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ぼくは一つだけ魔法が使える。

やり方はとっても簡単、承太郎の目を見て呪文を唱えればいい。

 

「星が見たい」

 

ってね。

 

そうすれば、承太郎はにやりと笑って、服を脱ぎ出す。

そう、この呪文を唱えると、ぼくは承太郎とベッドの上でなかよくすることができるんだ。

すごいだろう。

 

 

 

最初は、本当にただ、言葉通りの意味しかなかった。

ジョースター家の人間には、みな首筋に星の形の痣があるというから、それに興味を持ったぼくが、見せてくれとせがんだのが始まりだった。

別にいいぜ、と承太郎は学ランを脱ぎ、その美しい星を、惜しげもなくぼくの眼前に晒した。

 

「本当だ、すごい」

 

あまりにも綺麗で、ともすると刺青のようにも見える、その星にぼくはすぐ夢中になった。

何度も星をねだっているうちに、ぼくは次第にじっくりと眺めるだけでは満足できなくなってしまい、彼の星を手に入れようと躍起になった。

 

彼の体で輝くその星を、穴の空くほど見つめ、そっと掬うように掌を動かす。

星の輪郭をつつ、と指で形をなぞれば、承太郎がくすぐったいと笑った。

 

「綺麗だなあ…」

 

引き寄せられるようにふらふらとぼくは顔を近づけ、レロ、とその星を舐めた。

途端びくりと彼の体が跳ねる。

 

しかし熱に浮かされたぼくの脳は、構わずそこを執拗に舐め続けた。

舌先にじわりと感じる、彼の少し塩辛い汗の味に、体が熱くなる。

 

はあ、と吐息を溢して、堪らず肩口に噛みつけば、承太郎がぼくの体を後ろのベッドに倒した。

 

「どうした花京院…サカってんのか」

 

長旅で頭が変になったか、と問う承太郎の方こそ、いつもとは様子が違って見えた。

 

「わからないよ…もしかしたら、もうずっと前からおかしいのかもしれない」

 

君に助けてもらってから、ぼくは変だ。

君と上手く話せないし、君の前だとちょっと格好つけてしまったり、とにかく平静でいられない。

そう訴えれば、承太郎の肉感的な唇が、ぼくの言葉を奪っていく。

 

「それは、恋ってやつじゃあねえのか」

 

ぷちぷちと学ランの釦を外されながら、ぼくは考える。

そうか、ぼくは君が好きだったんだ。

 

肉食獣が獲物を食らうときみたいに、承太郎がぼくの上に覆い被さる。

下腹を甘く愛撫されて、嬌声があがる。

 

承太郎の大きな掌が体を這い回り、ぼくも知らないスイッチを次々に押すたび、ぼくは女の子みたいな声をあげて腰をくねらせる。

ぼくはただ、彼に演奏されるためだけに存在するピアノのようだ。

 

彼の熱い楔を打ち込まれ、体を揺さぶられている間、ぼくはずっと、彼の血統を示す星を見つめていた。

 

 

 

それから、星の観測はぼくの日課になった。

 

ぼくは魔法の言葉を唱え、彼の星を飽きず眺める。

晴れの日も、雨の日も、承太郎の星は常にそこにあって、ぼくを照らす。

 

でもやっぱりぼくが一等好きなのは、ぼくと繋がっているときの星だ。

興奮のために桃色に染まり、汗ばんだ肌の上の星は、不思議な色を帯びている。

星に爪を立てないように彼にすがりつき、ほくは恍惚と今日も天体観測に励む。

 

「…なに、見てやがる」

 

その日もいつものように、うっとりと星を眺めていると、はっ、はっ、と荒く短い息を溢しながら、承太郎がぼくに尋ねた。

 

「あっ、あ、あっ…いや、き、みの、ふっ…星、をね」

 

ゆさゆさ、と小刻みに揺さぶられ、喘ぎ喘ぎぼくは答える。

快楽に浸かって蕩けた脳では、上手く言葉を作れない。

 

彼を含ませられた箇所が燃えるように熱く、承太郎を飲み込もうと、貪欲に蠢いてるのがわかる。

全身を襲う喜悦に、笑いだしてしまいそうなぼくとは裏腹に、今日の承太郎はなぜか機嫌が悪いみたいだった。

 

「いつも、肩、ばっかり、見てるんじゃあ、ねえっ」

 

