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薄々わかってはいたのだが、とうとうドクターストップが出た。

なんのかって?その、非常に言いづらいのだが、まあ、一言で言うと、セックスのだ。



 

SPW財団の定期検診の帰り道、ぼくの恋人はわからん、とつぶやいた。

 

「激しい運動を控えろとは言われたが、セックスは激しい運動か?」

 

不思議そうに承太郎は首をひねりつつも、さりげなく車道側にポジションを取り、17センチの身長差のせいで随分と違う歩幅をぼくに合わせ、ゆっくりと歩いてくれている。ぼくは承太郎のそういう優しさが好きだ。

 

「ガキの時みてえにがっついたりもしてねえのに、あの医者、ヤブなんじゃあねえのか」

 

こんな風に言いながらも、彼がぼくの担当医を信頼していることを、ぼくはよく知っている。ぼくの検査の数値がほんのちょっと悪かったのを心配しているせいか、握った手がいつもより少し汗ばんでいるのも、ぼくはちゃあんと気づいている。だからぼくは承太郎が余計な心配をしないように、大丈夫だよと返事をしてそっと手を握り返し、彼にもたれかかるように歩く。

 

「最近仕事でも疲れがたまってきていたところだし、ちょっと休めばすぐ元気になるよ。先生もそんなに気にしなくていいって言ってたし」

 

それに挿入しなくてもエッチはできるよ、と背伸びして頰にキスすると、ちょっぴりだけ承太郎の表情が緩む。深く刻まれた眉間のシワが、少しだけ元に戻る。何年一緒にいても、そういうところがかわいい、とぼくは思った。



 

しかし、その後承太郎がぱったりぼくに触れてこなくなった。毎日のように、夜になればベッドの上でもつれあっていたのに、今じゃおとなしく隣に並んで寝るだけだ。

挿入どころか手で抜きあったり、フェラチオも素股もなしだ。キスすらも、軽い羽根のようなタッチのやつだけだ。何のいやらしい接触もなく一週間が経ち、ぼくは欲求不満で頭がおかしくなりそうだった。

 

「はあ…」

 

猛烈に承太郎とエッチしたい。あの大きな手で体をなぞられたい。ふっくらとした唇でキスして、舌を絡めてほしい。ちょっと強引に体を割り開かれ、めちゃくちゃにされたい。大声をあげて暴れるぼくの体を押さえ込み、ガンガン突き上げてほしい。

 

それが体に悪いというなら、激しく動かなくていいから、ぼくの中に入れたままにしてほしい。波間に揺蕩うみたいに、温かい湯に浸かるみたいに、ゆったりとした快楽に包まれたい。お互いに髪を撫でながらおしゃべりして、イキたくなったら自由に中に出して欲しい。

 

食事をしていても、仕事をしていても、通勤で電車に揺られている時も、承太郎と抱き合いたくて、ぼくの頭の中はいっぱいだ。たった一週間しか禁欲してないのに、体が飢えて仕方がなかった。

 

だが、ぼくの体調を気遣って承太郎が我慢してくれているのに、自分からエッチしたいなんてとても言えなかった。ぼくにできることといえば、さりげなく承太郎の側に寄って、辛抱たまらなくなった彼がぼくを襲うのを待つだけだが、彼の意志は岩よりも固かった。結局承太郎と全くエッチしないまま、一ヶ月が過ぎた。

 

「おい、花京院。大丈夫か?」

 

心配そうな承太郎に覗き込まれて、ぼくはうん、と力ない返事をした。ムラムラしすぎて、最近よく眠れない。大体いつもエッチでヘトヘトになって、そのまま泥に沈むみたいに眠っていたので、しなくなったらどうやって眠れば良いのかわからなくなってしまった。それにあまり動いていないからかお腹も減らず、食事がおろそかになり始めていた。

 

