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ぼくと承太郎は、いわゆる恋人同士というやつで、一つ屋根の下、二人で暮らしている。一緒に暮らし始めてもう随分と経つが、ぼく達の関係は非常に上手く行っている、と思う。

 

秘訣は何ですか、と聞かれると、一つに絞るのはなかなか難しいが、強いて言うなら寝室の壁に掛けられた、小さなホワイトボードのおかげのような気がする。よく目に付くところに設置されたそれには、その、なんというか、つまり、今夜の愛の営みの希望を書くことになっているのだ。

 

なぜこの制度が始まったかというと、同棲を始めた当初、お互い相手に遠慮してしまい、ベッドの上での行為でぎくしゃくしてしまったことがあって、それからというものぼくら二人の間で、エッチにおける体位や、回数や、シチュエーションの希望を、事前にホワイトボードに書いておくことになったのだった。

 

そういうわけで今日も、ぼくは本日のエッチに挑む前に、ホワイトボードで承太郎の希望をチェックすることにした。細かいことが気になると夜も眠れない性格で、そのうえメモ魔の承太郎は、意外と注文が多いため、早めにチェックするに越したことはないのだ。

 

幸い承太郎は仕事が長引いているみたいでまだ帰ってきていないようだし、今日は準備に時間がかけられるな、と思いつつ、ぼくはちらりとホワイトボードに視線をやった。

 

「どれどれ」

 

そうして、そこに書かれた恋人の希望に目を通してすぐ、ぼくは眩暈を覚えて倒れそうになった。震えるぼくの目の前にあるホワイトボードには、こう書かれてあった。

 

体位:騎乗位、回数:何回でも、備考:緑のセーラー服着用で

 

なんだこれは。もうどこから突っ込めばいいのかわからない。よろよろ、とすぐ隣にあるベッドに倒れそうになるも、ぼくはなんとか踏みとどまる。

 

普段であれば、「はは、何言ってるんだ。駄目に決まってるじゃあないか」と笑ってかわせるぼくだったが、今回に限ってはそうはいかなかった。

 

なぜなら明日は仕事がなく、先月ぼくの誕生日を盛大に祝ってもらったばかりで、その上承太郎が秋の学会で発表した演題が賞をもらったということで、ぼくはホワイトボードに「特に希望なし、承太郎におまかせ」と朝のうちに書いてしまっていたのである。まさか彼の方からこんな希望がでるなんて、全然思ってもみなかったのだ。

 

しかし、「承太郎におまかせ」と書いてしまった以上、男に二言はない。覚悟を決めて、やるしかない。いや、やってやろうじゃあないか。

 

ぼくは大きく深呼吸をして、それからプレイ用の衣装が入っているクローゼットの中から、サイズは男性ものの緑のセーラー服を取り出した。肩のあたりがゴツいそれは、承太郎が寝てる間に勝手にぼくの体のサイズを測って、特別に注文したものらしい。

 

その時は恥ずかしくて、絶対に着ない、とごねて承太郎と大喧嘩をして、(そのあとすぐに仲直りしたが)クローゼットの奥の奥にしまい込んだままにしていたのだが、承太郎が忘れていなかったのは予想外だった。なんて執念深いんだろう。

 

「うーむ……」

 

きっと高級な生地で作られたのであろう、一度も袖を通していない、まっさらなセーラー服を改めて見つめるが、どうも踏ん切りがつかない。だって、これって女子高生とか女子中学生が着るものであって、どうやっても平均より体格の良い成人男性が着る物じゃあないぞ。というか、セーラー服とぼくの存在って対極にある気がするぞ。

 

しかし、やらないことにはどうしようもない。すうはあ、と何度か深呼吸して気持ちを落ち着けてから、ぼくは脇の下のチャックを下ろし、セーラー服を頭から被ってみた。白いタイをわからないながらもなんとか結び、そうしてきちんとプリーツの折り目が付いたスカートに脚を通し、一緒に出てきたハイソックスと艶々した茶色の革靴を履いてみる。憎らしいことにサイズはぴったりであった。

 

「……」

 

羞恥心で頭が爆発しそうだが、とりあえず着るだけは着た。鏡で確認しよう、という気は起きなかった。というか、今すぐ脱いでしまいたかった。

 

だが、承太郎の前で着直すのも恥ずかしい。しかし、この恰好でずっと承太郎の帰りを待つのはもっと恥ずかしい。どうしたものか、と考えていると、ぼくはセーラー服を取り出したあとの隙間に、何か小さなA4サイズくらいの箱があるのに気付いた。

 

「……ん?」

 

