注意書き
生存院設定、承太郎既婚、子持ち。
承太郎は花京院と不倫しています。
「この世界に二人きり」「真夜中は大人の時間」と同じ軸です。
承太郎の奥さんがちょっとでます。
徐倫もでます。
大丈夫そうな方はどうぞ。
side:J
花京院が、人生で二度目の入院をした。
俺の妻に刺されたのだ。
「いやあ、古傷の上の固くなった皮膚だったからよかったよ」
腹部にきつく包帯を巻いた花京院の痛々しい姿に、俺は謝ることしかできない。
「すまねえ。俺のせいだ」
俺と花京院は10年あまりにわたって、許されざる関係を続けていた。
しかし長年の秘密は、一瞬にして白日のもとにさらされた。
その日も仕事が遅くなる妻に代わり、花京院は我が家にやってきて家事全般をこなし、そしていつものように娘が寝入ったのを見届けてから、おれは彼と愛を交わした。
そこに体調をくずして仕事を早退した妻が帰ってきたのだ。
妻は一部屋だけ明かりのついた寝室を見て、すぐに全てを悟り、部屋を開ける前に、まずキッチンへと向かい包丁を手にした。
そして頃合いをみはからって、鍵のかかったドアを蹴破ると、俺ではなく花京院へと刃を向けた。
理性を失った人間は予想もつかない力を発揮する。
俺はとっさに時をとめて、花京院の心臓をねらう包丁の軌道をそらすことしかできなかった。
結果、俺の妻が握った包丁は花京院の腹の傷痕に突き刺さった。
「謝るのは僕のほうだよ、承太郎。君の家庭をぶち壊してしまったんだから」
花京院はうつむいて、申し訳なさそうにつぶやいた。
「君の奥さんに刺されて当然のことはしてきたし、悪いと思ってる。でも君のことあきらめられなかったんだ。ごめんね」
そう言って、さびしそうに花京院が笑う。
俺は、そのもろく崩れてしまいそうな、泣いているようにも見える笑顔に心を揺さぶられ、花京院の腹のケガも忘れて、彼の肩を強くつかんだ。
「何言ってる、お前は悪くねえ。刺されなきゃいけなかったのは俺だったんだ。俺はもうお前に傷ついてほしくないんだ。お前を失うことなんか考えたくないんだ」
気がつくと俺はぼろぼろと涙をこぼし、花京院に優しく抱きしめられていた。
久しく泣いたことのなかった俺は、涙の止めかたもわからず、ガキのように声をあげ、人目もはばからず感情を爆発させた。
花京院の白く細い腕は、遠い記憶の中の母の腕と重なり、俺をひどく安心させた。
side:little J
父さんとママが離婚した。
離婚の原因は、表向きには性格の不一致となっているが、本当はある一人の男のせいである。
男の名前は花京院典明といって、父さんとママの結婚式で、新郎の友人としてスピーチまでしたことがある男だ。
この男が父さんからママを奪った…わけではなく、あろうことかママから父さんを奪ったのである。
それを知って、ママが包丁を振り回し、花京院さんを襲った日のことは、あまり思い出したくない。
警察から解放されたママにつれられて、私はママの田舎にある実家で暮らし始めた。
花京院さんにはあの日以来会っていないが、父さんには一度だけ会うことができた。
父さんは一言私に謝ると、あとは言い訳もせずに黙っていた。
だから私も自分の膝を睨みながら、そう、と一言だけ呟いた。
重苦しい沈黙の中で、私は以前見た父と花京院さんがもつれ合っていた姿が、私の夢などではないことを理解した。
私は目まぐるしく変わる環境に適応するのに精一杯で、感情が麻痺してしまったようだ。
父さんや花京院さんをなじる元気もなければ、ママをかわいそうに思うこともない。
私はどう名前をつけていいのかわからない胸の痛みをもてあましながら、今日も生きていくだけだ。
side:K
僕は本当にずるい男だと思う。
僕を失う恐怖を味わって、正常な判断ができなくなっている承太郎を、押し倒して無理やり体をつなげたのだから。
強力な痛み止めが感覚をにぶらせているにも関わらず、僕の体はあさましく快感を拾い上げている。
彼に愛されて、僕の体はつくりかえられてしまった。
承太郎が時間をかけて僕のなかに複雑な回路を形成し、彼だけがそれを理解している。
承太郎と共にある時間だけ、僕は僕として存在できる。
残りの時間の僕は、電池の切れたロボットのようなものだ。
ただそこにあるだけ。ただそれだけ。
彼の存在だけが、僕をこの地上にとどめ、生きる意味を教えてくれる。
彼から与えられる全ての感情に、僕は感謝する。
承太郎の熱い楔に何度も貫かれ、僕は自分の体がまっぷたつに裂けてしまうような感覚におそわれる。
酩酊したように脳がしびれ、ふらふらとおぼつかない。
下腹部に熱と血が集まり、光の渦につつみこまれる。
噛みつくようなキスをかわし、舌を絡ませる。
こんなふうに承太郎と体液を交換するとき、僕という矮小な存在が尊敬する彼に近づける気がする。
汗で滑る彼の背中に、しがみつこうと爪を立てる。
決定的な刺激を求め、僕はむちゃくちゃに腰をふる。
もう獣の交尾となんら変わりない。
プライドも何もかも捨て、僕は彼の前にすべてをさらけ出す。
暴力的なまでの快楽にふきとばされ、僕の意思に関係なく体が勝手に震えだす。
犬のような短い吐息をもらし、僕は達した。
少し遅れて承太郎が僕の中で脈打つのを感じ、おさまりきらなかった精液がどろりと尻を伝う。
内腿を流れていく承太郎の白濁、彼が僕の体で感じてくれたという証に僕は満たされる。
この時間が永遠に続けばいいとさえ思う。
子をなすこともなく、ただ粘膜同士をこすり合わせるこの行為を、神に背く行為だと責めたいのならそうすればいい。
目の前に置かれたぬるま湯のような幸せを求めずに、身を焼き尽くす地獄の業火に飛び込んでいく僕たちを、人は馬鹿馬鹿しいと思うかもしれない。
僕たちはお互いを喰らい合い、命をすり減らしながら生きることしかできないのだ。