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誰だって、久しぶりに抱けると思った恋人が、ベッドで一人で先に眠っていてしまったら、イタズラの一つもしたくなるというものだろう。

おれはベッドの下にある、花京院も知らない秘密の引き出しを開けて、中からアイマスクと手錠を引っ張り出しながら、そんなことを考えていた。

 

 

ここ数ヶ月はどういうわけだか、おれも花京院もスタンド絡みの案件がぽつりぽつりと入り、それが場所も日時も少しも重ならないせいで、おれがフランスに行っている間に彼は仙台だとか、おれが日本に帰国したと思ったら今度は彼がニューヨークに出立だとかで、すれ違う生活が続いていた。

全く花京院に会えないせいで、おれの性欲は溜まりに溜まり、電話越しに聞く花京院の声だけで危うく射精してしまいそうなほどであった。

 

 

だから、ようやく二人してもぎ取った念願の休暇には、彼を溶けるほど抱こう。

そしてそのあとは二人でどこかに出かけたり、一緒に食事をして……とにかく、おれには彼としたいことが山ほどあった。

 

 

しかし、東京で仕事をしていたおれと違い、遠い異国で毎日気を張っていた彼は、心底疲れているようだった。

ぎゅうと抱きしめた体は記憶より随分と痩せていて、いつもの花の香りではなく、大都会の無機質なにおいがした。

 

 

「疲れてんのか」

 

 

と問えば、彼はゆるく首を振った。

 

 

「なんだかほっとしたんだ。この家に帰ってきて、君にあってさ」

 

 

花京院はおれの胸へ顔を埋め、目を閉じてしばらくじっと動かなかった。

それから、ゆっくりおれの匂いを吸い込んだ後に

 

 

「…お風呂、先に入らせてもらうよ。上がったら、その、しよう…」

 

 

と恥ずかしそうに言って、パタパタとバスルームへと向かってしまった。

 

 

 

 

それがどうだ、おれも入れ替わりに風呂に入り、バスローブ一枚ひっかけて出てきたら、恋人がベッドの上で寝息を立てているのだ。

もう既に少し反応していた自身が、がっくりと項垂れるのがわかる。

 

 

しかし、あどけない顔で眠る彼の横顔――すっと通った鼻梁や、柔らかそうな薄い唇、湯上りで上気した頬を見ているうちに、再び体に熱が燻ってゆく。

 

彼がとても疲れているのは、目の下にうっすらとできた隈からもわかるが、空腹で死にそうな時に、目の前に極上の体を置かれたままおあずけされて、おれは我慢の限界だった。

少しくらいつまみ食いしても、ばちはあたるまい。

 

 

おれは彼のパジャマを脱がせて膝を立てさせると、ベッドの下から取り出した手錠で、花京院の右の手首と足首、それに左の手首と足首を一纏めにしてしまう。

それから傷痕の残る瞼をアイマスクで覆い、彼から完全に視界を奪った。

 

 

いつもおれに抱かれて淫らに咲き誇り、悶え狂う彼が、体を拘束され、目からの情報を奪われたなら、どういう反応をするのかおれは知りたかった。

おれの愛撫にすぐに気づき、いつもと変わらず振る舞うのか、それとも見知らぬ誰かに組み敷かれる恐怖に怯えて震えるのか…

どちらにしても、おれは早く彼の体を余すことなく味わいたくて、堪らなかった。

 

 

しばらく抱いていなかったせいで、一つもキスマークのない、真っ白な首筋を舐めあげると、ぴくりと花京院が反応した。

しかし、いまだ彼は夢の中にいるようで、穏やかな寝息のリズムは変わらない。

 

おれは気にせず、ちゅ、ちゅと何度も啄むようなキスを落とし、それから少し強く、跡が残るように鎖骨の上に吸い付いた。

じゅう、と音を立てて薄い皮膚を吸えば、小さな紅い花が彼の首に咲く。

 

それに満足して目を細めると、おれは今度は彼の胸を両手でゆっくりと揉み始める。

 

女のものとは全く違う、筋肉に覆われた胸は、しかししっとりとおれの手に馴染んだ。

両手で寄せ集めても、少女ほどの膨らみもない彼の胸が、おれは好きだ。

 

おれが毎回散々いじめるせいなのか、中心でぷくりと膨らんでいる乳首を爪で弾いてやると、花京院の息が乱れる。

小さく甘い呻きが漏れるのが嬉しくて、先端をかすめるように素早く指を動かしたり、絞るように強く摘んでやれば、花京院はもじもじと膝をこすり合わせた。

 

見ると彼のペニスはゆるく勃ちあがり、桃色の先端からじわりと粘液をこぼしている。

 

