「暑いね」と声をかけると、「ああ」と気だるげな返事がかえってきた。
もう夕方だというのに、日はまだ高く、あたりは明るい。部屋の温度は32℃をしめしている。
いくら承太郎の家の風通しがよかろうと、連日ぎらぎらと照りつける太陽に僕らは完全に参っていた。
あの旅で意地でも脱がなかった学ランをぬいで、僕はワイシャツ、承太郎はタンクトップで畳の上に寝転んでいる。
ただ暑いだけの砂漠とは違い、日本の夏はじめじめとまとわりつくような熱気をはらんでいて、なんだか酸素まで薄いような気がする。
頭が働かず、指一本動かしたくない。
飲むのもおっくうで、あまり手をつけていない麦茶のコップの表面には、びっしりと水滴が浮かんでいる。
扇風機をつけてはいるものの、生ぬるい空気をかきまわすだけだ。
耐えきれずにワイシャツのボタンを1つ、2つとあける。
ちらと視線を投げると、承太郎はソーダ味の棒アイスをくわえながら、ぼんやりと庭の方を見ていた。
暑さでアイスが融けて、甘ったるいにおいを振りまきながら、水色の液体が彼の口の中に伝ってゆく。
その光景が卑猥な行為を連想させ、僕は目が離せない。
少しでも涼を得ようと、肌にはりつくタンクトップを心底うっとうしそうに引っ張り、あおいでいる承太郎の姿を見ていると、僕の下半身がずくりと重くなる。
あ、と思わず小さな声を上げると、承太郎は聞き洩らさなかったようで、僕の方を振り向いた。
「どうした?」
「…ちょっと夏の暑さにやられたみたいだ」
僕がそう言って、テントのようになってしまっている股間を指し示すと、承太郎は呆れた顔をした。
「俺は暑くてそんな気にならん」
「まあ、たしかにくっついたら余計に暑そうだよね」
うーん、どうしたものか。
もし今、サウナのようになっているトイレで処理しようものなら、たぶん僕は死んでしまうだろう。
かといって部屋の主をほっぽって、承太郎の部屋で堂々と自慰にふけるのもなあ。
僕が色々と考えていると、承太郎が部屋の隅からティッシュの箱を持ってきた。
「…そんな恰好で、廊下渡って他の部屋なんか行けねーだろ。俺にかまわず、ここでしろ。」
「…あ、ありがとう」
本当は、承太郎に抱いてもらいたいところだが、冬生まれの彼は僕より夏の暑さに弱いらしい。
部屋を貸してくれただけでもありがたいことだ。仕方がない。
そう思うのだが、やはり彼が目の前にいるのに一人でするのはなんだか寂しいので、僕はずうずうしくも、承太郎にお願いしてみることにした。
「じょ、承太郎…その、できればそのタンクトップ脱いでもらえないかな。君の裸を見ながらしたいんだが」
「……」
たっぷりの沈黙の後で、彼はいつもの口癖をつぶやくと、いっそ潔いほどにがばりと汗でぬれたタンクトップを脱いだ。
彼のよく締まった上半身が、僕の眼前にさらされる。
元来白い彼の肌は、この夏で心なしか日に焼けたような気がする。
ほら、と彼は僕の手を取ると、自分の胸にあてさせた。
少しくれーなら、触ってもいいという彼の言葉にたまらなくなった僕は、空いている方の手で自身を扱き始めた。
汗ばんだ承太郎の肌が、手に心地よい。
いつも僕を組み伏せ、圧倒的な力で吹き飛ばす彼の筋肉の躍動を感じる。
はあはあと浅い呼吸を繰り返しながら、僕は獣のように興奮していた。
気持ちいい。
彼が見ているだけで、一人でするときの何倍も早く追いつめられる。
汗が頬を伝い、太ももにポタリと落ちる。
それさえも刺激になって、だらだらと涎をたらす僕のペニスがさらに張りつめる。
夏休みも始まったばかりだというのに、まだ明るいうちからこんな行為に溺れている。
いけないことだと思うのに、僕の手の動きは止まるどころか、激しさを増していく。
ちり、と焼けるような承太郎の視線を感じて、体が燃えるように熱い。
彼の澄んだ瞳は、浅ましく淫蕩な僕を見透かすようだ。
羞恥心から承太郎の目をまっすぐ見られずに、目を伏せると、彼自身もまた僕と同じように反応していた。
「…そんな気にならないんじゃあなかったのか」
にやりと勝ち誇ったように承太郎に告げると、彼はちょっと拗ねたようにおめーにあてられたと言った。
あんなことを言っておいて、承太郎も僕と同じように性欲に翻弄される男子高校生なのだ。
よくみると承太郎の頬が薔薇のようにピンクに染まっていて、195cmもある大男にこういう表現もどうかと思うが、僕はそんな彼がとてもかわいらしいと思った。
承太郎の下半身のふくらみに舌なめずりすると、僕は嬉々として、2本もあるベルトを手早く抜き去り、彼のズボンの前をくつろげた。
「暑いから、こうやって二人でしよう」
僕はそう言って、承太郎の大きなペニスをとりだすと、僕のと一緒にまとめてこすりあげた。
承太郎から押し殺したよう声がもれ、彼の息が僕の耳にかかって、頭がぼうっとなる。
二人分の先走りで、僕の手はべとべとに濡れている。
むわりと栗の花にも似た、青臭いにおいが鼻をつく。
ぐちゅ、ぐちゅといやらしい音が響いて、窓の外から聞こえる蝉の声とのアンバランスさに眩暈がする。
粘膜のふれあっている部分に重く熱がたまり、びりびりとしびれていく。
されるがままになっていた承太郎が、僕の手の上に彼の手を重ね、二人分の性器を握り込むと激しく動かしだした。
僕の口からは、あ、あ、とこらえきれない嗚咽がもれて、体が震えだす。
瞼を閉じているのにちかちかと光が明滅しているように感じ、足の指が勝手にピンと張る。
溶ける。僕の体が溶けて、承太郎とひとつになる。
切なく疼く後孔をもてあましながら、マグマのような快楽が背骨を這い上がり、僕は背中をのけぞらせて射精した。
断続的に白いしぶきがあがり、承太郎の手を汚す。
承太郎もほぼ同時に短く呻くと、僕の臍から胸にかけて、白濁をまき散らした。
「あつい…」
「ならくっつくんじゃあねえ」
仰向けに寝転ぶ承太郎に、横から抱きつくと承太郎が文句を言った。
その割に僕を押しのけたりしないところが、彼のいいところである。
ただでさえ暑いのに、更に体温と室温を上げるような行為をしたせいで、体が重くだるい。
だがそれは、先ほどまでと違い心地よい疲労だった。
窓から少し涼しい風が吹きこんできて、肌をなでていく。
情事の後の火照る体を冷ましてくれる。
顔を寄せると、承太郎の体からはタバコと、それから彼自身のにおいがする。
懐かしく安心するにおいだ。
ふいに愛おしさがこみあげてきて、僕はぽつりとつぶやいた。
「好きだよ承太郎」
なぜだか、涙ぐんでしまい、承太郎の顔をまともに見られない。
僕らの関係はいつも寂しさと一抹の不安を抱えている。
僕たちは男同士で、まだ何もできない子供で、しかも僕の腹には大きな傷跡がある。
彼にはジョースターの血の運命がある。
僕がうつむいて鼻をすすっていると、承太郎の手が僕の肩におかれ、抱き寄せられる。
ちゅ、となだめるように額にキスが降ってきて、承太郎はなんでも知っているというような声で、
「俺もだぜ」
とささやいた。
おしまい