何の箱だったか、と首をひねりつつ、それを開けたぼくは、すぐに自分がその箱を見つけたことを後悔し始めた。中から出てきたのは、レースがふんだんに使われた、サイズだけはどう見てもぼく用の、女性物の清楚なエメラルドグリーンの下着の上下だった。

 

そう、セーラー服をオーダーメイドした承太郎は、ついでにそれに合わせた下着も注文していたのだった。すっかり忘れていた。

 

まさか、これも着けなければいけないのだろうか。これを着るくらいなら、ノーパンの方がマシじゃあないだろうか、とさえ思う。しかし、セーラー服と揃えて作ったのだから、たぶん着る前提なのだろう。

 

ぼくはのろのろとパンツを履きかえ、悪戦苦闘しつつなんとか薄い胸をブラジャーで覆った。恥ずかしくてどうしようもできずに、セーラー服がくしゃくしゃになるのも気にせず、頭から布団をかぶる。

 

こんな恰好、承太郎に見られたら羞恥で死ねそうだ。だが、彼が喜んでくれるなら、とどこかで思う自分もいた。布面積の少ない下着の中で、ぼくの性器はこれからの行為を期待して窮屈そうに頭をもたげ始めていて、それがまたぼくを苦しめた。

 

耐えきれず承太郎のばか、と叫んだ瞬間、ガチャリと玄関の方から鍵の開く音がした。承太郎だ。承太郎が帰ってきたのだ。そう思うと、ドキドキとうるさいくらいに心臓が鳴った。靴を揃える音、コートをハンガーにかける音に続いて、ヌシヌシという彼の足音がどんどん近付いてくる。

 

ぎゅっと布団を掴む手に力が入り、ぼくはほとんど無意識に、ハイエロファントの触手で寝室のドアノブを雁字搦めに固定していた。心臓は口から飛び出るんじゃあないか、というくらい激しく鼓動している。迷いなく玄関から寝室に辿りついた承太郎の足音が、ピタリ、と寝室の前で止まった。

 

「……いるんだろ、花京院。開けてくれ」

 

焦らしてんのか、といやに低く艶っぽい声で、承太郎が尋ねる。スタープラチナの無骨な指が、いやらしくハイエロファントの触手をなぞって、びっくりしたぼくは思わずスタンドを引っ込めてしまう。

 

「いい子だな」

 

キイ、と阻むものがなくなった寝室のドアがゆっくりと開けられる。ぼくは必死に気配を消そうと息を詰めるけれど、小刻みに震えるこんもりと盛り上がった布団の膨らみを見て、くく、と恋人は口の中だけで含み笑った。

 

「かくれんぼか?」

 

ぎゅう、と布団ごと抱きしめられて、思わずひっと息を飲む。彼の声が、ぼくを絡め取る腕が、優しすぎていっそ恐ろしいほどだ。

 

「み、みないで……」

 

おねがいだ、という自分の声はひどく小さく、情けなく震えていた。承太郎はぼくの懇願など意に介さず、布団からはみ出たぼくの靴にリップ音を響かせて、恭しくキスをした。

 

「なあ花京院、出てきてくれよ」

 

おれしか見てねえ、と殊更甘い声で彼は囁く。まるで、ぐずる子供に言い聞かせでもするように。承太郎の声が何度も頭の中で反響して、魔法にかけられたみたいに、自分がおかしくなってしまう。承太郎以外にこんな姿をみせることなんかないし、彼に見られることが一番嫌だったのに、ぼくは頭が変になって、夢遊病者みたいにふらふらと布団から這いでてしまった。

 

似合わないセーラー服を着て、女性物の下着を着けて、恋人に抱かれるのを期待している、いやらしいぼくの姿を見てほしい。そうして、ぼくという形骸を粉々に吹き飛ばすくらい、乱暴に抱いてほしい。

 

「承太郎……」

 

見上げた恋人の顔は、いつになく嬉しそうで、ぼくの一等好きな緑の目がキラキラと星のように輝いていた。彼は満足そうにぼくの頬に口づけ、髪を撫で、お気に入りのぬいぐるみにするように愛おしげに抱きしめてきた。

 

「綺麗だ」

 

名前を呼ばれながら首筋を甘噛みされて、思わず声が漏れる。二十歳をとうに過ぎた自分が、セーラー服など着ても綺麗なわけなどないと思うけれど、彼の大きな掌が服の隙間から入り込み、薄い胸をかき集めるように揉まれて、もう何も考えられなくなる。

 

「あ、あ……っ」

 

