
承太郎と二人ですることはなんでも好きだ。
天気の良い日にサイクリングすることも、下らないB級映画を見て腹の底から笑うことも、喫茶店でパフェをつつきながらのんびりと過ごすことも。
もちろん、夜にベッドの上でもつれあうことも。
啄ばむようなキスが、段々と深く長いものに変わりゆくと、承太郎の大きくて少しカサついた掌が、ぼくの体の上を這い回る。
しっとりと汗ばんだ皮膚と、その下で躍動する筋肉を確かめるように、そしてぼくのなかの快楽の回路を呼び起こすように、彼の手は滑らかに動く。
ん、と鼻にかかった吐息を一つ零せば、承太郎は嬉しそうにひっそりと口角を上げる。
ぼくよりふた回りほど大きな体をした彼が、ぼくが声をあげるたび、そうやって子供のように喜んでいるのを見るのは楽しい。
お気に入りのぬいぐるみを抱きしめるように、承太郎は優しくぼくを包む。
体温の高い彼の体にすっぽりと覆われると、毛布に包まれたような安心感があり、ぼくはうっとりと目を閉じる。
承太郎の広い背に手を回せば、彼のうなじから太陽と海の匂いがした。
「承太郎…」
彼のふっくらとした唇の感触をもう一度味わいたくて、ぼくは餌を求める雛鳥のようにキスをねだる。
すると承太郎が映画のワンシーンのような、お手本みたいな上手なキスをくれるから、ぼくの体はとろとろと溶けてしまう。
形骸をなくしたぼくは快楽の波にさらわれて、恍惚の海に溺れていく。
「気持ちいい…」
笑みを浮かべそう呟けば、興奮のために木苺みたいに膨らんだ乳首を、承太郎の指が優しく摘まんだ。
途端甘酸っぱい感覚がぼくを襲い、思わず腰をくねらせると、彼がべろりと首筋を舐め上げた。
「あ、あっ…」
熱く濡れた舌の感触に、びくりと体が引き攣る。
下腹から次々に欲望が生まれ、もどかしくて堪らない。
刺激を求めて承太郎に脚を絡ませ、腰を擦り付けると、彼の手がぼくの前に伸びる。
屹立した性器を優しく握りこまれ、嬉しさに涙が出そうになる。
「ひぅっ、ん、ん、んぅ…」
ぐちぐち、とカウパーの立てる卑猥な音に、脳が犯される。
承太郎の手がぼくのペニスの先端を、幹を、根元の陰嚢を、楽器でも演奏するように愛撫していく。
「ふ、あっ…ああっ、あ、あん、あ…っ」
いつもカリカリとペンを走らせたり、分厚い本をめくっている彼の指が、こんな淫らな行為に使われているのを知るのはぼくだけだ。
10を超えたあたりで数えることをやめてしまった、承太郎との幾度とない行為によって、ぼくの体に張り巡らされた官能の糸がざわざわと震えている。
なぜだか急に口寂しくなって、ぼくは体を起こすと承太郎の胸を押し、シーツへと沈めた。
少し驚いたような彼の顔を見上げつつ、豊かな下生えに手を這わせて、ぼくは承太郎のペニスに唇を寄せた。
「ん、ふ…ぅ…」
溶けて指に垂れそうなソフトクリームを舐めるように、下から上へと血管の浮いた幹を舐め上げる。
先端まで辿り着いたら、今度は口の中に性器を招き入れ、じゅぽじゅぽと卑猥な音をさせながら頭を振る。
硬い芯と、弾力のある亀頭と、しっとりと重い陰囊と――口の中で味わうそれぞれの感触が気持ちいい。
鼻腔を通り抜ける濃厚な雄の匂いにくらくらする。
「そんなに、おれのがしゃぶりたかったのか?」
余裕なくがっつくぼくに、そう承太郎は意地悪を言うけれど、ぼくの一房長い前髪を撫でる彼の手はどこまでも優しい。
先走りとぼくの唾液で、承太郎のペニスはてらてらと光っている。
夢中になってそれをしゃぶりながら、ぼくはそろそろと後ろに手を伸ばす。
ハイエロファントの触手で取ってきたクリームを塗りたくり、疼く蕾を自分の指で慰めてやると、行為に慣れ切ったそこはすぐにゆるゆると解けていく。
けれど本当の快楽の味を知っている貪欲なそこが、ぼくの指なんかで満足するわけはなくて、物足りなさに焦れた体にじくじくと毒が溜まる。
尻を揺らし、気持ちいい所に当たるように調整しながら、ぼくはちらりと承太郎の顔色をうかがった。
「…どうした」
首から上を赤く染め、荒い息を零しながら、それでも彼はまだ余裕が残っているみたいだ。
ぼくはそれが少し悔しい。
「…わかってるくせに」
レロ、とぼくは見せつけるように彼のペニスを舐める。
