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とある日の夕方、二人で相撲中継を見つつ、おれが作ったチキンドリアを頬張っているときに、重々しく花京院は言った。

 

「……こんなこと言いたくなかったが、今後一週間ぼくの乳首はお休みをいただきます」

 

突然の彼の言葉に、結びの一番で贔屓の力士が勝利した喜びも一瞬で吹き飛び、おれは間抜けな顔でなぜだと聞き返した。

 

「だから、君が毎日引っ張ったり、吸ったり、甘噛みするから、ぼくの乳首が大きくなってしまったんだ。今後はそのようなことがないよう、一週間は乳首弄るの禁止」

 

じっとりと非難するような目で、花京院はおれを見つめる。ほんのりと赤くなった頰が、堪らなく可愛らしい。しかし、おれの恋人は容赦なかった。

 

「触るのはもちろん、舐めるのも、息を吹きかけるのも禁止だからな」

 

最後の一口を大きな口でぱくりと平らげ、行儀よくごちそうさまと手を合わせると、花京院はそれ以上の追求を許さずキッチンの奥へ引っ込んでしまった。



 

いつもなら誘わずともくっついてくるのに、その日の晩は、大きくなった乳首を見られるのが嫌だ、と花京院が一緒に風呂に入ってくれなかった。仕方がないので一人寂しく入浴を終えて寝室に向かえば、彼はおれに背を向けるようにしてベッドの端に腰掛けていた。

 

「花京院」

 

声をかけ、そっと肩に手を乗せると、ゆっくりと彼が振り向く。色の白い肌は湯上りのせいか艶艶として、今はほんのりと薔薇色に色づいている。

いつもすぐに脱がせてしまうのに、律儀に毎回パジャマの全てのボタンを留めているのがいとしい。

ちらりと花京院の顔を窺い、拒絶されないのを確かめてからゆっくり一つずつボタンを外す。

次第にあらわになる彼の肌はしっとりと汗ばみ、新旧様々な赤い花が至る所に咲いていた。これらが全ておれのつけたものだと思うと、なんだか感慨深かった。

 

「……」

 

僅かに開いた合わせから手を滑り込ませようとすると、ぎゅう、とパジャマの裾を握りしめ、花京院が震える息を吐く。

 

「……見るのもダメか」

 

なあ、と赤い耳に囁けば、花京院がいやいやと首を振る。子供のようにむずがるその様子に、おれはそれ以上深入りするのは避けて、彼の上半身はそのままに、パジャマのズボンの上から脚の間を優しく揉んでやった。

 

「う、あ……っ」

 

途端、花京院はびくりと体を震わせ、切なげに眉を寄せて喘ぐ。ゆるやかに巻かれた一房長い前髪が揺れ、それはひどくおれを興奮させた。

そのままするりと手をパジャマの中へ潜り込ませ、既に兆し始めているそこを扱くと、性器へ与えられる直接的な刺激に、花京院は薄い唇を戦慄かせた。

 

おれが長い時間をかけて大事に大事に愛を注いだ彼の体は、彼の意思とは関係なく、随分と快楽に素直だった。恥ずかしいのか声を漏らさないよう、手の甲で口を押さえていても、花京院の腰はおれの手にペニスを擦りつけるようにゆらゆらと揺れてさえいた。

 

しかしここで腰が揺れているのを指摘して、「かわいいやつ」などと言おうものなら、花京院の山より高いプライドを損ねることは明白だった。おれは代わりに「好きだ」と何度も赤い耳に囁きながら、彼の太ももに猛った自身を押し付ける。すると段々花京院の菫色の瞳がとろりと潤みだし、ほっそりとした手がゆっくりとおれの背に回された。

 

「ぼくも好き…」

 

今にも消えてしまいそうな小さな告白に、にまりと頬が緩むのを止められない。おれの肩にぐりぐりと頭を擦り付ける花京院の震える吐息が、火傷しそうに熱かった。

 

「もう、いれてほしい…」

 

さっきお風呂で慣らしたんだ、と花京院は小ぶりな尻をおれの下腹に押し付けてくる。いつになく積極的で、いやらしい花京院の媚態に頭がクラクラする。セックスを覚えたてのガキの頃みたいに、彼のパジャマと下着を脱がせる手が興奮でみっともなく震えていた。

 

「じょうたろ…」

 

甘い声で名前を呼ばれ、彼の細い腰を掴んで引き寄せる。物欲しげに収縮する後孔に、ぴたりと己のペニスをあてがい、そのままいつものように彼の胸に顔を埋め、パジャマをつんと押し上げている突起を食もうとして、しかしそれはすぐに愛しい恋人によって阻まれた。

 

「ち、ちくびはだめ…」

 

泣きそうになりながら、花京院は弱々しくおれの髪を引っ張った。

 

「…そんなに気にすることねえだろ」

 

