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注意書き

 

3部より3年後、生存院設定です。

承太郎はできちゃった婚直前です。

承花ですが、承太郎と奥さんの性的な描写が少しあります。

 

 

 

 

 

運命というのは残酷だ。

DIOに腹をぶち抜かれ、眠り続けていた花京院が意識を取り戻したのは、あの旅から3年がたち、俺が結婚を二週間後に控えた日のことだった。

「承太郎」

と、花京院は3年ぶりに声帯を震わせた。

 

「ずいぶんと僕はみんなを待たせてしまったみたいだね」

 

ああその通りだ花京院、俺はお前を待って待って待ち続けて、お前のいない時間を一人で耐えることができなかった。

あの旅から帰って、俺はようやっとお前の言葉を理解した。

スタンドが見えない奴と真に心が通い合うことはない。

 

アブドゥルとイギーを失い、ポルナレフとは連絡がとれなくなり、花京院は目覚めない。

自分を隠し、誰に理解されるでもなく日々を過ごすことで、俺の精神は少しずつ少しずつすり減っていった。

そして目の前に差し出された、甘く柔らかな体に救いを求めたのだ。

 

女の体は俺に束の間の安息を与えはしたが、それだけだった。

むしろ体をつなげることで、俺と女の違いがまざまざと浮き上がり、絶対に埋まることのない溝の存在に気づいてしまったのだ。

俺はその溝の前で呆然と立ち尽くすしか術をもたぬ阿呆だった。

俺の心は常にあの砂ぼこりのまう50日を求めていた。

 

妊娠したみたいなのと女が告げたとき、俺は少し期待したのだ。

家庭をもつことで俺の孤独が埋まるのではないか、妻となればこの女を愛することができるのではないかと。

 

しかし結果は違った。

俺の心はやはり、あの旅のどこかに置き忘れてしまったようだった。

日毎に膨らむ女の腹を見ても、周囲からの祝福をうけても、俺は他人事のように感じていた。

俺はただ無感動に時間を食い潰しているだけだった。

 

そんな生きた屍のようだった俺にとって、花京院が3年ぶりに意識を取り戻したというニュースは、いかに衝撃的であったか。

俺の体は久方ぶりにわきあがる感情についていけず、おろおろと戸惑うばかりだ。

 

「3年ぶりだと、やっぱり人は変わるものだね、承太郎。君が高校を卒業して、学生服を脱いでいるなんて、信じられないなあ」

屈託なく笑う花京院は、俺の記憶と寸分違わない。

どうしてだ、どうしてなんだ花京院。

もっとお前が早く目覚めていれば、俺はお前を選んだのに。

あるいはもう取り返しがつかないほど、長い期間を経てから目覚めれば、俺はお前のことをあきらめられたのに。

 

ガキができて、もうじき結婚する。

そう言わなくてはと思いながら、俺の役に立たない唇は脳からの指令を無視して、花京院の話に相づちをうつのみであった。

 

 

 

式が近づき、生活はせわしさを次第に増していったが、俺は相も変わらず花京院の見舞いを続けた。なぜなら俺は新しい家に帰るのが嫌だった。

女と顔をあわせれば、そしてその膨らんだ腹を目にすれば、否応なく俺に逃げ場などないことを理解させられてしまう。

じきに結婚する、俺の子供を妊娠している女が待っているというのに、俺は花京院の病室に入り浸り、あまり家に寄り付かなくなっていた。

 

そう、俺は花京院を利用して、現実から目をそらす臆病で最低な男なのだ。

俺の心は、世間が考えるありふれた幸せよりも、いつ死ぬともわからない緊張ではりつめた日々をのぞんでいた。

とうとう俺が結婚を明日に控えた夜、花京院はいつになく落ちついた声で承太郎、と俺を呼んだ。

 

「君、こんな所にいていいのかい?」

 

俺は花京院の言葉の意味がわからなかった。

 

「どういうことだ」

 

いや薄々わかっていたのかもしれないが、俺の脳は花京院の言葉を理解することを拒絶した。

 

「だから、結婚式の前日に、身重の奥さんのところじゃなくて、昔少しだけ恋人ごっこをした男のところにいていいのかって聞いているんだよ承太郎」

 

花京院の瞳は凪いだ海のように静かで底が見えない。

花京院の気持ちが推しはかれないのは初めてだった。

あの旅の最中、俺は言葉などなくとも花京院の考えが手にとるようにわかったし、花京院も俺の心を読んでいるかのように行動した。

17だった俺たちは、スタンドという己の分身さえも含め、互いに深く理解し、補いあっていた。

 