「いれたい…いれていい…?」
承太郎の胸の上までずり上がり、彼の怒張に尻を擦りつける。
ゆらゆらと踊るように腰をくねらせると、期待に体の奥がきゅうと疼いた。
「ねえ、おねがい…欲しいんだ、きみの…」
はあ、と熱い火のような吐息を零せば、承太郎がふっと笑う。
すると彼の手が伸びてきて、ぼくの尻たぶを大きく左右に割り開いた。
「いいぜ…」
ゆっくり腰落としな、と優しく彼が言う。
でもぼくは我慢できずに、承太郎のペニスに手を添えると一息にそれを飲み込んだ。
「んああ…っ」
ずぷぷ、とクリームの潰れる音と共に、彼の性器が入り込んでくる。
硬く、熱い承太郎のペニスで、ぼくの中が押し広げられていく。
少しもじっとしていられずに、すぐさま腰を振りたくれば、焦ったように承太郎が低く呻いた。
快楽に顰められた眉が、随分と彼を幼く見せる。
「か、きょういんっ…がっつき、すぎだ、ぜ…っ」
ぐる、と喉を鳴らして承太郎の手がぼくの腰を捕らえる。
間髪いれずに、反撃するように彼が突き上げてきて、思わず悲鳴が上がる。
「ひっ…や、だめっ、ひんっ、まって、うあっ…と、とまって、ん、あ、ああっ」
びく、とぼくの意志と関係なく背がのけぞる。
小さな爆発が体のいたる所で起こり、ああ、と情けない声が上がる。
ぱん、ぱんと肉と肉のぶつかる音、承太郎とぼくの獣のような息づかい、ベッドの軋む音……普段なら気にならないような、くちゅくちゅという小さな水音でさえ、頭の中でやけに響き、リフレインする。
思考が、プライドが、羞恥が、そしてぼくという存在が、砂糖の城のようにほろほろと崩れていってしまい、承太郎の確かな肉体に縋るしかない。
体にまとわりつく空気さえ、今は甘く狂おしい。
「じょうたろ、じょうたろ…っ」
ああ、彼の手、厚い胸板、躍動する筋肉、零す吐息の一つすら、残らず閉じ込めてぼくのものにしたい。
一ミリでも深く、体の奥で彼を感じたくて、ぼくはめちゃくちゃに腰を振る。
「すきだ、すきだよ…あ、ああっ、すき…っ」
彼の肩に爪を立て、回らない舌で好きと繰り返しながら、少しでもぼくの気持が承太郎に伝わればいいと思う。
涙で潤み、ぼやけた視界で必死に彼を見上げ、何度目かの掠れた告白をすると、体を捩じって承太郎が口づけてきた。
「ん、む、むぅ…っは、ん、んふ…」
貪るような口づけに、激しい抽送。
獣のようにはしたなく交わり、途方もない喜悦に為すすべもなく震え、ぼくはキスの合間に歓喜の声を上げる。
「あ、ああっ、ん、んん、ぅあ、んむ、ふっ、う、ああ…っ」
馬のように腰を跳ねさせながら、だらしなく蜜を零すペニスを承太郎の引き締まった腹に擦りつける。
いっそ暴力的なまでの快楽に、体がガクガクと痙攣し、ぼくという骨組が吹き飛んでしまう。
ふいに一際大きなうねりがぼくを襲い、目の前が白く塗りつぶされていく。
「 」
絶頂に霞みゆく意識の中で、しかしぼくは確かに承太郎の言葉を受け取った。
ぼんやりとだが意識が浮上し、緩慢に目を開けると、ぼくは湯船の中にいた。
承太郎にもたれ、抱き込まれるような形だ。
「起きたか」
ちゃぷ、と大きな掌で湯を掬っては、ぼくの体にかけるということを繰り返していた承太郎が、ぼくを覗きこむ。
未だ覚醒しきってない頭をあげ、うん、と小さく答えると、承太郎がキスしてきた。
先ほどの行為の時とは違う、ぼくを労わるような親愛のキスに、体がポカポカと温まる。
気持ちよさにうっとりと目を閉じれば、もう少し寝てろ、と彼が言った。
「…ね、承太郎。さっき、ベッドの上で言った言葉…もう一回言ってくれないか」
湯から匂い立つバラの香りを肺いっぱいに吸い込みながら、ぼくは彼を見つめる。
途端、じわじわと頬が赤くなる彼が愛しい。
「さっき、言ったから、もういいだろう」
「だぁめ、それにぼくは何回も言ってる」
嫌なのかい、と上目づかいに少し寂しげな声を作って言えば、承太郎が唸った。
「…好きだぜ」
恥ずかしそうに俯いた承太郎の首筋に手を回し、ぼくは彼の耳に顔を寄せる。
「…ぼくもだよ」
ずうっと一緒にいようね、承太郎。
そう囁きかければ、返事の代わりに情熱的なキスが返ってきた。
おしまい