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花京院が好きだと自覚したのは、五十日の旅を終えて、重傷を負った彼が病院で目を覚ました時だった。

 

伏せられた長い睫毛がぴくりと震え、縦に走る傷跡が残る瞼がゆっくりと開いた時、おれはようやく気がついたのだ。おれはずっと花京院のことが好きだったのだ。毎日命を賭けた闘いを潜り抜けるのに必死で、気づいていなかっただけで、おれは最初からこいつが好きだったのだ。

 

だが、彼が目覚めてすぐにばたばたと花京院の家族に連絡を取ったり、じじいやおふくろが駆けつけて大はしゃぎしたりして、おれは恋心に気がついたのに、告白するタイミングを逸してしまった。それから間を置かずに本格的なリハビリが開始され、見舞いに行っても花京院は大体訓練をしているか、それか疲れて眠っているかで、病院では人の目も多いし、おれは気持ちを伝えることができないまま、ずるずると一ヶ月ほど過ぎた。おれの想いはどこにも吐き出すことができずにむくむくと大きくなり、それは化け物のように膨らんで、とうとうおれを飲み込んだのだ。

 

その頃にはおれは、花京院に告白したとして、それが受け入れられなかったらどうしよう、と延々と考えるようになっていた。そうしたらこの醜く巨大化した恋心は行き場を失い、おれを殺すのだろうか。それともおれ自身が、おれを受け入れられない花京院を殺してしまうのだろうか。

 

花京院はおれの気持ちも知らずに、おれの横でにこにことチェリーを頬張っている。とうとう病院食以外のものを食べても良いと、許可が出たのだそうだ。退院も近いと思う、と嬉しそうに話す花京院は、今すぐこの場で抱きしめてキスしたいくらいに可愛かった。だが、花京院はまだ誰のものでもなかった。

 

おれは花京院の話に相槌を打ちながら、どうしたら花京院を自分だけのものにできるかずっと考えていた。 まず先に体だけでもおれのものにして、おれなしでは生きていけないようにしたらどうだろうか。おれにずぶずぶに依存し、四六時中おれに愛されることだけを考える花京院。

 

おれは花京院の賢く、誇り高く、何者にも従属しない自由な魂を何より愛していたが、彼を自分だけのものにするためには、その部分を一度壊して作り変える必要があることは理解していた。そう考えると、花京院が怪我を負ってまだ意識を取り戻さないうちに、最初からその体におれを覚えこませ、快楽を仕込んでいればよかったのだ。おれは過去の自分をひどく呪った。

 

いつの間にか険しい顔をしていたのだろうか、どうしたんだい、と心配そうに尋ねる花京院に、何でもないとにこりと笑いかけながら、おれは一つの素晴らしい方法を思いついた。



 

花京院の退院の日に、病院の薬品庫からごっそりと睡眠薬を回収した時、おれは自分のスタンドがいかに便利であるかということを理解した。病み上がりの花京院の荷物を持ってやり、彼の家まで付き添うおれは、完璧な友人を演じていたと思う。

 

花京院が学校に通い始め、しばらく経って夏休みになり、夏期講習の帰りにおれは何気ない風を装って家に遊びに来ないか、と彼を誘った。一緒に面倒くさい宿題、片付けちまおーぜ、と言えば、優等生の彼はおれを疑うこともなく、いとも簡単におれの家にやって来た。

おれは随分前から、その日はおふくろが町内会の集まりで家にいないのを知っていた。花京院はそれを特に疑問に思うこともなく、今日はホリィさんいないんだね、などと呑気に話していた。これから何をされるかも知らないで。

 

あんまり大したもんなくて悪いな、とおれが机に置いた麦茶は、ガラスの表面にびっしりと汗をかいていた。夏はもう終わろうとしていたが、部屋の中はまだ蒸し暑く、花京院は警戒もしないで、ありがとうとそれをゴクゴク飲んだ。底の方に白い粉が少し残っていないかとヒヤヒヤしたが、彼は全く気がついていないようだった。おれは上下する彼の喉仏をうっとりと見つめ、彼のために用意しておいたつやつやとしたさくらんぼを勧めた。

 

花京院はしばらくの間、嬉しそうに舌の上でさくらんぼを転がしていたが、じきにうとうとし始めると、何度もあくびをするようになった。机の上に広げられた宿題は、数ページしか進んでいなかった。なんだか眠くなってきてしまった、と恥ずかしそうにする花京院に、少し休んだらどうだ、能率もあがらない、と言えば、すみません、と彼は畳の上に体を横たえた。

 

すぐにすうすう、と寝息を立て始めた彼は、頰をゆるく引っ張っても、全く反応すらしなかった。おれはきちりと着込まれた制服のボタンを一つずつ外しながら、自分の心臓がドクドクと脈打っているのを、ひどくうるさく感じた。

 

