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クリスマスの朝、7歳の花京院は枕元に置かれている大きな包みを見て、そのつぶらな瞳を輝かせた。

星のマークが散らされた包装紙を剥がすと、中からは真っ黒なぬいぐるみのクマが現れた。

 

「わあ!」

 

そのクマは花京院の背の半分はあろうかという大きさで、ぎゅっと抱きつくと何故だかほんのり温かかった。

もふもふとしたお腹に顔をうずめると、柔らかな毛が頬をなでてくすぐったい。

肺いっぱいに空気を吸い込むと、クマからは太陽のにおいがした。

 

「お母さん、お母さん見て!!!」

 

花京院がクマを抱いて、リビングへと駆けると、彼の母親は怪訝な顔をして、隣にいる夫へと耳打ちした。

 

「あなた、クリスマスプレゼントはミニカーにするって言ってなかった?」

「おかしいな、俺、あんなクマ買ってないぞ」

 

花京院の父親はうーんと首をかしげて唸った。

しかし、花京院はそんなことはお構いなしにはしゃいでいる。

 

「僕、ずっと僕だけのクマさんが欲しかったんだ!サンタさんって本当に僕の欲しいものがわかるんだね」

 

嬉しそうに頬を紅潮させる息子を見て、両親はきっと親戚の誰かが気を利かせて彼に買い与えたのだろうと結論付けて、良かったわねと花京院の小さな体をクマごと抱きしめてやった。

 

 

 

それから早いもので、10年の月日が流れた。

 

花京院はあの日からずっと、クマを片時も離さなかった。

どこに旅行をするときも一緒に連れて行き、食事をするときは隣のイスに座らせ、テレビゲームで遊ぶ時は、膝の上に乗せて抱きかかえていた。

 

中学校を卒業するまで、花京院はこっそりと鞄の中にクマを入れ、学校に登校していた。

さすがに高校に入学してからは、学校にクマを連れていくことは我慢するようになったが、いまだに彼はクマがいないと一人で眠れなかった。

 

クマが汚れれば優しく手で洗い、ほつれて綿が飛び出せばちまちま縫った。

花京院はクマの黒いふわふわの毛からのぞく、緑色のくりっとした2つの目が一等好きだった。

「承太郎」という名前を付けたそのクマは、花京院のよき兄弟であり、友人であった。

 

 

 

(ん?)

 

ある朝、いつものように承太郎を抱きしめて眠ったはずの花京院は、腕の中の硬い感触に眉をしかめた。

ぺたぺたと手で触ると、汗ばんだ肌のような何かを感じる。

それは弾力にとみ、花京院が触れるたびにもぞもぞと動いた。

 

掌を上に伸ばすと、ごわごわとした癖のある毛に指先が当たり、花京院がびっくりして目をあけると、そこにはギリシャ彫刻のように彫りの深い青年の顔があった。

 

「うわああああああ!!」

 

見知らぬ男の存在を認め、ぎょっとしてベッドの端まで花京院は逃げた。

花京院の大きな声に、青年の長い睫毛が不機嫌そうにピクリと動き、ゆっくりと瞼が開かれる。

 

「朝からやかましいな…」

 

頭を掻きながら、気だるげに体を起こした男は、鍛え上げられた己の体を見て、目を見開いた。

 

「人間に戻ってやがる!」

 

青年は自分の手を見つめて、感極まったような声を出した。

 

「な、なな、何を言ってるんだこいつ…大体、なんで僕のベッドにこんな大男が…」

 

花京院は真っ青な顔で、ただ震えることしかできない。

朝起きたら、見知らぬ男が同衾していたのだ、驚かない方がおかしい。

 

「花京院!見ろ!」

 

男は興奮したように、ベッドの隅で怯える花京院の方にやってきた。

はらり、とブランケットが体を滑り落ちて、青年の戦士のような体があらわになる。

 

「うわああああああ!!な、なんで全裸なんだ!こっちに来るな!!!」

 

花京院は恐慌を起こして、手近にあった枕を投げつけた。

ぼふり、と美しい顔にそれは命中し、男はうめき声をあげた。

 

「そっちこそ何言ってやがる。俺たち、10年も一緒に暮らして、今さら恥ずかしがるような仲でもねーだろ」

「なんだって?」

 

花京院は、男のきらきらと光る緑色の瞳にはっとした。

 

「ま、まさか、承太郎…なのか?」

「そうだぜ」

 

男は得意げに口の端を上げると、困惑で動けない花京院の体を抱きすくめ、その額にキスを落とした。

 

その優しげな口づけに、思わず花京院は頬を赤らめたが、今の状況を思い出すと承太郎と名乗る男の体を押しのけた。

 

「う、嘘をつくな!僕の承太郎はかわいいテディベアなんだ。お前みたいなゴツイ男じゃあない」

 

しかし男は、花京院の抵抗などものともせずに、我が物顔で花京院の柔らかな髪に顔をうずめて、すんすんと匂いを嗅いでいる。

花京院はバタバタと手足を動かしてもがいた。

 

