きらきらと夜空に咲く大輪の花に、花京院は歓声をあげた。
「わあ、綺麗だねえ」
少しの間を置いて響く、ドンという花火の音と周りの喧騒に、彼の声はかき消されてしまいそうだ。
赤とオレンジと青と、様々な色の光に照らされた花京院の横顔は息を飲むほどに美しく、おれはふと彼がどこかへ行ってしまうような気がして、ぎゅうと彼の手を握った。
「どうしたんだい、承太郎…」
握る力の強さに、驚いた顔をして花京院が尋ねる。
こんな所で恥ずかしいよと頬を染める彼に、どうせ誰も見てねえと伝えても、花京院は困ったように眉を寄せたままだ。
照れ臭そうに少し俯いた彼の真っ白なうなじが、随分と無防備に目の前に晒されていて、おれは吸い寄せられるようにそこに口付けた。
「ちょっと!なにするんだいっ」
「しっ…大きな声出すんじゃあねえ、ばれちまうぞ」
「そ、そんなこと言われたって…」
かあ、と瞬時に首筋までが綺麗な紅に染まったのを見て、おれは婚姻色みてえだな、などと考えていた。
彼と一緒に暮らすようになって随分と経つが、いつも花京院はみずみずしく、おれを惹きつけてやまない。
ふわりと香る花京院の匂いに、なぜだかひどく劣情を掻き立てられて、彼の手を引いておれは人ごみを出た。
「承太郎!花火、見ないのかい」
「…おめーのにおい嗅いだら、勃っちまった」
「な、なんだって…」
ほれ、と彼の手を取りおれの股間にまわさせると、花京院は小さく嘘だろ、と呟いた。
「君、変態じゃあないか」
「…まあ、そうかもな」
「どうするんだい、帰るのか」
「いや、すまねえが我慢できん。陰で抜いてくれ」
「えっ」
神社の裏手に、今は参拝に訪れるものもほとんどいない古い祠があったな、と思い出し、うろたえる花京院に構わず、おれはそこへと向かってどんどん歩き出す。
ぼんやりとした灯篭の明かりしかない獣道を、ガサガサと草むらを掻き分けて進めば、花京院が不安げにおれの手を握りしめた。
ドン、ドン、と背後では続けざまに花火の打ち上がる音と、それにわきたつ人々の声が聞こえる。
その声が随分と小さくなった頃、ようやくおれは祠を見つけた。
何が何だか分からないまま、引っ張られるように連れてこられた彼を、祠の前の石でできたベンチに座らせ、おれはその前に立つ。
「…花京院」
熱っぽい声でそう呼びかければ、頬を染めた彼は恥ずかしそうに唇を噛んだが、それから諦めたようにおれの浴衣をはだけさせると、顔を寄せた。
「…なるべく、手早くイってくれよ」
「それはおめえの腕次第だな」
「…」
ふん、と鼻を鳴らしてから、彼はぱくりとおれのペニスを咥えた。
暖かく湿った粘膜に包まれ、待ち望んだ刺激におれは思わず満足げなため息をついた。
「ふっ…ん、んぅ…ん、ぐ、んん…」
大きな口を目一杯広げ、苦しいのか彼は目に涙を浮かべている。
頬をハムスターのように膨らませ、おれに奉仕する花京院はとてもかわいらしい。
彼のいやらしい表情がよく見えるようにと、緋色の髪をかきあげれば、花京院は恨めしげにおれを睨んだ。
「…頑張って早くイかせねえと、人が来ちまうかもしれねえぞ」
意地悪くそう囁けば、彼の体がびくりとこわばる。
花京院はぎゅうと強く目を瞑り、早くイけよと言わんばかりに口の動きを早めた。
じゅぷじゅぷ、とおれの先走りと彼の唾液が立てる水音が、やけに耳につく。
鼻で呼吸する花京院の短い息が、下腹に当たってくすぐったい。
「むぐ…ん、むぅ…ふっ…ん、んぅ」
必死に頭を前後させているのに、なかなかイかないおれに焦れたのか、彼は手まで使い出した。
