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承太郎と暮らし始めて、もう十年ほどになる。

 

十七の頃に共に五十日間の旅を経験したが、承太郎との共同生活の最初の頃は、同じ空間に彼が居ることに慣れず、幻滅されやしないかと毎日緊張してドキドキしていたけれど、今ではすっかり彼との生活に慣れ、承太郎の存在をあたりまえのものとして受け入れられるようになった。彼のいる空気が愛しく、ひどく心地よい。

 

だがしかし、彼との暮らしが長くなるにつれて、承太郎に飽きられてしまうんじゃあないかという不安が、少しずつぼくの中に膨らんでいった。承太郎は年齢を重ねるにつれて、恰好よさに加えて匂い立つような大人の色気が加わってきて、ますます女性が放っておかなくなった。彼はいつもぼくに優しいし、ちゃあんと好意を示してくれるし、ベッドの上でも毎晩愛を囁いてくれるけれど、ぼくは承太郎が誰かにとられてしまうんじゃあないかと気が気じゃあなかった。

 

だからぼくは日々、彼との夜の営みに刺激と新鮮さを与えようと画策しているのである。

 

 

 

その晩、お風呂から出てきた承太郎は、ベッドの上に座ったぼくを見て驚いたみたいだった。そりゃあそうだろう。その日のぼくはバニーガールの恰好をしていたのだから。

 

「……びっくりした?」

 

まあぼくは男だから、バニー”ガール”というのも変かもしれないが、自分で着たくせにやっぱり恥ずかしくなって、ぼくは網タイツを纏った太腿をもじもじと擦り合わせる。承太郎はまあな、と返すと、すぐにバニースーツに包まれたぼくの腰を撫でさすった。

 

「あっ……こら、手が早いぞ」

 

ぼくが抗議しても、承太郎は気にも留めず、今度は好き勝手にぼくの尻を揉み始めた。彼はひとしきり尻の形を確かめた後、ふわふわしたうさぎのしっぽを弄ぶ。

 

「自分で用意したのか?」

 

ひどく楽しそうに、意地悪く尋ねてくる恋人に、ぼくは耳まで真っ赤にしながら、そうだよと答えた。

 

「むっつりすけべの君は……あ、あっ……こ、こういうのが、好きなんじゃあないかと、思って……」

 

興奮しているんだろう、と彼の脚の間に手を伸ばせば、そこはぼくの予想通りガチガチに硬くなっていた。

 

「ふふ、本人と違って、ここは素直だね……」

 

かわいい、とぼくは承太郎のそこに顔を寄せ、器用に下着の中からお目当てのものをとりだすと、見せつけるように裏筋をねっとりと舐めあげた。快楽のためにぶるりと承太郎が震えるのが愛しい。

 

ぼくは豊かな繁みに鼻を突っ込むようにして、彼の長大なペニスをすっぽりと口内に招き入れた。いつもなら脳をくらくらさせる雄くさい匂いがするのに、入浴したばかりだからか、そこはほとんど石鹸の香りしかしない。ぼくはそれを少し残念に思った。

 

「ん……んむ、ん、ん、ふ……っ」

 

ぴちゃぴちゃ、と唾液と先走りの混じり合う卑猥な水音を立てながら、ぼくはうっとりと恋人の性器を味わった。先端からとめどなく溢れでる蜜は、どろりとしていて濃厚な味がする。

 

「あ、は……おいし……」

 

ずっしりと精子の詰まった陰嚢を指先でやわやわと愛撫しつつ、口淫を続けていると、承太郎がヘアピンで留めたぼくのうさ耳を引っ張ってきた。名残惜しく思いながらもぼくが口を離すと、体を強く引き寄せられる。

 

「ん、んぅ、あ……っ」

 

ぐり、と脚の間に熱く猛る雄を擦り付けられて、思わず腰が跳ねる。押し当てられた彼のペニスは、ぼくのそれよりずっと長く、太く、全体的に大きくて、そのうえカサが張っていて、軽くぼくの臍を超えるくらいある。

 

いつもどこまで入っているかよくわかっていなかったが、こうやって見るとセックスしている時、ぼくの体の中はどうなっているんだろう。承太郎の長大なペニスに掻き回されて、しっちゃかめっちゃかになっているのではないだろうか。彼と繋がる時、承太郎がぼくの腹の傷を心配するのもわかる気がした。

 

「おい……顔、こっちに向けろ……」

 

そんなことをつらつらと考えていると、承太郎に顎をとられて噛みつくようなキスをされた。どうやら彼は、ぼくのバニー姿を前に随分と余裕がないらしい。ぼくはにやにやしながら彼の情熱的なキスに応えつつ、うずうずしている恋人のペニスを扱いてやった。

 

「ん、ん……っ、ふ、あ、は……」

 

