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花京院の飼っていた犬が死んだ。

 

彼が生まれたときに、両親が息子のよい友人となることを願って飼い始めたそうだから、17年生きたことになる。

花京院はその犬にハイエロファントグリーンという長ったらしい名前をつけて、(なんでも法皇の緑とかいう意味らしい)大層世話を焼いていた。

 

朝から晩まで花京院は、彼の愛犬のことを考えており、俺はそれが少し気にくわなかった。

花京院は犬の世話があるので、ちょっとした俺との旅行もできないのだ。

 

ただ、ハイエロを良く思っていなかった俺でも、家族同然に可愛がっていた犬を亡くし、ふさぎこんでいる花京院を見ると胸が痛んだ。

花京院は食欲もめっきり落ちたし、顔に隈はできているし、声にも覇気がない。いつも魂の半分を失ったような顔をしている。

そんな花京院を見るのは、俺には耐えられなかった。

 

だから、俺が彼の犬になると宣言したのは、自然な成り行きであった。

 

「ごめん、承太郎。今なんて?」

「俺がおめーの犬になってやる」

 

花京院は意味がわからないといった様子であった。

なので俺は根気よく説明する必要があった。

 

「ここんとこのおめーの落ち込みぶりを見ていると、俺もつらい。俺が犬になって、一緒に散歩したり、飯くったら、おめーも少しは元気になるかもしれねー」

 

花京院の目を見ながら、俺はゆっくりと言い聞かせた。

それでもなお、眉をひそめている花京院に、俺がいかに本気かということを教えるために、俺は彼の首筋に顔を近づけた。

 

わあ、と声をあげる彼を無視し、彼の匂いを嗅ぐ。

シャンプーなのだろうか、花のような香りがする。

 

親しみを込めて頬擦りすると、花京院が遠慮がちに、彼の犬にしたように俺の背中に手を回し、そろりと撫でる。

それが嬉しくて、本物の犬のように彼の頬をぺろりと舐めると、花京院がくすぐったそうに笑った。

 

俺は実に一週間ぶりに彼の笑顔をみた。

達成感に俺は思わず「わん」と鳴き、花京院は愛しげに俺を抱きしめた。

 

 

 

それから俺の生活は大きく変わった。

 

まず、朝早く花京院が俺の家にやってくる。俺は彼の犬となり、花京院に手を引かれながら町内を一周する。

俺は犬なのでもちろん声を出さない。花京院が「暑いねえ」とか「きれいなアジサイが咲いてるよ」などと話しかけたときは、黙って彼の手をそっと握る。

端から見たら異様な光景だろうが、早朝の町を歩いているのは俺たちくらいなので問題ない。

 

その後、俺は花京院と別れ、人間に戻って朝食を食べる。食べ終わればまた花京院と合流し、今度は彼の友人として一緒に学校へと向かう。

昼休みになれば、屋上で花京院と弁当を食べながら、たわいない話をする。

 

放課後は、双方の用事がなければ連れだって帰宅し、俺はまた彼の犬になって、手を引かれて朝とは違う道を歩く。

この生活が始まってから、花京院は少し体重が戻ったようで、俺はとても誇らしい気分になる。

 

休日には大体、花京院が泊まりにくるか、俺が彼の家に行った。

俺は花京院の足元にじゃれついたり、膝で寝たりした。花京院は夜になれば俺を抱き抱えて眠った。

 

 

 

そんな生活が続いていたある日、花京院が体を洗ってあげるねと言い出した。

特に断る理由もないので一声鳴いて了承すると、花京院が嬉しそうに俺の頬を撫でる。

 

俺たちが犬と主人という関係になってから一月ほどたった頃、花京院は俺に首輪をつけた。

そこに紐をとりつけられ、花京院がそのリードをとる。

 

彼の希望で人目がないときには、俺は四つん這いで移動するようになっていた。

花京院にひかれて、浴室までの道を這う。住み慣れた我が家のはずなのに、視界が違うとまるで迷路のようだ。膝が擦れて痛む。

 

さすが17年も犬を飼っていただけあって、花京院が俺をひく姿は様になっている。

普段は見下ろす彼の顔が、今は遥か頭上にあって、不思議な感じがする。

 

浴室へつくと、花京院は首輪から紐をとり、手早く俺を脱がせた。

服を着たままの花京院の前で、全裸でいるというのはなかなか恥ずかしい。

しかしにこにこした花京院に、「犬は裸なのが普通なんだから」と言われてはどうしようもなかった。

 

花京院は俺を簀の上に座らせると、鼻歌を歌いながら俺の髪を洗い始めた。

彼の繊細な指が、頭皮を揉みこむように動くのが心地よい。

 

うっとりと身を任せていると、目の前に薄いシャツ一枚を隔てて花京院の胸の突起がある。

鼻先を近づけ、大きく口をあけてシャツごと胸を食むと、花京院が笑いながら、「こら」と俺をたしなめる。

 

「承太郎は待てもできないのかい?」

 

花京院は自分が濡れるのも構わず、依然として彼の胸に張り付いたままの俺の頭上からシャワーを浴びせた。

びしゃびしゃになりながらも、花京院の乳首を甘く噛むと、彼から鼻にかかった声が漏れる。

 