両手でふにふにとおれの陰嚢を揉みながら、花京院は舌で幹を舐めあげたり、先端を吸ったり、すぼめた唇でキスをしたりと忙しい。
おれは真上からその光景を余すところなく観察し、笑みを浮かべた。
「気持ちいいぜ、花京院…」
よしよし、と子供を褒めるときのように頭を撫でてやると、彼はちらりとおれを見上げ、それからまた目を伏せてしまう。
拗ねたように振舞ってはいるが、先ほどから彼がもじもじと膝を擦り合わせているのを、おれは知っていた。
「なあ、ここでするか」
花京院の耳をくすぐりながらそう言えば、彼はきょとんとおれを見つめた。
意味を理解していない彼の口から自身を抜き、花京院の腰に手を回して立たせる。
浴衣を大きく捲り上げて彼の体を担ぐと、ようやくこれから何をするか悟った花京院が暴れ出した。
「するって、ここでセックスするのか!?ぼくは、絶対に、いやだっ」
「おいおい、暴れるなよ…落っこちたら危ねえだろう」
やだやだ、と駄々をこねる花京院におれはしびれを切らし、彼に気づかれぬように素早くスタンドを出現させると、わざと物音を立てさせた。
「!?」
ガサ、と草むらの方から聞こえた音に、彼は驚いたように大きく体を揺らした。
瞬時にぴたりと抵抗をやめ、花京院は自分の口を覆って不安げにおれを見る。
「誰か来たら、おれたち二人とも困るだろう…大人しくしてな」
声を潜めてそう言うと、彼はおれの胸に隠れるようにして小さく震える。
背中をさすって怯える彼をなだめてやりながら、おれはゆっくりと唾液で十分に濡れたペニスを彼の中に埋めていった。
「んくっ…ふっ、ふうっ…」
花京院はぷるぷる震えながら、おれの首にしがみついて挿入の衝撃に耐えた。
おれの胸に顔を埋めているせいでその表情は見えないが、緊張のためにだろう、いつもより強い締め付けに思わず持っていかれそうになる。
おればかり翻弄されるのが少し悔しくて、声を噛み殺している彼を困らせてやろうと、おれは花京院の尻を鷲掴んでゆさゆさと上下に揺らした。
「ひぃんっ!」
突然の律動に甲高い声をあげた花京院が、弾かれたように口を押さえた。
するとしがみつくのをやめたせいで、バランスを失った体が倒れそうになる。
ぐら、と大きく傾いた花京院を支えようと手を伸ばせば、いきなり彼の背後から緑の触手が伸びてくる。
(ハイエロファント!?)
その触手は驚くおれごと、花京院を支えるように身体へと巻き付いた。
ずるずると触手が肌を這い回る不思議な感触に、ぞぞと背筋が震える。
しかしスタンドの主人である彼はこの異様な状況に気づいていないのか、息も絶え絶えに小さな喘ぎを漏らしているだけだった。
(無意識でスタンドを呼び出したのか)
いとしげにおれの体に絡みつく触手に首を捻ってキスしてやれば、花京院の後ろがきゅうと締まる。
薄暗がりの中できらきらと輝くハイエロファントは、まるで蛍のようだった。
「花京院…」
ふいに、スタンドではなく花京院本人とキスをしたくなって、おれは彼の名を呼んだ。
「顔、こっちに向けろ」
と呼びかければ、とろけた顔の彼がおれを見上げた。
口を覆っている邪魔な手をスタープラチナでどかせても、彼は夢を見ているようなとろんとした瞳をこちらに向けるだけで、どうやら彼の理性は、完全にどこかへ飛んでしまっているようだった。
そのままスタープラチナで顎を上向かせその薄い唇を吸い、わずかに開かれた隙間に舌を潜り込ませると、花京院の方から舌を絡めてきた。
普段なら一分の隙もない、いっそ禁欲的な雰囲気さえ漂う彼が、箍が外れたように快楽を貪る姿は本当に扇情的だ。
