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恋をしている。気が狂いそうなほどに、この身を滅ぼすほどに。

日毎募る思いが少しずつ少しずつぼくの中に溜まり、逆巻き、今にも溢れんとしている。

心は千々に乱れ、恋の炎に焼かれ、これから自分がどうなってしまうのかわからない。

ぼくは承太郎に恋をしている。

 

「先にシャワー浴びていいか」

 

といいながら、もう学生服を脱ぎだしている彼に、平静を装ってどうぞと答える。

先ほどからぼくの心臓はバクバクとうるさく鳴り響き、指先はぶるぶる震えている。

学生は学生同士というぼくの発言により、承太郎と二人部屋になったはいいが、興奮と緊張で倒れそうだ。

 

ちらりと盗み見た承太郎は、トレードマークの帽子を脱いでいて、神秘的な緑の目も、それを縁取る長い睫毛も、西洋の血が入った彫りの深い顔立ちも全てがあらわになっている。

その破壊力たるやいっそ暴力的な程で、思わず変な声を出してしまいそうになるのを、何とか堪える。

 

幸いなことに彼はそんなぼくの様子には全く気付かず、タンクトップを脱ぐとさっさと浴室へ消えて行った。

パタンと扉が閉じて、一人になった部屋に重苦しい沈黙が流れる。

ぼくはさっきから、ベッドの上に無造作に脱ぎ捨てられた承太郎のタンクトップに目が釘付けになっていた。

 

蒸し暑いシンガポールの気候にさらされ、彼の汗を吸ったタンクトップ。

良く鍛えられ、引き締まった承太郎の肉体に、今日一日張り付いていたタンクトップ。

 

そう考えると、もう自分を止められなかった。

気がつくとぼくは承太郎のタンクトップに鼻面を突っ込み、震えて覚束ない手で自分の性器を擦りあげていた。

 

「あ、あっ、すごい……じょうたろ、すき、すきだ、ひ、ひんっ」

 

すう、と息を吸い込めば雄臭い彼の香りがする。

頭がくらくらし、下腹がきゅうと疼く。

血管を浮かべて硬く張り詰めたぼくのペニスは、すぐにはしたなくだらだら涎を零し始めた。

 

「あ、あ、ああっ、きもちっ、じょ、たろっ、じょうたろっ」

 

はあはあ息を荒げながら、ズボンの中に突っ込んだ手で屹立を扱きあげる。

気持ちよすぎて手を止められない。

発情した犬みたいにへこへこ腰を振り、今夜承太郎が眠るであろうベッドに股間を擦りつける。

ぼくの下着の中からにちゃにちゃと卑猥な音が立ち、頭がぼうっとする。

 

限界が来たのはすぐだった。

じょうたろと舌ったらずに名前を呼びながら、己のペニスを強く握った時、凄まじい快楽が背骨を走り抜ける。

ガクガク体が震え、声にならない叫びがあがる。勝手に背が反り、爪先がぎゅうと丸まる。

びゅるる、と掌に勢いよく大量の精液を噴きあげ、ぼくは絶頂を迎えた。

 

「あ、あ、ああ……」

 

その時だった、承太郎が部屋に戻ってきたのは。

 

「花京院、すまねえがフロントに電話しちゃあくれねえか。湯が出なく……なっち、まって……」

 

最後まで言いきらぬうちに固まった承太郎と目が合う。

驚きに見開かれた彼の目には、浅ましいぼくの姿が映っている。

 

どうしよう、どうしよう。絶頂の余韻などは、どこかへ消し飛んでいた。

怒られる、嫌われる、幻滅される。ぼくはパニックを起こし、完全に混乱していた。

 

「ご、ご奉仕するから、嫌いにならないでくれ」

 

頭が真っ白になったぼくは、すぐに起き上がると彼の足下に跪いた。

清潔そうなバスローブをめくり、彼の脚の間に潜り込む。

 

そうしてぼくは、突然のことに対応できない承太郎のペニスを、ためらいもせずに口に咥えた。

 

「おいっ、何してる、花京院!やめろっ」

 

はっと我に返った承太郎が頭を引きはがそうとしてくるが、動転したぼくはムキになってしゃぶりつく。

口淫などやったこともないのに、無我夢中になって彼のペニスを吸い、舐め、舌の上で転がす。

シャワーを浴びていたせいか、石鹸の香りしかしないのを、ぼくは残念に思った。

 

「やめ……っ、本当に、やめてくれっ、う、あ、あっ」

 

ぶるぶると承太郎の内腿が震えだす。彼の膝ががくがくしている。ちゃんと気持ちいいのだろうか。

前後に頭を振り、じゅぽじゅぽ音を立てて舐めしゃぶる。

はじめはだらりとしていた彼の性器も、今は大きく膨らんでぼくの口内をいっぱいにしていた。

 

「んむっ、ん、んぶ、ふ、ふぅっ……」

 

じんと舌が痺れてくる。目いっぱい口を開いているせいで、顎が疲れてきた。

頬をすぼめて、何度も搾り取るように吸っていたら、承太郎が低く呻いて頭を抑えてきた。

 

「んぅ!?」

 

びゅるる、と喉奥に熱い液体が打ちつけられる。

息苦しさに思わずえずきそうになりながら何とか嚥下すると、粘ついたそれが喉に絡みつきながら滑り落ちて行く。

 

「んっ、んくっ……んん……」

 

しばらくして彼の手が緩み、ぼくはようやく口を離す。

酸素が足りずに、思い切り息を吸い込もうとしたら、ゲホゲホと咳き込んでしまった。

 

「はっ、はあ、はあ……っ」

 

よろよろと彼の脚の間から這いでて、ベッドにもたれかかる。

目を瞑りながら何度か深呼吸をしているうちに段々頭が冷静になってくると、ぼくは自分のしたことを理解して、さあと血の気が引いた。

 

「あ、あ、ああ……」

 

口を手で覆い、真っ青な顔で震えていると、承太郎が大きな体をかがめて目線を合わせてくる。

すぐにすっと大きな手が伸びてきて、殴られると思ったぼくはぎゅうと目を瞑った。

 

「……?」

 

いつまでたってもこない衝撃を訝しく思い、ゆっくりと目を開くと、ぽんぽんと頭を撫でられた。

呆れたようにため息をつく承太郎の緑の目は、どこまでも優しい。

 

「無茶しやがって」

 

言うのが遅くなっちまったけど、おめーのこと好きだぜ。

そう承太郎に言われて、ひくっと喉が鳴る。

 

「うそだ」

「うそじゃあねえ」

 

好きでもない男にしゃぶられて勃つかよ、と彼はぼくの髪をくしゃくしゃにする。

 

「おめーはどうなんだ」

 

聞かれて、思わずぽろりと涙がこぼれた。

まさか、そんなことあるはずないと思っていた。

彼に好きだなんて、言ってもらえるわけないと。

 

好きだ、絞り出した声はみっともなく震えて掠れていた。

ぐずぐず泣き続ける僕は、あたたかな承太郎の腕に絡め取られ、優しく抱きしめられた。

 

「次は、二人でしような」

 

よしよしと背を撫でられながら、ぼくはなんとかうん、と答えたのだった。

 

 

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