セーラー服とブラジャーを上に捲り上げられて、痛いほど勃起した乳首を吸われると、腰の抜けるような感覚が襲ってくる。気持ちいい、体がとろとろと溶けてしまいそうだ。ふわふわする。

 

「腰、揺れてるぞ……かわいいな」

 

気持ちよくて、承太郎にもっとして欲しくて、ぼくは無意識に胸を押し付け、彼の体に下腹を擦りつけるような体勢になってしまう。スカートを押し上げて膨らんだ性器を、彼の腹にあててはしたなく腰を振るのを止められない。

 

「きもち、きもちい……」

 

ぬちゃぬちゃ、と下着の中はもう既にすごいことになっていて、卑猥な水音がひっきりなしに聞こえてくる。承太郎はくすくす笑って、制服のスカートを指で摘まみ上げた。

 

「おいおい、おれの腹がどろどろじゃあねぇか」

 

どうしてくれるんだ、と彼に下着からはみ出たペニスを指で弾かれて、思わず犬のような声が漏れた。ごめんなさい、と謝りながらも刺激を求めて腰を振り続けていると、やれやれ、と承太郎が溜息をついた。

 

「こんなにやらしい奴は、お仕置きが必要だな」

 

そうだろ、と聞き返されて、必死に頷く。は、は、と短い吐息を漏らしながら、ぼくの頭の中は、どうやったら彼にペニスを挿れてもらえるかということでいっぱいだった。

 

「ぼくは、えっちないけない子ですっ、承太郎のおちんちん入れて、いっぱいお仕置きしてください……っ」

 

お願いします、とほとんど叫ぶように言い、彼の硬い腹筋に先走りを塗り広げるように擦りつけると、承太郎がぼくのペニスの根元を下着の上からぎゅう、と握り締めてきた。射精をせき止められて、ぼくの口から悲痛な声が漏れる。

 

「や、やだぁっ、イキたい、おちんちんイキたいです、イかせてっ」

 

いやいやするみたいに頭を振ると、承太郎がぼくの耳に息を吹きかけてきた。毒のような甘美な快楽が、体を冒していく。

 

「違うだろ?毎回おれに突っ込まれて、気持ちよくなってるお前のこれは、もうちんこなんかじゃあねぇだろ?」

 

なあ、と囁かれて、頭がぼうっとする。そうか、セーラー服を着て、可愛らしい下着をつけて、これから承太郎にめちゃめちゃに抱かれるであろうぼくは、女の子なんだ。ぼくはこれから、彼の雌にされるのだ。

 

「ク、クリトリスですっ、クリトリス、いじめて、イカせてくださいっ、ぼくの、いやらしいおまんこに、承太郎のおっきいおちんちん入れてくださいっ」

 

承太郎に促されるまま、何かとても恥ずかしいことを自分が言ってしまっている、ということはわかるのだが、体の中で燻ぶる欲をどうにかして欲しくて、なりふり構っていられない。

 

女の子の服を着て、ベッドに寝そべった承太郎の腹に会陰を擦りつけ、必死に彼を強請るぼくの姿は、たぶん人様に見せられないくらい、淫らで、浅ましく、いやらしいんだろう。

 

だけど承太郎がそんなぼくをうっとりと眺め、望んだとおりの快楽を与えてくれるから、ぼくは存分に乱れることができる。泣き叫び、背を反らせ、クリトリスと称したペニスから白濁をまき散らし、彼の胸を汚しても、承太郎はぼくを嫌いになったりしない。それどころか彼を受け入れたくて疼く穴に、ローションまみれの指を突き立て、ぐりぐりとぼくの弱いところを苛めてくれる。

 

「あ、ああっ、あっ、すごい、そこすき、あ、あっ」

 

既にセーラー服のプリーツはぐしゃぐしゃで、下着はべっとりと精液で濡れている。ぼくは髪を振り乱し、承太郎の腹に手を付いて、発情した獣みたいに腰を振りたくって淫らなダンスを踊る。

 

ぼくの下で、承太郎も恍惚と目を細め、頬を上気させて短い呼吸を繰り返す。さっきからガチガチに硬くなった彼の性器が、ぼくの尻の間に擦りつけられていて、期待にぶるりと体が震えてしまうのを止められない。いれて、いれて、とうわ言のように繰り返せば、承太郎の手がぼくの腰を掴む。

 

「花京院っ、ほら、手伝ってやるっ、腰、落とせっ」

 

ぐ、とひくつく蕾に、承太郎の性器が押しあてられる。ぼくは彼に言われるがまま、一息に腰を落とし、根元まで彼を飲み込んだ。

 

「〰〰〰〰っ♡」

 

