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~Kの場合~

十二月の街を歩くのは好きだ。どこもかしこも赤と緑のクリスマスカラーで統一され、イルミネーションできらきら光る街の中を歩くのは。道行く人々はみな、そわそわとどこか落ち着かず、恋人たちは冷えた体をそっと寄せ合っている。

ぼくは肌を刺すような空気の冷たさに、思わずぶるりと体を震わせると、赤いチェックのマフラーの中に顔をうずめた。ふう、と吐き出した息が白い。

「寒いねえ」

隣を歩く、頭ひとつ分背の高い恋人にそう声をかけると、ああと短い返事の後に、さりげなく手を掴まれた。そのまま、承太郎の白いロングコートのポケットへと導かれる。

 

「ちょ、ちょっと」

 

あまりの事態にかっと頬が熱を帯び、足がもつれてしまう。羞恥に上擦った声で恋人をなじるも、彼の頬も林檎のように真っ赤なのは、決してイルミネーションの明かりを浴びているせいだけではないだろう。

 

「……誰も見てねえ」

 

あんまり離れるんじゃあねえ、はぐれちまうからな、とほんの少し拗ねたような承太郎の声に、ぼくはなんと返せばいいのかわからなかった。繋いだ彼の手が、確かなぬくもりをもってあたたかく、胸がいっぱいになる。

 

「……うん」

 

人ごみの中、十七センチばかり背の低いぼくに合わせて、歩みを緩めてくれる彼がいとしい。自分の気持ちに素直になり、承太郎の手をそっと握り返せば、ほんの少しだけ恋人の口角が上がる。

 

「……承太郎、好きだよ」

 

一歩前を歩く彼の肩に頭をもたれさせ、彼にだけ聞こえるように小さく呟くと、はっきりと恋人の機嫌が良くなるのがわかる。何だかんだ言って、ぼくもクリスマスの浮ついた雰囲気にあてられたのかもしれない。

早く家に帰って、彼の腕に抱かれたい。甘い言葉を耳元に吹き込まれながら、たくさんキスをしてほしい。期待に体は熱く火照り、は、と短い吐息が零れた。

 

「ケーキとワインを買って、早く帰ろう」

 

二人きりになりたい、とねだった瞬間、煌々と輝いていたイルミネーションがふっと消えた。人々の歓声とともにあたりが暗闇に包まれ、驚いて思わず承太郎の体にすがりつくと、唇にやわらかなものが触れた。

 

「……!」

 

ちゅく、と熱く濡れた何かがぼくの唇の上をなぞり、そしてそれはすぐに離れていってしまう。数秒のカウントダウンの後に、再びイルミネーションの照明が点ると、目の前にいた恋人が赤い頬を隠すように帽子を引き下げた。

 

「……メリークリスマス、花京院」

 

帰るぜ、と承太郎に手を引かれ、ぼくはドキドキとうるさい心臓が早く鎮まるように祈りながら、小走りで彼の後を追った。

おしまい

​~Jの場合

クリスマスの、浮ついた街の雰囲気はあまり得意ではない。アメリカ生まれの母親のせいか、クリスマスというと家で家族と一緒に静かに過ごすもの、と認識していたせいもあるのかもしれない。

一方、恋人の花京院はというと、意外とこういうイベントごとが嫌いではないらしい。彼のスタンドも常にきらきら光っているせいか、街がきらびやかな明かりで染まるのが好きなようだ。

 

おれと彼が二人で住む家も、ささやかながらクリスマスの飾り付けをした。玄関にリースを飾り、小さいものだがツリーも用意した。

平均より体格の良い、とうの昔に成人を迎えた男が、二人揃ってクリスマスの準備をするというのも、何か妙な気がしたが、にこにこと嬉しそうな花京院を見ると、おれも小さなサンタの置物などを買ってきてしまうのだった。

 

「承太郎は子供のとき、サンタを信じてた?」

 

のんびりと起きだした休日に、揃いのマグカップで食後のコーヒーをちびちび飲んでいると、花京院がそう問いかけてきた。

 

「まあ……おれのところは、じじいが本物のトナカイを連れてきたりしていたからな……中学にあがるくらいまでは、信じてたな」

 

正直に答えると、現実主義者の恋人は目を丸くしながら、意外だと呟いた。

 

「承太郎、君、かわいいところがあるんだな」

 

いい子、と子供を甘やかすみたいに、花京院がおれの頬をくすぐる。それがなんだか照れくさく、おれは眉をしかめた。

 

「お前はどうなんだ」

 

とお返しに柔らかな頬をつねれば、彼はふっと真面目な顔になった。

 

「……ぼくはね、小学一年生の時にサンタの正体に気づいちゃったんだよ」

 

欲しいものを手紙に書いてサンタに送れって、両親に言われたけど、そんなことしなくても、サンタはぼくの欲しいものがわかると思って書かなかったんだ、と花京院は続けた。

 

「そうしたら当日、全然ぼくの思ってたものと違うものが枕元に置いてあったんだ。たしかサンタの絵柄が入ったお皿だったかな、詳しくは忘れてしまったけど」

切なげな表情の恋人に、おれは胸が締め付けられる思いがして、思わず彼の手を強く握りしめていた。

「お前は本当は何が欲しかったんだ」

おれが何でも用意してやる、と言えば、花京院は驚いた顔をした後、すぐにへにゃりと表情を緩ませた、

「もう、手に入ったからいいんだ」

ぼくはサンタに、ぼくの法皇が見える人に出会えますように、そしてその人とずっと一緒にいられますようにってお願いしたんだよ、と恋人は満足げに笑った。

 

おしまい

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