ねっとりと舌を絡ませ、時折息継ぎのために唇を離せば、二人の間につう、と唾液が糸を引いた。承太郎は我慢ならないのか、ぐいぐい腰を押しあててきて、あまつさえ指でぼくのバニースーツをずらして無理矢理挿入を試みている。

 

「ん、承太郎、だめだよ……」

 

ちゃあんと脱がせて、と耳元に囁けば、承太郎は網タイツを破こうとしていた悪い手を止め、渋々といった感じでぼくの背中に手をまわした。ジーッというファスナーの下がる音で、ぼくはパブロフの犬みたいに毎回その先を期待して、一人で勝手に興奮してしまう。

 

「そう、いい子だね……」

 

承太郎の手で、一枚一枚花びらをめくるように、服を、靴を、下着を脱がされて、ぼくはどんどん生まれたままの姿になる。うさぎの耳だけをつけたまま、ゆっくりとベッドに体を沈められて、ぼくは上機嫌で承太郎の頭を撫でてやった。

 

「ね、いい子の承太郎に、いいもの見せてあげる……」

 

ちょっと待っててね、と早くぼくの中に挿れたくて仕方がない恋人を宥めると、ぼくはベッドヘッドボードにあらかじめ置いておいたにんじんを手に取る。これからぼくが何をするのか、まだ理解していない承太郎に微笑みかけ、ぼくはにんじんに手早くゴムを被せると、疼く後孔へ導く。

 

「やらしい、ぼくのこと……みてて……」

 

くちゅ、と淫らな音を立てて先端が中に飲みこまれた瞬間、ごくりと恋人の喉が上下する。恥も知らず手を動かせば、硬いにんじんの表面が、ごりごりとぼくの好きなところを擦る。あ、あ、とはしたない声を上げながら、ぼくは夢中になって快楽を貪った。

 

「あ、あん、あっ……きもち……」

 

髪を振り乱し恍惚と喘ぐぼくを、承太郎が食い入るように美しい緑の目で見つめている。きらきらと輝く星のような瞳の中に、確かに欲情の炎が灯っているのを見て、ぼくは嬉しくて泣きそうになる。

 

「あ、あっ、んあっ……!?」

 

いやらしい水音を立ててにんじんを出し入れし、ぼくの好きな所に当たるように腰を振って、尻をくねらせていると、突然その手を掴まれた。そのままぼくの手ごと上から握りこむようにして、承太郎がずぽずぽと激しくにんじんを動かし、内壁をめちゃくちゃに擦られる快楽に、たまらずぼくは背を弓なりに反らせた。

 

「ああっ、あっ、やだ、やだぁっ、はげしっ、いっちゃうよぉっ」

 

やめて、と泣きじゃくっても、箍が外れた恋人はぼくの首筋に噛みつくようにしながら、どんどんぼくを追い詰めて行く。怖くて逃げだしそうになる体を上から押さえ込まれ、屹立した性器さえも彼に乱暴に扱かれ、ぼくは許容限度を超えた喜悦にどうすることもできずに狂い悶える。

 

「やだ、じゃあねえだろ?花京院……にんじんなんかでも気持ちよくなっちまって……」

 

とんだ変態だな、と囁くような低音を吹き込まれた瞬間、根元までにんじんを突き入れられて、ぼくは声もなく絶頂を迎えた。背骨を甘い電流が走り抜け、手足がじん、と痺れる。目の前で光が何度もスパークする。たっぷりの快楽の蜜と毒で犯され、もう何も考えられない。ぼくはひくひくと後孔を痙攣させ、だらしなく口の端から唾液を零しつつ、あまり勢いのない精液をだらだら零し続けた。

 

「あ……あ……」

 

尻の間にずっぽりとにんじんを咥えこんだまま、蛙みたいに大きく脚を開いて、頭には馬鹿馬鹿しいうさぎの耳を付けて、情けない表情で絶頂の余韻に弛緩しているぼくを、承太郎がうっとりと見つめている。彼はしばらくぼくの姿を目に焼き付けた後、どこから持ってきたのか、カメラを手にすると何度かシャッターを切った。

 

「エロいうさぎだな……発情期か?」

 

承太郎は楽しそうに、まるでぼくの肌の上でスケートでも滑るように指を遊ばせた。ぼくはそのたびにびくびくと体を震わせ、小さく吐息を漏らした。

 

「大好きなにんじんは、うまかったか?」

 

目を細め、再びにんじんをぐっとぼくの奥に突き入れながら、承太郎が尋ねてくる。ぼくは絶頂で敏感になった粘膜を擦られる快楽に溺れそうになりつつも、回らない舌で必死に恋人の名を呼んだ。

 

「じょうたろ、じょうたろうの、生ちんぽの方がいい……っ」

 