初めて見る花京院の裸は、想像よりずっと美しく綺麗だった。常々色が白いと思っていたが、制服に包まれていた部分は、より一層日に焼けておらず、血管が透けてほのかに青みがかってさえいた。よく鍛えられた胸の頂点で、慎ましやかな薄桃色の乳首がツンと存在を主張している。痛々しい腹部の傷は、彼の美しさを際立たせるアクセントにしかならず、髪と同じ紅茶色の茂みの下に、色素の薄いペニスが品良く続いていた。その下のふくりとした陰嚢の中で、彼の遺伝子が毎日製造されているかと思うと愛おしさしか感じなかったし、そっと隠れた蕾は、誰にも踏み荒らされていないのに、眠っているせいか少し綻んでいるのが可愛らしかった。

 

おれはまず花京院に祈りを捧げてから、あらかじめ買っておいたローションを彼の後孔に優しく塗りこめた。綺麗な桃色の秘蕾の中は、ひどく熱く、柔らかく、そしてねっとりと絡みついてくる。誰も知らない、花京院本人すらも知らない、彼の体の中に触れているのだと思うと、興奮で頭がクラクラとし、おれは震える手で避妊具を猛った自身に被せると、我慢できずに慣らすのもほどほどに、すぐに彼の中に飛び込んだ。

 

花京院の内側は、ゴム一枚隔てていても腰の抜けそうな快楽をおれにもたらし、危うくすぐに射精してしまいそうなほどだった。今までのおれの人生で感じて来た快楽など、笑ってしまうくらいちっぽけなものだったと思うくらい、彼の中は素晴らしく最高だ。不思議な弾力のあるつるりとした粘膜の中ほどに、少し膨らんだ部分があって、そこを擦ってやると花京院のペニスはふるふると勃ちあがり、彼の肌はどんどん桃色を帯びていった。

 

「う、うん、う」

 

ゆさゆさと体を揺すっても、花京院はほとんど声もあげず、くったりと四肢を投げ出しておれにされるがままだ。瞼を伏せる花京院は、本当に死んでしまっているかのようで、おれを少し不安にさせる。だが、死んだように眠る花京院の姿は、背筋がゾクゾクするほど美しく、おれ自身さえ知らなかった隠れた性癖を呼び起こした。

 

「かきょういん、か、きょういんっ」

 

花京院を快楽漬けにするという当初の目的も忘れ、ただ自分の欲のままにめちゃくちゃに腰を振る。初めて男を受け入れるというのに、彼の中はきゅうきゅうとペニスに吸い付き、ねっとりとおれを包み込んだ。見れば花京院の性器は臍に付くほど反り返り、たらたらと先走りを零していた。ぐっすりと眠っているのに、花京院の体はなんていやらしく、快楽に素直なのだろう。おれが奪ってやらなければ、誰に掠め取られていたかわからない。

 

「あ、あう、う、う〰︎〰︎っ」

 

いいようにおれに揺さぶられる彼の頰は薔薇色に紅潮し、しっとりと汗ばんでいる。花京院の口からは荒い息と、むずがる赤子みたいな可愛らしい声が漏れた。彼の唇に自分のそれを重ね、あまつさえ舌を絡めてキスをする。彼の唇はものを話したり、食事をする機能が白々しく感じられるほどいやらしく、おれに汚されるために存在しているのだとおれは思った。

 

「かきょういん、すきだ、すきだ……おれのものに、なっちまえ……」

 

白くまろい尻に腰を打ち付け、征服するように奥をこじ開ける。すきだ、とおれのものになれ、を呪文のように何度も彼の耳に囁きかけ、花京院の一番深い、体の中心をめがけて、何度も何度も激しく突き上げる。しばらくして限界がきて、とうとうおれは低く呻いて、ゴム越しに彼の中に大量に精を放った。

 

「は……」

 

長い射精は延々と続き、おれは全てを吐き出そうとゆるゆると腰を振った。おれと同じように絶頂を迎え、腹を精液で汚した花京院の、薄い瞼がぴくぴくと震えている。射精の快楽で馬鹿になったおれはいっそ、ここで彼が目を覚ましてしまえばいいのに、と思う。

 

目覚めた彼は、友人に犯されている事実を認識したら、一体どういう顔をするのだろうか。絶望に染まるのか、驚愕に目を見開くのか、ただ呆然と人形のように表情を失うのかもしれない。いっそ嫌われるくらいなら、口汚く罵ってくれ。彼に好かれることなく、受け入れてもらえないなら、一生残る傷跡を彼に残して、おれは消えてしまいたい。

 

「かきょういん……」

 

おれの思いなど知らずに、こんこんと花京院は眠り続ける。おれは再び湧き上がる欲望のまま、体位を変えて花京院を貪り続けながら、頭の中で破滅の鐘が鳴り響いているのをぼんやりと聞いていた。

おしまい

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