とおれが言っても、花京院は必死に首を横に振るだけだ。あやすように彼の薄い唇に口づけ、会陰にペニスを擦りつけながら、時間をかけて優しく理由を尋ねると、ぽつりぽつりと彼は話し始めた。

 

「この前、一緒にお風呂に入って…気づいたんだ…ぁ、あっ、そ、その…ぼくの、ちくびが…君より大きくて…ん、ふ…っ、色も、濃い…気が…」

 

花京院は悲しそうに眉を寄せ、その切れ長の目に涙さえ浮かべていた。

 

「ぼく…ぼく…君に、嫌われたくない…」

 

子供のようにぐずつく花京院を、やさしく抱きしめる。柔らかな髪を撫で、形の良い耳を甘く噛む。

 

「おれがお前を嫌いになるわけないだろ」

 

そのままぐぐ、と腰を突き入れれば、花京院が小さく息を飲んだ。

 

「う、あ、あっ」

 

ぬくく、と彼の胎内に飲み込まれていく心地よい感触。温かく柔らかな粘膜に、思わず喉から低い唸りが上がった。

 

「あ、ああっ、ん、ふっ、じょ、たろっ」

 

すがるように伸びた彼の手が、おれの背に爪痕を立てていく。彼の中に全てを収め切ってすぐに、馬が駆けるように腰を振る。そのままスピードを緩めずに花京院を揺さぶりながら、おれは彼の胸を吸った。

 

「ひっ、や、やらっ、そんなに、したらっ、ん、んぅっ、すぐ、いっちゃう、から…っ」

 

びくびく、と腰を震わせ、花京院が甘い声で喘ぐ。ベッドのスプリングを使って激しく奥を突き、パジャマの上からやさしく乳首を噛んでやると、彼の体が面白いように跳ねた。

 

「ん゛――――っ」

 

途端ぎゅうう、と強く締め付けられ、目の眩むような快楽が襲ってくる。思わず射精してしまいそうになるが、まだこの時間を終わらせたくなくて、下腹に力を込めてなんとか堪える。

絶頂の余韻にはあはあと荒い息を零す花京院は、飴のように瞳をとろりとさせ、こちらを見ていた。

 

「……じょ、たろ」

 

もっと、と小さく呟き、彼が自らパジャマの前を開く。花京院はぷくりと充血し、好物のチェリーみたいに色づいた可愛らしい胸の突起に、おれの顔をそっと導いた。

 

「もう一回、おっぱい吸われながらいきたい…」

 

いやらしく腰をくねらせ、花京院はきもちいい、と舌ったらずに何度もおれに告げる。恍惚とした表情で内腿を震わせる彼からは、甘く危険な花の香りがした。

花京院の壮絶な色気に当てられ、思わずごくりと喉がなる。散々おれがパジャマ越しに吸ったせいで、しっとりと濡れた乳首を再び口の中に招き、くびれた細い腰を掴んでがむしゃらに腰を振る。花京院の尻におれの下腹が打ち付けられるたび、彼は嬉しそうに嬌声をあげ、快楽を感じていることを素直に伝えてくれる。

 

「あ、あっ、すごい、きもち、あは、あ、じょうたろっ、すき、んっ、だいすき……っ」

 

彼の熱く熟れた粘膜が、おれのペニスに絡みつき、ぎゅうぎゅう締め付けられる。奥を突くたび、花京院の愉悦の根源を擦るたび、彼の美しい脚が魚みたいにシーツの上で暴れた。おれの脳髄を痺れさせる、花の蜜のような彼の香りがどんどん濃くなり、何も考えれらない。本能のまま、めちゃくちゃに彼の体を貪り、強く抱きしめる。じわじわと背骨を這い上がる絶頂の予感に、律動のスピードを速めると、花京院が悲鳴をあげた。

 

「うああっ、あ、ああっ、そこ、すき、じょうたろっ、また、いく、ああっ、いく、いっしょに、あ、あ、ああっ」

 

じょうたろ、と花京院に名前を呼ばれ、目の裏で光が爆発する。限界まで己を突き入れ、最奥で思う様熱を吐き出したとき、凄まじい快楽の嵐が吹き荒れ、一瞬自分の体が浮いてしまうような気がする。自分の思いの全てを彼に注ぐ恍惚の瞬間は、何度味わっても素晴らしく、おれを夢中にさせた。

 

「あったかい…」

 

ドクドク、と胎内に精液を注がれる感覚に、花京院はうっとりと熱い息を吐いた。額に落ちかかった一房長い前髪をやさしく避けてやると、花京院はしっとりと汗ばんだ肌を擦り寄せ、セックスの終わりを惜しむように、啄むような口づけをくれた。

 

「…どんなぼくでもずっと好きでいてくれる?」

 

祈るように、すみれ色の瞳を不安げに揺らす恋人に、おれはもちろん、と囁いてそっと彼の薄い唇を食んだ。

 

おしまい

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