承太郎がいない時に、自分で処理しようとしたこともあったけれど、上手くいかずどうにもならなかった。承太郎と付き合ってからオナニーなんてする必要がなかったから、やり方を忘れてしまったのだ。

 

ぐったりソファにもたれたぼくを、承太郎が気遣って膝枕をしてくれる。久々に彼の体に触れ、頭の下にじわりと彼の熱を感じて、そこでぼくの理性の糸はぷつりと切れた。

 

「おいっ、何しやがる!」

 

困惑する承太郎を法皇で押さえつけ、ぼくは手早く承太郎のズボンからベルトを引き抜いた。そのままジッパーを下ろし、反応していない状態なのにかなりの大きさと質量をもった彼のペニスを引きずり出す。

 

これだ、これが欲しかったんだ。

 

承太郎の制止の声も、彼の抵抗も全く意識に上がらず、ぼくはただ衝動のままそれを口に招き入れる。久しぶりに嗅いだ鼻腔に抜ける彼の雄くさい匂いに、頭がぼうっとした。勝手に唾液が溢れてきて、好物のチェリーをねぶる時みたいに夢中で舌で舐め回す。

 

「や、めろっ、おいっ、離せっ」

 

暴れる承太郎の太腿を、上から体重をかけて固定する。ペニスの先端をわざと大きな音を立てて吸えば、彼の腹筋がびくりと引き攣るのがわかる。焦ったように彼の手がぼくの髪を引っ張るが、ぼくは構わずしゃぶり続けた。

 

「……っ」

 

承太郎が体を丸め、息を詰めるのと同時に、口の中で彼のペニスがびくびくと脈打つ。すぐに喉の奥に熱いどろりとした液体を打ち付けられて、ぼくはうっとりと目を細めた。

 

「ふは……おいし……」

 

零さず全てを飲み込み、それでも物足りなくて、ちろちろと舌を動かし、彼のペニスに残った精液を綺麗に舐めとる。赤黒く充血した亀頭の感触が、舌先に心地よい。出したばかりなのに、ほとんど萎えずに血管を浮かべて怒張したままのペニスに、思わずごくりと喉が鳴った。いれたい。早く中で感じたい。そう思うと、もう我慢できなかった。

 

一度絶頂に上り詰めたせいか、頰を真っ赤に染め、信じられないという顔でぼくを見つめる承太郎に、にっこり微笑みかけ、邪魔なズボンを下着ごと脱ぎ捨てる。触脚でソファに縛り付けられた彼の上に、脚を大きく広げて跨がる。

 

「花京院…」

 

弱々しくぼくの名を呼び、混乱する彼に考える暇を与えないよう、ぼくは一息に腰を落とした。

 

「うあぁぁあっ」

 

一ヶ月ぶりに彼を飲み込み、大して慣らしてもいない後孔に少しの痛みさえ覚えるけど、それ以上に胎内を満たされる感覚に、恍惚とした喘ぎが漏れる。自然と口角が上がり、高揚感に体がフワフワする。脳内麻薬がどっと溢れ出て、目も眩む快楽にぼくはすぐに腰を踊らせた。

 

「ああっ、きもち、きもちっ、じょうたろっ、すき、すきっ」

 

ああ、セックスってこんなに気持ちよかったんだ。すごい、頭が真っ白になる。承太郎と繋がっている。彼の息づかい、体温、小さく漏れる呻きすら愛しい。やわらかな粘膜を、クルミほどの大きさしかない器官を、熱く硬い承太郎の性器でゴリゴリ擦られるのがひどく気持ちいい。ひっきりなしに嬌声が漏れ、閉じきれない口から唾液が顎を伝う。

 

久しぶりのセックスに余裕がないのか、承太郎も眉間にしわを寄せ、苦しげに歯を食いしばっている。さっきからぼくの中で、承太郎のペニスがぴくぴく震えている。射精したくて暴れまわっているんだろう。早く欲しい。溢れるほど熱を注いで欲しい。

 