こんな場所でコトに及んでいるくせに、どうかおれ以外にその姿を見せないでくれ、とおれは祈りながら彼を突いた。
「ああっ……んあ……ぁ……うああっ…」
時折、濃厚な口付けの合間に喘ぎが漏れ、彼は気持ちよさそうに腰をくねらせた。
花京院の一房長い前髪が二人の動きに合わせて、視界の端にちらちらと炎のように揺らめいている。
段々と激しい抽送に酸素が足りなくなり、仕方なく唇を離すと、つうと銀糸のように唾液が糸を引く。
唇を離した瞬間、思わず不満げな顔をした花京院に、おれは苦笑して腰の動きを速めてやった。
ぱちゅ、ぱちゅ、と汗が飛び散るほど激しく腰を打ち付ければ、花京院は甲高く鳴く。
「あっ、あっ、あっ、ああっ…きもちっ、きもちいっ、んあっあ」
「こら、花京院、聞こえちまうぞ…」
恍惚と喘ぐ彼に、ここが外だと思い出させてやると、急に力が入る。
「ひっ…ぃやだ、や…」
「嫌なら、おれの肩にでも、噛みついてな…」
ほれ、と花京院の頭を肩に押しつければ、彼はおそるおそるそこに歯を立てた。
「ふっ、うぅ、んん、ん、ぅんっ」
ガツガツと彼の体を貪っていると、おれは腹に当たっている花京院の性器が濡れているのに気がついた。
おれは彼の中に出すつもりだからまあいいが、彼が自分の精液がかかった浴衣で帰らなければいけないのは可哀そうな気がして、おれは花京院のペニスをそっと手で覆ってやった。
「ん、ん、うゔぅ〰〰」
限界が近いのか、ぎゅうとおれの浴衣を握り締めて彼が唸る。
過ぎた快楽にコントロールが効かなくなったのか、いつの間にかハイエロファントは姿を消してしまったようだ。
耳を真っ赤にして悶える花京院を、片手だけで追い立てるように激しく揺さぶり、ついでに性器に被せた手でぐりぐりと亀頭をこねくり回せば、彼の体が大きく跳ねた。
「んっ、ふ、ぅ、うゔ、っく、んん゛ん゛ぅ〰〰〰〰っ」
瞬間、ぴしゃぴしゃとおれの掌に熱い飛沫がかかる。
必死に声をかみ殺す彼の内壁がびくびくと痙攣し、腰が抜けてしまいそうな快楽が俺を襲う。
目の前が真白に染まり、甘く重たい蜜が下腹から溢れていく。
光の矢が背骨に沿って脳天へと突きぬけ、途方もない喜悦におれは恍惚と震えながら花京院の中に精を吐きだした。
くたりと脱力した花京院を椅子に下ろし、おれは襟のあわせに手をいれて懐紙を取り出した。
彼の精液で濡れた掌を拭い、おれの出したもので汚れた彼の陰部を綺麗にしてやると、花京院が呆れた顔でこちらを見た。
「なんでそんなものを持っているのに、ゴムは持ってこなかったんだい」
「…すまねえ」
おれは財布の中に避妊具が入っていることを知りながら、すっとぼけてそう答えた。
最中は彼を味わうのに夢中で、ゴムのことなどすっかり忘れていたのだ。
「もうくたくたで、歩けないよ」
「おぶってやる」
「恥ずかしいから嫌だ」
「遠慮するな」
絶対に嫌だ、とがんとして譲らない花京院から、おれは有無を言わさず下駄を脱がせてしまう。
「下駄をなくしちまったことにすりゃあ、仕方なくおぶさる言い訳ができるだろ」
「…君ってこういうときは無駄に頭が回るなあ」
やれやれと花京院は呟いて、下駄を片方袂に入れると、おとなしくおれの背に乗る。
背中に彼のあたたかな体温と、確かな重みを感じて、おれはなぜだか泣きそうになった。
彼を気遣ってゆったりと歩くと、ほどよい揺れが眠気を誘ったのか、花京院はすうすうと穏やかな寝息を立て始める。
「…いつまでも、一緒にいてくれよ」
花京院、と背中に向かって囁いて、おれは帰りの道を急いだ。
おしまい