余裕なくがっつく俺に

 

「わんちゃんはタバコが吸えないから、口さみしいのかな」

 

と言いながら俺を挑発するように、花京院がことさらゆっくりと服を脱いでいく。

そしてぷっくりと充血した乳首をさらけだし、花京院は恍惚とほほ笑んだ。

 

「はい、どうぞ」

 

俺はむしゃぶりつくようにそこに吸いつくと、舌でねぶり、先端を歯で責め立てた。

花京院は嬉しそうに吐息をもらし、手で俺の頭をつかみ胸に押しつける。

圧迫感と酸素の薄さにくらくらしながら、俺は子犬のように一心に胸を吸った。

 

花京院の薄い唇から、ああ、ああと意味をなさない嬌声がもれて、彼の体が小刻みに震える。

完全に立ちあがった乳首に満足して、今度は反対側も同じように弄ぶと、花京院が俺の足の間に手を伸ばしてきた。

勃ちあがったペニスを無遠慮に握りこまれ、思わず体がこわばり、うめき声を出してしまう。

 

「はは、すごくおっきいね。こんなに腫らしてかわいい」

 

花京院は楽しそうに、ぐちゅぐちゅと卑猥な音を立てながら俺のペニスを扱く。

どれだけ刺激されても、犬の時の俺が言葉を発することは許されていないので、歯をくいしばって快楽をやり過ごす。

花京院も俺が必死に耐えていることを知っていて、意地悪く巧みに手を動かす。

 

短く速い息をしながら、腹に力をいれて射精をこらえていると、急に花京院の動きが止まった。

 

いぶかしく思って彼を見ると、花京院は頬を紅潮させ、普段は理知的な目が熱っぽくとろけている。

 

彼は悪戯を思いついた子供のような顔で、脱いだ服のポケットから小さな瓶を取り出した。

 

ふたを開けて中のとろみのある液体を、花京院は秘所に塗りつけた。

いやらしく腰をくねらせながら、念入りにそこを指でほぐしていく。

俺は彼の媚態から目が離せない。

 

「承太郎も、もう立派な大人の犬だから・・・そろそろ交尾が必要だと思うんだ」

 

花京院はまるで夢でも見ているような口調でそう呟くと、もう片方の手であまった液体を俺のペニスに塗りたくった。

俺の精液とローションがまざりあって、どろどろに溶けていく。

あまりの快感に体が勝手に震えだし、押し殺した声が漏れる。

 

花京院はそんな俺の姿を見て、興奮しているようだった。

彼は四つん這いになると、腰を高く突き上げ、自ら尻を割り開いて、俺を誘った。

 

「じょうたろ・・・来て」

 

俺は本物の獣のように彼に覆いかぶさり、夢中で腰を打ちつけた。

花京院が高くああ、と叫び声を上げ、背中をそらす。

彼の中は熱く、狭く、俺を喰らいつくすように締めつけてくる。

 

あまりにも激しい律動に、花京院の腰が思わず逃げそうになるのを、上から無理やり押さえつけて、ガツガツと彼の奥を穿つ。浴室に大げさなほど肌のぶつかる音と、花京院の嬌声が響き、聴覚が犯されていく。

 

欲望のまま彼の首筋――ちょうど俺でいえば星型のアザのあるあたりに歯を立てると、痛みに花京院がうめき、中がぎゅうと収縮する。

俺は強すぎる刺激に、全身の骨組が瓦解するような感覚に陥る。

 

なんとか快楽の波をやりすごし、口を離すと、そこにはくっきりと歯型が残り、血がにじんでいる。

いたわるように舌でなめあげると、花京院がたまらないといった様子で、大きく腰を震わせた。

じょうたろ、気持ちいい、とうわごとのように呟く花京院が愛しく、彼の背中にぴったりと体を触れ合わせ、絶頂へと追い立てるように突きあげる。

 

肌がぶつかるたびに汗が飛び散って、きらきらと光る。

鼓動が全身へと響き渡り、じわじわと下腹から重苦しい熱が背筋を這い上がってくる。

犬の俺が彼を犯すヒエラルキーの逆転、主人である花京院を征服する背徳的な喜びに俺は震えた。

涙を流しながら、身をよじって悶える花京院を体で抑え込み、精液をしぼりとるように痙攣する最奥に、欲望をたたきつけた。

 

 

 

全てを吐きだして愉悦の時が過ぎ去っても、俺も花京院もしばらくの間つながったままじっとしていた。

情事の余韻にひたりたいというよりは、貪るようなセックスによるあまりの疲労感に指一本動かせないというのが正直なところだった。

 

いまだにぜいぜいと乱れた呼吸をしながら、花京院は生まれたての小鹿のようによろよろと俺の下から這いでてきた。

ずるりと俺のペニスが抜けると、粘つく精液がだらりと花京院の内腿を伝う。

花京院はその量の多さにちょっと面食らったようだったが、うれしそうにふふ、と笑った。

 

それから花京院は仰向けに横たわると、ん、と手を伸ばして俺を呼んだ。

素直に彼の腕の中に抱きかかえられると、花京院は慈しむように目を細めて、君はずっと僕だけの犬だよと囁いたので、俺も満足げにわんと鳴いた。

 

おしまい

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