ほしい、いれて、おねがい、とぼくは子供みたいに駄々をこね、恋人に縋りついて恥ずかしげもなくがくがくと腰を振った。承太郎は余裕のないぼくの姿に、満足そうに口の端を持ち上げると、にんじんを引き抜き、そっと熱く滾った自身を後孔にあてがう。

 

「じゃあ、おめーの大好きなおれのちんぽ、じっくり味わいな……」

 

かぷ、と首筋を甘く噛まれた瞬間、承太郎が入り込んでくる。自分の体の中を、恋人に割り開かれていく被虐的な喜びに、背筋がぞくぞくと震える。熱を孕み、ドクドクと脈打つ彼の性器に、無防備な内壁を擦りあげられて、高い声が上がる。

 

「はっ、ああっ、あ、あっ、すきっ、じょうたろに、ずぽずぽしてもらうの、だいすき……っ」

 

もっと気持ちよくなりたくて、にんじんじゃあ届かなかった最奥まで、彼の長大な性器を飲みこもうと、承太郎の腰に脚を絡める。すぐにその意図を理解した恋人は、ぼくの望み通り、よりいっそう深くまで性器を突きたて、結腸の入口にキスするみたいにぐりぐりと腰を使ってくれる。

 

「オラ、花京院っ、こうされんの、好きだろっ」

「ふああっ♡あ、あっ♡うん、うんっ、それすきっ、すごい、きもちいっ♡」

 

限界まで脚を開き、彼を腹の奥の奥まで受け入れ、もうまともに歩けなくなってしまうんじゃあないかというほど、ぼくたちは発情した獣みたいに激しくまぐわった。恋人にめちゃくちゃに抱いてもらえる悦びに、ぼくは大騒ぎしながら体をくねらせ、彼を含んだ尻は恋人のペニスを嬉しそうにきゅうきゅうと締めつけていた。

 

「あ〰〰〰〰っ♡あっ、あっ♡ひあぁっ♡じょうたろうの、おちんぽ♡すき、だいすきっ♡」

 

熱くて、硬くて、全身の血液を集めたみたいに拍動し、何度も何度も数え切れないほどセックスしてきたせいで、パズルのピースをはめるみたいに、ぼくのそこにぴったりと馴染む彼の性器。からからに乾いた器に、なみなみと美酒を満たすような幸福感に、嬉しすぎて笑いだしそうになる。あまりの気持ちよさに、この世にぼくと彼しかいないような錯覚に陥る。ぴったりと隙間なく体を繋げ、二人で一つの完全な生き物になるような気さえする。

 

「じょうたろっ、あっ、ああっ♡もう、ぼくっ、あっ、だめ、いきそう……っ」

 

「は……っ、いいぜ、おれも、もう、でちまう……っ」

 

中で出すぞ、と耳元で囁かれ、何度も必死に頷く。ぎゅうう、と勝手に腹部に力が入り、絶頂の予感に体がぞわぞわと落ち着かない。だして、だして、と舌ったらずに強請るうちに、限界が近づいてきて、ぼくは強く目を閉じた。

 

「あ、あっ、いく、いくっ、いっちゃう、あ〰〰〰〰っ♡♡」

「く……っ」

 

ぐ、と最奥にペニスを突きたてられた瞬間、ぼくの体の中を凄まじい嵐が吹き荒れ、ぼくを構成する骨組が吹き飛んでしまう。ぼくの意識は一瞬宙に浮いたようになり、ついでがくがくと甘い痙攣が襲った後に、急に肉体に引き戻された。びゅるる、と腹の奥では熱い飛沫が吹きあげており、後孔はそれを一滴も逃すまいと、搾り取るように蠕動している。

 

ああ、すごい、気持ちいい。気持ちよすぎて何も考えられない。そうして激しい快楽の第一波が過ぎ去ると、次にじんわりとゆるやかに広がる第二波が襲ってきて、ぼくは甘美な気だるさに身をゆだね、酸素を求める魚みたいに口をはくはくさせた。

 

「はあ……っ、花京院……」

 

承太郎はというと、あれだけ激しく腰を振っていたというのにまだ疲れていないのか、ぼくの中に精液を擦りこむように、ゆるゆると腰を動かし続けていた。絶頂の余韻にひくひく痙攣する後孔を擦られるのは、今のぼくには刺激が強すぎて、はしたないぼくのペニスはそのたび、とろとろと栓を失ったように白濁を垂れ流していた。

 

「ん……あ……」

 

ぼくはセックスの疲労に指一本動かせず、彼に為されるがまま、ぐったりと体を弛緩させながら、承太郎から贈られるキスの嵐を受け入れた。承太郎はぼくの作り物のうさぎの耳を何度も撫でながら、「好きだ」と「ありがとな」を繰り返し、ぼくは恋人の腕の中で幸せを噛みしめた。

 

おしまい

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