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承太郎は変態だ。

だから彼はエッチするとき、いつもぼくに女装させる。

でもそれは、女性が好きとかそういうことじゃあない。

 

勃起したペニスでスカートがめくれてしまうのを、必死に押さえているぼくの姿を見るのが、つまり女装することによって、ぼくが羞恥に耐えられず震えているのが、堪らなく興奮するらしい。

彼はちょっと、病気だと思う。

でもそんな彼を嫌いになれずに、言う通りにしてしまうぼくも、大概変態なのかもしれない。


 

いつも一日の終わりにぼくは風呂にいれられ、それから承太郎にされるがまま、着せ替え人形のように服を着せられていく。

どうせすぐに脱がしてしまうか、あるいはくしゃくしゃになってしまうというのに、彼はいやに真剣に手を動かす。

 

今日はまず、ぼくにはサイズの小さすぎる、フリルがたくさん付いた可愛らしいショーツを履かされる。

それから地模様が水玉で半透明の、ほとんど肌を隠すことができないキャミソールを被せられ、その上に深緑の丈の長いワンピースを着せられる。

 

足元はリボンの通されたレースがついた、太ももまであるソックスを黒いガーターベルトで固定されたのちに、艶々した革製のストラップシューズを合わせる。

最後に清潔そうな白いエプロンをつけ、頭にはフリルとレースをこれでもかとあしらったヘッドドレスをして、ぼくは姿見の前に立たされた。

 

「綺麗だ」

 

質素で古典的なメイドの格好をしたぼくは、承太郎に誉められても、恥ずかしくて鏡を見られず俯くしかない。

それから承太郎はいつも、その日のお洋服にあわせて、ぼくに化粧を施していく。

 

彼は店でも開けるのではないかというような量の化粧道具を持ってくると、ぼくの顔に息がかかる近さで、丹念に下地をつくり、ファンデーションを塗った。

 

何度もこの行為を繰り返すせいで、ぼくは承太郎が取り出す頬紅の色で、大体彼がどういう化粧にしたいのかわかってしまう。

どうやら今日はメイドという設定なので、承太郎は甘めのメイクにしたいみたいだ。

ふさふさとした化粧筆で頬を撫でられる感触は、嫌いじゃあない。

 

目を閉じろ、上を見ろ、瞬きするなと彼に命じられるままに従えば、ぼくの瞼の上には綺麗な薄紫のシャドウが塗られ、目尻はアイライナーで垂れぎみに、そしてマスカラで長さの増した睫毛が、物憂げな影を作る。

 

そうして承太郎は最後に、桜色の口紅を取り出した。

ぼくの人より大きな口に紅をさすのが、彼は一等お気に入りらしい。

この瞬間は彼はいつも息を止めて、真剣な表情をしているから、ついついぼくも彼の顔を見つめてしまう。

ぼくに化粧をしたってあまり似合っていない気がするし、承太郎の方がぼくの何倍も美しいと思うが、彼がいつもぼくに綺麗だ綺麗だ、というから、最近はよくわからなくなってきている。

 

体も決して細くないし、どう見ても女の子には見えないけれど、承太郎が気に入ってくれるなら、恥ずかしいけどまあいいかとぼくはいつも思うのだった。

ふう、と口紅を塗り終えたらしい承太郎が息をつき、ごろりとぼくの膝の上に寝転がる。

 

「終わったのかい」

 

と訊ねれば、ああと返事が返ってきた。

居心地のよい場所を探るように、承太郎がぼくの膝の上で頭をもぞもぞと動かし、くすぐったくて堪らない。

止めてくれよ、と笑いながら文句を言い、脚をばたつかせても彼は動じることもなく、あまつさえスカートの上からぼくの太ももを撫でてくる。

 

「あっ…い、やだ…」

 

劣情を誘う様な承太郎の手つきに、すぐに欲望の灯がともり、ぶるりと体が震える。

さらさらとしたスカートの裏地と、ガーターベルトの留め具がこすれ合う微妙な刺激。

その下の肌と、薄い脂肪に覆われた筋肉を確かめようとでもするかのように、彼は骨ばった大きな手を這わせた。

 

「嫌じゃあねえくせに」

 

くく、と口の中で含み笑って、承太郎が体を起こし、スカートの中に手を滑らせる。

あ、と思ったときには、彼はブラインドでガーターを手早く外し、既に兆し始めているぼくの性器をショーツごと握り込んだ。

 

「おれがちょっと触っただけで、我慢できずにおったてて…」

 

いやらしい奴、と耳元で囁かれて、思わず熱い吐息が漏れる。

男のくせにこんな格好をして、承太郎の愛撫にその先を期待して股間を膨らませて、ぼくの体はどんどん浅ましく、淫らになっていく。

これ以上彼に触れられたら、ぼくはどうなってしまうんだろう。

 