ねっとりとした先走りを、先端に塗り広げるように指を動かしながら、おれは子供のように彼の胸を吸った。

小さな突起を唇で挟み、ちゅうちゅうと吸えば、母乳など出るはずもないのに、口の中に甘く切ない味が広がっていくような気がする。

 

 

はあはあ、と次第に花京院の息が浅く短くなり、大きな傷の残る腹が、呼吸に合わせて上下する。

薄い茂みの中で屹立した彼のペニスが、随分と切なげに震えて涙をこぼしているので、おれはかわいそうに思って、自分の口の中に招いてやった。

体温の高いおれの頰の粘膜に包まれた瞬間、びくりと彼の内腿が引きつり、花京院が声を上げる。

 

 

「あ、あっ…な、何?じょ…たろ…?」

 

 

ガチャ、と手首に巻かれた鎖が鳴り、花京院は狼狽えた。

 

 

「な、にも見えない…それに、これ、手錠かい?」

 

 

彼は自分の置かれた状況に、困惑しているようだった。

そりゃあそうだ、自宅でゆっくり眠っていたら、いきなり拘束されて、目隠しされて、その上ペニスを口に含まれているのだから。

 

 

「なあ、承太郎なんだろ…返事してくれよ…」

 

 

不安げに揺れる花京院の声に構わず、おれは彼が何をされているかわかるように、卑猥な音を立ててペニスを吸ってやる。

途端、花京院は甲高く鳴いて、不自由な手足をジタバタと動かした。

 

 

「ひっ…い、いやだっ…これ、取って、取ってくれよ!」

 

 

ぎゅうぎゅうと内腿で顔を挟まれても、おれは彼の足を無理やり開かせ、口淫を続けた。

段々と花京院の喘ぎが悲痛な色を帯びてくる。

 

 

「や、あ、あぁっ、だめ、だめっ…ひぐ、ん、んぅ、うぅ…」

 

 

じょうたろ、じょうたろ、とおれの名を呼ぶ花京院は、涙で瞳を覆う布の色を、いっそう濃いものへと変えていた。

 

 

「へ、返事してっ…じょうたろっ、こんなの、やだ、ひっ、ん、んあっ…でちゃう、やだ、やだぁっ…」

 

 

びくん、と花京院の体が跳ね、彼の背が弓なりにカーブを描いて腰が浮く。

緊張した下腹の筋肉が痙攣し、花京院は悲鳴をあげて、おれの口の中にねっとりとした液体を吐き出した。

 

 

「うあっ…あ、あ、あぁ…」

 

 

びゅくびゅくと勢いよく喉に打ちつけられる彼の精液に、思わず眉間に力が入る。

絶頂の余韻に痺れている彼の体から口を離し、おれは舌先で白濁を味わった後、何度かに分けてその粘度の高い体液を飲み干した。

こくり、こくりと嚥下するたびに、彼の精液が喉に絡みつき、青臭い匂いがする。

あまり自慰はしていなかったのか、随分と濃厚ないやらしい味に頭がくらくらした。

 

 

荒くせわしない呼吸をしている花京院が、ぐったりと体を弛緩させているのをいいことに、おれは彼の膝を開くと、そこにたらたらとローションを垂らした。

いきなり急所に冷たい液体をかけられたせいか、彼の体が驚いたように強張る。

 

 

「ひっ…き、君は、誰なんだっ…承太郎じゃあ、ないのか?」

 

 

ぬるぬると彼のペニスに、やわらかい陰嚢に、そして慎ましやかに閉じている蕾にローションを塗りたくっていると、不安げに花京院が尋ねる。

どうやらおれがいつまでたっても返事をしないので、不審に思っているようだ。

 

 

おれはなんだか少し意地悪をしたくなって、彼に応えないまま、いつもより少しだけ丁寧に、時間をかけてそこをほぐしていく。

彼に、ぐるぐると考えを巡らせる時間を与えるように。

 

 

「なあっ、承太郎じゃあ、ないなら…あ、あぅ…こんなこと、すぐ、やめるんだ…」

 

 

花京院は怖いのか、不自由な手で強くシーツを掴んでいる。

 

 

「ぼくは…ひっ、うぅ、ん…承太郎の、もの、なんだ…だ、だから、ひぎっ」

 

 

ぎゅう、と勃ちあがったペニスの根元を締めつけてやると、花京院が息を飲んだ。

普段、可愛らしく甘えてくる彼が不安に揺れている姿は、たまらなくおれの劣情を掻きたてる。

我慢できずにおれは彼の太腿に口づけを一つ落とし、自身の先端をひくつく後孔にあてがった。

 

 

すると途端に、彼がものすごい勢いで暴れ始めた。

 

 

「わああっ、やだ、やだっ!承太郎、承太郎っ、たすけてっ」

 

 

ギシギシ、とベッドのスプリングを大きく揺らし、彼が拘束された体でもがく。

おれが驚いて怯んだすきに、彼の体から何十本もの緑色の触脚が伸びてきた。

 

