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〜Kの場合〜

 

承太郎の体のパーツの中でどこが一等好きかと聞かれると、やっぱり膝だと思う。

キラキラ光る緑の目も大好きだから、迷うところではあるのだが、最近のぼくのお気に入りはソファに腰掛けてのんびりしている彼の膝に、ごろりと寝転がることである。
柔らかくも何ともない、筋肉質でしっかりとした硬さのある膝に頭を乗せると、承太郎は重いぜなんて文句も言わずに、優しく髪を撫でてくれる。
ぼくは彼に受け入れてもらえたことにひどく満足し、安心してうっとりまどろむ。

彼の手はごつごつしていて分厚いけれど、スタンドと同じようにひどく繊細に動く。
硬く大きな掌と頭の下からじんわりと感じる彼の体温が、あまりに気持ちよいので、ぼくはすぐにとろとろとチーズみたいに蕩けてしまう。
ぼくが猫だったら、今頃勝手に喉がゴロゴロ鳴っていただろう。

承太郎は見るともなしにテレビを眺めながら、さっきから一定のリズムで、ぼくの髪の手触りを確かめるように何度も撫でている。
時折くるくると前髪を指に巻きつけては、解いて遊んでいる彼は、大きな猫になつかれ、膝に乗られたような気分でいるのだろうか。

いつもは強面で、最強のスタンド使いと恐れられている彼が、こんな風にリラックスしているのはぼくの前だけだ。
みんなの知らない承太郎を知っているという優越感と、誰もが憧れる彼を独占しているという満足感に、思わず口もとがにやけてしまう。

「どうした、随分と機嫌良さそうだな」

ん?とぼくを覗き込んでくる彼に、じゃれつくようにキスをする。
太い首に手を回し、彼の顔を引き寄せて何度も角度を変えて唇をぶつけ合う。

男らしい太い眉を、高い鼻筋を、滑らかな頰を指先でなぞる。
血潮の通った温かい彼の体が愛しい。
やっぱり膝だけじゃあなくて彼の目も唇も、何もかも好きだとぼくは思う。

「大好きな君と一緒にいられて、ぼくは世界一幸せな男だよ」

真正面から瞳を見つめ、そう言って頰に口付ければ、照れ臭かったのか彼がぼくの体をくすぐってくる。
ぼくは大きな口を開けて機嫌よく笑いながら、ソファの上で彼と縺れ合った。


おしまい

 

 

 

〜Jの場合〜

 

花京院が好きだ。自尊心が高く、何者にも屈しないその高潔な魂が好きだ。
そのくせ、道端に咲く名もない花のように控えめなところもあって、いじらしい。

親切で気が利いて、誰からも好かれそうなのに、自ら壁を作り、他人と程よい距離を取ろうとするきらいがある花京院。
あまり自分の感情を表に出さない花京院。
そんな彼がおれにだけは、子供みたいに素直に甘えてくるところが堪らなく可愛らしい。

おれよりふた回りほど小さな体は、ちょうどよくおれに馴染む。
腕を広げてすっぽり抱き込むのに、ぴったりのサイズだ。
ふわふわした紅茶色の髪の上にぽすんと顎を乗せると、最初のうち彼は嫌がるが、段々とおとなしくなる。

逆三角を描く、ほどよく筋肉の乗った体は、ぎゅっと抱いてもちょっとやそっとでは壊れない丈夫さと、しなやかさがある。
だが腰だけはびっくりするくらい細く、いつも少し不安になる。
そこからすっと伸びる長い脚は、若木のように健やかだ。

愛しさのあまり、卵型の小さな顔に自分の顔を擦り寄せると、くすぐったいのか花京院が小さく笑う。
腕を伸ばし、おれの髪を掻き回すように撫でる花京院に、よしよしと言われると犬にでもなったような気がする。
調子に乗って頰をべろりと舐めると、彼が小さく体を震わせた。

「もう、びっくりさせないでくれよ」

悪い子め、と弱く頰をつねられたので、おれは大げさにしょんぼりとしてみせる。
そうするとすぐに、少し焦ったように花京院がごめんごめんと謝るから、ひどく嬉しくなる。
花京院はおれに甘い。

繊細な陶器でできたみたいな彼の手を取り、指先を口に含む。形の良い爪は桜貝みたいだ。
じゅ、と音を立てて吸えば、花京院の唇から甘い声が漏れた。もじ、と膝を擦り合わせる彼の瞳は熱く潤んでいる。

「あ……」

物欲しげな彼に笑いかけ、優しく体を倒す。
首筋に何度もキスを捧げる。彼の体が、陸に打ち上げられた魚みたいに何度も跳ねる。
おずおずと絡められた手足は燃えるように熱く、おれをひどく夢中にさせた。


おしまい 

 

 

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