ごめんなさい、と小さく呟きながらも、ぼくは腰を揺らすことを止められない。

彼の手に屹立を擦り付けるように体をくねらせ、キスが欲しくて承太郎に縋り付く。

はあ、と荒い息をこぼしながら承太郎を見上げると、熱っぽく蕩けた彼の緑と視線が絡む。

 

「エロい顔…」

 

彼の指がぼくの顎を上向かせ、顔が近づく。

ぼくは餌を待つ犬のような気持ちで、そっと目を閉じる。

 

「ふぁ…」

 

柔らかな唇が押し付けられたかと思えば、すぐに離れていってしまう。

ぼくはそれが寂しくて、彼の唇を追いかけるように舌を伸ばし、続きを強請る。

すると承太郎の濡れた舌が絡められ、ぞくぞくと背筋を快楽が這い上がっていく。

気持ちよさに体が光の粒になって溶けてしまいそうだ。

 

くちゅくちゅと互いの唾液の混じり合う音に、頭がぼうっとなる。

上唇を優しく食まれて、このまま食べられてしまうんじゃあないかとドキドキする。

 

「う、んっ…ふ、ふは…んむぅ、ん、ん…」

 

口付けの合間に一生懸命息継ぎをするけれど、興奮しすぎて全然酸素が入ってこない。

霞がかってくらくらする脳では、承太郎のことしか考えられない。

好きだ好きだ、気持ちいい、もっとしたい、愛してる。

 

貪るようなキスに身体中の力が抜けてしまって、気がつけばぼくはソファーに押し倒されていた。

銀糸を引いて離れていってしまう彼の唇に、ぼくの口紅の色がうつっていて、ひどく扇情的だ。

 

寂しくて思わず承太郎と彼の名を呼べば、エプロンの上から乳首を抓られる。

甘く、痺れるような刺激にきゅうと身体が疼く。

発情してつがいを求める獣のように高く啼くと、彼がぼくのスカートをたくし上げた。

完全に勃起して蜜を垂らすぼくのペニスは、ショーツから赤く熟れた先端を覗かせている。

 

「あ…」

 

可愛らしいフリルのショーツと、ぴくぴくと期待に震える雄の証との対比に、眩暈がする。

なんていやらしく、浅ましいぼくの体。

承太郎に早く乱暴に抱いてもらいたくて、ぐちゃぐちゃに性器をしごいて欲しくて、はしたなく涙を流している。

どうしてほしい、と獣の顔をした承太郎に問われて、ぼくはひくりと喉を鳴らした。

 

「い、淫乱な、メイドのお尻に…ご主人様の、お、ちんちん…入れて、めちゃくちゃに、して、ください…」

 

言いながら、かあと頬が火照るのを止められない。

勝手に後孔が潤み、綻ぶような気さえする。

はあっ、と熱を孕んだ息を吐き、ぼくは腰を揺らめかせ、彼を誘った。

欲しい、早く、早く。

ぼくの体の奥底が彼を求めて、切なく震えている。

 

「…上出来だ」

 

ぼくに塗られた口紅の色が移って、艶やかに色付いた承太郎の唇が弧を描く。

彼はぼくのショーツを中途半端にずらすと、隙間からローションを纏った指を差し入れた。

 

「う、あっ…ふ、ふ、うぅ…」

 

くにくに、と入り口のあたりを優しく揉み込まれ、潤滑油でべたべたにされていく。

貪欲なぼくのアナルは、待ち望んだ彼の指を逃すまいときゅうきゅうと締め付けている。

 

「大して慣らさなくても、とろとろだな」

 

承太郎は機嫌良さそうに、指を次々に増やしていく。

毎日のように彼と抱き合っているぼくはそれでも足りなくて、ショーツに押さえ付けられて放って置かれたままのペニスを扱かずにはいられない。

 

「あっ、あっ、ああっ…きもち、きもち…」

「こら、花京院」

 

悪い子だ、とすぐに承太郎が気付いて、ショーツの中へ伸ばされたぼくの手を、引き剥がしてしまう。

せっかく得られた快楽を取り上げられて、もどかしさにぼくは体をくねらせる。

 

「やだっ…さわって、じょうたろ、おねがい」

 

切なさにぽろぽろと涙を零し、そう懇願すると承太郎が苦笑しながらも、後孔を弄る手と反対の手で、宥めるようにペニスを擦ってくれる。

自分の手とは違う、熱を帯びた彼の手の感触が嬉しくて、ぼくは高い声を上げた。

 

