「おっ」
花京院は色鮮やかな商品が並ぶ異国のバザールで、透明な小ぶりの瓶を手に取った。
蜂の絵が描かれているその瓶の中身は、おそらく蜂蜜なのだろう。
中に詰められた琥珀色の液体はとろりと美しく輝き、花京院は知らずこくりと喉を鳴らした。
先ほど別の店で購入した紅茶に入れてみようと、花京院は店員にコインを渡し、瓶を受け取った。
ジョセフが金に糸目をつけずに選んだホテルは広々としており、部屋の雰囲気に溶け込むように統一された調度品はどれも品が良く、うるさく存在を主張しない。
車中泊や野宿が続いた後のホテルというのは、心を浮き立たせるものだなと花京院は思った。
敵の襲撃を考慮して、今日は承太郎と二人部屋だが、彼はポルナレフと違って夜中まで騒がないし、学生同士ということもあって花京院は気安さを感じていた。
少し近寄りがたい印象だが、承太郎は話してみれば存外、年相応な部分もあって好感が持てるのだ。
そうだ、せっかくだから承太郎にも紅茶を入れてやろう、と花京院は湯を沸かし始めた。
買ってきたばかりの茶葉からは芳醇な香りがたちのぼる。
その馨しい香りに気を良くして、花京院は鼻歌を歌いながら、蜂蜜の蓋をあけた。
むせかえるほどの甘い匂いが鼻腔をくすぐり、花京院はその誘惑に負けて、重たい蜜を指にとると、ちろりと舌先でなめた。
途端、花の香りがふわりと口内に広がり、とろけるような甘さに思わず口角が上がる。
最後にぴり、と舌がしびれるような不思議な感覚があり、花京院はおや、と首をひねったが、深く考えずに紅茶を淹れる作業に戻った。
後にこの選択を後悔することになるなど、彼には知る由もなかった。
「どうぞ」
湯気の立つ目にも色鮮やかな紅茶を、備え付けの茶器に入れて承太郎へと差し出す。
きちんと礼を言ってカップを受け取る彼に、花京院は育ちの良さを感じて微笑んだ。
「蜂蜜を入れてみたんです、疲れが取れますよ」
そう言って花京院が紅茶に口をつけると、承太郎も興味深そうにカップの中身を口に含む。
しかしすぐに承太郎は妙な顔をして、まじまじと花京院を見つめた。
「どうしたんだい?」
「…」
承太郎は少し考え込んだ後に、花京院に紅茶と蜂蜜を持ってくるように言った。
花京院がそのようにすると、承太郎はまず紅茶の葉を検分した。
すぐになんともないな、と彼は呟いてから今度は蜂蜜の瓶をあけると、中の液体をすくい取って舐める。
その男らしい無骨な指が、ぽてりと厚い承太郎の唇に含まれるのを見て、何故だが花京院は体が熱くなるのを感じた。
承太郎は眉間にしわを寄せて、蜂蜜の味を確かめた後、どこでこれを買ったのか尋ねてきた。
「バザールの、小物が乱雑に並んだ小さな店です」
花京院が答えると、承太郎はにやりと笑った。
「おめーは知らないで買ったんだな」
「何をです?」
質問には答えずに、承太郎は花京院の腕をぐいと引っ張ると、乱暴に彼の唇を奪った。
突然のことに花京院が動けないのをいいことに、承太郎は歯列を割ってねっとりと舌をからませる。
じわと強烈な甘みと、先ほどよりも強いしびれを感じる。
くらりとするような甘い香りが鼻に抜け、花京院はくぐもった声を漏らした。
唾液とまじりあった蜜を流し込まれ、思わず飲み込んでしまう。
「ぁっ…」
蜜が滑り落ちた喉が焼けるように燃え、花京院は苦しげに眉を寄せた。
「なに…っ」
承太郎は笑ったまま、花京院をベッドへ押しやる。
もつれながら倒れ込むと、スプリングが二人分の体重を受けてきしんだ。
呼吸を荒げている花京院の制服を、承太郎は手早く脱がせると、その白い肌に蜜を垂らしていく。
「おめーの言うように、この蜂密は疲れなんか吹き飛ばしてくれるぜ」
ねっとりとした黄金色の蜜が花京院に滴り落ち、部屋中に広がる濃厚な甘い香りに眩暈がする。
承太郎の濡れた舌が、蜜をたどるように花京院の肌を舐めあげて、花京院は思わず嬌声をあげた。