そしてごく自然なことのように体を重ねたのだった。

あの瞬間、確かに俺たちは二人で完全な一つの個であった。

 

それがどうだ。

3年の月日が俺たちを変えてしまった。

ずるい大人になった俺と、時の止まったままの花京院。

別々の星の住人のように、お前の心がわからない。

 

「承太郎、僕看護師さんに聞いちゃったんだ。君が最近ずいぶんと忙しそうにしてるから、何かあるんだろうなって思ってね。そしたら君は子供ができて、明日結婚するそうじゃないか。サプライズで僕を式に呼んでくれるのかとも思ったけど、全然そんな素振りはないし、一体君は僕にどうしてほしいんだい?」

 

花京院の背中から、なつかしいあの緑の触脚がのびてくる。俺はそのきらきら光る緑色に目を奪われて動けない。

 

「馬鹿野郎ってののしればいいのか、おめでとうって祝福すべきなのか僕だって悩んだよ。だけどね承太郎。」

 

花京院はうっそりとほほえんだ。

 

「君の一族の宿命も、あの旅も、ましてスタンドもしらないぽっと出の女なんかに君は渡さないよ。」

 

 

 

 

「はあっ、あっ、あっ、ああっ」

 

ハイエロファントによってベッドに縛り付けられた俺の上で、花京院が何かにとりつかれたように腰をふっている。

3年間、日の光を浴びていない花京院の肌はどこまでも白く、しかし腹にだけ赤黒く醜い傷跡が生々しく残っていて、俺は無性に苛ついた。憎々しい。ここに腕をつきたてた男が、俺と花京院の3年間を奪ったのだ。

傷跡に浮かぶ汗を、拘束された不自由な体を動かしてなめとると、切なげな声が花京院からあがる。

ぽたりと汗ではない透明な液体が俺に降ってきて、花京院は泣いているらしかった。

俺は熱に浮かされながら、その涙をぬぐってやりたいと思った。

 

「ぐっ、ふうっ、うっ」

 

花京院は一心不乱に上下運動を繰り返す。

俺もムキになって下から腰を打ち付ける。

二人とも怒りと悲しみと諦めがごちゃまぜになって、やけをおこしていた。

 

下腹部に毒のような欲望がぐるぐるとうずまき、解放をのぞんでいる。

何もかもがどうでもよくなるような、とてつもない快楽がわきあがり、全身がしびれてままならない。

花京院、花京院、と彼の名を呼び、めちゃくちゃに彼を突く。

その度ににぎゅうぎゅうと俺を締め付ける内壁に、思わず俺は唸り声をあげた。

 

ああ、このまま時が止まってしまったら、どんなにか俺たちは幸せだろう。

花京院が大きく背中を反らせ、声にならない叫びをあげながら、体を震わせたとき、脊髄から脳にむかって光がつきぬけ、俺は花京院の中に白濁を吐き出した。

 

 

 

 

情事のあとの気だるい静寂をうちやぶったのは花京院だった。

 

「承太郎、僕明日の式でるよ」

 

俺は花京院の顔をまじまじとみた。

花京院は「ちょっとコンビニよってジャンプ買ってくるね」というときのような、何気ない顔でとんでもないことをいいだした。

だが彼は本気らしい。

 

「君の奥さんに挨拶しておきたいしさ。席なら心配ないよ、どうせ車椅子だし、ご飯もたいして食べられないから。」

 

俺は何も言えなかった。しかし花京院は俺の沈黙など気にしていなかった。

 

「別に奥さんを刺したりしないから安心してよ。僕だって君の奥さんや、生まれてくる子供に嫌われたくないんだ。ちゃんと仲のいい友人を演じるから、君も協力してくれよ。」

 

花京院はなんだか嬉しそうだった。

俺はこいつを見くびっていたようだ。

しおらしく涙を流したりするから騙されたのだ。

こいつはちょっとやそっとじゃ折れない強靭な精神を持っていたのだ。

 

「承太郎、僕はね、君とスタンドとあの旅と、こうして二人だけの秘密の関係も共有できて、すごく幸せだよ。一度死んだも同然の僕に神様がプレゼントをくれたみたいだ。」

 

花京院の目は、生きる希望を見つけて、星のように輝いている。

おそらく俺の目も、3年ぶりに魂の半身を得て、喜びのあまりめったやたらに光を乱反射しているに違いない。

お互いしか目にうつらなくなった俺たちは、これからどれほど困難な道を歩むことになろうとも、また身の破滅を迎えようが後悔しないだろう。

なぜなら俺にとって花京院さえいれば、世界は完成されており、花京院にとっても、またそうであるからだ。

 

 

 

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