「あ、ああ…すごい、おかしくなる、もう、だめ、いれてっ、あ、ああっ」

 

体をめぐる快楽に耐えられず頭を振ると、ヘッドドレスがぱさりと床に落ちる。

いつの間にかオーバーニーソックスも踝までずり落ちていて、折角彼が着せた服は体液とローションで濡れ、見る影もない。

 

「いいぜ、気絶すんなよっ…」

 

ぐっと体を折り曲げられ、承太郎が一息にぼくの中に入り込んできた。

 

「ひぎっ」

 

ずん、と内臓を突き上げるような深いストロークに、限界まで張り詰めていたペニスから白濁が飛び散る。

びくびくと痙攣する内壁に、耐えるように眉をしかめた承太郎の動きが一瞬だけ止まるものの、またすぐに激しい律動が始まった。

 

「あ、あ゛あ゛っ、らめ、イってる、ひっ、う、んぐっ」

 

ああ、ああ、と切れ切れに喘ぎを零し、ぼくは承太郎を止めようと彼の胸を弱々しく押す。

しかし、彼の弾む体はそんなことでは揺らぎもせず、熱い楔で何度も何度も熟れた粘膜を擦りあげられる。

ぼくの体は過ぎた快楽のシグナルにもがき、うろたえ、魚のように跳ねる。

 

「ほら、てめーは、ここ、好きだろっ」

 

オラ、と承太郎が狙ってぼくの弱いところばかりを、カリ首で引っ掻くから堪らない。

熱くうねる粘膜を承太郎によって暴かれて、突き上げられて、彼と繋がったところから甘い痺れが全身に波及する。

 

ぱちゅ、ぱちゅ、と耳を塞ぎたくなるような、肌と肌のぶつかる生々しい音が響きわたって、聴覚まで犯されていく。

青臭い精と汗の匂いにくらくらする。

彼はぼくの足首を掴んで脚を大きく広げさせると、奔馬のように激しく腰を振りたくった。

 

「あ、ああ゛っ、あ゛あ゛、いや、こわい、また、イくっ、も、やらぁ、ひ、ひっ、ひぐっ」

 

嵐のように襲いかかる愉悦を、ぼくの脳は処理しきれず、体がついていけない。

気持ちよすぎて、自分が自分でなくなってしまいそうだ。

どこまでも落ちていくような浮遊感、体が粉々に吹き飛ぶような頼りなさに、なす術もなくぼくは啼く。

 

承太郎が時間と手間をかけた化粧も、涙と唾液で今頃はぐしゃぐしゃなんだろう。

でも今のぼくには、そんなことを気にする余裕もなかった。

 

「いいぜ、イっちまえ…はあっ、見ててやる、から」

 

キラキラ光る緑の瞳に、欲望と情愛を滲ませながら承太郎は言う。

体の内側から、どう名づけていいのかわからないエネルギーのうねりがせりあがってくる。

ぼくはもう何も考えられず、はしたなく嬌声をあげた。

 

「あ、ああっ、イク、イっちゃ、ひっーー」

 

瞬間、目の前がスパークして、勝手にガクガクと体が震える。

背骨を甘い焔が舐めるように駆け上がり、脳が揺さぶられるような衝撃。

そこここで熱く煮えたぎった血液が渦巻いて、体がどろどろに溶けてしまう。

内腿が引き攣るように小刻みに痙攣し、淫らに膨れ上がった性器から欲望が迸った時、ぼくは体の奥底で脈打ちながらじわりと広がる熱を、確かに感じた。


 

ぴくり、ぴくり、といまだ冷めやらぬ絶頂の余韻に、不規則にヒクつく体を持て余し、ぐったりとソファーに身を沈めたぼくを、最後の一滴まで注ごうとでもいうのか、承太郎がゆるゆると突き上げる。

彼は捲り上げられたスカートや、くしゃくしゃになったエプロンに飛び散った、ぼくの精液を掬い取ると、赤い舌でぺろりと舐めあげた。

苦いだろうに、恍惚とした表情でそれを味わう承太郎を見ていると、いたたまれない気分になる。

 

「その…恥ずかしいから、やめてくれないか」

 

そう懇願しても、彼はにやりと楽しそうに笑うだけだ。

情事の後のこういった時間は、段々と冷静さを取り戻していく自分が、先ほどまでの己の痴態をどうしても受け入れられなくて、羞恥に焼け焦げてしまいそうになる。

 

「別にいいじゃあねえか」

 

おれとお前の仲だ、今更だろうと低くかすれた声で囁かれると、ぼくはもう降参するしかない。

こんなことするの、君の前でだけだ、と悔しげに眉を顰めて告げれば、承太郎は嬉しそうに笑った。

 

おしまい

 

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