

大穴を開けられた腹は、仗助くんのおかげで傷ひとつないけれど、承太郎はじっとそこを見つめ、確かめるように念入りに撫でさする。

 

「くすぐったいよ……」

 

もどかしく腰をくねらせて強請っても、承太郎は昔みたいに性急にことを運ぼうとはせず、ゆっくりゆっくり、ぼくを蕩けさせていく。

既に屹立してたらたら涎をこぼすペニスには触れず、彼は臍のあたりを執拗に舐め、内腿で掌を遊ばせている。

小刻みに下腹が震え、熱が溜まっていく。体は彼を求めて、早くも切なく泣いている。

 

「ねえ、さみしい……」

 

脚で彼の体を挟み、いれて、と涙混じりに懇願しても、承太郎はまだだ、と断った。

 

「久しぶりだから、慣らさねえと……」

 

彼だってズボンの前を苦しそうに膨らませているくせに、承太郎は自分のことは構わず、熱い息を吐いてぼくのペニスをぱくりと咥え込んだ。

 

「あ、あ……っ、やっ、そんな、やめて」

 

びく、と腰が跳ね、ぼくは思わず彼の頭を手でのけようとする。

記憶の中で、その行為はぼくからすることはあっても、承太郎からされたことは一度もなかった。

過ぎる刺激に目の前がちかちかとして、羞恥に脳のシナプスが焼き切れる。

熱く、湿ったやわらかな粘膜。ぴちゃぴちゃ、という濡れた音。

 

「やだ、でちゃう、でちゃう……っ、も、だめっ」

 

ひっ、ひっ、と短い呼吸を繰り返し、腹筋が勝手に痙攣する。

下腹で欲望が解放を望んで渦巻いてる。

後ろは欠けた部分を早く満たして欲しくて、ヒクついている。

じゅ、と先端を強く吸われ、あ、と思った時にはもう、ぼくの体は凄まじい快楽の嵐に吹き飛ばされていた。

 

「あ……」

 

くったりと、絶頂の余韻に甘く痺れた体をベッドに沈めると、視界の端で承太郎の喉がゆっくりと上下するのが見えた。

 

「飲んだのかい……」

 

苦いだろう、とぼくが言っても、承太郎は嬉しそうににやにや笑っているだけだ。

さっきまで自信なさそうにしていたくせに、彼はもう昔の勘を取り戻したらしい。

悔しい。ぼくは重だるい体を叱咤して、承太郎の方へ近づいた。

 

「ぼくにも、やらせてくれ」

 

ジッと音を立ててジッパーを下げ、ぼくも承太郎のペニスに唇を寄せる。

17の時より、更に凶悪さを増した彼の性器は、ぼくの息が当たっただけで、ぴくりと反応を見せる。

10年もおあずけを食らって、きっと我慢が効かないんだろう。

かわいい、とぼくは思いながら、大きく口を開けてそれを食んだ。

 

口の中で味わう承太郎の性器は、汗と、先走りの青臭い味がする。

つるつるとした亀頭の感触は楽しい。

張りだしたエラのところは、ちょっぴり苦しい。

舌先でも彼のペニスに浮かんだ血管の走行がわかる。

それはドクドクと脈打っていて、つられてぼくの鼓動も早まる。

 

「ん、んぐ……む、んむぅ……」

 

喉奥まで招き入れると、やはり息苦しい。

唇に承太郎の豊かな下生えが触れ、くすぐったい。

 

ちらりと彼を窺うと、ふうふう荒い息をしながら、ぼくを見つめている。

欲に濡れた緑の瞳と目が合えば、彼は褒めるようにぼくの頭を撫でた。

ぼくは嬉しくなって熱心に舌を動かす。

もっと彼に気持ちよくなってもらいたい。

 

一生懸命に奉仕を続けていると、そろそろと彼の手がぼくの後ろに伸びてきた。

じんわりと温かい、サラサラした液体を塗り広げられる。

きっとローションなのだろう。

 

ぼくは承太郎がやりやすいように、そっと脚を開く。

そうして、欲しくてたまらないということをわかってもらうために、ゆらゆらと腰を振れば、承太郎の指が中に入り込んできた。

 

「どこで、そんないやらしい誘い方を覚えてきたんだ?」

 

10年も眠っていたのに、と熱っぽい目でぼくを見る承太郎は、段々と余裕を失って獣の顔が見え隠れしている。

 

「君が、仕込んだんじゃあないか……もう、忘れたのかい」

 

ちゅ、ちゅ、とペニスにキスを落としながら挑発的にそう笑うと、承太郎が急に後ろに咥えさせた指を増やした。

じゅぷじゅぷ、と卑猥な音を立てながら、中をかき回されると、思わずああっ、と悲鳴のような声があがる。

ぷるぷると内腿が震え、ぼくは尻だけを高く上げたまま、上体をベッドに突っ伏して身悶えた。

 

「も、もう……だめ、だっ、焦らさないで、はやく、いれてくれ……っ」

 

欲しい、と癇癪を起こしたみたいに、刺激を求めて尻をくねらせる。

早く早く、ぼくの内側を、奥を、体の中心を満たして欲しい。

壊れるくらい激しく、溺れるほどの愛で。

じょうたろ、と必死に名を呼べば、彼がぼくを引き寄せ、腰に手をかけて体を持ち上げた。

 

「久しぶりだから、気絶すんなよ……っ」

 

ずん、と彼のペニスの上に体を落とされ、串刺しにされる。

 