 

「うおっ」

 

 

思わず声を出し、スタープラチナでとっさに防御すると、ぴたりと花京院が抵抗をやめた。

 

 

「…承太郎」

 

 

ぽつりとおれの名を呟いて、花京院は子供のように肩を震わせて泣き始めた。

おれは焦ってすぐに目隠しを取ってやる。

 

 

「うわああああ、承太郎のばか、ばか…うえっ、ひっく、怖かった…ううっ、うう〰〰〰」

 

 

菫色の瞳がおれをとらえた瞬間、花京院が安心したようにほっと脱力するのがわかる。

横長の理知的な目に涙をいっぱいに溜め、彼はしゃくりあげた。

 

 

「どうして、返事しないんだいっ…ばか、ばか…」

「わりい、すまねえ…こんなに怖がると思わなかった…」

「怖いに決まってるだろっ、ひどい、嫌いだっ…どいてくれっ」

 

 

花京院はガチャガチャと鎖を慣らして、膝でおれの腰を蹴ってくる。

 

 

「すまねえ、怖がらせて悪かった…花京院、許してくれ…嫌いにならないでくれ」

 

 

おれは彼が先ほど言った「嫌い」というワードにかなりショックを受けていた。

手が使えないせいで、涙で汚れた花京院の顔をぬぐってやると、彼が恨めしげにおれを見る。

 

 

「…本当に反省してるかい?」

「反省している、本当に悪かった…」

「…もうしない?」

「しない、絶対にしない」

 

 

花京院はおれを探るようにじっと見つめた。

それからたっぷりと間をとってこう聞いてきた。

 

 

「…………ぼくのこと、どう思ってる?」

 

 

からおれは間髪いれずにこう答えた。

 

 

「愛している」

 

 

すると、花京院のへの字に曲がった口が、ほんのちょっぴりだけ上を向いた。

 

 

「もう一回言ってくれ」

「…花京院、愛している」

「もう一回」

「好きだ、愛している、お前だけだ、お前がいないと死んじまう」

 

 

思いつく限りの愛の言葉を囁くと、花京院は不機嫌そうな顔を作るのに苦労しているようだった。

 

 

「…じゃあ、特別に今回だけ、許してやろう」

 

 

仕方ないなあ、と呟く花京院を抱きしめると、それより早く枷をとれ、と彼がせっついた。

花京院の体から拘束を外すと、彼がおれの背に手を回す。

 

 

「お詫びに、ちゃあんと気持ちよくしてくれよ」

 

 

にやりと笑って体を擦りつけてくる花京院が愛しく、おれはもちろん、と返事をすると一息に自身を突き入れた。

ああ、と切なく花京院が鳴き、彼の長い脚がおれの腰に絡められる。

 

花京院が挿入に馴染むのを待たずに腰を振りたくると、おれの体の下で彼が快楽に喘ぐ。

 

溶けてしまいそうなほど熱い彼の粘膜に包まれ、瞼の裏で光が散る。

全身の毛が逆立ち、半身を得て体が歓喜にわく。

何もかもがぴったりと合わさる、途方もない安心感におれは息を吐いた。

 

 

「ああっ、じょうたろっ、もっと、おく、あ、ああっ、そこ、きもちぃ、うあぁっ」

 

 

おれに揺さぶられて、花京院の開きっぱなしになった大きな口から唾液が顎を伝っていく。

狂おしくしかめられた眉が愛しく、おれは彼の肌に浮かんだ汗を舐めとった。

少し塩辛いその味に、頭が痺れていく。

 

 

ぎゅうぎゅうと締めつける肉を掻きわけ、彼も知ることのない奥までおれの形を覚えこませようと、腰を沈ませる。

存外やわらかな彼の体を折り曲げ、体重をかけて突き上げれば、花京院が悲鳴を上げた。

 

もうだめ、ゆるして、と懇願する彼に構わず、腰に響くような重たい一撃を何度も奥に与えてやると、おれの背に爪を立て、切れ切れに喘ぎながら花京院が精を跳ねあげる。

すぐに襲い来る目のくらむような強い締めつけに、おれも低く呻いて彼の中に熱を放った。

 

 

 

 

夜中にふと目が覚めて隣を見ると、すうすうと小さな寝息を立てて恋人が眠っている。

おれは腕の中に花京院を抱え込み、彼の存在を確かめようと肺いっぱいに空気を吸った。

帰ってきたばかりの時と違い、おれと同じシャンプーの匂いになった彼に、愛おしさで胸がいっぱいになる。

 

おれは彼のつむじにキスを落とし、この幸福がずっと続くように、彼が変わらずおれを好きでいてくれるようにと願いながら、再び眠りに落ちていった。

 

 

おしまい

 

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