top of page

こんなに心が揺さぶられるのはどうしてだろう。

いつの間にか、花京院のことばかり考えている。

 

彼の目が自分以外に向けられると、気が狂いそうになるし、彼を泣かせたり、彼に暴力をふるう奴を、どれほど痛め付けても気が済まない。

骨を折り、病院から出てこられなくしても、祖父の力を借りて家庭を崩壊させたり、二度と日本の土を踏めなくしても、心の中で苛立ちの火種が燻っている。

 

本当は彼らの息の根を止めてやりたい。

生まれたことを後悔させ、地獄に落としてやりたい。

しかし、そのことが露見して花京院が奴等のために悲しむのはもっと嫌だった。

 

だから俺は、花京院が自分の復讐を疑いはしても、確信は持たないように念入りに計画を実行した。

主犯の女は、さんざっぱらレイプしてやろうか、それとも花京院がされかけたように性器を切り落としてやろうかとも思ったが、それよりも周りをじわじわと不幸に陥れてやった。

 

花京院は次々にクラスメイトを襲うショッキングな出来事に疑心暗鬼になっていたが、俺との平凡で幸福な毎日を享受するうちに、段々と彼らのことを忘れて年相応の笑顔を見せるようになっていた。

俺はその笑顔を何より大切なものに思ったし、いつまでも守ってやろうと心に決めていた。

 

「承太郎、承太郎」

 

近頃めっきり進んだ寒さに頬を紅色に染めながら、花京院が小走りでやってきた。

 

「ごめんよ、掃除が長引いてしまって」

 

急いで来たのだろう、髪に真っ赤に染まった紅葉をつけたまま、花京院は俺にしか向けないあどけない顔を見せた。

それに得もいわれぬ満足を覚え、ふっと微笑んで花京院の髪からそっと紅葉の葉をとってやる。

ふわりと甘いシャンプーの香りがして目を細めると、花京院はみるみるうちに耳まで紅葉よりも赤くなり、俯いてしまう。

 

「あっ…ありがとう…恥ずかしいな、全然気づかなかった」

 

花京院と親密になってから、どうやら彼が他人からの接触というものに慣れていないことに、俺は気づいた。

俺が少し体を寄せただけで、可哀想なほど縮こまっているし、今のように手で触れれば、顔を真っ赤にしてまるで人に慣れない小動物のようだ。

 

早く自分だけになつかせて、無垢なその体を俺の色に染めてやりたい。

俺に依存させて、俺なしでは生きていけないようにしたい。

存外乱暴な自分の中の雄の部分にどきりとしながら、俺は紳士的に振る舞おうと努力していた。

 

「別に恥ずかしがることねぇ、似合ってた」

「そうかな…君にそう言ってもらえると、ちょっと嬉しいな」

 

きらきらと光る花京院の瞳は口以上に雄弁だ。

君のことが好き、君と仲良くなりたい、君を尊敬してる…純粋で綺麗な、美しい目だと俺は思う。

 

じっと花京院の目を見つめると、キスをされると思ったのだろう、彼がそっと睫毛を伏せた。

その仕草がひどく艶めいて見えて、俺はガキみたいに胸を高鳴らせて、唇を重ねた。

ふにゃりとした柔らかい感触だけで満足できずに、口内に舌を差し入れる。

 

以前に比べれば大分マシだが、何度この行為を繰り返しても、花京院はいつもぴくりと体を強張らせる。

だが俺は優しくなどせず、奪うように舌を絡ませた。

 

「んっ…ふ…んん…」

 

ぴちゃぴちゃという水音と、キスの合間に漏れる花京院の吐息で、頭がくらくらした。

ぎゅうと学生服を握りしめている花京院の手を上から自分の手で覆ってやると、花京院もおずおずと自分から口づけてきた。

 

彼の好きなようにさせてやると、花京院が一生懸命に可愛らしい小鳥のようなキスをくれる。

耳まで赤くして、熱心にキスする彼が愛しくて、俺は思わず彼を抱き寄せていた。

 

するとキスに夢中になっていた花京院が、ようやく今自分達がどこにいるのか理解したらしい、顔を真っ赤にしてぐいと俺を引き離した。

 

人気はないとはいえ、誰が通るともわからない往来だ、見せつけてやるのもいいが、同時にこんな彼の姿は自分だけが知っていればいいと思う。

 

うちに来いと囁くと、花京院はうつむきながらも、うんと小さく返事をした。

 

 

 

花京院と付き合いはじめてから、何度となくお互いの手や口で熱を交わすことはあっても、俺たちは未だ体を繋げたことはなかった。

彼が怖がるというのもあったし、俺としても入念に準備をして、花京院を気持ちよくさせたいという思いがあった。

 

そしてついに彼の決心がつき、今日俺たちは初めて番うのだ。

 

湯上がりで上気した体に、気に入りのパジャマを羽織った彼は、たまらなく可愛らしい。

 

「ぼ、僕も…なるべく、頑張るから…」

 

俺より随分と繊細な彼の掌がおそるおそる、既に張りつめている俺の性器を握りこんだ。

彼が腕を上下させるたび、ちゅくちゅくと粘着質な音が部屋に響く。

 