「ん、う…っ……あ…あ、やだ、じょ、たろ…」
ちゅくちゅくと蜜を舐めとる小さく卑猥な音が胸のあたりから聞こえ、花京院は頭を振る。
承太郎は上目で彼の媚態を眺めながら、気にせずに愛撫を続けた。
蜜を塗られた箇所が火照り、花京院は小刻みに体を震わせながらうろたえた。
「くっ、ぅあ…ッ…ね、ねえ、これ何…っ、体、熱い…」
林檎のように頬を真っ赤に染めて、息も切れ切れに尋ねる花京院に、承太郎はさあなと答えた。
「すぐにわかる……」
そう言って、桃色に色づく胸の突起を口に含むと、花京院の体が面白いように跳ねる。
内腿がじんと痺れ、体中に微細なとげをもった電流が走りまわっているような感覚に花京院は焦った。
もどかしい刺激に体が疼き、泣いて承太郎にもっと、とすがってしまいそうだ。
下半身に重く熱がたまり、花京院のそれはズボンのなかで苦しげに硬度を増していた。
もじ、と腿をすりあわせた花京院に気づき、承太郎が花京院の中心へと手を伸ばす。
「ひああッ…だめ、やめて、承太郎…ッ」
布ごしでもはっきりと張り詰めているのがわかるそこは、切なげに滴をこぼして下着を濡らしていた。
ベルトをはずし、邪魔な衣服を下着ごと一気に取り去ると、花京院のペニスが勢いよく飛び出す。
「すげえな…」
感嘆の声をもらす承太郎にそこを握りこまれると、花京院は羞恥心でどうにかなってしまいそうだった。
ぐちゅぐちゅといやらしい水音が嫌でも耳に入ってきて、花京院は必死に声を出すまいと両手で口を覆った。
「ンぁっ…ああっ…」
しかし承太郎がそこにも瓶の蜜を傾けて、強く扱きあげると、熱い粘膜からも蜜が滲みいってくるようで、堪えがたい悦楽に花京院の意識は溶けていく。
「あああ…ああっ、ああっ…」
開いたままになった花京院の口からは、蜜よりも甘い声が漏れ、その唇の端からつうと唾液がこぼれた。
どこもかしこも淫らに染め上げられた花京院の肌は薔薇色に色づき、蜜のせいか、彼の体から砂糖のように甘い香りがする。
精液と蜜でべたべたになった指を、承太郎が花京院の口元へ持っていくと、もはや理性を失った彼はぼんやりと承太郎の指を舐めしゃぶった。
「んく、んっ…っは…」
ちろちろと花京院の熱い舌が指先を這いまわり、その倒錯的な光景に承太郎は喉を鳴らした。
花京院の瞳は飴のようにとろとろと溶け、潤んでいる。
「うまいか?」
夢中で蜜を舐めとる花京院に愛しげに囁くと、こくりと彼が頷く。
抵抗なく承太郎の愛撫を甘受するようになった花京院をそっと横に倒すと、承太郎は彼の尻へと手を伸ばした。
自分が何をされているのか、もはやわからない花京院は、はあはあと可愛らしく荒い息をこぼして胸を上下させている。
誰も触れたことがないだろう、花京院の淡い蕾に指を滑らせると、彼が不安げに体をこわばらせる。
なだめるように花京院の体中にキスを降らせながら、優しく入口をこすると、ゆっくりとではあるがゆるゆると蕾がほどけてゆく。
「ふあ…っ、はあ…ん、ん…」
承太郎から与えられる刺激を、シーツをにぎってけなげに耐えている花京院に、胸が締め付けられるような愛しさを感じながら、承太郎は指をさしいれた。
少しの抵抗の後に、蜜の滑りを借りてずぷずぷと指が飲み込まれていく。
未知の感覚に震える花京院をいたわりながら、ゆっくりと抜き差しすると彼の熱い粘膜が蜜をからめた指にまとわりつき、蜜を奥へ奥へと呑み込むように蠢いた。
「…甘いか?」
快楽にとろけた花京院に尋ねても、答えにならない喘ぎが返ってくるだけだった。
きっと彼はアルコールを注ぎ込まれたような、体を燃やす熱さに翻弄されているのだろう。
柔らかくほころんだ花京院のそこに、熱く猛る自身をすりつけると、快楽に溺れていた花京院の瞳がはっと見開かれる。
グロテスクに血管が浮き出たそれを見て、花京院が小さく、こわいと声を漏らした。
「…俺が怖いか?」
