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かきょういん、と恋人の名を舌にのせる。コーヒーを啜りながら、おれの横で携帯ゲーム機をピコピコやっていた花京院は、なんだいと目線は寄こさず、声だけを出した。

 

せっかくの休日だというのに、恋人のおれを放っておいて、ゲームに夢中になっている花京院が気に食わず、だからおれは彼の膝に猫のように寝そべり、殊更甘ったるい声で再びかきょういん、と彼の名を呼んだ。

 

それでも相変わらずゲームの画面を睨んだままの花京院に、仕方がないのでおれは最終手段に出た。何をしたかというと、ズボンの前をくつろげ、下着ごと彼の性器を食んだのだ。途端、びくりと彼の体が跳ね、頭上でゲームオーバーを告げる物悲しい音楽が流れる。

 

「ちょ、ちょっと何するんだ、やめてくれ!」

 

とうとうゲーム機をソファに投げ出し、花京院が暴れ始めるがもう遅い。おれは体重をかけて、彼の腰を逃げられないように抑え込む。こういうときばかり、大柄な体躯に恵まれた家系で良かった、とおれは思う。わざとじゅう、と卑猥な音を立てて強くペニスを吸えば、花京院が息を飲んで体を弓なりに突っ張らせた。

 

「やっ、やだ、ばか、放してくれよっ」

 

彼の文句に聞く耳を持たず、頬をすぼめて強く陰圧をかけてやると、やめて、と懇願する声がどんどん小さく、弱弱しくなっていく。おれの髪を鷲掴んだ花京院の指先から力が抜け、細かく震えだす。

 

彼の脚の間に顔を埋めているせいで、花京院の表情を見ることはできないが、たぶん頬を真っ赤に染めて、眦にたっぷりと涙を溜め、歯を食いしばっているのだろう。快楽に溺れてしまえば楽なのに、花京院は何度おれに抱かれても、聖職者のような禁欲的な部分が消えずに残ったままだった。

 

「ぼくが悪かったから、放してっ、ほんとに、でちゃうから……っ」

 

ひっ、ひっ、と浅く短い呼吸を繰り返す彼の下着をめくり、飛び出したペニスの先端に、直に舌を這わせる。充血した亀頭を、張りだしたエラの部分を、それから蜜を零しながらひくつく穴を、吸ったり舐めたり尖らせた舌で突いてやれば、あっけなく花京院は精を吐きだした。

 

「〰〰〰〰っ」

 

ぎゅうう、と内腿に力が入り、次いでリズミカルに痙攣しだす。勢いよく青臭く苦い液体が口内に広がるが、彼のものだと思えば愛しささえ感じる。ペニスを咥えたまま、それを飲み込めば、ごくり、と思ったよりも大きな音が鳴った。

 

「う、あ……」

 

すると花京院が背筋を震わせ、焦ったような声を出した。喉奥に引き込まれるような動きに反応して、おれの口の中でまた彼の性器が膨れだし、口蓋を押し上げる。

 

「じょっ、じょうたろっ、も、はなして……」

 

おれとしてはもう一度、口で抜いてやっても良かったのだが、涙交じりの花京院の懇願に彼の性器を解放してやる。ようやっと顔を上げれば、恋人はおれの想像よりずっと淫らで、物欲しげで、余裕のない表情をしていた。

 

「し、したい…はやくいれて、ほしい…」

 

普段几帳面な彼らしくもなく、くしゃくしゃにしてズボンを脱ぎ捨て、ソファの上をもぞもぞ動いて、花京院がおれの上に跨る。昔の彼なら一度射精しただけで疲れてくたりとしていたのに、じっくり時間をかけておれが仕込んだために、後ろにおれのペニスを含まなければ満足できないように、彼の淫らな才能を開花させることができたのは良かった。発情した獣のように瞳を溶かせ、おれにもどかしげに腰を擦りつけてくる彼は、芳しく危険な花だった。

 

「あ、ああ…」

 

中途半端におれの服を脱がせ、花京院が細長い手足を絡めてくる。どこからともなく、熟れて柔らかくなった桃の匂いがする。その甘い香りに頭の芯がぼうっと痺れる気がした。

 

ソファが汚れるのも気にせず、ローションをお互いに垂らしながら、体を寄せ合う。しっとりと手になじむ彼の肌の感触は、薔薇の花弁のようでもあり、やわらかな毛布のようでもあり、ずっと触っていたいとおれに思わせた。

 

確かめるように花京院の薄い胸を撫でまわし、くびれた腰の線を辿る。張り詰めた性器やその奥の蕾には触れず、内腿でばかり指を遊ばせていれば、唇を引き結んだ彼が体を摺り寄せてきた。

 

「…いじわるしないでくれよ」

 

悩ましげに眉を寄せ、花京院がおれの手を取り、双丘の間へ誘う。彼に導かれるまま、おれを求めてひくつく後孔を愛撫すると、花京院が甘えるような、鼻にかかった声を漏らした。

 

「気持ちいいか?」

 

ぬぷぬぷ、と浅い位置で指を抜き差ししながらそう尋ねると、花京院が必死に頷く。その健気な様子が可愛くて、更に奥へ指を潜り込ませる。愉悦の根源である、くるみほどの大きさの器官を押し上げてやると、花京院が艶やかな声を上げて腰を捩る。髪を振り乱して悶える彼は、壮絶な色気があった。