口でしてくれと頼むと、花京院は頬を染めながらも、従順にそこに顔を近づけた。

一房長い前髪を耳にかけるようにして、彼が下から上へと舐めあげると、ぞくぞくと背骨が浮き立った。

子猫がミルクを舐めるような、ぴちゃぴちゃという水音が耳を犯す。

困ったように眉を寄せながら奉仕する花京院が愛しくて、子供にするように彼の頭をなでた。

 

「っふ…んぐ、ん、んんっ…」

 

段々と質量を増す俺のペニスのせいか、花京院の息が乱れてくる。

もういい、と彼に声をかけると、花京院は名残惜しげに口を離した。

 

「…もうちょっとで、最後までできたのに」

 

と悔しそうな花京院に

 

「…今日は、口じゃなくてお前の中で出したい」

 

と熱っぽく囁くと、彼の顔がみるみる赤く染まった。

黙りこくってしまった花京院のパジャマを脱がせ、足を開かせると、彼は恥ずかしそうにされるがままになっている。

 

花京院のゆるく兆している性器に触れると、彼がはあ、と熱を孕んだ吐息をこぼした。

優しく扱きながら、彼のここがあんな女に傷つけられなくて良かったと思う。

労るようにペニスにキスをこぼしながら、もう片方の手を蕾に伸ばすと、頭上から押し殺したあえぎ声が降ってくる。

 

「っふ、ああ、あっ…ひ、ひああっ…」

 

指を口にあてて、控えめに声を出す花京院が、俺にはとても好ましく思えた。

普段、澄ました顔で気品さえ漂う彼から、一枚ずつ理性の皮を剥がしていく行為は、たまらなく興奮する。

潤滑油をまとわせた俺の指が、花京院の中にすっかり飲み込まれた頃には、彼のペニスは腹に付くほど反り返っていた。

 

「辛くないか?」

「大丈夫、気持ちいい…」

 

胸を上下させて、忙しい呼吸をしている花京院の体は、ばら色に染まっている。

3本の指を中でバラバラに動かすと、花京院の爪先がぎゅうと丸まった。

 

「んっ…じょうたろ…も、もういいよ…さみしい、来て…」

 

切なく疼くそこを見せつけるように、花京院が体を寄せる。

はやく、と余裕なさげに煽られれば、俺も我慢の限界だった。

 

「花京院っ…」

「うああっ…じょ、たろ…んあっ…あっ…」

 

ズププと俺が花京院の中に沈んでいく。

初めて味わう彼の体内は熱く、狭く、みちりと詰まっている。

入れただけで尾骨から脳へと電流が流れ、体が痺れたように震えた。

 

柔らかくうねる粘膜に包まれて、少しもじっとしていられない。

もどかしげに腰を動かすと、花京院から悲鳴にも似た嬌声があがる。

 

「ひああっ…だめだっ、今動いたら、あっ、あああっ」

 

ガクガクと痙攣しながら涙を流す彼を、できるだけ安心させようと幾度も名前を呼ぶ。

息が上がって上手く音を作れず、かきょういん、と呼ぶ声が情けなく震えてしまう。

 

「あ、あ、ああっ…も、だめ、じょ、たろっ」

 

ぐちぐちと乱暴に花京院のペニスをしごくと、絡み付くように中が蠢く。

汗ばんだ肌がぴったりと隙間なくあわさり、彼と一つのいきものになったように錯覚する。

繋がった部分の感覚が、ぶわりと膨らんで全身に波及し、脳髄がとろとろと溶けていく。

 

「好きだ」と呟けば、花京院は息も絶え絶えに「僕も」と返した。

 

余裕のない彼の様子に胸を焦がされ、激しく腰を打ちつけながら、花京院さえいれば他に何もいらないと俺は思った。

何があっても、こいつだけは誰にも渡さない。

 

狂おしいまでの支配欲に身を焼かれ、いつもはサクランボのようなピアスがぶら下がっている耳朶に噛みつくと、花京院が不意に悲鳴を上げて、体を弓のように反らせる。

 

彼の内壁が波打つように収縮し、ぎゅうと搾り取るように自身を締めつけられ、瞼の裏でチカチカと光が明滅した。

 

毒のような快楽が背骨をかけあがり、甘美な蜜が体の隅々まで霧散する。

俺は堪らず彼の腰を強く掴み、低く呻いて最奥で精を吐き出した。

 

 

 

ずるりと自身を抜くと、栓を失った彼の後孔から白濁がこぼれおちて腿を伝った。

その感覚に身を震わせると、花京院はすぐに枕で顔を隠してしまった。

 

「おい、どうした」

 

ぎゅうと枕を握り締める、彼の耳が紅を刷いたように赤い。

 

「…恥ずかしくて、これから君とどういう顔してあえばいいのか、わからないよ」

 

答える花京院の声は、散々喘いだせいか少しかすれていた。

そんな彼が愛しく、強引に腕に抱きこむと、彼はますます顔を隠してしまう。

 

「…こっちを向けよ」

 

ほら機嫌直せ、と彼の特徴的な前髪を指で弄ぶと、花京院は恨めしげに俺を見つめた。

 

「こんな顔見せるの、君にだけだからな」

 

潤んでやや赤みを帯びた彼の目が、この世のものとは思えないくらい美しく、俺はいまだ文句を言いたげな彼の唇を、ふさぐようにキスをした。

 

おわり

 

 

 

bottom of page