「ねえっ、じょうたろっ、だして、ぼくの中っ、いっぱいだしてっ」

 

馬に乗るみたいに腰を跳ねさせ、切れ切れにぼくはねだる。あれだけ激しい運動は控えろと医者に言われていたのに、すっかり息を荒げて、快楽を得ようと必死に腰を振るぼくは、発情した一匹の獣だった。

 

彼の汗ばんだ太い頸に腕を回せば、承太郎が自由にならない体をなんとか動かし、ぼくを抱きしめようとしてくる。だからぼくは法皇を少し解いて、彼の腕を使えるようにしてやった。

 

「このっ、無茶しやがって……っ」

 

くそ、と悪態をつきながらも、承太郎がぼくの腰を抱きかかえる。軽々と体を持ち上げられ、長く深いストロークで奥を突かれ、ぼくは悲鳴をあげる。

 

「人の気も、しらねえで、煽りやがってっ」

 

覚悟しろ、と囁かれたとたん、ピアスのぶら下がる耳を甘く噛まれ、一瞬目の前が真っ白になる。ガクガクと勝手に体が痙攣し、ぼくのペニスから重たく粘ついた液体が弾け飛んで行く。

 

「ーーーーっ」

 

途方もない快楽に、わななくぼくを気にもせず、承太郎は律動を続ける。制止の声も出せず、ぼくはまた絶頂に追い立てられる。何度も、何度も体を反らせ、泣きわめき、ぼくは欲を放つ。下腹がじん、と痺れる。全身が甘くねっとりと重い蜜に絡め取られ、少しも自由がきかない。怖くなって承太郎の背に爪を立てても、彼は少しもぼくを許さず、ガンガン奥を突き上げてくる。

 

「あああっ、らめっ、も、いってる、じょ、やめっ、やめてっ、あああっ、ま、またいく、あ、ああっ、ひっーー」

 

びく、とまた腰が跳ね、後ろが彼のペニスを強く絞り上げる。承太郎が息を詰めて、ぼくの中にドクドクと遺伝子を注ぎ、これで終わる、とぼくが安心したのも束の間、再び彼のペニスが膨れ上がる。

 

「な、なにっ、も、むりっ、やっ」

 

ぶんぶん、と首を横に振って懇願するも、承太郎がぐる、と喉を鳴らす。彼が体を反転させ、今度はぼくがソファに押し付けられた。間髪入れずにまた律動が始まり、ぼくがうろたえるも突然現れたスタープラチナに体を押さえ込まれ、なすすべもない。

 

「お前が満足するまで、たっぷり付き合ってやるぜ……」

 

に、と厚い唇に笑みを浮かべ、承太郎がぼくにそう宣言する。ゆるして、と呟こうとしてしかし、すぐにぼくの唇は彼のそれで塞がれてしまった。



 

「……」

 

カーテンから差し込む朝日と、小鳥の声に目がさめる。体がぐったりと重い。喉がひりついて、声が出ない。水が飲みたい、と思って体を起こそうとして、しかし腰に走る鈍い痛みに、ぼくはまたずるずるとベッドに沈み込んだ。

 

ソファで抱き潰されたところから記憶がないが、ぼくたちのベッドも散々なことになっていて、青臭いにおいが寝室中に充満している。どろりと太腿を粘度の高い液体が伝い、ぼくは背筋を震わせた。

 

ぼくの恋人は穏やかな寝息をたてつつ、背中からぼくを枕のように抱き込んでいる。あんなに無体を働かれたのに、彼の少し高めの体温が心地よいと思ってしまっているぼくは、もう承太郎にめろめろなんだろう。

 

泥に浸かったみたいな体とは裏腹に、随分と心はすっきりし、今日の天気みたいに晴れ晴れとしていて、ぼくはごそごそと体を動かし、正面から承太郎と抱き合いながら、つい三日後に控えた検診で、どう医者に言い訳しようかと一生懸命頭を巡らせるのだった。

 

おしまい

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