瞬間、目も眩むような快楽が襲い、背骨を凄まじい勢いで甘い電流が流れて、脳髄が痺れる。はくはく、と陸に打ち上げられた魚みたいに口をわななかせて、ぼくはまた堪え症もなく絶頂を迎えていた。

 

「はっ、いれただけでイったのか?」

 

最高だぜ、と承太郎が遠慮もせず、ガンガン下から突き上げてくる。尻に彼の腹が打ちつけられる乾いた音が、ぼくの聴覚を犯す。彼のペニスのくびれた所が、ぼくの好きなところを何度も行き来して、歓喜の声が漏れてしまう。イったばかりの、いまだ痙攣する中を擦りあげられて、すぐにまた絶頂の波を呼び戻される恐怖にぼくは叫ぶ。

 

「ああっ、らめ、らめぇっ、またイク、やだ、こわい、っああ〰〰〰〰♡」

 

ずん、と一際強く奥を突かれ、腹の奥がきゅうん、と疼く。目の裏で光の粒子が散る。ぞっとするような快楽が、全身の隅々まで行きわたって、眩暈がするほど気持ちよかった。内腿がびくびくと引き攣れ、承太郎のペニスを絞りあげるように勝手に粘膜がうねる。

 

「……っ」

 

口を大きく開けてイキ続けるぼくの中に、承太郎が息を詰めて精液を注ぎ込んでくれるのがわかる。ぴくぴく、と腹の中で脈打つ彼のペニスが熱くて、体の内側から焼き尽くされそうだ。

 

「ああっ、じょうたろうの、せーえきあついっ、ひ、ひぃんっ」

 

下腹で広がる熱にうろたえ、舌足らずにそう訴えれば、また中で彼のペニスが膨れ上がった。内臓を押し上げられて、驚いて腰を引こうとするも、承太郎の太い腕がそれを阻む。

 

「逃げるんじゃあねーぜ、花京院っ」

 

切羽詰まった表情で、承太郎はそう告げるとまたぼくを追い詰めていく。ばたばたと手足を動かし抵抗するも、がっしりと腰を掴まれて、どこにも逃げ場がない。

 

ずちゅ、ずちゅ、と先ほど彼が中に放った精液が重力にしたがって垂れてきて、卑猥な水音が立ってしまうのも、どうすることもできない。受容限度を振り切った快楽に、やだ、こわい、と泣きじゃくるぼくを許さず、彼はめちゃくちゃにぼくを犯し続けた。

 

「ひ、ひぃっ、ゆるして、え、えっちでごめんなさいっ、もうだめ、しんじゃうよぉっ」

 

イク、と訴えることもできないまま、ぼくはまた絶頂に体を震わせる。もうずっとイキっぱなしになっていて、何が何だかわからない。腰は甘く、重だるく痺れて全く自分の思う通りにならないのに、彼を飲み込んだ部分は、嬉しそうにきゅうきゅう恋人のペニスを締めつけていた。

 

「今日は、おれの気の済むまで、付き合ってもらうからなっ」

 

花京院、とひどく甘い声で名前を呼ばれた瞬間、ぼくは何度目かわからない絶頂を迎え、そこで意識を失った。



 

カーテン越しに差し込む朝日に、重い瞼を開けると、そこにはひどい光景が広がっていた。きれいに整えていたベッドは、二人分の汗と体液と、それからローションでぐしゃぐしゃに乱れていて、青臭いにおいがそこかしこから漂っている。ぼくの体は指一本すら上手く動かせないほど、ぐったり疲労しきっていて、腰から下は麻痺して感覚がなかった。

 

「うう……」

 

ずりずり、とベッドの上を這おうとしてしかし、ぼくの臍のあたりに承太郎が抱きついていてそれは叶わなかった。見ると新品だった緑のセーラー服には、点々と精液が固まった白いシミができてしまっていて、スカートのプリーツはぐしゃぐしゃに、ぴかぴかの革靴とハイソックスは両方ともベッドの下へ飛んで行ってしまっている。

 

やれやれ、こりゃあクリーニングが大変だ、とぼくは頭痛を覚えるけれど、満足そうにすやすや眠る承太郎の顔を見ると、まあ仕方ないか、許してやろう、という気分になってしまう。それだけぼくは彼が好きなのだ。

 

「承太郎、ほら早く起きて」

 

ぼくは一応大げさに溜息をつき、肩をすくめて、性欲の強い恋人に困っているというポーズをとってから、一緒にご飯食べようよと、いまだ夢の世界にいる恋人を揺り起こした。

 

おしまい

 

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