「う、ああっ」

 

強烈な刺激が背筋を這い上がり、目の前で眩しく光が明滅する。

声にならない叫びをあげ、ぎゅうと体の中に入り込んでいるペニスを締め付ければ、承太郎が低く唸ってぼくを揺さぶってくる。

すごい、すごい。頭がおかしくなる。体が吹き飛んでしまう。

 

「ああ、ああっ、あ、ひっ、ひぐっ、ん、んぅ、う、あ、あんっ」

 

間髪入れずに何度も突き上げられ、快楽の波が次々に襲ってくる。

熱い、焼ける。あまりの喜悦に恐怖さえ覚えるけれど、ぼくにはただ喘ぎ、体を震わせることしかできない。

承太郎をずっぽりと飲み込んだ箇所は、奥まで満たされて嬉しそうにきゅうきゅう彼を絞り上げている。

体の中に隠れた柔く弱い器官を擦られ、突かれるたび、ぼくの性器は栓を失ったみたいに、だらしなく蜜を零し、恥ずかしげもなくその身に感じている悦びを示していた。

 

「ああ、う、ううん、ん、んっ、んん、ひ、ひぅっ」

 

彼の首と腰に手足を絡ませ、キスをすると脳が浮くほど気持ちいい。

幸せがぼくの受容限度をやすやすと振り切ってしまい、承太郎のこと以外何も考えられない。

一ミリでも近くに、全身で彼を感じたくて、夢中で腰を振ると彼の律動が激しさを増す。

ぼんやりとした視界に映る承太郎も、顔を赤くして、余裕なく動物みたいに唸っていて、ぼくはますます彼が好きになる。

 

イク、と髪を振り乱して彼に告げれば、おれも、と返される。

どんどん腰を打ち付けられる間隔が短くなり、体が弾む。

ぼくの尻と彼の下腹がぶつかり合う、パコパコ、という乾いたいやらしい音に頭がぼうっとなる。

気持ちいい。溶けてしまう。

 

「も、イク、イっちゃう、あ、あっ、じょうたろっ、あーー」

 

ガクン、と首が仰け反り、体が波打つ。

ぼくのペニスから欲望が弾け飛んで行く。

頭が真っ白になり、背筋から脳天まで一息に喜悦のシグナルが通り抜けた後、更に下腹からじわじわと、今度は重くねっとりとした快楽が全身に波及する。

承太郎がぼくの中で、精液を出してくれたんだろう。

 

「ああっ、ひ、あつい、あ、ああっ」

 

びく、びく、と会陰は絶頂に震え、承太郎の放った体液を貪欲に飲み込んでいる。

腰から下がガクガクと痙攣し、足に力が入らない。

腰を上げて承太郎の性器を抜くこともできず、ぼくは彼の射精が終わるのを、ぶるぶる震えながらじっと待っていた。

 

「はあ、あ、お、終わった……?」

 

しばらくして、ぴゅ、ぴゅ、と奥に打ち付けられていたのが止まり、ぼくは荒い息を吐いている承太郎の様子を伺った。

 

「ぼ、ぼく……久しぶりで、腰が、その、抜けてしまったみたいで……立てないんだ」

 

悪いけど、運んでくれないか、と頼もうとして、しかしそれは彼の突然の突き上げによってかなわなかった。

 

「ああ゛っ!?な、なにっ、あ、あはっ」

 

ずんずん、と再び激しく奥を突かれ、裏返った変な声が出てしまう。

焦って承太郎の胸を押すと、強く抱きしめられた。

 

「すまん、久しぶりで、我慢がきかねえ……っ、は、もう、ちょっとだけ……」

 

そう言って承太郎は思い切り腰を打ち付けてくる。

ばすん、ばすん、と荒々しく突かれ、ぼくは目を剥いた。

 

「は、はひっ、やら、も、やらぁっ、あ、ああっ、ひゃっ、らめ、らめっ」

 

承太郎はお構いなしに、唸りながらぼくを追い詰める。

騎乗位で腰をがっしりと掴まれると、足が攣って力の入らないぼくには、逃げ場などない。

 

「ゆ、ゆるひて、ごめ、ごめんなしゃいっ、も、むり、やら、やっ」

「わるい、かきょういんっ、うあ、すげえ、でちまう……っ」

 

子供みたいにいやいやとむずがり、頭を振るぼくを許さず、再び承太郎がびゅるるっと熱を吐き出す。

最奥に打ち付けられるその熱さと、圧倒的な力に吹き飛ばされ、それから先のことはよく覚えていない。


 

気がつくとあたりはすっかり明るく、ぼくは蛙みたいに開いた足をビクビク引きつらせていた。

ベッドは精液でぐしゃぐしゃで、青臭い匂いが部屋に充満している。

 

「起きたか」

 

と呟く恋人は、その長大なペニスをぼくの口に咥えさせており、ぼくはそれで呼吸が苦しくなって起きたらしかった。

後ろからは、ごぽりと大量の精液が溢れ、散々嬲られたそこは今でも何かが入っているような変な感じがする。

 

「無理させて悪かった……10年分は、毎日、ちょっとずつ取り返していこうな」

 

と承太郎は甘く囁き、優しく頭を撫でてくれる。

それに対するぼくのうん、という力ない返事は、ペニスをしゃぶっているせいで、鼻にかかった情けない音になってしまったけれど、彼には十分伝わったらしく、満足そうに細められた承太郎の瞳に、ぼくは全てを許してしまうのだった。

 

おしまい

bottom of page