子供にするように優しく尋ねると、花京院はふるふると首を振った。
「…違う…気持ち良すぎて、僕がどうにかなってしまいそうで、怖いんだ」
手を握っていてくれないか、とおずおずと頼む花京院に、承太郎はしっかりと指をからませてその手を握った。
「…俺だってどうにかなっちまいそうだ」
と熱っぽく花京院の耳に吹き込むと、君と一緒なら怖くないかもしれないなと花京院が笑った。
「…いくぞ」
ぐぐ、と腰に力を込めると、花京院がぎゅうと承太郎の手を握る。
蜜でどろどろになった花京院の体内に入り込むと、承太郎は脳髄までしびれるような甘さに溺れた。
触れ合った二人の粘膜は溶けるように熱く、律動のたびにぐちゃぐちゃと淫らな音が響く。
熱に浮かされながら、花京院がキスして、と呟いたのを聞き洩らさずに、承太郎は噛みつくようにその唇をふさいだ。
「…んっ……ふあっ…ん、は…」
呼吸のために唇を離すたびに、花京院から鼻にかかった喘ぎが零れる。
どちらの舌も蜜で犯され、吐息さえも甘い気がした。
承太郎が動くたびに、花京院の体には快楽のさざ波がおこり、じっとしていられない。
狂いそうな悦楽に浸かり、花京院も夢中で腰を振った。
「花京院、花京院…」
何かに憑かれたように、花京院の名を呼びながら彼を突き上げる承太郎に、答えるように嬌声をあげながら、体内を駆け巡る恍惚の波に花京院は支配されていた。
「あああ、ああっ…きもち、いいっ…すごく…ああっああ、あっ…じょうたろっ…おかしくなる…っ」
蜜を吸って焼けるように熱い承太郎のペニスが、荒々しく花京院の体を開いていく。
ガツガツと奥をえぐられて、思わず花京院の腰は浮きあがっていた。
「あっ、ああっ、んああっ…あ、あつ、い…あ、あああっ…」
理由もなく涙があふれ、花京院の頬を伝う。
今まで感じたことのない快楽を前に、ただ喘ぐことしかできない。
空いたほうの手で、なんとか承太郎の首筋にすがりつきながら、花京院は絶頂の予感を感じていた。
「も、もうだめっ…んっ、イクっ…うあ、ああっ、あっ…う、んんっ…!」
下腹のあたりから全身に強烈な電流が流れ、びくびくと腹筋を波打たせながら、たいして触れられてもいない花京院のペニスからは勢いよく白濁が吐きだされた。
しかし、彼が精液を出し切るのを待たずに、承太郎は奔馬のように腰を振った。
「ああっ…じょうたろ、ちょ、ちょっと待って、ああっ…ああ、ああっ…」
いまだに痙攣し続ける花京院の肉壁に、途方もない快楽を感じながら、承太郎は乱暴に花京院を突いた。
「あああっ……あ、うあっ…っん、んん…ああっ…あっ、あ…」
いいように嬲られる花京院の姿に、承太郎は自分の中の支配欲を煽られながら、こいつは俺のものだと思った。
雁字搦めにしめあげて、俺しか見えないようにしたい。
自分でも気付かなかった残酷な一面にぞくりとしながら、承太郎は花京院の最奥を穿った。
弾かれたようにまた花京院の体が大きく跳ねて、強烈な締めつけが襲い、承太郎は抗わずに彼の中に奔流を叩きこんだ。
二人分の精液と、蜂蜜でドロドロに乱れたシーツの上で、花京院がぐったりとその体を横たえている。
無事だった毛布をかけてやると、花京院が恨めしそうな顔を向けた。
「あの蜂蜜、なんだったんだい…?」
自分の媚態を思い出したのか、恥ずかしそうに尋ねる花京院に承太郎は笑った。
「舐めてわからなかったか?」
承太郎の顔を見ていられずに、花京院は顔を伏せた。
全然わからなかったよ、と悔しげに呟く花京院が愛しい。
「瓶に小さくかいてあったぜ」
ラブ・ポーションってなと承太郎が花京院に囁くと、彼は耳まで真っ赤に染め上げた。
俺は最初、知らん顔でおめーが混ぜたのかと思ったぜという承太郎に、得意の肘鉄を食らわせて、花京院はベッドへと顔をうずめた。
「疲れが取れただろ?」
とうそぶく承太郎に、逆に疲れたよと花京院が返して、それから二人はすぐに眠りに落ちた。
おしまい