「お前が承太郎だっていうなら、証拠を見せろ、証拠を!」

ふーふーと荒い息をしながら、花京院が声をあげると、男はふむと少し考えるそぶりをした。

 

「色々言っちまっていいのか?」

男の落ち着いた様子に、花京院はなんだか嫌な予感がしたが、

 

「お、脅そうたってそうはいかないぞ」

と強がって見せた。

 

男はそうか、と呟くと真顔のままペラペラと饒舌に語り出した。

 

「まず、お前は10歳になるまで、こわくて夜中に一人でトイレに行けねーっつって、いつも俺を連れて行った。それから、エロ本は本棚のでかい植物辞典の中に挟んで隠してある。はじめて夢精したのが14の時で、病気だって騒いでベソかいてお袋さんに…」

「うわああああああ!もういい、もういい!!」

 

花京院は、顔を真っ赤にして花京院の黒歴史を暴露する男の口を押さえた。

むぐ、と苦しげに唸り、青年は不満げな顔で花京院を見つめた。

 

「これでわかっただろ?」

「ああ、ああ、十分すぎるほどわかったよ…」

 

花京院は羞恥で涙目になりながら、つい昨日まで可愛らしいテディベアだった承太郎を見た。

 

「しかし、なんだって君はいきなり人間になったんだい」

 

花京院の素朴な疑問に、承太郎は憎々しげに彼にかけられた呪いの話をした。

なんでも承太郎の一族は、100年ほど前から一匹の吸血鬼と戦いを繰り広げてきたらしい。

承太郎は10年前に、なんとかその因縁の相手を倒すことに成功したが、その際吸血鬼の魔法で、自身をぬいぐるみのクマに変えられてしまったらしい。

 

「だが、花京院。おめーの俺への強い愛が、呪いを解いたんだぜ」

 

承太郎は愛しげに花京院を見つめ、その頬に口づけをしようとした。

この世のものとは思えない、美しい造形の顔が間近に迫り、花京院は悲鳴をあげて彼の唇から逃げた。

 

「そんな話信じられるか!!ファンタジーやメルヘンじゃあないんだから」

 

承太郎は眉間にしわを寄せて、負けじと花京院を抱きかかえた。

 

「おめーが信じようと信じまいと、これが真相だ。あきらめて流されちまえ」

 

そういって承太郎は花京院の体に身を摺り寄せた。

尻に当たる硬く熱い感触に、花京院は全身の毛を逆立てた。

 

「な、なんか尻に当たってるんだが…」

「あててんだよ」

 

花京院が腰を浮かせて逃げようとするも、承太郎の大きな手で尻をがっしりと掴まれてしまって動けない。

なんとか手をすり抜けようと体をよじると、承太郎の猛りに腰を擦り付けるような形になってしまう。

 

「随分積極的だな」

「断じて違う!」

 

花京院は首をぶんぶん振って否定した。

林檎のように頬を染めた花京院を見て、嬉しそうな承太郎はそろりと花京院の前に手をのばした。

ぎくりと花京院の体がこわばるが、承太郎は気にせず下着の上からそこをやわやわと揉む。

 

「ちょ、ちょっと、どこを触ってるんだ!や、やめ…やだっ…」

 

花京院は初めて感じる他人の手の感触に、ぎゅっと目をつぶった。

そんな彼の様子に、承太郎はうっとりと目を細め、花京院の耳に息を吹き掛けた。

 

「気持ちいいだろ?」

 

花京院のそこは、下着ごしの愛撫でも過剰なまでに反応し、早くも蜜をこぼしはじめた。

じわじわと下着が色を濃くし、いやらしい粘着音が花京院の耳を犯した。

 

「やだあ…じょたろ、本当に、やめっ…ふあっ、ああ…」

 

とろりと目を潤ませて、花京院は力の入らない手で承太郎を押し退けようとした。

しかし押し退けるつもりが、逆に承太郎の体にすがりつくような格好になってしまい、その甘く溶けた表情と相まって、愛撫をねだっているようにしか見えなかった。

 

「わかったわかった、つれーんだな。今イカしてやるから」

 

承太郎は花京院のパジャマとベタついた下着を脱がし、追いたてるように花京院のぺニスをしごいた。

 

「だめだっ…そんなにしたら、も、もう、うああっ…イク、ああっ、手離して、あ、ああああっ!」

 

花京院は爪先を丸めて、背を強く反らせてガクガクと痙攣した。

承太郎の掌に、白く粘ついた液体が勢いよく打ち付けられ、握り込まれた花京院のペニスが切なげに震えた。

 

はあはあと肩で息をしている花京院に見せつけるように、承太郎は手を汚した花京院の精液をゆっくりと舐めとった。

 

「し、信じられない…このっ、変態!!」

 

花京院は瞳に涙をいっぱい溜めて、承太郎を弱々しく殴った。

しかし、承太郎はそんな花京院の精一杯の反抗には目もくれず、興奮した様子で花京院のスラリと伸びた脚を持ち上げた。

 