 

彼の媚態にあてられ、屹立した己の性器を熟れたそこにあてがうと、無意識にだろう、花京院の腰が逃げた。いつまでも汚れず、処女のような初々しさと清廉さを失わない花京院。純粋で、それでいて甘く馨しく、おれを引き付けてやまない花京院。

 

好きだ、と赤い耳に囁けば、花京院がぎゅっと目を閉じる。それから彼は熱い吐息を零し、おれの告白に応えるように、そろそろとペニスの上に腰を落としてきた。

 

何度もおれを受け入れてきたそこは、にゅぷ、と少しの抵抗の後に、ゆっくりとおれを飲み込んで行く。あたたかく柔らかな粘膜に包まれ、心地よさに思わず感嘆のため息が漏れる。我慢できずに小さく腰を振れば、驚いた花京院の脚があたって、さっきまで彼を夢中にさせていたゲーム機が床に落ちる音がした。

 

「あっ、あ、ああっ」

 

彼のまろい尻を掴み、ゆさゆさと体を揺すると、花京院もおれに合わせて腰をくねらせる。よく熟れた彼の粘膜が、ペニスにねっとりと絡みつき、極上の快楽を生む。律動のたびに、彼の一房長い美しく巻かれた桜色の前髪が、ゆらゆら揺れておれの目を楽しませた。

 

「かきょういん、かきょういん、すきだ、あいしてる…」

 

曝け出された首筋に何度も口づけ、呪文のように何度も彼の名を呼ぶ。突きつめて考えれば、ただの音の組合せでしかないのに、おれにとってこの世で一番美しい名前。気高く、誇り高い彼にふさわしいその名を、唇にのせるたびこの上なく幸せな気持ちになる。

 

「あ、あ…じょうたろう…ぼくも、ぼくもすき…っ」

 

ぷくりと乳首を勃たせ、色素の薄い肌を桜色に染め、花京院が全身で愛を告げる。必死に自分に応えてくれる彼が愛おしい。彼のぬくもり、声、存在全てが、おれを夢中にさせる。

堪らず彼の体を強く抱きしめ、華やかな香りを肺いっぱいに吸い込む。叫び出したくなるほどの幸せに包まれ、胸のあたりがじわりと温かい。

 

「ん、んあっ、すごい、きもち…は、はあっ、あ、あ、ああっ」

 

引っ切り無しにあがる花京院の、普段とは違う上ずった高い声がおれを興奮させる。じわじわと背筋を這いあがる快楽に酔いしれつつ、花京院を見上げると、彼が切なげに眉を寄せた。もうイきそう、と限界を訴える彼に、おれも、と応えれば、花京院の口角が嬉しそうに持ちあがる。

 

「あ、あっ、じょうたろ、いっぱい、ぼくの中に、ん、んぅ…出していいよ…」

 

少し余裕を取り戻した彼が、おれの腹に手をつき、ぎゅうぎゅう締めつけながら腰を踊らせる。そのたび、彼のペニスがぷるぷる揺れるのが可愛らしい。乞われるまま彼の体を抱き、坂を駆け上がるようにスパートをかけると、花京院が甘い悲鳴を上げる。

 

「あっ、ああっ、ふ、んんっ、あっあ、あ〰〰〰っ」

 

甘露のようなその音楽にうっとりと聞き惚れ、しかし無性にキスをしたくなって、彼の唇に己のそれを重ねる。声を出せない代わりに、舌を絡ませる濃厚な口づけの合間に、花京院から鼻にかかった吐息が漏れる。彼の後孔を深く穿つたび、段々とその間隔は短くなってゆき、ついに花京院が体を強張らせて、おれに強くしがみついてきた。

 

「んん〰〰〰〰っ」

 

びくびく、と大きく花京院の体が震え、次いで襲い来る強い締めつけにおれも限界を迎え、一際強く奥を突く。ずくずくと下腹を焦がしていた欲望に抗わず、勢いよく熱い迸りを叩きつけると、花京院が体を小さく丸めてそれを受け止める。おれのペニスを絞りあげるように、後孔の粘膜がうねり、その途方もない快楽に思わず背筋が慄く。瞼の裏がじわりと熱くなり、光が明滅する。

 

絶頂の強大な嵐に吹き飛ばされ、酸素が足りずに頭がぼうっとして、仕方なく名残惜しげに唇を離せば、花京院がはあはあと胸を大きく上下させて喘いだ。

 

「ふはっ…はあ、あ……」

 

酒に酔ったようなとろりとした目でおれを見つめる花京院を、自分のものだと知らしめるように強く抱きしめれば、花京院が体の力を抜く。

 

「…すごく、気持ちよすぎて…ちょっと怖いくらいだった…」

 

と呟く花京院は、疲れたのかおれの首に手を回し、こてんと肩に頭をのせる。おれはその確かな熱と重みに、花京院がおれの隣に居てくれる幸福をかみしめつつ、彼がどこにもいかないように、もう一度愛しいその名を呼んだ。

 

応えるように、花京院の方から仕掛けられたキスを受け止め、何度も唇を触れ合わせながら、この世におれ以上に幸せな人間はいない、とおれは思った。

 

おしまい

 

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