イラつきを隠そうともせずに、承太郎はそう言うと突然抽送を早める。

急に荒々しさを増した律動に、ぼくは悲鳴をあげて体を丸めた。

 

「あ、あ、あう、うぅんっ…や、くるし、ひっ、ひぎっ」

 

肩につくほど足を折り曲げられ、深々と彼の楔を打ち込まれると、もう星の観測どころじゃあない。

目を開けていることもできず、覆い被さる承太郎に押し潰されそうになりながら、彼を必死に受け止めることしかできない。

 

「花京院、花京院…こっち、みろ」

 

焦れたように承太郎がぼくの名を呼び、頬をそっと両手で挟む。

なんとか目を開けると、切羽詰まった情けない顔の承太郎が、ぼくを見ていた。

その両の目が、恐ろしいほどの美しさで光っていて、ぼくは驚いた。

 

「うあっ、や、ひっ、らめっ」

 

慌てて目を閉じても、瞼の裏に光の残像が見える。

ぼくの網膜を焦がす、強く眩しい光。

 

星だ、とぼくは思った。

自ら光り輝く、双子の星。

彼の首筋に鎮座する星とは違う、本物の輝きを放つ星。

 

いつも肩ばかり見ていたせいで、気がつかなかったのだ。

承太郎の瞳がこんなにキラキラ輝いているなんて。

 

愛の色に、欲情の色に、そして狂気の色に、彼の緑の瞳は、オーロラのように色を変える。

その暴力的なまでの美しさに、ぼくは為す術もなく震えるだけだ。

 

「花京院、目、開けろ」

 

星に焦がされないように、両手で顔を覆うのを承太郎は許さない。

無理やり手をほどかれ、ぐずる子供をなだめすかすようにキスされる。

 

「やっ、だめ、だめっ、むりだっ」

 

身を捩り、彼から逃げようとしても、承太郎の大きな体がそれを阻む。

腕を頭上でひとまとめにされ、隠すものが何もなくなったぼくは、強く目を閉じて横を向いた。

 

「おら、顔、見せろよっ」

 

やだ、とそれでもむずがっていると、承太郎が急に弱々しい声をだした。

 

「……おれのこと、嫌い、なのかよ」

 

その、ともすれば泣き出してしまいそうな声に、ぼくは思わず目を開けて、違うと叫んでいた。

 

「ちがっ、その、恥ずかしくて、君の目が、みれな、ああっ」

 

言い切る前に、ずんと奥を穿たれて、ぼくは仰け反った。

逃げを打つ腰を、がっしりと掴まれ、どこにも快楽を逃せない。

 

「やっ、死んじゃう、よぉっ、あ、あ、ああっ」

 

花京院、花京院とぼくの名を何度も呼びながら、腰を振る承太郎の瞳に、だらしなく蕩けきった顔のぼくがいる。

口を大きく開け、だらだらと涎を垂らし、顔を真っ赤にして雌の顔をしたぼくが。

 

しかし、ぼくの上で必死に体を動かす、承太郎もまた欲に溺れた情けない顔をしていた。

眉をよせ、切なげな表情で腰を打ち付ける彼の、額に落ちかかった前髪が、随分と彼を幼く見せる。

 

飛び散る汗と、むせかえるような精の臭いに、頭がくらくらして、ぼくは胸を大きく上下させて必死に息を吸った。

酸素が足りずに、手足が甘く痺れている。

 

体の形骸がバラバラに吹き飛んでしまうような、途方もない悦楽に身を震わせ、ぼくは精を放った。

 

 

 

それから、ぼくは魔法を使えなくなった。

彼の本物の星に焼かれて、焦げ付いた傷口は、いまだにじくじくとぼくの体を苛んでいる。

 

「もう、星は見たくねえのかよ」

 

にやにやと笑いながら、時折承太郎はそう尋ねてくる。

ぼくはそれが悔しくて、面白くなくて、いつもそっぽを向いて黙りこんでしまう。

 

「花京院、こっち向けよ」

 

機嫌直せ、と承太郎が優しく囁いて近づいてくる。

ぼくの髪をくるくると弄びながら、ふっと耳に息を吹き掛けられると、もうどうしようもない。

 

ぼくはこの星に、一生解けない魔法をかけられてしまったのだ。

 

「本物の星を、見せてやるよ」

 

なあ花京院、と彼の妖しく輝く瞳に見つめられ、ぼくはぼうっと酩酊したような心地で、はい、と答えたのだった。

 

 

おしまい

 

 

 

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