「な、何するつもりだ…」

 

獣のような荒々しく忙しい呼吸をしながら、承太郎は勝手知ったる様子で、花京院が机の中に隠していたローションを引っ張りだしてきた。

いつもなら花京院が自慰をするときにペニスに塗るそれを、大量に花京院の尻へとぶちまけ、承太郎は自身をぬるつくそこへと擦り付けた。

 

「わりい、今日は最後までしねえつもりだったが、もう我慢も限界だ…ちっと痛えかもしれんが、なるべく優しくする…」

 

花京院は欲望に濡れた承太郎の低い声でそう囁かれて、まさかと目を見開いた。

花京院のものとは比べ物にならない、凶悪なペニスが花京院の固く閉じた蕾にあてがわれている。

 

「ちょ、ちょっと待てっ、承太郎…そんなの、入らない!」

 

花京院は青ざめた表情で頭を振った。

 

承太郎はにやりと笑い、

 

「花京院、無理かどうかはやってみねーとわからねえぜ」

 

とぐぐっと腰に力を入れた。

ローションの滑りを借りて、承太郎の巨大な雄がずぷずぷと飲み込まれていく。

 

「あっう、嘘…はいってきてるっ、い、いたっ…」

 

花京院はあまりの衝撃にぶるぶると体を震わせて、承太郎の肩にしがみついた。

承太郎の侵入をこばもうと、ぎゅうと後孔が締まる。

 

「うぐっ…か、花京院っ、力抜けっ、きつい…っ」

 

承太郎は彼を千切りとらんばかりに強く締め付けてくる花京院に、顔をしかめながらも落ち着かせようとキスの雨を降らせた。

 

「むっり、息、できないっ…いった、痛いっ…抜いてっ」

 

涙を流しながらしゃくりあげる花京院の顎を掴むと、承太郎は花京院の口を自分の口で覆い、ゆっくりと息を吹き込んだ。

何度も何度も繰り返し承太郎が呼気を分け与えてやると、花京院の体から徐々に力が抜けていく。

 

承太郎は花京院の萎えてしまった性器に手で刺激を送りながら、ゆっくりと花京院の浅い部分を突いてやる。

すると花京院の口からは自然と甘やかな嬌声が漏れ、彼はもどかしげに腰をくねらせた。

 

「そうだ、ゆっくり俺の動きにあわせろ…」

 

いい子だ、と子供を褒めるように花京院の耳に囁いてやると、彼はぼんやりと淫蕩にとろけた瞳で承太郎を見つめた。

 

「ふあっ、あっ、じょ、たろっ…なんか、ふわふわするっ、ん、んっ…」

 

花京院は鼻にかかった声をあげながら、気持よさげに腰を振りだした。

見ると花京院のペニスは張り詰めて、臍につかんばかりに反り返っている。

 

そんな花京院の様子を見て、承太郎は切羽詰まったように彼に口付けた。

ちゅくちゅくと二人の舌が絡まりあい、つうと唾液が花京院の唇を伝う。

花京院は夢見るような表情で、夢中で承太郎の舌を吸った。

 

「は、はあっ…じょたろ、ゾクゾクする、きもちいいっ…こんなの、ぼく知らないっ…うああっ、な、なにかくるっ…」

 

花京院は息も絶え絶えに承太郎に揺さぶられながら、必死に彼に縋り付いた。

 

「ふっ、やべえ、もう出ちまう…」

 

パンパンと肉のぶつかり合う音を響かせながら、承太郎は腰を強く打ち付けた。

激しい抽送で繋がりあった部分はぐちゅぐちゅと卑猥な水音をたて、たっぷりと塗りたくられた潤滑油で二人の体の境目はもはやわからなくなっていた。

 

粘膜の摩擦がもたらす喜悦に承太郎は低く唸って、花京院の腰をがっちりと固定すると、彼の体内に熱い濁流を注ぎ込んだ。

欲望の焔が背骨を焼き、あまりの快楽に体が溶けてどろどろになってしまうような感覚が承太郎を襲う。

花京院も体の奥底に渦巻く欲望を叩きつけられながら、一際高い叫び声をあげて絶頂を迎えた。

 

ぎゅうと身体中の筋肉が収縮し、初めて味わうセックスの暴力的なまでの快感に気を失う直前、押し殺したような声で「好きだ」と花京院は囁かれた気がした。

 

 

 

すっと頬を撫でる風に花京院が目覚めると、見知った天井が視界に飛び込んできた。

体がひどくだるく、腰がぎしぎしと強張っている気がする。

花京院が首だけを横に向けると、そこには大柄な美しい男が長い睫毛を伏せて眠っている。

 

(夢じゃない…)

 

そっと承太郎の髪をなでると、しっとりと汗ばんだ彼の体からぬいぐるみの承太郎と同じく太陽の香りがして、花京院は目を細めた。

 

こうして花京院典明は、10年の間可愛がっていたテディベアを失い、代わりに人間の恋人を手に入れたのだった。

 

おしまい

 

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