
ゆく年くる年
正月特有ののんびりとした空気が好きだ。店はどこも休みでシャッターがしまっており、まるで人類が滅亡したみたいに町は静まり返っている。
どうやら新聞も今日から休みらしい。手持無沙汰にテレビなどつけてみるが、正月の特別番組ばかりで、大して興味も湧かず、おれはすぐに電源を切ってしまった。
町全体ががらんとしているせいか、外に出て何かをやろうという気持ちも湧いてこない。
たぶんおれ以外の人々もみな、家の中に引きこもって、家族や恋人と思い思いに過ごしているのだろう。
おれは退屈のあまり、机の上のみかんを一つ、丁寧に剥き始めた。
表面の艶々としたオレンジ色の皮に指をかけると、すぐに柑橘類特有のさわやかな良い香りが広がる。
丁寧に白い筋を取り除いた、ふっくらとやわらかなみかんの一房を、隣にいる恋人の口元へ持っていってやると、薄い唇がそっとそれを食んだ。
「うまいか」
ん、おいしい、ありがと、と目線は寄こさず、花京院はもごもご呟いた。
ついこの前、クリスマス頃に発売された携帯ゲーム機を、彼は夢中になってピコピコやっている。
構ってもらえないのは少し寂しいが、ずっと前から楽しみにしていたらしいそれを、休みの日くらいは花京院に思う存分遊ばせてやろうと思い、おれはちまちまと筋を取っては、恋人の口にみかんを運んで行く。
「ふふ」
何度かそれを繰り返していると、花京院が楽しそうに笑う。
ゲームをクリアしたのか、と画面を覗き込むと、違う違う、と彼は微笑んだ。
「動物の雄が雌に求婚するときに、かいがいしく餌を運んだりするだろう?なんだか、あれに似ているなと思ったら、おかしくて」
構ってあげなくてごめんね、と恋人はゲームを一旦セーブしてやめると、おれの髪をくしゃくしゃと掻き回してきた。
おれはようやっと花京院がこちらを見てくれたのが嬉しくて、彼の顔中にキスを落とした。
「はは、くすぐったいよ」
反撃のつもりなのか、花京院の方もキスの嵐を贈ってくれる。
負けじと脇腹をくすぐってやると、恋人は機嫌よく笑いながら足をばたつかせ、すぐに降参してきた。
「参った、ぼくの負けだ」
花京院はそう言って、おれの首に手を回すと、おれごと背中からソファに倒れ込んだ。
長い脚で腰を絡めとり、おれのうなじをレロ、と舐めあげてくる。
「じょうたろ、なんだかぼく興奮しちゃった……ね、えっちしよ……」
ぐり、と勃ちあがった股間をおれに擦りつけ、恋人はひどく蠱惑的な声で囁いた。
途端、どくんとおれの心臓は跳ね、正直な脚の間はすぐに膨らんできた。
花京院はそんなおれの素直な反応に、うっとりと目を細め、かわいいね、と囁いた。
「おっき……」
花京院はずりずりと場所を移動すると、歯でジッパーを引き下ろし、手を使わずにお目当てのものを引っ張り出した。
わざといやらしい音を立ておれのペニスを舐めしゃぶりながら、彼は自分の性器を慰めているようだ。
視覚から得られるいっそ暴力的なまでの卑猥な光景に、頭がくらくらする。
「んっ、ふ、ん、んぅ、む……」
最初の頃などキスや手を繋ぐことすら恥ずかしがっていたというのに、禁欲的で貞淑だった花京院が、こんなふうに淫らに開花するなど誰が予想できただろうか。
一心不乱に口淫にいそしむ彼を見つめながら、おれはぼんやりとそんなことを思った。
「ん、んんっ、はぁ……も、いれて、したい」
ぷは、と口を離した花京院が、あたたかな口腔粘膜で擦りあげられ、十分な角度をもったおれのペニスを恍惚と見つめる。
自ら大きく脚を開き、しとやかに閉ざした後孔を指で広げておれを誘う彼は、ひどく淫らな獣だった。
「……いくぞ」
一秒だって待てず、ぐ、とペニスを押しあてれば、愛しい恋人は早く、とおれを煽った。
おれは理性の焼き切れる音を聞きながら、衝動に任せて花京院の中に自身を埋めていった。
「う、ああっ、あ、は、はいってきた……っ」
腹の中を征服され、あ、あ、と切れ切れに喘ぎながら、花京院は全身を震わせた。
力の入らない指先でおれの首に縋りつき、彼は蛇のように腰をくねらせる。
「あ、きもちっ、あ――っ、あっ、あ、いっ、すごい、あ、あんっ、ひっ」
「く……っ」
熱くとろりとした花京院の粘膜に絞りあげられ、少しも腰を止められない。
奥をこじ開けるようにガンガン突きあげると、彼は一房長い前髪を振り乱し、口をわななかせた。
「あ、あっ、はあっ、じょうたろっ、きて、もっと、あ、ああっ」
すき、と回らない舌で何度も愛を告げる彼が愛しい。
手の痕が残るくらい強く彼の腰を鷲掴み、ソファを揺らして激しく交わるのは、途方もなく気持ちよかった。
「かきょういんっ、おれも、あいしてる……っ」
下腹から湧きあがる快楽に、だすぞ、と限界を訴えれば、こくこくと彼が頷く。
「うん、だしてっ、あ、あっ、きみの、せーしっ」
ぼくもイク、と菫色の瞳を潤ませて、花京院が背に縋りついてくる。
ほぼ同時におれの腹のあたりに何か熱く濡れた飛沫がかかり、ぎゅうう、と彼の奥が締まる。
頭が真っ白になるほどの、計り知れない快楽におれは呻き、彼の尻に腰を強く打ちつけると、恋人の最奥に熱を放った。
「あぁあ――――っ、あ――っ、あっ、あ、でてる、あぁっ……」
ガクガク、と痙攣する恋人の体を上から押さえ込み、おれは一滴残らず彼の中に欲を注ぎ込む。
汗と涙で顔をぐちゃぐちゃにしながら、おれの射精を受け止める花京院は壮絶な色気があった。
「ひっ……はひっ……」
彼の腹の中に精液を塗り広げるように、しばらくの間ゆるゆると腰を振ってから、名残惜しげにペニスを抜けば、おれに散々嬲られたせいでぽっかりと開いたままの彼の後孔から、どろりと飲み込みきれなった分の白濁が垂れてくる。
花京院は内腿を伝う粘液の感触に、背筋を震わせながら、それでも健気にキスをくれた。
「じょうたろ、ぼくのなか、いっぱい出してくれて、ありがと……」
きもちよかった、と教えてくれる花京院に、おれも最高によかった、ありがとうなと礼を言えば、恋人が誇らしげに微笑む。
「えへへ」
じゃれるように頬ずりしてくる恋人の頭を撫でながら、ふと時計を見るといつの間にか年が明けていたようだ。
今年もよろしく頼む、と頭を下げれば、こちらこそよろしくお願いします、と至極まじめな返事が返ってきて、先ほどまで互いに互いを貪り合う、ひどく淫らなセックスに励んでいたというのに、そのギャップがおかしくておれも花京院もふきだしてしまう。
おれの腕の中で、愛しい恋人はひとしきり笑った後、聞き逃してしまいそうな小さな声で、ずっと一緒にいようね、と恥ずかしそうに呟いた。
おしまい